令和5年10月よりインボイス制度の開始が行われることが発表されてから数年経ちます。これまでの間に、インボイス制度に対しては様々な意見があり、特に廃業に追い込まれる事業者が増加することが危惧されてきました。
しかしながら、インボイス制度は廃止の予定は無く、特例等を利用しながら、事業者は適応をすることが求められています。
インボイス制度に対しては様々な意見がありますが、政党としてインボイス制度を推進しているのは、2022年の参院選時点で自由民主党、公明党、日本維新の会であり、その他の政党においてはインボイス制度に対して不支持である姿勢を示しています。
また、不支持の姿勢を示している団体が多くあります。日本税理士会連合会や全国青色申告会総連合、全国商工団体連合会等、日本経済に大きく寄与している団体が、不支持をしています。
不支持の姿勢、廃止の声を挙げている政党や団体が多くあるのは、何故なのでしょうか。インボイス制度の仕組みや、廃止の声の理由を紹介していきます。
インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式です。インボイス制度開始以後は、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者であるインボイス発行事業者が交付するインボイス等の保存が仕入税額控除の要件となります。
インボイスを交付することが出来る事業者は、インボイス発行事業者に限られます。インボイス発行事業者となるためには、登録申請手続を行い、登録を受ける必要がありますは、この登録には課税事業者であることが要件となります。
インボイス制度の目的は、取引の透明性を高めて消費税額を正確に事業者同士が把握することといわれていますが、これとは別に益税の解消が大きな目的であるといわれています。
益税とは、消費者が支払った消費税が国や地方自治体に納められず、事業者の手元に合法的に残ることをいいます。
消費税は商品を購入した場合、購入をした消費者が負担をし、購入代金と共に消費税を受け取った事業者が消費者の代わりに納める、負担者と納税者が異なる間接税の仕組みが採られています。
しかし、購入代金と共に消費税を受け取った事業者が、消費税の免税事業者に該当をする場合には、受け取った消費税を納める必要がありません。
この仕組みにより従来の税制では、消費者が負担した消費税が合法的に事業者の手元に残る場合が多く見受けられました。
しかしインボイス制度の下では、インボイスを発行するためには課税事業者である必要が発生します。これによりインボイスを発行したいと考える免税事業者は、課税事業者になる必要がある、つまり消費税を納める義務が発生するため、益税を得ることが出来なくなる、ということです。
言い換えれば、インボイス制度の導入によって、益税となっていた事業者の手元にあった消費税が納付され、国の収入が増加することが見込まれるということになります。
益税が解消されることで、国の収入の増加が見込まれるのであれば、多くの税金が国民に還元されるようになり、メリットがあるように見えます。
それにも関わらず、多くの政党や団体が不支持ないし廃止を求めているのは、そのメリット以上に事業者への影響が大きいことが懸念されているためです。
まず廃止の声が大きい理由のひとつに、各事業者の業務負担の増加が挙げられます。インボイス制度による業務負担は、売手側と買手側、双方が必要となります。
売手は買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるために、買手から求められた場合にはインボイスを交付する必要があります。
このインボイスの交付を行うためには、事前に納税地を所轄する税務署長に対して登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者になる必要があります。
また、適格請求書発行事業者となりインボイスを交付する際にも、現行の区分記載請求書に加え、登録番号、適用税率及び消費税額等の記載が必要となり、書類やデータの書式を変更する必要があります。
買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、売手である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。
免税事業者や消費者等の請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入は、原則として仕入税額控除の適用を受けることが出来ないことから、インボイスと認められる請求書と、それ以外の請求書とを明確に分けて、区分経理を行う必要があります。
税制の変更には上記のような業務負担の増加は往々にして伴うものですが、廃止の声が大きい理由の最たるものとして挙げることが出来るのが、消費税納税額の増加に伴う、免税事業者への影響です。
現行の制度において免税事業者である事業者が、インボイスを発行するためには、課税事業者となり登録事業者になる必要があります。
上記の益税の解消についてご紹介しました通り、免税事業者は、課税事業者になると消費税を納める義務が発生します。
現行の制度において益税が発生していることが、そもそも平等ではなく解消すべきという考え方に基づいてインボイス制度が支持されていますが、免税事業者が得ていた益税は、合法なものであり、現行の制度に従ったものになります。
例えば990万円(税込)の収入と550万円(税込)の経費がある免税事業者の利益は、現行の制度においては差額の440万円(税込)となります。
この免税事業者が同額の収入と経費のまま課税事業者となると、利益の440万円(税込)のうち40万円は納税すべき消費税額に相当するため、利益は400万円となります。
同じ事業活動を行う場合において、免税事業者が課税事業者になるということは、税額負担の増加及び資金の流出を伴うものであり、事業経営に大きな打撃を与えるものとなります。
インボイス制度の開始に伴い、インボイスを発行する事業者になるかは、事業者の判断に任せられており、免税事業者が課税事業者になることは強制ではありません。
しかし、インボイスを発行することが出来ないということは、取引先が仕入税額控除を適用する取引として認識することが出来ません。
取引先の立場からすると、同じ規模の取引を行うのであれば、インボイスを発行することが出来る事業者と取引を行った方が、取引先の税負担が軽減されます。
このように取引先の税負担の観点から、インボイスを発行することの出来ない事業者は、取引をすることを拒否される可能性が高まります。
よって、免税事業者が課税事業者になることを選択せずに、インボイスを発行することが出来ない場合は、市場において不利な状況になることが予測されています。
インボイス制度の導入は、インボイスを発行するための事務手続きの負担増加のみならず、現行の制度において免税事業者であった、取引規模の小さい事業者の負担増加による廃業が懸念されています。
法人では約1割、個人事業者では約5割が免税事業者であるといわれています。実に多くの事業者の廃業が懸念されるため、インボイス制度の廃止の声が大きくなることは、自明のことでしょう。
今後のインボイス制度に関する発表についても、目が離せません。