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事業承継対策が必要な理由やポイントは?流れや条件も解説!

現代日本において中小企業の後継者不足が非常に深刻化しています。

そのため多くの中小企業が「誰が会社を引き継ぐか」という点に悩まされていると言えます。

事業承継対策は中小企業にとって大きな課題です。

そこでこの記事では、事業承継対策が必要な理由・基本的な流れ・方法などを解説していきます。

事業承継対策が必要な理由

事業承継とは会社・事業を後継者が引き継ぐことを意味します。

事業承継において後継者に引き継がれるものは単に役職や資産だけではありません。

顧客や仕入れ先などの取引先や従業員はもちろんのこと、資金や株式なども引き継ぐ必要があります。

様々な人間関係や多額のお金が絡むため、対策が不十分な場合はトラブルに発展することが少なくありません。

そこでトラブルを防ぐ手段として、事業承継対策に取り組むのが良いと言えます。

具体的にどのような理由で事業承継対策が必要になるのかについては以下の通りです。

会社をきちんと存続させるため

事業承継によって会社を存続させるには、これまで経営者が培ってきたものを後継者に引き継ぐ必要があります。

経営者に職人のようなスキルが求められる場合には、ノウハウの引き継ぎだけで数年かかることも想定されます。

規模がそれほど大きくない中小企業であったとしても、事業承継に数年かかるケースは決して珍しくありません。

事業承継が完了する前に経営者が病気などで経営に関わることができなくなってしまえば、後継者は不安を抱えたまま経営しなければならないことになります。

積み重ねてきたものを自分の代で終わらせないためにも、事業承継対策に取り組むことが必要です。

相続に関するトラブルを回避するため

事業承継対策は相続トラブルを回避することに繋がります。

相続において「何を誰がどのくらい相続するのか」で揉めているケースが少なくないにも関わらず、当事者同士の話し合いで解決できた案件は半分以下に留まっているというデータがあります。

相続問題はそれだけ話し合いでの解決が難しいということを表しています。

仮に相続トラブルの影響で銀行からの信用を失えば、今後融資をしてもらえなくなる可能性もあります。

そうなると将来的に相続問題が解決しても、事業を続けていくことは困難になってしまいます。

このような相続トラブルを防ぎ周りからの信頼を失わないようにするには、事業承継対策をしっかりと行う必要があります。

多額にかかる税金の問題に対応するため

相続税・贈与税が優遇される事業承継税制によって、中小企業の多くは税金の問題に悩まされることなく、事業承継を進められる状況になってきています。

「事業承継税制」は中小企業庁のHPによると、「後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)・事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した際、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けると、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除される制度」です。

