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コラム

グループ通算制度とは?連結納税制度との違いやメリットデメリットを解説

導入

この記事は、完全支配関係にある企業グループが選択できる制度である「グループ通算制度」について、グループ通算制度の前身である連結納税制度との違いと、グループ通算制度を選択するメリットデメリットに焦点をあてて詳しく解説します。

この記事の結論

グループ通算制度は2022年度に開始した制度です。グループ通算制度が連結納税制度と違う点は、修正申告や税務調査による更正処分があったときの対応、繰越欠損金の持ち込み制限、申告納税の単位、一部の損金不算入額の計算方法です。

グループ通算制度の適用を受けるメリットには損益通算が可能、繰越欠損金の早期解消、税額控除の計算単位が通算グループ全体になるという点がありますが、一方で、中小企業向けの特例措置が受けられなくなる可能性がある、通算グループの各法人(特に通算親法人)の事務負担が重くなるというデメリットもあるため、適用を受けるか否かは慎重に検討するとよいでしょう。

グループ通算制度とは

グループ通算制度の歴史

グループ通算制度は、従来の連結納税制度を改組して導入された制度です。連結納税制度は、2002年(平成14年)の法改正で導入され、2003年(平成15年)3 月31日以後に終了する事業年度から選択できるようになっていました。

連結納税制度は導入から約20年間、いくつかの大きな改正を経ながら制度として存続していましたが、2020年度(令和2年度)税制改正において新たにグループ通算制度が創設されたことにより、2022年(令和4年)4月1日以後に開始する事業年度からは連結納税制度に代わってグループ通算制度が開始されています。

連結納税制度がグループ通算制度に改組された主な理由として、次の2点があげられます。

  • 連結納税グループの1社に修正申告や税務調査による更正処分があった場合、連動して他のグループメンバーの所得金額や税額が変動しうることから、グループメンバー各社及び税務官庁側の事務負担が重くなっていたこと
  • 連結納税開始時や連結納税グループに加入する時の時価評価課税と繰越欠損金の持ち込み制限の規定が、組織再編税制と整合が取れていなかったこと

グループ通算制度の概要

グループ通算制度の概要について、国税庁は次のように説明しています。

完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度です。併せて、後発的に修更正事由が生じた場合には、原則として他の法人の税額計算に反映させない(遮断する)仕組みとされており、また、グループ通算制度の開始・加入時の時価評価課税及び欠損金の持込み等について組織再編税制と整合性の取れた制度とされています

出典:国税庁 グループ通算制度の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei2020/pdf/01.pdf

グループ通算制度の概要として、グループ通算制度の対象となる法人と適用の方法を紹介します。

まず、グループ通算制度の対象となる法人は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人のうち、100%の資本関係が国内のみで完結する法人です。「完全支配関係」とは、1社が直接または間接に他社の資本を100%握っていることを意味します。たとえば、通算親法人の100%子会社であるアメリカ法人の100%日本子会社(通算親法人から見ると孫会社)は、完全支配関係には該当しますが、資本関係の間に国外の法人(アメリカ法人)が入っているため、当該孫会社はグループ通算制度の対象法人には該当しません。

次に、グループ通算制度の適用を受けるための方法について、グループ通算制度は強制適用の制度ではないことから、適用を受けるためには事前の申請が必要です(グループ通算制度開始前に連結納税の承認を受けていた場合は、申請がなくても、グループ通算制度に係る承認があったものとみなされます)。申請は、グループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始日の3か月前までに申請書を提出することにより行います。申請が却下されなければ、その申請書に記載した事業年度からグループ通算制度の適用を受けることとなります。

連結納税制度との違い

グループ通算制度と連結納税制度の主な違いとして、申告納税の単位、修更正の遮断、損金不算入額の計算方法、繰越欠損金の引継ぎがあります。具体的な相違点は下表のとおりです。


連結納税制度グループ通算制度
申告納税の単位申告納税の単位は連結グループ全体で、連結親法人が法人税の申告と納付の義務を負う申告納税の単位は各社であり、各社が個別に法人税額の計算および申告を行う
修更正の遮断修更正(修正申告・更正処分)などによって連結所得金額が変動した場合、連結納税グループで全体計算をやり直して各法人の所得金額や個別帰属額を改めて算出し、それに基づいた申告等を行う修更正の結果を他の通算グループ法人の税額計算に反映させないという仕組み(遮断措置)が取り入れられた
損金不算入額の計算方法寄附金の損金不算入額を連結納税グループ全体で計算する通算グループ全体ではなく、個社ごとに計算する
繰越欠損金の引継ぎ連結納税制度開始前に連結親法人が有していた繰越欠損金は切り捨てられない。
また、連結親法人の連結納税制度開始前の非特定連結欠損金は連結子法人の所得と通算できる
グループ通算制度開始前に通算親法人が有していた繰越欠損金は、組織再編税制と同様の利用制限がかかる。また、通算親法人のグループ通算制度開始前の特定欠損金は自己の所得としか通算できない

