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コラム

非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例とは?

非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(法人版事業承継税制)は、先代経営者から株式の贈与を受けた後継者が一定の要件を満たすと贈与税の納税を猶予され、その後一定の事象が生じると贈与税が免除される特例です。特例の適用を受けるためには、後継者を3年以上役員に据えるなど事前の準備が必要です。

導入

この記事では、非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(法人版事業承継税制)について、特例の概要、適用要件、効果及び注意点について、特例措置と一般措置の違いにも触れながら解説します。

この記事の結論

個人が財産の贈与を受けた場合は原則として贈与税が課税され、贈与を受けた翌年3月15日までに贈与税を納税する必要があります。このことは事業承継を目的とした非上場株式の贈与であっても同じですが、それだと事業承継が円滑に進まないため、対象会社、先代経営者、後継者のそれぞれが一定の要件を満たす場合に限り、贈与税の納税の一部または全部が猶予される法人版事業承継税制が創設されました。

事業承継税制には特例措置と一般措置があり、適用要件と効果はそれぞれで異なります。特例措置の場合は事前に特例承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関の確認を受けた上で期限までに都道府県知事へ提出して確認を受けるという手間がかかる一方、特例措置のほうがより幅広い理由での納税免除を受けられるというメリットもあります。

非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例とは

非上場株式等の贈与を受けた場合の原則的な取り扱い

個人が財産を無償でもらった場合、つまり財産の贈与を受けた場合は贈与税が課税されるのが原則です。贈与税の金額は、贈与を受けた金額から110万円(基礎控除額)を引いた金額に税率を乗じて計算します。たとえば、1年間に310万円の現金の贈与を受けた場合は、310万円から110万円を引いた200万円に税率10%を乗じた20万円が贈与税の額となります。

個人が非上場株式等の贈与を受けた場合も、原則としてこれと同じ考え方で贈与税が課税されるため、贈与を受けた人は、原則として贈与を受けた非上場株式の評価額から110万円を引いた額に税率を乗じた額の贈与税を納める必要があります。

非上場株式等の評価額は、贈与を受けた人が当該非上場会社の経営支配力を持っている同族株主かそれ以外の株主かによって異なる方法で計算されます。同族株主の場合は原則的評価方式で、それ以外の株主の場合は配当還元方式で評価され、同族株主の場合はさらに当該非上場会社の総資産価額、従業員数および取引金額により大会社、中会社または小会社のいずれかに分類して次の方法により評価されます。

大会社:類似業種比準方式(原則)
中会社:大会社と小会社の評価方法を併用
小会社:純資産価額方式(原則)

なお、大会社の評価方法である「類似業種比準方式」とは、類似業種の株価をもとに、評価対象会社の一株当たりの配当金額、利益金額および純資産価額(簿価)の3つで比準して評価する方法です。また、小会社の評価方法である「純資産価額方式」とは、評価対象会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法をいいます。

場合によっては上記以外の特例的な評価方法を行うケースもありますので、詳細は国税庁タックスアンサーをご参照ください。

出典:国税庁タックスアンサーNo.4638 取引相場のない株式の評価
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm

非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例

上述のとおり、個人が非上場株式等の贈与を受けた場合は贈与税を課税され、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税額を国に納税するのが原則です。しかしながら、中小企業の事業承継の場面で、先代経営者から当該中小企業の株式を贈与された後継者がその時点で贈与税を納税できるだけの十分な資金を持っていることは稀であり、このことが日本において事業承継が円滑に進まない原因の一つとして挙げられていました。

これを受けて、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」という特例が設けられました。非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(以下、「非上場株式の贈与税の特例」といいます)は、一般的に「法人版事業承継税制」と呼ばれ、「特例措置」と「一般措置」が用意されています。

特例措置と一般措置の違い

特例措置と一般措置の主な違いは次のとおりです。

  • 特例措置は事前の計画策定と特例承継計画の提出が必要だが、一般措置は不要
  • 特例措置は適用期限が定められているが、一般措置には適用期限はない
  • 特例措置には「事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除」の規定があるが、一般措置にはない
  • 特例措置の税制対象株数は全株式が対象であるが、一般措置は全株式の3分の2が対象
  • 特例措置の後継者は最大3人だが、一般措置は1人のみ
  • 特例措置の雇用確保要件は一般措置に比べると弾力化されている

