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自社株式の相続について|相続対策やメリットなどを解説!

中小企業において相続への対策はとても重要な課題です。

しかし業務が忙しい等の理由で後回しになっているケースも少なくないことでしょう。

相続対策は相続が開始してからでは難しいです。

早めの相続対策が必要です。

「自分の会社は小さいから特段の自社株式に対する対策は必要ない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし非公開会社の自社株式は思いがけず高額に評価されるケースもあります。

多額の相続税を支払うことになった結果、事業継続が困難になる場合もありえます。

そこでこの記事では、自社株式の相続に関する対策や事業承継税制について詳しく解説します。

自社株式の相続

事業承継の方法と注意点

事業承継の方法1:株の買い取り(株式譲渡)

オーナー企業を例に取ると、オーナーは自ら出資を行っており、当該企業の株式を持っています。

そのため、オーナーがオーナーの子に会社を継がせたいと思った場合には、その株式を譲渡するのが最も簡単な方法であると言えます。

ただし、オーナーの子に株式を買い取るだけの資金がなければ、株式譲渡を行うことは基本的に難しいです。

事業承継の方法2:生前贈与

オーナーの子に株式を買い取る資金がない場合、株式を生前贈与するという方法もあります。

贈与では、基本的に、子に資金がなくても株式の譲渡が可能です。

しかし相続発生時に他の相続人から遺留分の主張がなされる可能性があります。

「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分のことです。

遺産の半分が「遺留分」です。

遺留分は先代経営者の意思にかかわらず、相続人全員が確保することができます。

仮に他の相続人が過大な財産を取得し、自分が取得できた分が遺留分よりも少なくなってしまった場合には、自分の遺留分に相当する金額の支払いについて請求可能です。

また贈与税の税率は高いので、株式の評価額が高い場合、多額の贈与税が発生してしまうというデメリットもあります。

事業承継の方法3:遺言による自社株の相続

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言等があります。

遺言によって、オーナーが所有していた株を後継者に相続することが可能です。

●自筆証書遺言

軽易な方式の遺言であり、自書能力が備わっている場合は、他人の力を借りずに、いつでも自らの意思で作成することが可能で、手軽かつ自由度の高い制度です。

平成31年1月13日より、財産目録については自書でなくても可能です。

さらに、令和2年7月10日より法務局での保管制度も創設され、自筆証書遺言が更に利用しやすくなります。

自筆証書遺言のデメリットとしては、法律上決まり事があるので、それに違反すると、そもそも遺言として有効ではないことです。

また周りから発見しにくいところに保管してしまうと、被相続人の死亡後、発見されないままになってしまうというリスクもあります。

法務局に遺言書の保管を依頼した場合には、発見されないというリスクはなくなり、裁判所の検認も不要です。

●公正証書遺言

法律専門家である公証人の関与の下で、2人以上の証人の立会いなど厳格な方式で作成され、公証人が原本を厳重に保管するという制度です。

さらに、遺言者は、遺言の内容に関して公証人の助言を受けて最善の遺言の作成が可能で、遺言能力の確認についても行われます。

公証人は、元裁判官や元検察官などが担当します。

最も確実な遺言書と言えるでしょう。

公正証書遺言は原本が公証役場に保管されます。

紛失や改ざんのリスクがありません。

家庭裁判所の検認の手続きは必要ないことも大きなメリットです。

一方、公正証書遺言を作成するためには、原則として公証役場に行く必要があります。

証人2人に立ち会ってもらうことが必要という点は非常に面倒です。

財産の価格に合わせて手数料が発生してしまうことがデメリットです。

自社株式の相続への対策

評価額を下げる

通常、相続を行う場合には、自社株式の評価を下げておかないと多額の相続税が発生します。

非公開会社の株式に関する相続における評価方法は、原則的評価方式と特例的評価方式の2つがあります。

親族が相続する場合は、原則的評価方式を利用します。

原則的評価方式は、評価する株式を発行した会社を総資産価額と従業員数及び取引金額により大会社・中会社・小会社のいずれかに区分して評価をする方法です。

(ア)大会社

大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。

類似業種比準方式は、自社と似た業種の会社の株価を元に、自社の1株当たりの利益金額、配当金額、純資産価額(帳簿価額)をその自社と似た会社の水準と比較することにより、自社の株価を算定するものです。

このうちで評価会社の類似上場企業に関する要素は

・「株価」

評価会社と評価会社の類似企業の双方に関する要素は

・「配当」、「利益」、「純資産」

です。

イメージとして、評価会社の類似上場企業の相続開始時の「株価」に、評価会社の類似上場企業と評価会社の状況について「利益」、「配当」、「純資産」の3つの要素で加味することにより、評価会社の株式の適正な時価を求めようとする方法です。