しかし事業承継税制の適用を受けるためには、承継計画の策定や規定の手続きなどが必要となるため、余裕をもって準備に取りかかることが重要です。

事業承継対策が特に必要な会社とは

相続人が一人ではない会社

相続人が複数いる会社はしっかりとした事業承継対策が必要になります。

相続人が複数いると、どうしても相続トラブルのリスクが高まるからです。

相続人が複数存在する場合でも、相続人の全員が納得できるような形で事業承継対策を進めることが重要です。

話し合いだけで長い時間を要するケースも多いため、長期的な事業承継対策が求められます。

後継者が不在の会社

現時点で後継者がいない会社は、早急に事業承継対策に取り組むことが必要です。

経営自体は順調でも後継者が不在であるために廃業することになった企業も存在するからです。

事業承継に失敗した会社が失うものは事業用資産やノウハウだけではありません。

規模によっては多くの従業員の雇用を失うため、早い段階で後継者候補を決めておく必要があります。

ワンマンオーナーが経営している会社

ワンマン経営に近い体制の会社も、早めに事業承継対策に取り組んでおく必要があります。

こうした会社では、取引先との関係を経営者の顔で繋いでいることが少なくありません。

そのため経営者が急に亡くなったり、引退しなくてはいけないようになったりすると、取引先との関係性が崩れてしまう可能性があります。

しかもこのような会社では、周囲からは事業承継対策を勧めにくいのが通常です。

経営者自身で積極的に事業承継対策について考えないと、倒産のリスクが高まってしまうと言えます。

事業承継対策の流れ

会社の現在の状況と資産を知る

中小企業の事業承継は後継者候補がいるかどうかで進め方が変わります。

まずは後継者候補がいるのかいないのかを調べて、会社の置かれている状況をしっかりと確認することが重要です。

事業承継直後は経営を安定させるまでに一定の時間を要するケースがあります。

そのため財務状況はできるだけ正常な状態で引き継ぐのが望ましいです。

事業承継では相続税・贈与税が課せられることになります。

無計画に進めると、納税しなければいけない金額が非常に大きくなり、経営に悪影響を与える恐れもあるでしょう。

そのため事前に全資産をしっかりと把握すべきです。

現金・建物・土地などの有形資産、特許権などの無形資産など、全ての資産を調べる必要があります。

従業員に関しても事業に関与している人数や雇用種別を的確に把握しておきましょう。

経営者個人の資産を確認することも重要です。

経営者の個人名義での事業用資産などを調べた上で、事業承継で引き継ぐものを確認しましょう。

後継者の選定

会社の現在の状況と資産を知った後は、後継者を選定します。

後継者選びでは、兄弟や子供などの親族から選ぶ場合と、会社内部ではあるが親族ではない会社役員などから選ぶ場合と、他者に会社を買い取ってもらうM&Aなどの方法があります。

どの方法を選ぶにしても、経営者と後継者の意思確認と周囲からの理解を得ることが重要です。

  • 親族の場合
    子供や兄弟などの親族は周囲に後継者として受け入れてもらいやすいです。
    特に役員や従業員として働いていた親族であれば、会社の理念や仕事の内容なども理解しているうえに、取引先との信頼関係も築けているからです。
    さらに後継者の育成を始めやすいというメリットもあります。
    経営者の大切な仕事のひとつとして、親族が継ぎたくなるような事業にしていくことも含まれます。

  • 親族以外の場合
    長年働いている役員や従業員であれば、事業内容や経営理念などを理解しているため、問題なく事業承継を進められるケースが少なくありません。
    従業員を後継者とする場合には、まずは経営に携わる立場に据えてから後継者に指名すると、周囲からの理解を得やすくなるでしょう。

  • M&Aの場合
    親族にも親族以外の従業員にも事業を引き継ぐことができない場合は、「M&A」という選択肢があります。
    M&Aは外部の第三者に会社の株式を売却し、会社・事業を丸ごと引き継いでもらう方法です。
    株式の売却によって経営者が対価を得られるほか、従業員を解雇しなくて良い点がメリットと言えます。
    ただし、M&Aによる事業承継においては魅力的な会社でなければ興味を示す買い手が見つからない可能性があるため、最終的には廃業に追い込まれるケースもあります。
    売りに出す前に自社の企業価値を磨き、トラブルを事前に排除しておくことが重要であると言えます。

事業承継の方法を考える

親族内に後継者候補がいる場合は、通常親族内承継を進めます。

それ以外は親族外承継あるいはM&Aという考え方が一般的です。

各方法は進め方が異なります。

そのため初期段階で使用する方法を固める必要があります。

自社の状況を確認し、自社に最も合う方法を選択することが重要であると言えます。

  • 親族内承継の対策
    1.関係者の理解
    事業承継後に、後継者が経営を円滑に行うためには、従業員や取引先などの関係者からの理解が必要不可欠です。
    また経営者の変更後も関係者と円滑な関係を維持するためには、事業承継計画を十分に伝えることが重要です。
    第三者が後継者になるケースに比べると、経営者の親族は後継者として認められやすいですが、あらかじめ親族を後継者として関係者に紹介することも、事業承継では大切な対策の一つです。

