原則通りグループ通算制度に移行することが本当に法人にとって良いことなのでしょうか?グループ通算制度に移行した初年度の申告は滞りなく行えますでしょうか?
様々な不安を解消するために、制度について理解を深めていきましょう。グループ通算制度と廃止される連結納税の違いについて、今回はご紹介致します。
連結法人である法人は、特段の手続なく令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されています。
グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度です。
損益通算等の仕組みは連結納税制度と同様にしつつも、制度そのものにおいては連結納税制度より単体申告に似せ簡素化したものがグループ通算制度です。
グループ通算制度において連結納税制度から変更される主な点についてご紹介を致します。
納税主体とは、法人税等の支払い義務をもつ者をいい、納税者、納税義務者と同様の意味を持ちます。
連結納税制度においては、納税主体は親法人であり納税義務者として納税を行う、一体申告方式が採用されています。
連結親法人は、各連結事業年度終了の日の翌日から原則として2ヶ月以内に、連結所得の金額等を記載した連結確定申告書を連結親法人の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります(連結親法人がその連結確定申告書の提出期限の延長の特例について承認を受け、その提出期限を2月間延長することが認められている場合の提出期限は連結事業年度終了の日の翌日から4か月以内です)。
また、連結子法人には、連結親法人が納付すべき連結所得に対する法人税について連帯納付責任があります。
一方でグループ通算制度においては、納税主体は各通算法人(通算親法人及び通算子法人)にあり、各通算法人が個別に申告と納税を行う、個別申告方式が採用されています。
各通算法人は、事業年度(通算親法人の事業年度)終了の日の翌日から原則として2ヶ月以内に、確定申告書を提出する必要があります(確定申告書の提出期限の延長の特例について承認を受けると期限が2ヶ月される点は連結納税制度と同じです)。
通算親法人及び各通算子法人には、通算グループ内の他の法人の法人税について連帯納付責任があります。
法人税法に規定される中小法人(法人税法第66条第2項)および中小企業者等(租税特別措置法第42条の4第19項第7号、租税特別措置法施行令第27条の4第17項)に該当することで、法人税率や貸倒引当金、交際費等の損金不算入制度、欠損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付の不適用制度等の特例の適用を受けることが出来ます。
それぞれの特例において定められている中小法人等の定義は多少異なりますが、各事業年度終了の時において資本金の額または出資金の額が1億円以下である法人であることが全ての判定において満たすべき要件となっています。
連結納税制度においては、連結親法人の資本金の額により連結グループ内の全ての法人の判定を行います。そのため、連結親法人が中小法人等に該当すれば、連結グループ内の法人も中小法人等に該当することになり、中小法人等特例の適用を受けることができていました。
一方でグループ通算制度においては、通算グループ内のいずれかの法人が中小法人に該当しない場合には、通算グループ内の全ての法人が中小法人に該当しないことになります。このことから、たとえ通算親法人が中小企業者等に該当したとしても、通算子法人のうちに1社でもこれに該当しない法人があれば、通算グループ全体として中小法人等特例の適用を受けることができなくなります。
法人が確定申告書を提出した後に、計算誤りなど申告内容に誤りがあることに気付いた場合、申告内容を訂正することができます。
税額を少なく申告していた場合は修正申告、税額を多く申告していた場合は更正の請求を行います。
連結納税制度においては、グループ内の法人で修正や更正が生じた場合、連結グループ内の他の法人の所得金額及び法人税額の計算に反映がされます。
一方でグループ通算制度においては、グループ内の法人で修正や更正が生じた場合、原則として、損益通算に係る損金算入額又は益金算入額は期限内申告の金額に固定してその通算法人の所得の金額を計算するため、通算グループ内の他の法人の所得金額及び法人税額の計算に反映がされません。
損益通算の規定により通算対象欠損金額又は通算対象所得金額を損金算入又は益金算入する場合において、その損金算入額を計算する場合における通算法人の所得事業年度若しくは他の通算法人の基準日に終了する事業年度又はその益金算入額を計算する場合における通算法人の欠損事業年度若しくは他の通算法人の基準日に終了する事業年度の通算前所得金額又は通算前欠損金額が、その通算事業年度の期限内申告書に添付された書類に通算前所得金額又は通算前欠損金額として記載された金額と異なるときは、当初申告通算前所得金額を通算前所得金額と、当初申告通算前欠損金額を通算前欠損金額と、それぞれみなすこととされています。
電子申告とはe-Taxを用いて申告書を提出する方法です。平成30年度税制改正により、電子情報処理組織による申告の特例が創設され、一定の法人については電子申告が義務化されています。
連結納税制度においては、大法人については、法人税等の申告書の提出、その添付資料の提出につき電子申告が義務化されたことにより、連結親法人の資本金が1億円超であれば、連結法人税の申告について電子申告が必要となりますが、親法人の資本金が1億円以下である場合には、電子申告は任意です。
一方でグループ通算制度においては、通算法人は、事業年度開始の時における資本金の額又は出資金の額が1億円超であるか否かにかかわらず、電子申告により確定申告書を提出する必要があります。グループ通算制度においては、通算法人がそれぞれ法人税申告書を提出する必要があるため、通算子法人の中にはこれまで電子申告を行ったことがない法人もいる可能性もあると考えられます。
