分社型分割等の会社分割を行う場合、会社の所有する不動産も分割の対象となることから、不動産取得税の課税関係に着目をする必要があります。一定の場合には不動産取得税は非課税となりますが、どのような要件を満たせば良いのでしょうか?具体的に紹介をしていきます。
会社の組織再編には、合併、会社分割、株式交換、株式移転、営業譲渡、株式購入といった手法があります。分社型分割は会社分割のひとつの手法であり、その分割時に移転された不動産に係る不動産取得税の取り扱いについて紹介をしていきます。
分社型分割とは、会社分割のひとつの手法です。会社分割とは会社においてどのような行為なのか、またその中の分社型分割とはどのような分割なのかについて確認をしましょう。
会社分割とは、会社が所有する既存事業の一部を、他の会社に移転させる組織再編の手法のことをいいます。組織再編とは、会社の組織を改めることで、経営資源を有効活用したり事業を強化したりする行為のことをいいます。
一般的には、下記の順に会社分割は行われます。詳細の手続きについては、下記にて紹介します会社分割の種類が、新設分割か吸収分割によって異なります。
既存事業の一部を移転する方法には、事業譲渡もありますが、会社分割は会社法に規定された組織再編行為であり、事業に関する権利義務を一括で移転する包括承継であるのに対し、事業譲渡は会社法に規定された組織再編行為ではなく、事業に関する権利義務を個別に移転する特定承継であるため、異なる行為です。
異なる行為であることから、税制、債権者保護、許認可等、様々な法の適用や手続きにおいても会社分割と事業譲渡は異なるものです。
下記にて紹介しますメリットやデメリットがあることから、数ある組織再編のうち、会社分割は、持株会社化、いわゆるホールディングス化のため、後継者育成や複数の後継者がいる場合の事業承継のため、経営再建のため等に用いられます。
会社分割を行うメリットには下記のようなものを挙げることができます。
・事業の肥大化の防止
会社の規模が大きくなり過ぎると、経営判断の機動性や柔軟性が失われる可能性があります。既存事業の一部を移転させることで、適切な規模を維持することができます。
また、法人税は資本金1億円以下の普通法人においては、利益の年800万円以下の部分に対しては法人税率が15%、年800万円超の部分に対しては法人税率が23.40%と、利益の額に応じて税率が異なるため、事業を移転させることで利益を分散させることの方が法人税の節税につながることもあります。
・不採算事業の切り出し
既存事業の一部に不採算事業がある場合、その不採算事業を移転させることで、分割会社に資金や人材を集中させることができ、倒産リスクを低減することができます。
・人材流出の防止
分割承継会社の新設等により、新たな役職を従業員に与えることで、労働意欲の向上に寄与すると共に、会社分割では雇用契約も移転するため、分割にともなう人材流出を防ぐことができます。
また、分割承継会社の代表取締役に後継者を就任させ経営経験を積ませること等により、事業承継対策の一助にもなります。
・資金を抑えた事業再編ができる
会社分割は株式の交付を対価として実行することができます。事業再編のために資金調達を行う必要がなく、金銭面での負担を抑えることができます。
会社分割を行うデメリットには下記のようなものを挙げることができます。
・税務手続きが煩雑である
会社分割により譲渡益が発生した場合には、その譲渡益に対して法人税が課税されます。一定の要件を満たした場合には、課税されない場合がありますが、その要件の検証や確認に手間を要します。
・株主の2/3以上の同意が必要である
会社分割は、株主総会での特別決議がなければ実行することはできません。株主からの同意が必要であることから、反対株主の対応に苦慮する可能性もあります。
・包括承継により簿外債務が移転される可能性がある
権利義務を一括で移転することに伴い、帳簿上明らかにされていない未払給与やリース債務等の簿外債務を分割承継会社は負う可能性があります。
会社分割は2つの観点から、その種類を分けることができます。
権利義務の移転先に着目をすると、事業の権利義務を新設会社に移転するものを新設分割、事業の権利義務を既存の他社に移転するものを吸収分割、と分けることができます。
対価の受け取り先に着目をすると、対価を分割会社が受け取るものを分社型分割、対価を分割会社の株主が受け取るものを分割型分割、と分けることができます。
上記のように、分社型分割は、会社分割を対価の受け取り先に着目をした場合の、ひとつの手法です。
分社型分割は、分割する前の会社である分割会社の株主が分割会社の株式の割合に応じて、分割後の会社である分割承継会社から分割対価として株式の交付を受けとります。つまり、異なる事業を行ういわゆる兄弟会社が作られることとなります。
会社分割では、事業の権利義務を移転すると共に、資産を移転することもあり、その資産には不動産が含まれることがあります。
不動産取得税は、土地や家屋の購入、贈与、家屋の建築などで不動産を取得した際に、取得した人に対して課される税金であり、取引された不動産の所在する都道府県に納税するものです。
取得とは有償であるか無償であるかを問わず、不動産所有権を得た事実が発生したことをさします。取得の方法は、家屋の新築や増築、改築や土地の造成等の、不動産の存在しなかった場所に新たに不動産を設ける原始取得と、土地や家屋の売買、交換、贈与、財産分与等の、既に存在する不動産を譲り受ける承継取得とに大別することができます。
会社分割において不動産取得税が発生するのは、一般的に承継取得によって分割承継会社が不動産所有権を得た場合です。
このように、会社分割において不動産が移転した場合には、分割後の会社である分割承継会社が不動産取得税の納税義務者となります。
不動産取得税の税額は、不動産の評価額である市町村の固定資産課税台帳に登録されている価格に対して令和6年3月31日までの取得については社屋については4%、土地については3%の税率を乗じたものであり、分割承継会社にとっては重い税負担が生じる可能性があります。
この税額は、都道府県が決定をし、都道府県から発送される納税通知書によって納税を行う必要があります。
上記の税負担を軽減し会社の経済活動を活発化させるために、一定の要件を満たす場合においては会社分割に係る不動産取得税の非課税措置が適用されます。
また、土地の価格が10万円に満たない場合、新築や増築、改築等の家屋の建築の場合における家屋の価格が23万円に満たない場合、売買や贈与、交換等の場合における家屋の価格が12万円に満たない場合は、非課税措置の適用に関わらず、不動産取得税は課税されません。
下記のいずれかの分割において、それぞれの要件を満たすことが必要です。
①分割型分割の場合
②分社型分割の場合
下記の要件を全て満たすことが必要です。
非課税措置の適用を受けるためには、全ての要件を満たしたうえで、都道府県に対して不動産取得税非課税申告書を添付書類とともに提出し、承認を受けることが必要です。
都道府県毎に申告書類の書式が異なりますが、不動産取得税非課税申告書と共に一般的に必要となる添付書類は、下記に挙げるものです。
分社型分割とは、会社分割の手法のうち、対価を分割会社が受け取るものをいいます。分社型分割を含めた会社分割において不動産が移転された場合、移転を受けた分割承継会社がその不動産に係る不動産取得税の納税義務者となります。
しかし、会社分割に係る不動産取得税の非課税措置の適用要件を満たす場合には、その納税が必要ありません。
会社分割の実行の際には、会社分割に係る不動産取得税の非課税措置の適用要件を満たす計画を立案することで、会社の税負担を少なく組織再編を行うことができます。