    2.後継者教育
    親族内承継には後継者教育に多くの時間を割けるメリットがあります。
    親族内承継において後継者教育は重要な事業承継対策です。
    後継者教育では、経営に必要な知識等を習得させるために、自社における各部門の業務を横断的に経験させると良いでしょう。
    リーダーシップ等を習得させるために、役員などの責任ある地位に就かせて経験を積ませることも有効な対策です。
    現経営者が直接後継者に対する指導を行い、ノウハウや自社の強みなどの目に見えない要素も十分に伝える必要があります。

    3.株式の分配
    株式の分配に関する対策も重要です。
    保有する株式の議決権比率が高いほど後継者の株主総会での決定権は強まるため、株式・財産分配時は後継者や友好的な株主に株式を集中させると良いでしょう。
    株式の保有が分散していると経営権が安定しないため注意が必要です。
    議決権比率として3分の2以上を後継者が持っていれば、株主総会で特別決議が可決できます。
    株式集中に関する対策としては遺言の活用が効果的であると言えます。
    仮に株式の保有が既に分散してしまっているケースであれば、株式買い取り等なんらかの対策を講じた方が良いでしょう。

  • 親族外承継の対策
    ここでは親族内承継とは異なる以下の対策について紹介します。
    1.後継者の資金確保
    親族外承継では後継者となる従業員や役員に株式を取得するための資金力がない可能性が低くありません。
    そのため、資金確保に関する対策を講じる必要があります。

    2.個人保証や担保の処理
    経営者が交代しても、現経営者の個人保証・担保が解除されるとは限りません。
    この点が親族外承継を行う上で大きな障害となります。
    後継者が保証人になるケースが少なくありませんが、経営者の親族ではない従業員や役員からすると債務に対する個人保証の責任を負うのは大きな負担です。
    個人保証を理由に事業承継を引き受けてもらえなくなる可能性もあるため、その前に対策を講じて事業承継を実行していかなければなりません。
    事業承継前にできるだけ債務を減らす対策が有効であると言えます。
    負担に見合った報酬を後継者に与える施策も効果的でしょう。

M&Aを用いた事業承継対策

M&Aを用いた事業承継は、自社内に後継者としてふさわしい人材がいない場合に実行されるケースが少なくありません。

近年は後継者が不在である中小企業が増加していることから、M&Aによる事業承継を行うケースが増えています。

M&Aによる事業承継への具体的な対策として、以下の2つについて説明します。

  1. 企業価値の向上
    M&Aによる事業承継において最も重要な対策は企業価値の向上です。
    買い手側はシナジー効果を期待してM&Aを実行するため、当然ながら価値のある企業や事業を買収したいと考えます。
    売り手としてM&Aによる事業承継を成功させるには、自社における強みの強化・経営体制の総点検などを実行し、企業価値を高めるプロセスが必要不可欠です。
    M&A時の取引価格は将来性や収益性を考慮して決定されるため、自社を高く売却するには自社の技術力・ブランド力などの強みを強化する対策が有効であると言えます。

  2. 無駄な資産の処分
    M&Aによる事業承継においては、不要な資産等の処分も大切な対策です。
    こういった不安要素がない企業は、買い手から買収したいと思われやすくなり、事業承継の成功可能性が高くなるのです。