より詳しくは、国税庁パンフレット、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予免除(法人版事業承継税制)のあらまし」をご覧ください。

出典:国税庁パンフレット 法人版事業承継税制のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-133_01.pdf

以下、非上場株式の贈与税の特例について、特例の適用要件と効果を説明します。

非上場株式の贈与税の特例の適用要件

特例措置と一般措置に共通の適用要件

共通の適用要件は以下のとおりで、特例の適用を受けるためにはこれらすべての要件を満たす必要があります。

  1. 個人が贈与を受けた株式を発行する非上場会社(以下、「対象会社」といいます)が、上場企業などに該当しないことなど一定の要件を満たすこと(会社の要件)
  2. 対象会社の株式の贈与を受ける個人(以下、「後継者」といいます)が贈与の日において18歳以上であり、かつ会社の代表権を有していることなど(後継者の要件)
  3. 対象会社の株式の贈与を行う個人(以下、「先代経営者」といいます)がかつて会社の代表権を有しており、かつ贈与の時において代表権を有していないことなど(先代経営者の要件)
  4. 会社の要件、後継者の要件、先代経営者等の要件を満たしていることについての都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けること(円滑化法認定要件)
  5. 担保を提供すること(担保提供要件)
  6. 贈与税の申告期限(贈与を受けた年の翌年3月15日まで)に、非上場株式の贈与税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書及び一定の書類を税務署に提出すること(申告要件)

以下、上記6つの要件について簡単に解説します。

まず、会社の要件は以下の6点です。

  • 「中小企業者」に該当すること
  • 医療法人、社会福祉法人、士業法人(弁護士法人・税理士法人など)、外国会社のいずれにも該当しないこと
  • 風俗営業会社、資産管理会社のいずれにも該当しないこと(資産管理会社は例外あり)
  • 常時使用する従業員数が1名以上であること
  • 認定申請をする事業年度における損益計算書上の売上が1円以上あること
  • 会社法第108条第1項第8号に規定する種類の株式(いわゆる「黄金株」)を発行している会社の場合は、当該黄金株を後継者でない者が保有していないこと

「中小企業者」に該当するかどうかは、対象会社の業種分類に応じた資本金の額と従業員数に応じて判断されます。業種ごとの基準は次のとおりです。資本金の要件または従業員数の要件のいずれか片方でも満たせば、中小企業者に該当します。

業種 資本金 従業員数
製造業 原則 3億円以下 300人以下
ゴム製品製造業(タイヤ・チューブ・ベルト製造業除く)

3億円以下

900人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業 5千万円以下 50人以下
サービス業 原則 5千万円以下 100人以下
ソフトウェア業・情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5千万円以下 200人以下

たとえば、対象会社が旅館業を営む株式会社である場合、資本金の額が5,000万円以下であれば従業員が何人であっても中小企業者に該当しますし、従業員数が200名以下であれば資本金の額が何円であっても中小企業者に該当します。

対象会社が何業を営んでいるかの判断が難しい場合は、業種の判断の手順が中小企業庁ホームページで紹介されているのでご参考にしてください。

参考:中小企業庁ホームページ
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/manual_7.pdf

次に、後継者の要件は以下の4点です。

  • 贈与の日において18歳以上であること
  • 贈与の日において対象会社の代表者であること
  • 贈与の直前において3年以上継続して対象会社の役員であること
  • 贈与の日において後継者とその同族関係者で対象会社の総議決権数の過半数を保有しており、かつ贈与の日において同族関係者の中で最も多くの議決権を保有していること

これらのうち、「3年以上継続して対象会社の役員であること」という要件を満たすためには事前の準備が必要です。近い将来、事業承継税制の適用を受けようと考えている場合は、早めに後継者を対象会社の役員にするとよいでしょう。

次に、先代経営者の要件は次の3点です。

  • 一定の時期において、先代経営者とその親族が対象会社の総議決権数の過半数を保有していて、かつ後継者以外の親族の中で最も多くの議決権を有する者であったこと
  • 対象会社の代表権を有していたことがあり、かつ贈与時に代表者を退任していること
  • 一定数以上の対象会社の株式を贈与すること

次に、円滑化法認定要件は以下の点です。

  • 都道府県知事の円滑化法の認定を受けていること

国税庁のパンフレットによると、「「円滑化法の認定」を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の1月15日までにその申請を行う必要があります」と記載されていることから、円滑化法の認定を受けるための行動はできる限り余裕をもって行うことをおすすめします。

