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コラム

ベンチャーのシード期における資本政策の重要性

ベンチャー企業にとって、シード期は準備段階といえ、赤字及び資金不足になる可能性の高い時期です。しかしながら、この時期を乗り越えないと、その後の発展は見込めません。そこで重要となるのが、シード期の資金調達を解決するための、資本政策です。

それでは、ベンチャー企業にはどのような資本政策が必要となり、VCを利用する際にはどのようなことに注意をすれば良いのでしょうか。詳しく紹介します。

ベンチャー企業の成長フェーズ

ベンチャー企業には、フェーズという企業の成長段階を表すものがあります。どのような成長フェーズがあるのか、また資金調達を解決するための資本政策は、なぜシード期に必要となるのかについて確認しましょう。

シード期

シード期とは、起業前の事業を立ち上げる準備をしている段階や、起業後であっても本格的な事業が開始される以前の、準備段階にいる時期をさします。

事業化させるための仕組みづくりや商品開発等に費用がかかる一方で、本格的な事業が開始される以前であることから、収益が発生しにくい状況にあります。

しかしながら、仕組みづくりや商品開発のための資金を得ないことには、事業の躍進は望めません。ここで必要となるのが、外部からの資金調達です。

資金調達には様々な方法がありますが、シード期は準備段階であることから実績や信用性に乏しく、資金を調達するためには、十分な準備が必要であるといえます。その準備に必要となるのが、資本政策です。

アーリー期

アーリー期とは、本格的な事業が開始されたものの、まだそれが認知されずに事業が軌道にのっていない、事業としては厳しい成長段階にいる時期をさします。

この時期においても、事業が認知され軌道にのせるための、マーケティングや設備投資等に費用がかかる一方で、それを超える程の収益の発生が見込みにくい状況にあります。

アーリー期はシード期よりも資金調達の選択肢が増えるものの、この時期に資金不足で倒産をするベンチャー企業は多く、厳しいながらもどう事業を持続、拡大していくかという、ベンチャー企業にとって正念場にあるといえます。

ミドル期

ミドル期とは、事業が認知され、軌道にのりはじめた、ベンチャー企業の成長期にいる時期をさします。

これまでの時期よりも事業が認知され、収益の発生を見込むことができるものの、ベンチャー企業が成長拡大をしていくための従業員の確保や更なる設備投資等に費用が必要となります。

しかしながら、事業が認知され収益の発生を見込むことができることから、更に資金調達の選択肢や資金調達可能額が増加する場合が多く、ベンチャー企業の体制が整ってくる時期であるといえます。

レイター期

レイター期とは、すでに事業が認知され、拡大的な軌道にのっており、ベンチャー企業の最終目標である株式上場や事業売却を実行に移していく時期をさします。

これまでの時期で成長させた事業を安定的に拡大させていくための新たな事業計画等に費用がかかるものの、十分な収益が発生していることから、黒字を維持することができることや、また資金が不足する場合においても、より多くの資金調達の選択肢や資金調達可能額を得られる時期です。

また安定的に拡大させるのみならず、株式上場や事業売却によって、株主が投下資金を回収して利益を図る出口戦略に繋がっていく時期です。

シード期の資金調達

シード期では、収益が発生しにくい状況にあることから、資金調達が大きな課題となります。自己資金が潤沢にある場合を除き、外部から資金を集める必要があります。この集める方法は、実績の乏しいシード期では、選択肢が限られますが、融資と出資のいずれかを受ける方法があります。

融資

融資とは、返済義務を負う資金を金融機関から借り入れることをいいます。具体的には、下記のような金融機関等の融資を受けることができます。

信用保証協会の創業関連保証

創業予定者や創業後5年未満の者等を対象に、無担保で3,500万円まで借り入れることができます。創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せすることで、経営者が会社の連帯保証人となる必要がない保証制度である、スタートアップ創出促進保証制度もあります。

日本政策金融公庫の新創業融資制度

創業予定者や創業後2年未満の者等を対象に、無担保無証人で3,000万円まで借り入れることができます。

この他に、女性若者シニア起業家支援資金という、女性または35歳未満か55歳以上の方であって、創業予定者や創業後おおむね7年以内の者を対象とした制度もあります。

出資

出資とは、返済義務を負わない資金を利害関係者から受けることをいいます。具体的には、下記のような利害関係者等の融資を受けることができます。

エンジェル投資家

エンジェル投資家とは、創業間もないベンチャー企業に投資を行う個人投資家のことをいいます。エンジェル投資家の目的は、ベンチャー企業の株式を取得することで、ベンチャー企業の成長後の配当や株式売却益を得ることです。

