事業承継や企業成長のための戦略としてM&Aが注目され、ニュースでも耳にすることが多くなりました。
しかし「M&Aは複雑なもの」「大企業同士が行うもの」という印象をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
M&Aは今や、企業規模を問わず、多くの企業にとって戦略的な経営の選択肢となりつつあります。
M&Aは検討する前に全体の流れを理解しておくと、スムーズに進みます。
この記事では複雑なイメージを持たれやすいM&Aの流れについて詳しく解説しています。
M&Aのプロセスは短くないですが、一般的には、大きく3つのフェーズに分けることができます。
第1プロセスは、最初のM&A相談やM&A仲介業者の選定などの「検討・準備フェーズ」です。
準備が完了すると、譲渡人・買収人の選定や条件交渉などを行う第2プロセス「選定・交渉フェーズ」に移行することになります。
そして最後に第3プロセスとして、最終契約の締結・クロージングを行う「最終契約フェーズ」があります。
一番最初にM&Aが自社にとって正しい選択であるかどうかを判断する必要があります。
例えば、M&Aによる第三者承継を検討している場合、家族承継ではなくM&Aを選択する理由をしっかりと押さえておく必要があります。
また、検討段階でM&Aの目的や譲れない条件を明確にしておくことがM&Aの手続きをスムーズに進めるために重要です。
M&Aの準備段階では、会社の経営成績や純資産・負債などを正確に把握することが重要です。
M&A交渉開始前に、交渉時に問題となりうる簿外債務や逆にプラス要素となりうる特許や独自のノウハウを洗い出し、交渉がスムーズに進むように会社の状況を整理しておくことが重要です。
社内の状況が整理されていれば、交渉もスムーズに進みます。
会社譲渡には従業員の雇用継続・個人保証の排除・譲渡対価などについての希望があるのが通常でしょう。
希望条件の優先順位を検討することは、M&Aを円滑に進める上で重要であると言えます。
M&Aが自社に適していると判断したら、支援を依頼する業者を選定します。
M&Aは、通常、支援業者等と一緒に行われます。
M&Aを経営者や一部の従業員のみで行うことも不可能ではないですが、法律や会計などについての専門性の高い手続きも多く、専門家でなければ行うことが難しいのが通常です。
M&Aを支援する組織としては、士業事務所・銀行・商工会議所・M&Aアドバイザーなどがあります。
選定・交渉の段階では、まず「ノンネームシート」と呼ばれる書類を作成します。
ノンネームシートとは、企業を特定できない程度の企業情報をまとめた書類です。
ノンネームシートは、主にM&A支援業者が譲渡企業を譲受企業に紹介するために使用するもので、通常はおおよその会社概要や財務データなどが記載されています。
また、ノンネームシートを見て譲受を希望する企業には、より詳細な企業概要・財務状況・譲渡企業の強みなどを記載した「企業概要書(IM)」が開示されることになります。
譲受会社はこの企業概要書などに基づき、M&Aを進めるかどうかを決定します。
M&A支援業者を通じて譲受会社に提供する情報の正確性を確保するため、譲渡きぎぃ王としては早い段階から自社に関する資料を準備しておくことが望ましいといえます。
M&Aにおけるスキームとは、株式譲渡や事業譲渡などM&Aの方法のことを指します。
株式譲渡のほかにも、合併・会社分割・株式交換などのスキームがあります。
自社のM&Aの目的や戦略に応じて、適切なスキームを選択することができ、スキーム選定の際には、さまざまな情報を検討する必要があります。
選択するスキームによって、税金・会計上の影響に違いがありますので、支援業者に相談しながら適切なものを選択する必要があります。
M&Aを進めたい相手企業が見つかったら、その企業と「トップ面談」を行います。
多くの場合、このトップ面談は、パートナー候補の企業が2〜3社程度に絞られた段階で行われます。
トップ面談では、通常、譲渡価格などの交渉は行わず、譲渡会社と譲受会社の経営ビジョンや、譲渡後の運営方針、経営状況などについて相互理解を深める場として行われます。
たとえ自社にとって有益でない情報であっても、トップ面談の際に譲受企業候補に十分な情報を提供することが重要です。
このような情報がデューデリジェンス(後述)の段階で出てくると、譲受企業との信用が損なわれ、関係破綻の一因となることがあるからです。
トップ面談を行い、M&Aの対象企業が決まると、「基本合意書」を取り交わします。
この基本合意書は、これまでの条件を整理し、譲渡価格やタイムテーブルなどを定めたものです。
基本合意後、従業員の協力が必要な場合もありますが、この段階では会社のキーパーソンにしかM&Aを告知できないのが通常です。
社員が以前よりも前向きな気持ちで仕事に取り組めるよう、M&Aの意図を誠実に伝える必要があります。
基本合意書を取り交わした後、譲受企業は譲渡企業に対して「デューデリジェンス(DD)」と呼ばれる企業調査を実施します。
