非上場株式を相続すると原則として相続税が課税されます。非上場株式の相続税評価額の評価方法は、相続人が同族株主に該当するか否かと、当該企業の従業員数、総資産価額、取引金額によって判定した企業規模によって異なります。また、法人版事業承継税制の適用を受けることで非上場株式の相続税の納税が猶予されます。
この記事は、「親族が亡くなって非上場株式を相続することなったが、相続税が心配。どうやって計算するかを知りたい」という方や、「いつかは両親の経営する非上場企業の後継者になるつもりだが、相続税額を支払えるかわからない。事前に準備しておくべきことはあるのか」という疑問をお持ちの方に向けて、非上場株式を相続した場合の相続税について詳しく解説します。
非上場株式を相続すると、原則して相続税が課税されます。非上場株式の評価方法は、相続により非上場株式を取得する人が同族株主に該当するかと、当該非上場企業の従業員数、業種ごとの総資産価額・年間取引金額をベースに判定した会社の規模によって異なります。
また、非上場株式を相続した場合の相続税は原則として現金一括で納付する必要がありますが、「法人版事業承継税制」の適用を受けることにより、相続税の全部または一部の納付が猶予されます。
非上場株式や上場株式などの株式を相続により取得した場合は、相続税の課税対象となります。このことは相続だけでなく、遺贈(遺言による贈与)や死因贈与(贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与)に関しても同じです。
また、遺贈や死因贈与を除く贈与の場合は、原則として贈与税の課税対象となりますが、相続開始前3年以内の贈与(令和6年以降は相続開始前7年以降の贈与。ただし経過措置があります)については例外として贈与税ではなく相続税の課税対象となります。
相続税額は次の順序で計算します。
非上場株式の相続税評価額が基礎控除額を下回る場合、他の相続財産がなければ相続税を納付する必要はありません。一方、非上場株式の相続税評価額と他の財産の評価額の合計額が基礎控除額を上回る場合は、相続税額の計算を行ったうえで、原則として期限までに申告納付を行う必要があります。
では、この「非上場株式の相続税評価額」はどのように計算するのでしょうか。次の章で計算方法を解説します。
上場株式は取引相場があることからその評価は容易ですが、非上場株式は取引相場がないことから、その評価を行うにあたっては株式を取得する人や非上場企業の規模などを考慮する必要があります。
以下では、①相続等で非上場株式を取得した株主がその株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主ではない場合の評価方法、②当該株主が同族株主でかつ当該非上場企業が大会社である場合の評価方法、③当該株主が同族株主でかつ当該非上場企業が中会社である場合の評価方法、④当該株主が同族株主でかつ当該非上場企業が小会社である場合の評価方法、⑤①から④以外の場合の評価方法の順に解説します。
非上場株式を取得した株主が、同族株主(当該非上場企業の議決権総数の一定割合を自己及び自己の親族等が保有している株主)ではない場合は、「配当還元方式」と呼ばれる方式によって評価を行います(財産評価基本通達188)。配当還元方式では、直前の2期分の配当金の額と直前期の資本金の額を使って算出した1株当たりの配当金の額を10で割り、それに1株当たりの資本金等の額を50で割った金額を乗じて計算します。具体的な計算は、税理士に依頼するとよいでしょう。
非上場株式を取得した株主が同族株主に該当する場合は、評価対象会社を「大会社」「小会社」「中会社」に分類して評価を行います(財産評価基本通達178)。
評価対象会社の分類表は次のとおりです。まずは大会社に該当するか判定し、該当しなければ次に中会社に該当するかを判定します。また、総資産価額と年間取引金額の要件はいずれかを満たすだけでその会社分類に当てはめられます。
従業員数 | 総資産価額 | 年間取引金額 | |
---|---|---|---|
大会社 | 70人以上 | - | - |
70人未満 | 卸売業:20億円以上 その他:15億円以上 (いずれも従業員数が35人未満の場合は該当しない) |
卸売業:30億円以上 小売・サービス業:20億円以上 その他:15億円以上 |
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中会社 | 70人未満 | 卸売業:7,000万円以上 小売・サービス業:4,000万円以上 その他:5,000万円以上 (いずれも従業員数が5人未満の場合は該当しない) |
卸売業:2億円以上 小売:サービス業:6,000万円以上 その他:8,000万円以 |
