事業承継税制は後継者の税負担を大幅に減らせるメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。事業承継税制のデメリットは、適用期限があること、認定申請等が必要であること、納税猶予後も都道府県や税務署に報告等を行う必要があること、免除を受けるためには後継者が一定の贈与等をする必要があることです。
事業承継税制はメリットの多い税制ですが、いくつかのデメリットもあるので注意が必要です。この記事では、「事業承継税制のメリットは分かったけれど、デメリットはないの?」という疑問をお持ちの方向けに、事業承継税制のデメリットについて詳しく解説します。
なお、事業承継税制には法人版事業承継税制と個人版事業承継税制の2つがありますが、この記事では法人版事業承継税制について解説します(以下、法人版事業承継税制を単に「事業承継税制」といいます)。
事業承継税制は、事業承継時に事業の後継者が受ける税負担を軽減することを目的とした税制で、この税制の適用を受けることで後継者が事業承継の際に支払うべき税金の納付が猶予されるというメリットがあります。
一方、事業承継税制には、適用期限があること、計画の提出や認定申請が必要であること、納税猶予後も都道府県や税務署に報告等を行う必要があること、免除を受けるためには後継者が一定の贈与等をする必要があることといったデメリットもあります。
事業承継税制とは、事業承継時における贈与税または相続税の特例税制のことです。事業の後継者がその会社の株式(以下、「事業承継税制対象資産」といいます)の贈与を受けた場合は贈与税の特例を、この財産を相続により取得した場合は相続税の特例を受けることができます。
事業承継税制は、中小会社や個人事業の円滑な事業承継の妨げとなっていた事業承継時の税負担を軽減することを目的とした税制です。事業承継税制の適用を受けることによって、事業の後継者が贈与や相続によって取得した事業承継税制対象資産にかかる税金の納付が猶予され、更に一定の条件を満たした場合はその納付が免除されるというメリットがあります。
導入当時の事業承継税制は、納税猶予の範囲が限られていたことや認定取り消しの基準などが厳しかったことが原因で、あまり使い勝手のよい税制ではありませんでした。これでは事業承継税制が十分に活用されないという声を受けて、2018年度(平成30年度)税制改正において、従来の使い勝手の悪さを大きく解消した新しい措置(以下、これを「特例措置」といいます)が導入されました。
事業承継税制は、「事業承継時にかかる税金の納付が猶予され、更に一定の条件を満たした場合はその納付が免除される」という強力なメリットがある税制ですが、事業承継税制にもデメリットはあります。
事業承継税制のデメリットは次の4つです。
「特例措置」は適用期限が決まっていること
特例承継計画の提出と認定申請が必要であること(一定の要件を満たしているかの確認のため)
認定を受けたあとも一定期間ごとに都道府県や税務署へ報告が必要であること(一定の要件を継続して満たしているかの確認のため)
免除を受けるためには、原則として後継者が死亡する又は一定期間経過後に次の後継者へ事業承継税制の適用を受ける贈与をする必要があること
以下、これらの4つのデメリットについて詳しく解説していきます。なお、事業承継税制には特例措置と恒久的な措置(以下、これを「一般措置」といいます)の2つの措置がありますが、特例措置と一般措置を比べると特例措置の方がかなり有利なので、以下では特例措置の適用を前提に、事業承継税制のデメリットについて解説します。
デメリットの1つ目は、特例措置は適用期限が決まっていることです。特例措置の適用を受けられるのは2027年(令和9年)12月31日までに行われた贈与または相続ですので、2028年以降に贈与または相続によって事業承継税制対象資産を取得しても特例措置の適用を受けることはできません。贈与はともかく相続はいつ生じるか分からないので、うっかりして期限を越えてしまわないよう注意が必要です。
なお、令和4年度税制改正大綱において、「法人版事業承継税制の特例措置の適用期限は延長しない」と明記されました。今後は、特例措置の期限が延長されないことを念頭に、適用を受けるまでのロードマップを考えて行く必要があります。また、適用期限の延長がないことは、令和6年度税制改正大綱において再度明記されました。令和6年度税制改正大綱では、特例措置は「極めて異例の時限措置としていることを踏まえ、令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない」とされています。
出典:令和6年度税制改正大綱、p.18
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/207233_1.pdf
さらに、特例措置のもう一つの期限として、特例承継計画を都道府県に提出できる期限もあります。特例措置の適用を受けるためには「特例承継計画」と呼ばれる計画を都道府県へ提出することが必要です。この特例承継計画の提出期限は、令和4年度税制改正によって1年延長され、さらに令和6年度税制改正によって2年延長された結果、2024年9月現在の提出期限は2026年(令和8年)3月31日となっています。