デューデリジェンスでは、譲渡企業を法務・税務など様々な観点から調査します。
基本的には、譲受会社が選定した外部専門家によって行われます。
このデューデリジェンスは、譲渡対価が適切かどうか、合併・買収の方法、合併・買収後の円滑な統合のために実施されます。
デューデリジェンスに要する期間は、譲渡企業の規模や事業内容によって異なりますが、中小企業の場合、実際の現場でのデューデリジェンスは1~4日、報告書の完成は1~2週間程度かかるのが通常です。
また、デューデリジェンスの結果は、最終的な譲渡価格等の決定に際し、考慮されます。
最終契約の内容は最終契約書に記載されます。
最終契約書の名称は、株式譲渡の場合は株式譲渡契約書、合併の場合は合併契約書など、合併・買収の方法によって異なります。
最終契約の主な内容は、取引金額・表明保証・補償条項・解除条件などです。
最終契約の内容は、基本契約の内容を基に作成されることが多いため、基本契約の段階で、その内容を十分に確認することが重要です。
また、基本契約書には法的拘束力はありませんが、最終契約書には法的拘束力がありますので、契約書の内容をよく確認してください。
「クロージング」とは、最終契約に基づく経営権の譲渡手続き自体のことです。
これでM&A手続きは終了します。
株式譲渡の場合は、株式の譲渡により経営権を移転し、譲受会社が対価を支払います。
クロージングは法的にM&Aを成立させるプロセスであるため、そのプロセスに間違いがないように注意しなけれなりません。
売り手にとって重要なポイントはいくつもありますが、特に注意すべきは以下の5つです。
M&Aの目的・戦略
M&A支援機関の選定
M&Aパートナーの選定
M&Aの条件
情報管理
M&Aを成功させるためには、迅速な意思決定と交渉が重要です。
M&Aの目的や戦略は、専門家に相談することで、具体的かつ効果的に定義することができます。
M&A支援機関は、それぞれ得意とする分野が異なります。
支援機関によって、大企業を専門とするコンサルタントもいれば、中小企業のM&Aを専門にするコンサルタントもいます。
M&A支援機関の中には、製薬業界など特定の業界に特化した業者もいます。
M&Aを成功させる可能性を高めるには、自社が行うM&Aの種類に適した専門家を利用することが重要です。
M&Aの条件は相手先に大きく依存するため、M&Aの相手先の選定は慎重に行う必要があります。
売り手企業のM&Aの条件としてよく挙げられるのは、M&A後の従業員の処遇と譲渡価格です。
これらの条件を満たせなければ、多くの企業が売却を見送ることになります。
許容できる条件と譲れない条件を事前に考えておく必要があります。
M&Aに関する情報は、従業員やビジネスパートナーなどの利害関係者に大きな影響を与えます。
M&Aの支援機関とM&A当事者との間で秘密保持契約を締結し、情報漏洩がないようにします。
買い手にとってもM&Aの重要なポイントがいくつもあります。
ここでは、そのうちの5つを紹介します。
M&A支援機関を選ぶ
M&Aの相手先の選択
デューデリジェンスの徹底
M&Aの条件
買い手は、希望する事業の規模や業種だけでなく、買収した場合に発生する問題点を見極める必要があります。
その判断ができるのが、M&A支援機関です。
専門分野や事業規模は、支援機関ごとに異なります。
M&A支援機関を選ぶことは、非常に重要なポイントです。
M&A支援機関にアプローチする際、M&Aの条件や要件を提示すれば、その条件に基づいて選定された候補会社をいくつか提示してくれるはずです。
ただしM&Aを行うかどうかの最終的な判断は買い手に委ねられます。
判断を誤ると、M&Aが決裂したり、交渉が長引いたりする可能性があります。
そのような事態を避けるためにも、M&Aの相手先選びは慎重に行うことが大切です。
特に合併によるM&Aの場合は、相手先企業に属する資産や従業員などのすべてを継承することになります。
もちろん、負債やその他の資産も含まれます。
簿外債務などが存在する場合、思わぬトラブルに発展し、M&A後に買い手が資金難に陥る可能性があります。
徹底したデューデリジェンスが必要です。
リスクを回避するためには支援機関のアドバイスを受けることが重要です。
M&Aをめぐる交渉では、売り手からのどのような条件であれば受け入れるかをあらかじめ考えておく必要があります。
M&Aの条件には、取引額や従業員の処遇だけでなく、買収後の経営権に関する事項も含まれることがあります。
買い手はM&A後の経営活動を考慮し、M&Aの条件や内容を決定する必要があります。
今回は、M&A手続きの流れや具体的な手続きについてご紹介しました。
M&Aの手続きは、通常3ヶ月から1年程度かかりますが、M&Aの過程で何らかの問題が発生すると、さらに時間がかかる可能性があることを知っておく必要があります。
時期が遅れれば、それに応じてコストや手間も増えます。
そうならないように税理士などの支援機関によく相談しましょう。