M&Aの買い手企業において、M&A対象会社を買収する際に必要な会計処理は、個別財務諸表と連結財務諸表とで異なります。
また、会計上と税務上でも取り扱いが異なります。
そのため取扱いの違い等を正確に理解した上で、スキームを検討する必要があります。
また、M&Aの検討を進める上で、買い手企業は仲介会社や専門家などのアドバイザーに一定の報酬を支払うことになります。
この報酬は税務上、損金として計上できるのか、それとも取得原価に加算し資産として計上する必要があるのか、といった点も気になる方が多いのではないでしょうか。
この記事では、M&Aにおける買い手企業の基本的な会計処理および税務上の取扱いを、アドバイザー等に支払った費用についても含めて、詳しく解説します。
是非、ご参考にしてください。
M&Aにかかる費用の具体例として、まずはM&Aの譲渡対価があります。
仮にM&Aを株式譲渡のスキームで行う場合には株式の対価、合併で行う場合には交付する株式の時価や金銭等の額が該当します。
M&Aにかかる付随費用の具体例としては、主に以下のものなどが挙げられます。
●専門家への報酬:手続きのサポートや助言への報酬。
例えばM&Aに関する税務などを税理士や会計士に依頼した場合に発生する費用です。
税理士や会計士によっては、M&Aをトータルで支援するサービス以外に、個別手続きごとに報酬を規定している場合があります。
依頼先や依頼内容などによって、税理士や会計士に対する報酬の額は異なります。
●デュー・デリジェンスにかかる費用
デュー・デリジェンス(Due Diligence)とは、M&A対象企業における各種のリスク等を精査するため、主に買い手がFAや士業等専門家に依頼して実施する調査のことです。
FAとはフィナンシャル・アドバイザーのことで、売り手又は買い手の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関のことです。
デューデリジェンスにかかる費用は、基本的に、買い手が負担します。
デューデリジェンスは買い手企業が選定した外部の専門家に依頼することが一般的です。
●契約書や計画書の印紙代:各種契約書に加え、株券や有価証券の受取書などに貼付する印紙代
M&Aの手続きを進めていく上では、契約書の締結や計画書の作成を行う必要があります。
M&Aのスキームによって必要な契約書や計画書は異なります。
例えばM&Aでよく活用される株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」が必要であり、そこには印紙を貼る必要があります。
その他にも、株券や有価証券の受取書などに貼付する印紙代も発生します。
またどの書類が課税対象となるかは、M&Aのスキームごとに変わってきます。
●登記にかかる費用:商業登記や所有権移転登記などの登記申請手続きに伴う費用
●M&A仲介手数料:M&Aを仲介会社へ依頼した場合に発生する報酬などの費用
M&A仲介会社に支払う費用は個々のM&Aごとにさまざまです。
また、料金体系も仲介会社によって大きく異なります。
さらに仲介手数料以外にも、相談料や着手金などが必要になる場合もあります。
そのため、事前にしっかりと確認しておくことをおすすめします。
多くのM&A会社が採用する報酬体系にレーマン方式とよばれる算出方法があります。
レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を算定する手法です。
さらに仲介会社によっては、最低報酬額を設定している場合があります。
最低報酬金額は500万円~2,500万円にて設定されていることが多いです。
レーマン方式がどのようになっているかは仲介会社によって異なるため、契約する際は何に対して成功報酬料率を定めているのか、しっかりと確認することが重要です。
●完全成功報酬型の仲介会社を選ぶ
完全成功報酬型の仲介会社を選ぶことはM&A費用を下げるための大きなポイントです。
完全成功報酬型の仲介会社なら、M&Aが成約しなかった場合には、費用がほとんどかかりません。
相談料・着手金・月額顧問料などの費用が発生しないので、M&A費用を大きく下げることができます。
●手数料を抑える
例えば、デューデリジェンスの範囲を絞ったり、買収金額を適正価格に絞ったりすることで、M&A費用を下げられます。
●注意点
M&Aにかかる費用には抑えてもよい部分と抑えるべきではない部分があります。
例えば、デュー・デリジェンスの費用を過剰に抑えてしまうと、デュー・デリジェンスが不十分になり、M&A成約後に簿外債務が見つかる場合などが想定されます。
その他にも、弁護士などへの報酬を抑えるために、契約内容の確認を依頼しないケースでは、自社にとって不利な契約を結んでしまうことになるリスクがあります。
さらにもし仲介手数料の安さだけで仲介会社を選んだ場合、M&Aアドバイザーの知識や経験が不足して、M&Aの交渉が難航したり、手続きでトラブルが発生する可能性もあります。
仲介会社は慎重に選びましょう。
株式の取得対価については連結財務諸表の作成過程において、子会社の時価評価後の純資産と、投資と資本の相殺消去が行われます。
そのため取得対価は、連結財務諸表上、表示されることはありません。
ただし、取得価額が子会社の時価純資産額を超過する部分については、のれんとして連結貸借対照表に計上されます。