出典:国税庁パンフレット 法人版事業承継税制のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-133_01.pdf

次に、担保提供要件は以下の点です。

  • 納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供すること

税制の適用を受ける対象会社の株式のすべてを担保とする場合はこの要件をクリアしたものとみなされるため、特別な事情がない限りは、後継者が持っている不動産や有価証券などを担保に入れる必要はありません。

最後に、申告要件は以下の点です。

  • 後継者が対象会社の株式の贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに、後継者の住所地を所轄する税務署に贈与税の申告をする必要があること

「翌年の2月1日から3月15日」は所得税の確定申告と同じなので、毎年所得税の確定申告を行っている方が贈与税の申告を忘れる恐れは低いでしょうが、後継者が自ら確定申告をする必要のない方(例:会社員、公務員)である場合には注意が必要です。3月15日までに贈与税の申告書を提出することも税制の適用要件の一つですので、カレンダーにメモしておくなどして忘れないようにしましょう。

申告書に添付する書類については、国税庁が発行しているチェックシートでご確認ください。

出典:国税庁 法人版事業承継税制の適用に当たってのチェックシート(特例措置)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/zoyo/yoshiki2022/pdf/045.pdf

以上が特例措置と一般措置に共通の適用要件です。次に、特例措置に限った適用要件を説明します(一般措置の適用を受ける場合は、次の説明を読み飛ばしていただいて構いません)。

特例措置のみの適用要件

特例措置の適用を受けるためには、上記に加えて以下の要件を満たす必要があります。
特例承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関の所見を記載の上で期限までに都道府県知事へ提出して確認を受ける(特例承継計画要件)

特例承継計画は、定められた様式に後継者の⽒名、事業承継の予定時期、承継時までの経営上の課題と課題への対応策、承継後5年間の事業計画などを記入し、それに対して税理士や商工会議所などの「認定経営⾰新等⽀援機関」による指導と助言を受けた上で、定められた期日までに都道府県庁へ提出する必要があります。

認定革新等支援機関は、中小企業庁が用意しているシステムで検索することができます。

参考:中小企業庁 認定経営⾰新等⽀援機関検索システム
https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea

以上、非上場株式の贈与税の特例の適用要件を説明しました。続いて特例の効果を説明します。

非上場株式の贈与税の特例の効果

特例の適用を受けることで、贈与税の納税の全部または一部が猶予され、一定の事由(例:後継者の死亡)が発生した場合は納税が猶予されていた贈与税の納税が免除されます。

贈与税の納税が免除されるケースは特例措置と一般措置で異なり、特例措置の方がより幅広い理由で納税免除を受けることが可能です。

非上場株式の贈与税の特例の注意点

特例の適用を受けるにあたっての注意点は以下の3点です。

  • 認定を受けたあとも一定期間ごとに都道府県や税務署へ報告が必要であること
  • 一定期間は代表者の退任や株式譲渡が原則としてできないこと
  • 特例措置は適用期限が決まっていること

1点目について、贈与税の納税猶予を受けてから5年間は都道府県と税務署に毎年報告を行い、5年経過後は3年に一度税務署に届出を行う必要があります。これらの報告などを怠ると納税猶予が取り消される可能性もあるので、忘れずに報告するようにしましょう。

2点目について、贈与税の納税猶予を受けてから5年間は原則として代表者の退任や対象会社の株式を他に譲渡ができなくなる点にも注意が必要です。事業承継税制は円滑な事業承継を目的とした税制ですから、この目的から逸脱する行為が行われた場合は原則として納税猶予が取り消されます。

3点目について、特例措置は適用期限が決まっている点にも注意が必要です(一般措置は適用期限がありません)。特例措置は令和9年(2027年)12月31日までに行われた贈与に適用されますが、その前提となる特例承継計画は令和6年(2024年)3月31日までに提出する必要があるのでご注意ください。なお、これらの期限は、今後の税制改正によって変更される可能性もあります。

まとめ

以上、非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(法人版事業承継税制)について、特例の概要、適用要件、効果及び注意点を解説しました。特例の適用を受けるためには事前の準備が必要です。スムーズな事業承継を行うためにも、まずは税理士にご相談されてはいかがでしょうか。