小会社 | 70人未満 | 中会社に該当しない場合 |
大会社に該当する場合は、原則として「類似業種比準方式」と呼ばれる方式で評価を行います。類似業種比準方式とは、評価対象会社が営む事業と類似した業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額をベースに非上場株式の相続税評価額を計算する方式です(財産評価基本通達180)。
なお、大会社に該当する場合であっても、小会社の原則的な評価方法である「純資産価額方式」と呼ばれる方式で評価を行うことも可能です。純資産価額方式とは、当該非上場企業を解散した場合に残る価値に注目した評価方法で、非上場企業の資産と負債を原則として相続税評価額に洗い替えた上で、資産から負債を引いた金額に法人税率を乗じた金額を引いた残りを評価額とする方法です。
中会社に該当する場合は、大会社の原則的評価方法(類似業種比準方式)と小会社の原則的評価方法(純資産価額方式)の両方を取り入れた方法で評価することが原則です。具体的な算式は次のとおりで、Lは割合を意味します。
①類似業種比準価額 × L + ②1株当たりの純資産価額 ×(1-L)
Lの数字は、評価対象会社の総資産価額及び従業員数、または直前期末以前1年間における取引金額に応じて、0.9、0.75、0.6の三段階に分かれます。
なお、中会社に該当する場合であっても、納税者の選択によって純資産価額方式によって評価を行うことも可能です。
小会社に該当する場合は、原則として純資産価額方式によって評価を行いますが、納税者の選択によって中会社での評価方法を使うことも可能です(この場合、Lの値は0.5が適用されます)。
①から④は通常の会社の評価方法ですが、清算中の会社、類似業種比準方式における比準要素が1の会社、株式等や土地等の保有割合が一定割合以上の会社、開業前の会社、休業中の会社などについては、財産評価基本通達189に定める特別な方法により評価を行います。
以上、非上場株式の相続税評価額の計算方法を解説しました。この記事の最後に、非上場株式の相続税に関する特例である法人版事業承継税制について簡単に紹介します。
非上場株式を相続により取得した場合は、相続税の課税対象となり、相続した非上場株式の相続税評価額に応じた相続税額を原則として現金一括で納付する必要があります。
しかしながら、非上場企業の次代経営者が相続税額を一括で納付できるだけの現金を保有していることは稀であり、納税資金を用意するために相続した非上場株式の一部を売却したり、あるいはやむを得ず相続を放棄したりするケースも見られました。こうしたケースでは、日本経済と雇用を支える中小企業の円滑な事業承継が難しくなることから、非上場株式の相続税に関する特例として、「法人版事業承継税制」(非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等)が用意されています。この法人版事業承継税制の適用を受けることで、当該非上場株式にかかる相続税の納税の全部(特例措置)または一部(一般措置)が猶予されることとなるため、後継者の手元に現金がなかったとしても円滑に事業承継を行うことが可能です。
法人版事業承継税制には、「特例措置」と「一般措置」が用意されています。特例措置の適用を受けるためには、非上場企業の後継者の氏名や承継時までの経営見通しといった事項を記載した「特例承継計画」を策定し、特例承継計画に税理士や商工会議所といった「認定経営革新等支援機関」の所見を記入してもらった上で、都道府県知事に提出してその確認を受ける必要があります。
また、特例措置と一般措置に共通の適用要件として、対象会社の要件、後継者の要件、先代経営者の要件、各種手続きをすることの要件があります。これらの要件について詳しく知りたい方は、税理士にご相談いただくか、法人版事業承継税制について説明している国税庁パンフレットをご覧ください。
参考:国税庁パンフレット 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-133_01.pdf
以上、非上場株式を相続した場合の相続税について、非上場株式を相続・遺贈・死因贈与によって取得した場合は相続税が課税されること、相続税の計算方法、非上場株式の相続税評価額の計算方法を解説した上で、一定の要件を満たすと非上場株式にかかる相続税の納税が猶予される特例である法人版事業承継税制について簡単に紹介しました。
非上場株式の相続税評価額の計算方法は上場株式よりも複雑なので、確実な計算を行うためにも税理士に依頼することをおすすめします。あわせて、将来親族が経営する非上場企業の株式を相続により取得する可能性がある方は、早い段階で法人版事業承継税制(特に特例措置)の適用を受けるための準備を開始するとよいでしょう。