会社分割は、対価の受取先に着目した場合は、分社型分割と分割型分割に分けることができます。
分社型分割と分割型分割では、税制面でメリットのある適格分割に該当する要件が異なります。適格分割の要件を踏まえながら、分社型分割と分割型分割のメリット、デメリットを紹介していきます。
分社型分割と分割型分割は会社分割の手法が異なることから、税金の優遇措置を受けることのできる適格分割に該当する要件、利害関係者への影響等が異なります。今回は、分社型分割と分割型分割の違いとメリット、デメリットについて紹介していきます。
分社型分割と分割型分割は、誰がその対価を受け取るかにという点に着目した場合の区分方法における、分割の種類です。
分社型分割は、事業を譲渡された承継会社が、事業を譲渡した分割会社に対価を支払うものであり、分割型分割は、事業を譲渡された承継会社が、事業を譲渡した分割会社の株主に対価を支払うものです。
分社型分割及び分割型分割が適格要件を満たすものであると、適格分割に該当し、事業の譲渡損益の繰延が認められることにより、非適格分割よりも法人税の節税をすることができます。
この適格要件は、事業を譲渡した分割会社とそれを承継した会社間に、支配関係があるかより変動し、支配関係が強い場合、満たすべき要件の数は少なくなります。
分社型分割及び分割型分割における適格要件は、下記の11項目について確認を行う必要があります。
①金銭等不交付要件
承継会社が対価を支払う場合に、自社か親会社の株式以外を交付しないこと
②按分型要件
株主の保有株式数に比例して対価を支払うこと
③株式継続保有要件
対価を受けた株主がその株式を継続して保有する見込みである
④主要資産等引継要件
分割した事業の資産と負債が承継会社に移転し、分割する事業の従業員の80%以上が承継会社で働くこと
⑤事業継続要件
事業が分割後に営業を終了することなく継続すること
⑥事業関連性要件
分割会社が承継会社に譲り渡した事業が、承継会社が営んでいる事業と関連性があること
⑦規模の同等要件
分割会社の事業の規模と、それを承継した会社が営んでいる事業の規模が大きく違わないこと
⑧経営参画要件
分割会社と承継会社の勤続5年以下の役員のうち、少なくとも1人以上が、会社分割実施後の承継会社の役員に就くこと
⑨法人新設要件
承継会社が、既存の会社ではなく新たに設立された会社であること
⑩非支配関係継続要件
承継会社が、特定の株主に支配されないこと
⑪特定役員継続要件
分割会社の重要な使用人、もしくは役員が、会社分割実施後、承継会社の役員となること
分社型分割においては、下記の支配関係の区分に応じて、適格要件が異なります。
株式を100%保有する場合を、完全支配関係にあるといいます、完全支配関係にある場合には、上記①、③の要件を満たすことが適格分割に必要です。
株式を50%超保有する場合を、支配関係にあるといいます。支配関係にある場合には、上記①、③、④、⑤の要件を満たすことが適格分割に必要です。
株式を50%以下保有する場合を、支配関係がないといいます。支配関係が無い場合には、上記①、③、④、⑤、⑥の要件を満たし、かつ⑦又は⑧を選択していずれかひとつの要件を満たすことが適格分割に必要です。
分割型分割においては、下記の支配関係の区分に応じて、適格要件が異なります。
上記①、②、③の要件を満たすことが適格分割に必要です。
上記①、②、③、④、⑤の要件を満たすことが適格分割に必要です。
上記①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧の要件を満たすことが適格分割に必要です。
スピンオフ分割とは、支配株主が存在しない場合の分割型分割のことをいいます。
上記①、②、④、⑤、⑨、⑩、⑪の要件を満たすことが適格分割に必要です。
分社型分割と分割型分割では、その分割の際に必要となる会計処理が、分社型分割か分割型分割か、またその分割が適格か非適格かによって異なります。
適格要件を満たした適格分社型分割の場合、移転資産負債は簿価譲渡となり、譲渡損益は発生しません。
資産負債差額については、分割会社は分割承継会社株式、分割承継会社は資本金等の額で処理を行い、利益積立金の引継はありません。
・分割会社の処理
分割会社では、分割する資産負債の消滅を認識し、差額を分割承継会社株式の取得価額とするため、下記のような仕訳が必要となります。
諸負債 簿価/諸資産 簿価
分割承継会社株式 貸借差額
・承継会社の処理
分割承継会社では、分割会社の簿価を引継ぎ、差額を資本金等の額とするため、下記のような仕訳が必要となります。
諸資産 簿価引継ぎ/諸負債 簿価引継ぎ
/資本金等 簿価引継ぎ