事業承継計画書の作成

事業承継計画書とは、事業承継の進め方や対策を書面化したものです。

計画書の主な内容は、「今後の経営方針」「自社株の承継方法」等です。

早期に改善可能なものは、計画書のスケジュールに入れ込みましょう。

早期改善が難しいという場合は、今後の見通しとして大まかな流れを示しておきましょう。

後継者の育成は数年かけての計画となります。

想定される問題を書面化し、周囲の人間と共有して、計画的な対策を施していきましょう。

事業承継対策のポイント

後継者を育成する

親族や従業員を後継者として据える場合は、特に後継者の育成が重要です。

会社を経営するために必要な知識・スキルや取引先との信頼関係を構築するため、時間をかけて後継者の育成を進めます。

役員として経験を積ませたり、各種のセミナーに参加させたりするなど、様々な経験をできる場を積極的に与えましょう。

後継者を支えるブレーンの存在も必要です。

余力があるのであれば、後継者の育成とブレーンの選定を並行できれば、事業承継が成功する可能性が上がります。

後継者のことを念頭に置いて行う

後継者の育成が十分にできているケースにおいても、事業承継直後には後継者に莫大な負担がかかります。

後継者が事業承継後に安心して経営できる環境を作るためにも、負担が小さく済むよう事業承継を実施する必要があります。

会社の財政状態や後継者と従業員との関係性など、改善できる点があれば積極的に改善すると、後継者の負担を抑えられることに繋がります。

自社株式の税金対策を行う

中小企業の事業承継対策では、自社株式の税金対策が重要です。

贈与や相続により事業承継を行う場合、保有する自社株式の評価額を下げることができれば、支払う税金を抑えられます。

行政の用意している制度を利用する方法もあります。

例えば先述した事業承継税制は、中小企業にとって非常に頼もしい制度です。

他にもし自社株式の購入資金が足りない場合は、事業承継補助金等を申請するという方法もあります。

事業承継・引継ぎ補助金は、公式HPによると、「事業再編、事業統合を含む事業承継を契機として経営革新等を行う中小企業・小規模事業者に対して、その取組に要する経費の一部を補助するとともに、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する事業を行うことにより、事業承継、事業再編・事業統合を促進し、我が国経済の活性化を図ることを目的とする補助金」です。

株価対策を行う

親族内承継で贈与あるいは相続する場合、相続する株式の評価額に税金がかかります。

しかし、納税するための資金が足りなくなるケースも少なくありません。

自社株の評価額を引き下げて納税負担を抑える対策も必要です。

ただし過度な対策は不当とみなされて税務署に否認されるリスクがありますので注意しましょう。

代表的な税金対策としては、役員退職金の支給です。

退職金には優遇措置があるので、会社の資産としてそのまま引き継ぐよりも得になるケースが少なくありません。

納税資金対策も検討する

相続でも生前贈与でも、後継者の納税資金を確保する必要があります。

納税資金への対策をしっかりと検討しましょう。

事業承継対策は早ければ早いほど良い

後継者が高齢の場合は特に早く対策しなければならない

経営にできるだけ長い間携わりたいと考える経営者は少なくありません。

高齢になるまで現役でい続けた場合、後継者も高齢になってしまっているケースもあります。

高齢になった後継者が経営者でいられる期間は短いため、またすぐに次の事業承継を行う必要があります。

これでは事業承継の繰り返しで多大な労力がかかります。

高齢になったことによる病気のリスクや経営に関する力の低下の影響は小さくありません。

そのため、後継者が高齢になる前に早めの事業承継対策に取り組むことが非常に重要です。

経営者が突然辞めなければならなくなる可能性がある

病気などにより、経営者が突然引退せざるを得ない状況になるケースもあります。

高齢になるにつれて病気のリスクはどんどん高くなるため、現経営者が若いうちに事業承継対策を進めるに越したことはありません。

事業承継対策がほとんど進んでいない状況で経営者が亡くなってしまうと、経営者から新しい経営者への引継ぎ作業が不十分なことが多いため、後継者や従業員にかかる負担も非常に大きくなってしまいます。

親族間の相続トラブルを起こさずに済ませるためにも、経営者として事業承継に対する意向をはっきり示し、事業承継の準備を進める必要があります。

まとめ

事業承継をスムーズに進めるには、さまざまな準備を整えておく必要があります。

基本的には事業承継には長期の計画が必要であるため、早めに事業承継対策を立てなくてはいけません。

現時点で経営者が元気であっても、いつ体調を崩すのかは分かりません。

どういった状況になっても困ったりしないように、余裕のあるうちから事業承継対策に取り組んでおきましょう。

他社への事業承継・M&Aについても視野に入れながら、専門家に相談しつつ事業承継の準備を進めておきましょう。