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コラム

グループ法人税制における譲渡損益調整資産とは

グループ法人税制の一つに、譲渡損益調整資産の譲渡が行われたときの譲渡損益の繰り延べと戻し入れがあります。譲渡損益調整資産に該当する資産は簿価1,000万円以上の固定資産や有価証券等です。譲渡損益調整資産の譲渡を行うと譲渡法人側で税務調整が必要であるだけでなく、譲渡法人・譲受法人双方に一定の通知義務が生じます。

導入

この記事では、国内子会社を持つ企業の経理部で勤務している方に向けて、100%グループ間の取引に適用されるグループ法人税制のうち、100%グループの内国法人間で譲渡損益調整資産に該当する資産の譲渡が行われた場合の譲渡損益の繰り延べと戻し入れについて解説します。

親会社から子会社、あるいは子会社から別の子会社へ土地、建物、高額な機械装置などを譲渡する取引が頻繁にある企業グループの経理担当の方は、譲渡損益調整資産の譲渡に関する規定を知らないと、譲渡法人側で想定しなかった課税所得が生じることになったり、後の事務作業が面倒になったりすることもあるので、この記事を読んで譲渡損益調整資産の譲渡に関する規定のご理解を深めていただければと思います。

この記事の結論

「譲渡損益調整資産の譲渡が行われたときの譲渡損益の繰り延べと戻し入れ」の規定は、100%グループ間の取引で強制適用されるグループ法人税制の一つです。グループ法人税制は、グループ通算制度(旧連結納税制度)とは異なり選択適用(任意適用)の規定ではないため、100%グループ間で譲渡しようとしている資産が譲渡損益調整資産に該当するか、該当する場合はどのような手続きが必要かを事前に把握しておく必要があります。

グループ法人税制と譲渡損益調整資産

グループ法人税制とは

グループ法人税制は、平成22年度(2010年度)税制改正で導入された、原則として100%グループ内の内国法人間の取引に適用される税制です。グループ法人税制には、100%グループ内の法人間の寄附金の損金不算入(法人税法37条2項)、100%グループ内の法人間の受贈益の益金不算入(法人税法25条の2)、100%グループ内の法人からの受取配当等の益金不算入(法人税法23条)のほか、この記事のテーマである100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰り延べ(法人税法61条の13)などの税制が含まれます。

「100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰り延べ」について、平成22年度税制改正前後における税務上の取り扱いの違いは下図のとおりです。

グループ法人税制とは

なお、グループ法人税制は任意適用(選択適用)ではなく強制適用の税制であるため、グループ法人税制を知らずに100%グループ内の法人間取引を行うと想定していなかった課税関係が生じてしまう恐れがあるため注意が必要です。

100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰り延べ

この規定は、内国法人(国内に本店または主たる事務所を有する法人)が、譲渡損益調整資産を当該内国法人との間に完全支配関係(原則として100%グループ内の関係)がある他の内国法人に譲渡した場合、その譲渡利益相当額を当該内国法人(譲渡法人)の損金の額に、譲渡損失相当額を当該内国法人(譲渡法人)の益金の額に算入するという規定です。この規定があることで、当該取引における譲渡法人の課税所得はいずれの場合もプラスマイナスゼロになりますが、この規定は譲渡損益の繰り延べ規定であるため、一定の事由が発生した場合は繰り延べられた税務上の損益が計上されることとなります。

譲渡損益調整資産とは

「譲渡損益調整資産」とは、固定資産、土地、有価証券(譲渡法人または譲受法人において売買目的有価証券とされる有価証券は除きます)、金銭債権、繰延資産のうち、その譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上である資産をいいます(法人税法61条の11第1項、法人税法施行令122条の12第1項)。棚卸資産に該当する資産は、たとえ帳簿価額が1,000万円以上であっても譲渡損益調整資産には該当しません。

譲渡損益調整資産の判定の単位は次のとおりです(法人税法施行規則27条の13の2)。

資産の種類
細目 判定の単位
金銭債権
一の債務者ごと
減価償却資産
建物(マンション以外)
一棟ごと
建物(マンション)
住戸ごと
機械装置
一の生産設備、一台もしくは一基ごと
(通常、一組または一式で取引される場
合は、一組または一式ごと)
その他の減価償却資産
建物または機械装置の単位ごと
土地等

一筆ごと
有価証券

一銘柄ごと
その他の資産

通常の取引の単位ごと

譲渡損益調整資産の譲渡があったときの影響

譲渡法人側

譲渡損益調整資産に該当する資産を完全支配関係のある他の内国法人に譲渡した場合、その譲渡において譲渡利益が生じた場合は譲渡利益相当額を損金の額に、譲渡損失が生じた場合は譲渡損失相当額を益金の額に、それぞれ算入します。