以前のように子会社株式の取得原価にアドバイザリー報酬を含める会計処理には、のれんの額もその分大きくなります。
逆に、アドバイザリー報酬を費用として処理する場合には、のれんの額はその分小さくなります。
現行基準では、連結財務諸表上、アドバイザリー報酬は費用計上となるため、のれんの額は小さく計算されます。
先述したように、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」の第26項では、子会社株式取得の付随費用はその発生した事業年度の費用として処理されることと定められています。
なお、取得関連費用の内容及び金額は連結財務諸表の注記事項として開示する必要があることには、留意が必要です。
子会社株式の取得にともなう取得対価は取得原価をもって子会社株式として貸借対照表に計上されます。
「金融商品会計に関する実務指針」第56項においては、付随費用は取得価額に含めて処理することとされています。
損金とは、税務上の費用のことです。
会計上の費用とは異なる概念です。
損金の反対語は、益金です。
税務上の収益を表している用語です。
損金と費用の違いを考えるために、例として、交際費について考えてみます。
交際費は会計上、基本的には、すべて費用に計上することができます。
一方、税務上は会社の規模に応じて損金算入できる限度額が決まっています。
交際費をいくらでも損金算入できるルールの場合、利益が出ている会社は会計年度末にすべて交際費として使ってしまうことも想定されます。
そのため交際費をすべて損金算入できるようにすると、税務署としては法人税を徴収することができないかもしれません。
税務上のルールとして、交際費の損金算入限度額を定めなければ国全体の税収が下がってしまうため、交際費の損金算入額の限度額を設定しています。
一方、会計においては、そのような限度額が定められることはありません。
購入した有価証券について、その購入の対価は有価証券として計上し、損金には算入されません。
法人税法施行令では「購入手数料その他購入のために要した費用」については取得価額に含まれることとされています。
ここで税務処理を行うにあたって、「購入手数料その他購入のために要した費用」の範囲が問題となります。
特に、デューデリジェンスのための専門家報酬等の費用を子会社株式の取得価額に含めるか、損金とするかについては、議論を呼ぶところとなります。
結論として、以下のような整理がされています。
ただし実務においては、取得の意思決定をしたタイミングや調査の目的としては、様々なケースが想定されます。
個々の事例に照らして、どのような税務処理を行うかは慎重に検討し、株式取得の意思決定の経緯・調査の目的等を事前に整理し、資料を残すよう対応することが望ましいと考えられます。
M&Aを進める上では、成約するまでに、仲介会社などのアドバイザーに対する報酬やデュー・デリジェンスを依頼する専門家にアドバイザー費用などを支払うことが多々あります。
これらの費用は、支払った時点においてはまだM&A案件が成立するかどうか不明であるため、一時的に「仮払金」等の勘定科目に計上しておき、最終的にM&A案件が成約した際には「子会社株式」といった勘定科目にて買収の取得原価に含め、資産に計上するケースが多いです。
一方、案件がブレイク(破談)した場合には、「費用」として仮払金等の科目から振り替えて計上するのが一般的となります。
仕訳は以下の通りです(消費税等は考慮していません)。
のれんは、スキームによって会計・税務上の処理が変わってくる点に留意が必要です。
株式譲渡の場合、会計上も税務上も個別財務諸表においてのれんは発生しません。
中小企業では連結財務諸表を作成する機会は少ないかもしれませんが、上場企業などにおいて、連結財務諸表を作成している場合、のれんが計上され、会計原則上は20年以内の定額償却が求められています。
一方、事業譲渡の場合、個別財務諸表において、会計・税務上でのれんが発生します。
税務上、事業譲渡ののれん(正ののれんの場合は「資産調整勘定」、負ののれんの場合は「差額負債調整勘定」といいます)は5年で定額償却されることがもとめられており、損金算入することができます(法人税法第62条の8第5項。なお、差額負債調整勘定の益金算入については法人税法第62条の8第8項)。
例えば、1億円で事業譲渡を受け、その全額がのれんだった場合、毎年の損金計上額は以下の通りです。
2億円÷5年=4,000万円
2億円の事業譲受をすることで、毎年4,000万円の損金計上ができ、その分、毎期の課税所得が圧縮され効果的な節税に繋がります。
以上、見てきた通り、税務上、M&Aの対価については、損金算入することができません。また「購入手数料その他購入のために要した費用」かどうかが分からない場合には、M&Aに詳しい税理士などにご相談いただくことがお勧めです。
M&Aの税務は、高度な専門知識とノウハウが必要となる業務であり、金額も小さくないことが多いため、会社の経営・財務に大きなインパクトを与えうるものです。
実際にM&Aのプロセスを進める前に、税務関係についても、しっかりと相談できる専門家を見つけておくことが重要であるといえます。
今回の記事が皆様のM&Aに関する理解の手助けとなれば幸いです。