適格要件を満たしていない非適格分社型分割の場合、移転資産負債は時価譲渡となり、原則として譲渡損益が発生します。
資産負債差額については、分割会社は、時価で分割承継会社株式を受け入れ、分割承継会社は資本金等の額で処理を行い、利益積立金の引継はありません。
・分割会社の処理
分割会社では、分割する資産負債の消滅を認識するとともに、交付された分割対価をその時価で受け入れ、差額は譲渡損益となり、期末に課税されるため、下記のような仕訳が必要となります。
諸負債 簿価/諸資産 簿価
分割承継会社株式 時価/譲渡損益 貸借差額
・承継会社の処理
分割承継会社では、受け入れた資産負債を時価で計上し、対価が株式の場合は資本金等の増加とするため、下記のような仕訳が必要となります。
諸資産 時価/諸負債 時価
/資本金等 時価
適格要件を満たす適格分割型分割の場合、移転資産負債は簿価譲渡となり、譲渡損益は発生しません。
資産負債差額については、分割会社は、一旦分割承継会社株式で受け入れ、株主に株式を現物分配する結果、資本金等の額、利益積立金の減少処理を行います。一方、分割承継会社では、資本金等の額と利益積立金を引継ぎます。
・分割会社の処理
分割会社では、分割する資産負債の消滅を認識するとともに、移転資産負債の貸借対照表に占める割合に対応する資本金等の額と利益積立金額を移転させるため、下記のような仕訳が必要となります。
諸負債 簿価/諸資産 簿価
資本金等 分割直前資本金等の額に分割移転割合を乗じた額
利益積立金 諸負債と諸資産の差額から、資本金等の額を差し引いた額
・承継会社の処理
分割承継会社では、分割会社で減少したそれぞれの簿価を引継ぐため、下記のような仕訳が必要となります。
諸資産 簿価引継ぎ/諸負債 簿価引継ぎ
/資本金等 簿価引継ぎ
/利益積立金 簿価引継ぎ
・分割会社株主の処理
分割会社株主では、分割承継会社の株式と分割会社の株式の入れ替えのため、下記のような仕訳が必要となります。
分割承継会社株式/分割会社株式 分割直前分割会社株式簿価に分割移転割合を乗じた額
適格要件を満たさない非適格分割型分割の場合、移転資産負債は時価譲渡となり、原則として譲渡損益が発生します。
資産負債差額については、分割会社は一旦、時価で分割承継会社株式を受け入れ、株主に株式を現物分配する結果、資本金等の額と利益積立金の減少処理を行います。一方、分割承継会社では、資本金等の額で受け入れ、利益積立金の引継はありません。
また、分割会社の株主は、分割承継会社の株式と分割会社の株式の入れ替え仕訳を行い、株式価値部分の差額につき、みなし配当が生じます。
・分割会社の会計処理
分割会社では、まずは分割対価を時価で受け入れ、資産負債の消滅を認識し、差額は譲渡損益となるため、下記のような仕訳が必要となります。
諸負債 簿価/諸資産 簿価
分割対価 時価/譲渡損益 貸借差額
次に、分割対価を株主に分配し、分割によって株式価値が減少していることから、資本金等の額の減額を行うため、下記のような仕訳が必要となります。
資本金等 分割直前の資本金等の額に分割移転割合を乗じた額/分割対価 時価
利益積立金 貸借差額
・承継会社の会計処理
分割承継会社では資産負債を時価で受け入れ、対価が株式の場合はその時価分だけ資本金等の額を増加させ、貸借差額は資産調整勘定とするため、下記のような仕訳が必要となります。
諸資産 時価/諸負債 時価
資産調整勘定 貸借差額/資本金等 時価
・分割会社株主の処理
分割会社株主では、分割承継会社の株式と分割会社の株式の入れ替え仕訳を行い、株式価値部分の差額につき、みなし配当が生じるため、下記のような仕訳が必要となります。
分割承継会社株式/分割会社株式 分割直前の分割会社株式の簿価に分割移転割合を乗じた額
/受取配当金 被合併会社で認識したみなし配当の額
分社型分割は、一定の場合においては、債権者保護手続きを全くする必要がないため即座に手続きが進められ、第三者に会社分割を知られリスクを軽減させることができます。
このことから、時間がなくすぐにでも会社分割をしたい会社や同業他社に会社分割を知られることなく会社分割をしたい会社は、分社型分割を選ぶと良いでしょう。
さらに、上記の税務処理の違いからは、下記のメリットやデメリットを挙げることができます。
分社型分割の適格要件には、按分型要件がありません。按分型要件とは、上記のように、株主の保有株式数に比例して対価を支払うことです。
適格要件を満たしやすいということは、適格分社型分割に該当をしやすく、非適格分社型分割よりも節税を見込むことができるため、適格要件が少ないことはメリットであるといえます。