たとえば、譲渡法人における譲渡直前の帳簿価額が2,000万円の土地を、譲渡法人の100%子会社である譲受法人に1,500万円で譲渡したとします。この場合、譲渡法人側で500万円の譲渡損失が発生しますが、「100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰り延べ」の規定によって譲渡法人側で500万円が益金の額に算入され、500万円の損金(譲渡損失)と500万円の益金が相殺されることによって当該取引における譲渡法人の課税所得はゼロになります(1,500万円が適正な譲渡対価(時価)であることを前提としています)。

この規定は税務上の取り扱いであるため、会計上は通常どおり譲渡損益を計上します。そのため、譲渡損益調整資産を譲渡して譲渡損益が税務上繰り延べられた場合は、法人税の別表調整が必要です。

また、譲渡した資産が譲渡損益調整資産である場合には、譲渡法人は譲受法人に対して「譲渡資産が譲渡損益調整資産に該当すること」を通知する必要があります。その際、当該譲渡損益調整資産が減価償却資産または繰延資産に該当する場合において、譲渡法人が繰り延べた損益の計上において簡便法(詳しくは次の章で説明します)の適用を受けるときは、その旨もあわせて譲受法人へ通知する必要があります。なお、譲渡法人に対してこれらの通知義務が課せられているのは、譲受法人が自身に課せられている譲渡法人への通知義務を履行することができるようにするためです。

なお、簡便法の適用を受けると、「当該譲渡損益調整資産の各事業年度の償却費の額を毎年譲受法人に確認しなくて済むようになる」というメリットがあります。譲渡損益調整資産の譲渡の日の属する事業年度の確定申告書にその明細を記載しないと簡便法の適用を受けられなくなる点にご注意ください(法人税法施行令122条の12第8項)。

譲受法人側

適正な譲渡対価で取引が行われた場合、譲受法人側は通常の減価償却資産と同じ方法で譲渡損益調整資産の取得価額を計算するため、譲渡法人のように損益上の影響はありませんが、譲渡法人に対して下記の通知を行う義務が課せられている点には注意が必要です。

【「譲渡した資産が譲渡損益調整資産である」という通知を譲渡法人から受けたあと遅滞なく通知する】

  • 譲渡損益調整資産が譲受法人において売買目的有価証券である場合、その旨
  • 譲渡法人から簡便法の適用を受ける旨の通知を受けた場合、減価償却資産について適用する耐用年数または繰延資産における支出の効果の及ぶ期間

【繰り延べた譲渡損益が戻し入れされるべき一定の事由が生じた場合、事業年度終了後に遅滞なく通知する】

  • 繰り延べた譲渡損益が戻し入れされるべき一定の事由が生じた旨とその事由が生じた日
  • 繰り延べた譲渡損益が戻し入れされるべき一定の事由が減価償却資産または繰延資産の原則法の適用による場合は、償却費の額

繰り延べられた損益の戻し入れ

戻し入れが生じる事由

譲渡法人側で繰り延べられた損益は、主に譲渡法人と譲受法人との間の完全支配関係の消滅または譲受法人側で一定の事由が生じたことにより、戻し入れが生じます。

「譲受法人側で一定の事由が生じたこと」にいう主な事由は次のとおりです。

  • 譲受法人が譲渡損益調整資産を譲渡または除却したこと、あるいは金銭債権に該当する譲渡損益調整資産が貸し倒れたこと
  • 適格分割型分割によって分割承継法人へ譲渡損益調整資産が移転されたこと(譲受法人と分割承継法人との間に完全支配関係がある場合は除く)
  • 譲渡損益調整資産について譲受法人が一定の評価替えをしたこと
  • 減価償却資産または繰延資産に該当する譲渡損益調整資産の償却費の額が譲受法人側で損金算入されたこと

損益の戻し入れが生じた場合の影響

  • 損益の戻し入れが生じた場合は、譲渡法人側で繰り延べられた損益の全部または一部が計上されます。

「譲渡損益調整資産の譲渡があったときの影響」の章で、譲渡法人における譲渡直前の帳簿価額が2,000万円の土地を譲渡法人の100%子会社である譲受法人に1,500万円で譲渡した場合、譲渡法人側において譲渡の日の属する事業年度で500万円を益金の額に算入する旨を説明しましたが、その後の事業年度でたとえば当該土地を譲受法人が他社に譲渡した場合、譲渡法人側においてはその譲渡の日の属する事業年度において500万円を損金の額に算入します。

譲渡損益調整資産の譲渡があったときの譲渡法人側の調整と同じく、この規定も税務上の取り扱いであるため法人税の別表調整が必要です。

まとめ

以上、譲渡損益調整資産の譲渡が行われたときの譲渡損益の繰り延べと戻し入れについて解説しました。この論点は、グループ間での固定資産や有価証券の取引が少ない場合は特に見落としがちな論点で、確定申告書の作成段階において譲渡法人もしくは譲受法人の顧問税理士に指摘されて初めて気がつく、というケースもみられます。

「100%グループの国内子会社や親会社に高額な資産を譲渡する場合は注意が必要」ということを覚えておいていただけると、譲渡のタイミングで事前の検討を行うこともできるので、頭の片隅に入れておくとよいでしょう。