さらにこのように求めた株式の時価に一定の調整率(評価会社の規模に応じたもの)を乗じて類似業種比準方式による評価額が計算されます。

評価算式は以下の通りです。

類似業種比準価額方式の計算式:

1株あたりの株価=似た業種の株価×(利益比準+配当比準+純資産額比準)÷3×斟酌率

利益比準=評価会社の利益/類似会社の利益

配当比準=評価会社の配当/類似会社の配当

純資産額比準=評価会社の純資産/類似会社の純資産

※斟酌率は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5

なお、こうして求めた最終値は10.6円のように10銭未満は切り捨てます。

(イ)小会社

小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。

純資産価額方式は、株式を仮に評価対象の会社が解散した場合に、その会社の株主に分配される財産価値で自社株式を評価しようとする方法です。

そのため事業を継続している会社の企業価値を十分に反映しているとはいえない面もあります。

しかし上場企業の株価を基に計算する類似業種比準価額方式と比べれば、規模の小さい企業の株式の評価には適しているといえます。

正味の財産価値は会社が保有する個々の資産の相続税評価額を基に算出します。

純資産価額方式の計算方法としては、まず、課税時期における評価会社が所有する各資産の相続税評価額の合計額(資産の総価額)から、課税時期における各負債の相続税評価額の合計額(負債の総価額)を差し引き、相続税評価額に基づく純資産価額(1)を算定します。

次に、その純資産価額から帳簿上の純資産を差し引くことで評価差額(2)を求めます。

そしてこれに42%を乗じた金額(3)(評価差額に対する法人税等相当額)を算定することになります。

最後に(1)から(3)を控除した上で、法人税等相当額控除後の純資産価額を計算します。

最後に課税時期における発行済株式数で除して1株当たりの純資産の金額を求めます。

ここでいう「評価差額に対する法人税相当額」を控除する理由は、会社を清算すると含み益が顕在化して所得が生じるからです。

この所得に対しては、法人税等が約42%課税されることになります。

そのため、1株当たりの純資産価額の算出にあたっては、相続税評価額による時価純資産価額と決算書に計上されている取得価額に基づいた簿価純資産額との差額(含み益)に対する法人税等相当額を考慮する必要があるからです。

1株当たりの純資産価額については、次の算式によって求められます。

1株に対する純資産額=((資産の相続税評価額)-(負債の相続税評価額)-評価額に掛かる法人税)÷発行済株式の数(自己株式を除く)

(ウ)中会社

中会社は、大会社の評価方法と小会社の評価方法とを併用することにより評価します。

上場会社の株価は非公開株式に比べ高い傾向があります。

そのため、類似業種比準価額は高くなる可能性もあります。

また、順調に業績を伸ばしてきた会社は純資産が大きくなっています。

そのため、純資産価額で算出した場合でも自社株式の評価額は高くなるケースがあります。

経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例」

経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例制度を利用すれば、後継者と現経営者の推定相続人の全員による合意の上で、現在の経営者から後継者に贈与等がなされた自社株式に関して、

①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)

②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)

をすることができます(両方を組み合わせることも可能です)

①除外合意

後継者が現経営者から贈与等により取得した自社株式に関しては、他の相続人は遺留分の主張ができなくなります。

相続による紛争のリスクを抑えつつ、後継者に集中的に株式を承継させることが可能です。

②固定合意

自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないようになるので、後継者による経営努力が理由で株式価値が増加しても、相続時において想定外の遺留分の主張を受けるケースがなくなります。

※固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるという公認会計士、税理士、弁護士等による証明が必要です。

推定相続人が複数いると後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分の侵害を受けた相続人から遺留分相当分の金額の支払いを求められて、自社株式が分散することになってしまうなど、事業継続の妨げとなるケースがあります。