特例承継計画に記入すべき事項はあまり多くありませんが、「後継者が株式を取得するまでの経営上の課題とその対策や、後継者が株式を取得した後5年間の経営計画」という、なかなか普段考えもしないような事項を記入する必要があるのに加え、それについて税理士などの認定経営革新等支援機関の指導と助言を受ける必要があるので、意外と作成に時間がかかります。早め早めの準備をおすすめします。
デメリットの2つ目は、特例承継計画の提出と「認定申請」が必要であることです。ここでいう「認定」とは、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、「経営承継円滑化法」といいます)による認定のことを指します。
特例承継計画は1点目で解説しましたが、特例措置の適用を受けるためには、贈与や相続のあと、更に次の期限までに都道府県へ対して認定申請を行う必要があります(認定申請には特例承継計画を添付します)。
贈与の場合 | 贈与年の10月15日から贈与年の翌年1月15日まで |
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相続の場合 | 相続の開始の⽇の翌⽇から数えて5ヶ⽉後の日以降8ヶ月後の日まで |
相続の場合の期限は少し分かりづらいですが、要するに相続開始の日(被相続人死亡の日)の翌日から数えて8ヶ月以内の日に行えば問題ありません。
認定申請の期限が相続税の申告期限と異なる点は注意が必要です(相続税の申告期限は被相続人死亡の日の翌日から数えて10ヶ月以内です)。
また、認定申請に必要な書類を準備するのは特例承継計画の作成よりも多くの手間と時間を要します。それぞれの手続きで必要な書類を下表にまとめました(先代経営者から後継者への贈与である第一種特例経営承継贈与の場合です)。
これを見ると、認定申請には特例承継計画の提出と比べるとかなり多くの書類が必要であることがわかります。誓約書などの簡単な書類から、株主である親族の戸籍謄本といった収集に手間がかかる書類、贈与税及び納税猶予見込額がわかる書類といった作成に手間と専門知識が必要な書類もあります。この認定申請の手間は、事業承継税制のデメリットの1つです。
デメリットの3つ目は、認定後も都道府県や税務署へ報告が必要であることです。納税猶予開始期間から5年間は毎年都道府県と税務署に報告等が必要で、5年経過後は3年に一度税務署に届出を行う必要があります。これらの報告等を期限までに行わなかった場合は、猶予されている贈与税・相続税の全額と利子税を納付する必要が生じる点に注意が必要です。
具体的な報告等とその期限は次のとおりです。
時期 | 提出資料 | 提出期限 |
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納税猶予開始期間から5年間 | 継続届出書及び添付書類 | 贈与:毎年、贈与税の申告期限から5ヶ月以内(一般的には毎年8月15日) 相続:毎年、相続税の申告期限から5ヶ月以内 |
納税猶予開始期間から5年経過後 | 継続届出書及び添付書類 | 贈与:3年ごと、贈与税の申告期限から3ヶ月以内(一般的には6月15日) 相続:3年ごと、相続税の申告期限から3ヶ月以内 |
時期 | 提出資料 | 提出期限 |
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納税猶予開始期間から5年間 | 年次報告書 | 贈与:毎年、贈与税の申告期限から3ヶ月以内(一般的には毎年6月15日) 相続:毎年、相続税の申告期限から3ヶ月以内 |
納税猶予開始期間から5年経過後 | なし(提出不要) | ― |
デメリットの4点目は、免除を受けるためには、原則として後継者が死亡する又は一定期間経過後に次の後継者へ事業承継税制の適用を受ける贈与をする必要があることです。事業承継税制の本旨は「納税の猶予」ですが、一定の要件を満たした場合は猶予されていた納税が免除されます。その納税の免除を受けるためには、原則として後継者が死亡する又は一定期間経過後に次の後継者へ事業承継税制の適用を受ける贈与をする必要があることに注意が必要です。
以上、事業承継税制のデメリットを解説しました。
事業承継税制のデメリットは、適用期限があること(特例承継計画の提出は2026年3月31日まで、贈与または申告は2027年末)、特例承継計画の提出や認定申請が必要であること、納税猶予後も都道府県への年次報告書の提出と税務署への継続届出書の提出が必要であること、免除を受けるためには後継者が一定の贈与等をする必要があることです。
事業承継税制はデメリットもありますが、贈与税や相続税の税額次第ではデメリットを大きく上回るメリットが出るケースも多い税制です。デメリットがメリットを上回るかどうか判断に困る場合は、お近くの税理士にご相談することをおすすめします。