分社型分割においては、会社分割において発生する資産負債等の移動が会社間のみで発生をし、分割会社の株主に利益の変動はありません。
よって分割会社及び承継会社の株主の会計処理は不要であり、株主への影響が少ないことがメリットであるといえます。
適格分社型分割においては、分割会社、承継会社、その株主のいずれにも、原則として法人税や所得税は発生しません。一方で、非適格分社型分割においては、分割会社にて移転する資産負債の含み損益の精算が行われ、課税が発生します。納税義務は分割会社に残り、原則として分割先会社に移転しません。
納税義務者となるのは分割会社のみであり、株主に納税義務が生じないことがメリットであるといえます。
分割型分割は、債権者保護手続きをする必要があるために、ある一定の期間(が必要です。また、債権者と話し合いをする必要があり、同業他社に知られてしまうリスクが分社型分割よりも増加します。
しかしながら、債権者と充分な話し合いをしたうえで、会社分割をするため会社が再生できる確率は分社型分割よりも高くなるといえます。また、分社型分割とは異なり、分割会社と新設会社または承継会社の資本関係が完全に遮断されるため、両社は別個独立した会社となります。
このことから、時間的な余裕があり、債権者の理解が得られ会社分割をしたい会社や分割会社と新設会社または承継会社の資本関係を断ち、別個独立の会社にしたい会社は、分割型分割を選択すると良いでしょう。
さらに、上記の税務処理の違いからは、下記のメリットやデメリットを挙げることができます。
分割型分割においては、スピンオフ分割が適格要件にあるように、分社型分割にはない会社分割の手法を選択することができます。
スピンオフ分割とは、分割会社の事業を切り離して独立した承継会社に移行させる会社分割であり、事業の承継時に対価として独立した承継会社の株式を分割会社株主に交付し、事業の移行を完了させます。
会社分割の手法としてスピンオフを選択することは、分割会社が出資をする形で特定の子会社や事業を切り離し、承継会社をつくるため、承継会社は分割会社の経営資源を活用しながら成長を目指すことができます。経営資源を活用しつつも、スピンオフされた承継会社は、独⾃の資⾦調達の途が拓かれ、⼤規模M&A等の成⻑投資が実施可能になります。
また、切り離す事業が分割会社から離れることで、分割会社、承継会社がそれぞれの中核事業に専念することができ、経営の自由度が高まります。このため、投資戦略や資⾦調達等について迅速、柔軟な意思決定が可能になり、経営者や従業員の労働意欲の向上につながると考えられます。
このように分割型分割においては、スピンオフという承継会社が企業価値を下げずに、中核事業に専念ができるような会社分割の手法があることが、メリットであるといえます。
分割型分割においては、分割によって分割会社の株主が新たに承継会社の株主にもなることから、分割会社の株主は、分割会社の株式簿価のうち、分割によって価値が減少した分を減額し、分割承継法人株式の取得原価に振り替える会計処理が必要となります。
会計処理の煩雑さが株主にも及ぶことがデメリットであるといえます。
適格分割型分割においては、分割会社、承継会社、その株主のいずれにも、原則として法人税、所得税は発生せず、課税の負担がないことについては適格分割においては分社型分割と同様です。
しかし、非適格分社型分割においては、非適格分社型分割とその対価の配当が同時に行われたものとして、分割会社とその株主に課税が発生します。
納税義務者となるのは分割会社のみならず、その株主にみなし配当が生ずることで、50%近くの所得税を課税される場合があることがデメリットであるといえます。
分社型分割は事業を譲渡した分割会社に対価を支払う会社分割の手法であり、分割型分割は、事業を譲渡した分割会社の株主に対価を支払う会社分割の手法です。
対価を受け取る対象者が異なることから、影響を受ける利害関係者が異なり、税金の優遇措置を受けることのできる適格分割に該当する要件も異なります。
組織再編を考える際には、まずは会社分割、合併、株式交換、株式移転等の手法から、どれを選択するかを検討する必要があります。そして会社分割を選択した場合には、分社型分割とするのか、分割型分割のどちらを選択するのかを、メリットやデメリットを踏まえて決定しなくてはなりません。
このメリットやデメリットを考える際には、税金の負担を考慮した適格要件に該当するかの確認のみならず、会社内外の利害関係者への影響や、会社分割後の企業戦略にも着目する必要があり、非常に検討に時間や労力を要するものです。
会社分割をはじめとする組織再編について考えることは、簡単なことではありません。検討の一助として、ご参考になさってください。