遺留分の特例を活用し、円滑な事業承継を実現しましょう。

10年以上前から生前贈与する

2018年の民法改正で特別受益は相続開始時から10年間のものに限定されました。

特別受益とは、相続人の中に、被相続人から生前贈与等によって特別の利益を受けた者がいる場合に、その相続人の受けた贈与等の利益のことです。

特別受益に該当する贈与の額は、相続開始のときに残されていた相続財産と合算したうえで、各相続人の相続分を決定する必要があると定められています。

相続開始時の10年より前に行われた自社株の生前贈与については、特別受益とみなされなくなりました。

株式の買い取りができるよう、定款を変更する

中小企業の多くは非公開会社であり、株式は全て譲渡制限株式であるケースがほとんどです。

そのため定款を変更し、株主に相続が発生した場合には、その相続人に対して会社が当該株式の買取り請求をできるようにしておく等の対策をしておくことが考えられます。

自社株式相続の対策のメリット

税金を押さえられる

自社株対策を行うメリットの一つは、オーナー社長から後継者へと株を渡すための税金を抑えられることです。

納税資金を準備できる

遺言により母娘が現預金を、後継者が自社株を相続することになったにもかかわらず、現預金のない後継者が納税資金を持っておらず納税できないケースがあります。

このようなケースに対策するため、自社株式を利用して納税資金を作り、そのうえで議決権比率を守る対策を事前に考えておけば、後継者にとっても良いでしょう。

親族間の争いを避けられる

たとえば、不用意に自社株式を平等に兄弟に分け与えると、後でトラブルに繋がることもあります。

事業承継税制

「事業承継税制」は、後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)・事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した際、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受ければ、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除される制度です。

この制度を上手に利用すれば、自社株式の相続を円滑に実施できます。

事業承継税制が設けられた理由

仮に現預金を5,000万円贈与された場合であれば、贈与税はその受け取った現預金の中から支払うことが可能です。

しかし自社株式を贈与された場合、受け取った自社株式をそのまま贈与税として支払うということはできません。

そのため、別途、納税のための現金を用意する必要があります。

後継者にとって納税資金の用意はとても大きな負担です。

相続税を支払う場合、相続の開始を相続人が知った日の翌日から10ヵ月以内でなければなりません。

全く予想できない形で先代経営者に万一のことが起きたケースでも、後継者はその間に納税資金を工面しなければなりません。

期限を過ぎた後に支払う場合は、延滞税等が発生して納税額が増えてしまうケースも想定されます。

相続税が想像以上に高額なものとなり、後継者が相続税の納税のため、金融機関から借り入れを行うというケースもあります。

このような後継者の負担を軽減するために、事業承継税制が設けられた次第です。

事業承継税制の仕組み

事業承継税制にて免除される税額は、特例措置の場合、相続税については80%又は100%、贈与税については100%です。

事業承継税制には、一般措置と特例措置があります。

2018年度の税制改正においては事業承継税制の活用を促進するため、特例措置が設けらることとなりました。

特例措置では、特例承継計画を提出すれば、対象となる株式や納税猶予割合の拡充がなされます。

特例承継計画の提出期限は、2018年の税制改正当初「2023年3月31日」でしたが、2022年の税制改正で1年間の延長がなされ、2024年3月31日までとなりました。

事業承継税制の手続きを見ていきます。

  1. 相続税のケース
    ・特例措置を活用する場合、特例承認計画の都道府県庁への提出を行う
    ・相続開始後、8ヵ月目までに都道府県庁に事業承継税制の申請を行う
    ・審査後、都道府県庁から認定書の交付を受ける
    ・認定書の写しを添付した上で、相続税の申告書等の税務署への提出を行う
    ・納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供し、税務署に申告を行う
    (特例を受ける非上場株式のすべてを担保提供すれば、見合う担保とみなされます)
    これらの手続きによって、納税猶予期間が始まります。
    加えて、納税猶予が開始した後も、以下の手続きが必要になります。
    <5年経過前>
    ・都道府県庁への「年次報告書」の提出(年1回)
    ・税務署への「継続届出書」の提出(年1回)
    <5年経過後>
    税務署への「継続届出書」の提出(3年に1回)
    5年経過後に、後継者がさらに次の後継者へと贈与する「猶予継続贈与」を行えば、相続税は免除されます。
    5年経過前にやむを得ない理由で代表権をなくして「猶予継続贈与」を実施した場合でも、5年経過後に会社が破産や清算といった事態に陥った時や、後継者が死亡した時などについて、相続税は免除されます。

  2. 贈与税のケース
    贈与税の納税猶予手続きは、基本的に相続税の手続きと同じです。
    都道府県庁に事業承継税制の活用を申請する期限は、贈与した年の翌年1月15日までとなります。
    納税猶予期間が始まった後の手続きや贈与税が免除される条件についても相続税のケースと同様です。
    ただし、贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が死去した場合には注意が必要です。
    贈与税は免除されるものの、相続税の納税義務が発生するケースもあります。
    その際には手続きにより、相続税の納税猶予への切り替えが可能です。

まとめ

今回は、自社株式の相続等における注意点や税金対策について解説しました。

税理士等からのサポートを受けて、スムーズに事業承継できるようになるべく早い段階からの準備が非常に重要です。