なお、通算親法人が、通算子法人の法人税の申告に関する事項の処理として、その通算親法人の代表者又は国税庁長官が定める者の電子署名を行い申告書記載事項又は添付書類記載事項を電子申告に併せて入力して送信し、又は提出する方法等により提供した場合には、その通算子法人はこれらの記載事項を電子申告により提供したものとみなされます。
寄附金とは、金銭、物品その他経済的利益の贈与または無償の供与をいいます(法人税法第37条第7項)。一般的に寄附金、拠出金、見舞金と呼ばれるもの、社会事業団体、政治団体に対する拠金や神社の祭礼等の寄贈金等が「寄附金」に該当します。
寄附金は、原則として損金に算入されますが、各事業年度において支出した寄附金の合計額のうち、その内国法人のその事業年度終了の時の資本金等の額又はその事業年度の所得の金額を基礎として計算した損金算入限度額を超える部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないこととされています。
連結納税制度においては、寄附金の損金不算入額の計算は、連結グループ全体で行うこととなります。
その損金不算入額を各連結法人に配分するため損金不算入額の個別帰属額を計算する必要があります。この損金不算入額の個別帰属額は、連結グループ全体の一般寄附金の損金不算入額を各連結法人が支出した寄附金の額に応じて按分計算することにより算出することとなります。
また、連結法人が各連結事業年度において、その連結法人との間に法人による完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額は、一般寄附金の額から除くこととされており、その連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととなります。
一方でグループ通算制度においては、通算グループの各法人において寄附金の損金不算入額を計算します。
法人が支払を受ける利子等、配当等、給付補てん金、賞金等について、所得税法、租税特別措置法または復興財源確保法の規定により源泉徴収される所得税および復興特別所得税の額は、法人税の額から控除することが出来ます。これを所得税額控除といいます(法人税法第68条)。
連結納税制度においては、その連結事業年度において配当等に課された所得税額は、連結納税グループ全体で判定をした元本所有期間に対応する額が連結法人税額から控除されます。
一方でグループ通算制度においては、各法人において計算を行い、法人税額から控除されます。
SRLYルールとは、米国連結納税制度のSeparate Return Limitation Yearルールの頭文字をとったものです。連結子法人の繰越欠損金のうち、連結加入前に生じた一定の欠損金についてその連結子法人の個別所得金額を上限に利用できるという制限です。
連結納税制度においては、連結子法人の連結納税グループ加入前の繰越欠損金にはSRLYルールが適用されますが、連結親法人の連結納税制度開始前の繰越欠損金は、SRLYルールが適用されません。
一方でグループ通算制度においては、通算親法人及び通算子法人の加入前の繰越欠損金にSRLYルールが適用されます。そのため、これからグループ通算制度の選択を行う場合は、通算親法人において生じていた繰越欠損金の額を通算子法人の課税所得と相殺できなくなるため、この点は連結納税制度よりも企業グループにとって不利な点です。
グループ通算制度において連結納税制度から変更されない主な点についてご紹介を致します。
加入時等のみなし事業年度以外において、原則として親法人と同様の事業年度がグループ全体の事業年度であることについては変更がありません。
投資簿価修正とは、グループ法人が有する株式を発行した一定のグループ内の子法人についてグループ制度の承認がその効力を失う場合に、その子法人の株式の帳簿価額をその子法人の簿価純資産価額に相当する金額に修正を行うとともに、自己の利益積立金額につきその修正により増減した帳簿価額に相当する金額の増加又は減少の調整を行うものです。
投資簿価修正については、その計算方法が連結納税制度とグループ通算制度において異なるものの、調整が必要であることについては変更がありません。
グループへの離脱に制限はありませんが、離脱した法人が再加入をすることは、5年間認められていないことについては変更がありません。
グループ通算制度と廃止される連結納税制度の違いについて、主なものをご紹介致しました。連結納税制度は廃止されグループ通算制度へと移行しますが、これらの違いにより、その移行が必ずしもグループ会社にとってメリットとなるとは限りません。
連結納税制度の適用を受けている法人は、原則として、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度から連結納税制度に代えてグループ通算制度の適用を受けることとなり、通算法人として申告を行うこととなります。
ただし、連結親法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までにグループ通算制度へ移行しない旨の届出書を税務署長に提出した場合には、その連結親法人及び当該前日においてその連結親法人との間に連結完全支配関係がある連結子法人について、通算制度を適用しない法人となることとされています。
これまで連結納税制度の適用を受けており、そのまま流れでグループ通算制度の適用を受けている企業グループも一定数いるかと思います。この記事をお読みいただいて、このままグループ通算制度の適用を受け続けるべきなのか、それとも「やむを得ない事情」ことを理由にグループ通算制度の取りやめを検討したほうがよいのかお悩みの方は、弊社までお気軽にご相談くださいませ。