グループ通算制度のメリットとデメリット

メリット

グループ通算制度の適用を受けるメリットとしては次の3点があげられます。

  • 損益通算ができる
  • 繰越欠損金を早期に解消できる可能性がある
  • 研究開発税制及び外国税額控除の計算単位が通算グループ全体になる

1点目について、グループ通算制度においては通算グループ間で損益通算、つまりプラスの課税所得とマイナスの課税所得を打ち消しあうことが可能です。グループ通算制度においては、欠損法人(課税所得がマイナスの法人)の欠損金額の合計額のうち、課税所得の出ている法人(課税所得がプラスである法人)の所得金額の比で配分された金額が当該課税所得の出ている法人の損金の額に算入され、同額を欠損法人の欠損金額の比で配分された金額が当該欠損法人の益金の額に算入されることで、疑似的な損益通算を可能としています。

2点目について、グループ通算制度適用開始後に通算グループで生じた欠損金(非特定欠損金)は、通算グループ内で控除することができます。グループ通算制度の適用を受けない場合は自社の所得の全部または一部しか繰越欠損金を控除することができないため、グループ通算制度の方が早期に繰越欠損金を解消できる可能性があります。

3点目について、この点は連結納税制度でも同じですが、研究開発税制及び外国税額控除の計算単位が通算グループ全体になる点もグループ通算制度のメリットです。グループ通算制度の適用を受けない場合は自社の所得が欠損だとこれらの税制メリットを享受することができませんでしたが、グループ通算制度の場合は、たとえ自社の所得が欠損であっても通算グループ全体で所得が出ている場合は、通算グループ全体として研究開発税制及び外国税額控除のメリットを受けることができるようになります。

デメリット

グループ通算制度の適用を受けるデメリットとしては次の2点があげられます。

  • 原則として中小企業特例を使うことができなくなる
  • 申告や決算(税効果会計)での事務負担が増える(特に親会社の事務負担が重くなる)

1点目について、税法では、「中小法人」と「中小企業者」に該当する法人に適用される特例措置が用意されています。中小法人の特例措置の代表例は法人税の軽減税率の適用、中小企業者の特例措置の代表例は各種投資促進措置です。グループ通算制度においては、通算グループのうち1社でも中小法人または中小企業者に該当しない法人がいれば、通算グループの各法人が中小法人・中小企業者に該当しないこととなってしまいます。資本金基準などに照らせば中小法人・中小企業者となれるはずだった法人であっても、グループ通算制度の適用を受けたことで、本来受けられるはずだった中小法人・中小企業者向けの特例措置を受けることができなくなる点はデメリットの一つです。

2点目について、法人税の申告や決算(税効果会計)での事務負担は、グループ通算制度の適用を受けることによってかなり重くなります。特に通算親法人の事務負担は非常に重くなり、適用を受けていなかった頃と同じ人数で業務を回すことは不可能なほどです。グループ通算制度の適用準備だけ考えてみても、各種届出・申請を行う、グループ通算制度に対応した税務申告・税効果会計ソフトを導入して操作に習熟する、通算グループの各法人の経理担当者に制度概要と導入までのステップを説明する、円滑な導入ができるようにプロジェクトマネジメントを行う、といった対応が必要です。これらの事務負担を超えるメリットがあることがはっきりしない限り、グループ通算制度の適用は慎重に検討したほうがよいでしょう。

グループ通算制度を選択するかどうかの判断

上記で説明したとおり、グループ通算制度にはメリットとデメリットがあります。メリットがデメリットを上回るのであればグループ通算制度の承認申請をするのがよいでしょうし、そうでない場合はあえてグループ通算制度の適用を受ける必要はないでしょう。

グループ通算制度を選択したほうがよいケースの代表例は、通算グループ全体では課税所得が出ている一方で、通算親法人の単体所得が恒常的に欠損状態にあり、かつ多額の試験研究費を支出しているケースです。通算親法人が海外子会社を多く抱えているメーカーで、通算親会社が研究開発を行って子会社が製造と販売を行うという企業グループがこのケースの典型例だと言えるでしょう。単体納税だと切り捨てられてしまう試験研究費や期限切れを迎えてしまう繰越欠損金を、グループ通算制度の適用を受けることによって有効活用することができます。

一方、グループ通算制度によるメリット(損益通算、繰越欠損金の早期解消、一部の税額控除を通算グループ単位で計算できること)を享受できないケース、たとえば通算グループの各法人が恒常的に所得を計上している状況で、かつ通算親法人の試験研究費の支出額がそれほど多くない(あるいは単体申告の場合でも十分に税額控除を取れている)ときは、あえてグループ通算制度を選択する必要はないでしょう。グループ通算制度を選択しないことによって、グループ通算制度のデメリット(中小企業特例が使えなくなる、申告・決算で複雑な計算を行う必要がある)を回避することができます。

まとめ

以上、グループ通算制度について、連結納税制度との違いと、グループ通算制度を選択するメリットデメリットを中心に解説しました。

グループ通算制度を選択したほうが良いかどうかは企業グループの状況によって異なります。メリットとデメリットを天秤にかけて、顧問税理士に相談の上で、慎重にご検討ください。