2017年度は、不正会計や粉飾決算などのいわゆる「不適切会計」を開示した上場企業数が過去最高を記録しました。
適正な会計処理は、ディスクロージャーのみならず、日々の業務はもちろんのこと経営方針策定や計画的に会社運営を進める上でも必要不可欠なものです。
不適切会計が発覚した場合、会社には事後対応のコストのみならず、株価の下落やさまざまな悪影響が生じることになります。
近年において不適切会計が増えている背景には何があるのでしょうか。
大企業だけでなく、中小企業や個人事業主にも関わる不適切会計の定義や増加の背景、その防止方法をみていきましょう。
近年、開示資料の信頼性確保や企業のガバナンス強化の取り組みを求める声が浸透し、不適切会計の開示企業数が増加し続けています。
その背景として、上層部からの数値目標達成のプレッシャー、承認事務の機能不全といった着服や不正を行いやすい脆弱なガバナンス、監査基準の厳格化、経済のグローバル化、トップ主導の風通しの悪い体制などが挙げられています。
また、東京商工リサーチが2018年1月に公開した2017年全上場企業『不適切な会計・経理の開示企業』調査によると、不適切会計の発生当事者別では、親会社が23社だったのに対し、子会社・関係会社は30社となり、複雑な決算処理に対応できない混乱や、業績目標などのプレッシャーから不適切会計に手を染めるケースも多いようです。
『不適切会計』という言葉が注目を集めるきっかけになったのは、2015年に明らかになった某上場メーカーの会計処理問題です。
不適切会計に似た言葉として、『不正会計』や『粉飾決算』がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
これについて、日本公認会計士協会は、不適切会計を「意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤り」と定義しています。
ポイントは、「意図的であるか否かにかかわらず」という点。
他人を欺くような意図的な不正行為も、意図しないヒューマンエラーやミスも、正しい会計処理ではないという意味で不適切会計に含まれる、というのが日本公認会計士協会の見解という点です。
すなわち、意図的な不正会計や粉飾決算は不適切会計の一部に過ぎないということになります。
恣意性の有無を問わない不適切会計の発生は、今後も高止まりもしくは増加していくと予想されています。
例えば今後、経理・財務部門の人手不足が深刻化していくと、高度な会計処理が要求される会社では、意図しないヒューマンエラーなどによる不適切会計が増加してしまう可能性が考えられます。
どの会社においても“対岸の火事”とは考えず、あらかじめ防止策を講じておくことが必要でしょう。
また、意図的な不適切会計発生の防止策として、内部統制の強化が重要です。
内部統制は「業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセス」とされ、職務分掌や業務の効率化によって確立されていきます。
ただ、内部統制を確立するだけでは、不適切な会計処理の完全な防止にはつながりません。
従業員同士が共謀した場合や経営者主導の場合などは、内部統制が発揮されにくくなるためです。
このような原因による不適切会計を防ぐためには、トップ主導体制や決済権を1人に集中させず、承認事項には複数の人を介入させるなどして、社内間で取引業務相互を定期的に照合できる環境を整えておきましょう。
また、不適切会計が発覚するきっかけが会社内部、すなわち内部通報者によって明らかになった場合にも、解雇などの不利益な扱いにならないように保護する対策が必要です。
ちなみに、不適切会計が発覚した場合、上場企業であれば、上場廃止や特設注意市場銘柄への移管などの措置がとられます。
刑事責任としては、違反者個人には懲役や罰金、会社には億単位の罰金が科せられる場合があります。
株主からは代表訴訟を提起され、役員等が損害賠償を請求されることもあります。
従業員一人ひとりの意識改革や、内部通報システムの確立などは、抑止力として大いに機能するといわれています。
不適切な会計処理が会社に与えるダメージや個人責任を問われる可能性などの認識を社員1人1人に持ってもらうためにも、定期的に研修などを行うのもいいでしょう。
不適切会計は、会社の存亡に関わる大きな問題に発展しかねないリスクの一つです。
不正を看過しない体制や従業員一人ひとりのプロ意識を醸成することで、最悪の状態になる前にリスクを回避できるはずです。