VC

VCとは、ベンチャーキャピタルの略語であり、ベンチャー企業を専門とする投資ファンドのことをいいます。エンジェル投資家と目的は同じですが、投資ファンドであるため、エンジェル投資家と比較をすると多額の資金調達をしやすい利害関係者であるといえます。

シード期の資本政策の注意点

シード期に多額の資金調達を行い、事業を発展させていくためには、VCの利用が効果的です。

VCを利用するメリット

VCを利用することで得られるメリットは、投資ファンドという銀行や証券会社等の金融機関を親会社に持つ投資会社だからこそ可能となる、多額の資金調達だけではありません。

VCは、投資ファンドとして様々なベンチャー企業に投資を行っており、また投資の成功のためには、ベンチャー企業の成長は欠かせません。様々なベンチャー企業との経験をもとに、成長のためのノウハウや人脈を保有しています。そのアドバイスや人脈を得ることができることが、VCを利用するメリットとして挙げられます。

一方で、VCから多額の資金調達を受けるためには、出資の審査を通過する必要があり、またベンチャー企業の成長後の配当や株式売却益を強く求められます。

この審査を通過するために、十分な資本政策を策定する必要があります。

VCを利用する際の、資本政策における注意点

資本政策とは、どの株主にどれだけの株式を付与するかという株式を用いた政策であり、資金調達のみならず、株式の整理による議決権比率の調整や事業承継等を目的としています。

VCを利用する際には、VCに株式を付与することと引き換えに資金を得る資金調達のための資本政策を策定することになります。この資本政策の策定においては、下記のような事項に注意が必要です。

VCの審査を通過する資本政策を策定する

実績のないベンチャー企業が出資を受けるためには、成長性を感じさせる事業計画に基づく資本政策が必要です。

事業の特徴や成長戦略、企業価値の増大の道筋等に関する説明を、VCが投資判断に必要な情報として提供しなくてはなりません。

株式を付与し過ぎない

VCに株式を付与し資金調達をするということは、VCに議決権を付与することと同意となります。企業の合併、解散、新株発行、定款の変更等の株主総会決議事項について2/3以上の同意が必要である場合に、VC等の第三者の同意が必要となる場合には、ベンチャー企業創業者の経営の自由度と安定性が低下し、素早い経営判断ができなくなる可能性があります。

また多くのVCは、株式公開前後にベンチャー企業の株式を売却する投資戦略をとるため、一般的に株式公開後の安定株主ではありません。長期的に株式を保有する安定株主は、敵対的買収を防ぐことや、株価の安定化を図るためには必要な存在です。

一方で、VCが売却をしない投資戦略をとると、上場後に十分な流動性を確保できなくなる場合もあります。

いずれの場合であっても、VCに株式を付与しすぎると、VCの投資戦略により受ける影響が大きくなるとえいます。

バリュエーションを高くし過ぎない

バリュエーションとは、企業価値評価のことです。この企業価値はベンチャー企業の資金需要と、VC供給意欲の需要バランスによる価値算出と、DCF法やマルチプル法等、理論的な手法に基づく価値算出によって定められます。

高い程その事業が評価や期待を受けているということであるため、高いことは喜ばしいことです。また、資金調達のために発行する株式の株価は、このバリュエーションを基礎として計算を行うため、バリュエーションが高い程、多額の資金調達を可能にし易くします。

しかしながら、事業が拡大しベンチャー企業のバリュエーションが上昇する場合には、創業時に一時に資金を調達するよりも、バリュエーションが上がるたびに資金調達していったほうが、ベンチャー企業創業者の議決権率維持においては有利となります。

また、創業時以降に他のVCから資金調達を行おうとした場合においても、バリュエーションが上昇すると、株価も上昇し、同じ額を出資しても得られる株数及び議決権が減少し、他のVCの出資意欲を減退させる可能性、つまり2回目以降の資金調達が困難になる可能性があります。

よって、バリュエーションの適切な評価に基づく株価で、ベンチャー企業は資金調達を実行することが必要です。

まとめ

ベンチャー企業にとって、シード期における資金調達は大きな課題です。この資金調達を成功させるために必要なものが、資本政策の策定です。

資金調達を融資によって行う場合にも審査はありますが、融資金額を返済出来れば問題ありません。

一方で出資によって行う場合には、返済義務は無いものの、出資額以上のリターンが期待されないと出資を受けることが出来ないため、出資対象と判断されるための資本政策の策定が、非常に大切であるといえます。

特に、VCを利用する際には、VCのノウハウやアドバイスを参考にして、成長性を感じさせる資金政策を策定するとともに、ベンチャー企業創業者の意思も残す、双方が不利益を被らない資本政策の策定が必要です。