企業が経営を続けていくには、定期的に資金調達をする必要があります。資金調達は設備の更新や運転資金の補充などに役立ちますが、他方では返済負担により資金繰りが厳しくなる、経営権に影響することがあるなどといったマイナス面もあります。また、経営の内容に問題がある場合には、資金調達そのものができなくなります。
この記事では、資金調達によるデメリットの他、資金調達ができなくなる原因やデリットを抑える方法について解説いたします。
資金調達にはさまざまな種類があり、利用できる額や難易度も異なりますが、それぞれの手法について次のようなデメリットがあります。
銀行融資は、気軽に利用でき、比較的低い金利で資金を調達できるという特徴があるため、ほとんどの企業で利用されている資金調達の方法です。
銀行が行う融資の方法には、借主の信用にもとづき銀行がリスクを負って貸し出しをする「プロパー融資」と、信用保証協会などの保証機関を利用した「保証付融資(制度融資を含む)」の2種類があります。
このうちプロパー融資は、日本政策金融公庫や制度融資などの公的機関の融資よりも審査が厳しく、貸出先の企業には相応の実績や信用力が求められます。そのため、創業者や信用力の低い中小企業では、担保の差し入れをしたり、有力な保証がないと利用することができません。
また、手形取引をしている場合には2回の不渡りを出すと取引停止となってしまい、通常の融資では一定の回数以上返済ができないと強制執行(通常融資の場合)、代位弁済(保証付き融資の場合)となってしまいます。
「信用金庫・信用組合」は、一定の地域内における中小企業を対象とした融資を行っている、信用金庫法・協同組合により設立された地域金融機関です。
これらには、「一定の地域内でしか営業ができない」、「創業融資や中小企業という小規模な顧客を対象としている」という特徴があります。
信用金庫や信用組合でも基本的には銀行と同じ業務を行っていますが、銀行よりは借りやすい反面、「一定のエリアの企業に対してしか融資できない」、「融資を受けるには出資をして組合員になる必要がある」、「都銀や地銀よりも金利が高めとなる」、「大きな金額への対応が難しい」といったデメリットがあります。
日本政策金融公庫は、政策にもとづき、民間金融機関が対応しにくい創業者や中小企業への融資を積極的に行っている金融機関です。そのため、「低金利・長期の借入れが可能」、「無担保・無保証のメニューが多い」、「さまざまなニーズに対応した商品がある」といった特徴があります。
しかし、日本政策金融公庫は融資専門の金融機関のため、口座の開設をすることができません。預金の受け入れや振り込みをすることができないため、通常の取引に利用する金融機関として使うことができないという特徴があります。また、店舗数が少なく、地域によっては県内に1~2ヶ所しか支店がないというところもあり、利便性が低いといえます。
「制度融資」とは、公的融資の一種で、自治体と金融機関、公的機関である信用保証協会の3者が協調して行っている融資制度です。制度融資では、創業者や中小企業を利用の対象としているため、日本政策金融公庫と同程度の金利や期間で融資を受けることができます。
また、自治体によっては利子や信用保証料の補助や融資額の優遇を行っているところもあります。
ただし、制度融資は自治体ごとに運用されているため、以下のようなデメリットがあります。
補助金や助成金は、企業が行う事業に対し、かかる経費の一部を国や自治体が補助・助成する制度です。いずれも返済不要で利用できる資金調達の方法ですが、助成金が主に厚生労働省により人の雇用や労働条件の改善に対して行われるものであるのに対して、補助金はそれ以外の省庁が独自に行うものであるという特徴があります。
補助金や助成金については、以下のようなデメリットがあります。
「ベンチャーキャピタル」とは、ハイリスク・ハイリターンによる積極的な投資を行う投資会社のことをいいます。リターンを得ることを目的として積極的にリスクを取るため、スタートアップやベンチャー企業に向いた資金調達方法といえます。ベンチャーキャピタルは、その方針等により政府系、金融機関系、コーポレート、事業会社系に大きく分類されます。
ベンチャーキャピタルは、信用や実績がない創業者であっても資金調達でき、調達できる額も個人保証や担保なしで億単位の調達をすることが可能です。
しかし、その一方で、次のようなデメリットがあります。
「クラウドファンディング」とは、金融機関の融資によらず、インターネットを使って事業に協賛してくれる人から資金を集める手法です。クラウドファンディングには、融資型・購入型・ファンド型その他の種類があります。
なお、クラウドファンディングによる資金調達の全般にいえることとして、「実際にやってみないといくらの金額が集まるのかがわからない」、「企画が失敗するリスクがある」、「資金使途が限定されることが多い」といったデメリットがあります。
「エンジェル投資家」とは、その企業の経営理念や将来性に賛同し、支援や資金調達の協力をしてくれる個人のことをいいます。支援の方法は、出資という形で行われるのが一般的ですが、貸し付けの方法で行われることもあります。
エンジェル投資家による出資には、特別な技術等がなくともエンジェルの理解や賛同が得られれば出資を受けることができる、資金の返還の必要がない(出資の場合)といったメリットがあります。
その反面、「一口当たりの金額が小さいものが多い」、「必要な額が集まりにくい」、「経営面での支援を受けにくい」などといったデメリットもあるため、比較的小規模な事業の資金調達に適した方法といえます。
ビジネスローンとは、法人や個人事業主を対象とした事業資金のための融資です。
通常の融資と異なり、銀行だけでなく、信販、クレジットカード会社、消費者金融といった多くの業種で扱っているので選択肢が多い、審査が早く簡単な手続きで利用できる、無担保無保証人で利用できるといった特徴があります。
しかし、以下のようなデメリットがあるため、利用にあたっては計画性が求められます。
不動産担保ローンは、借主が所有する不動産に担保を設定することを前提として融資をする方法です。通常の金融機関でも担保にもとづく融資を行いますが、不動産担保ローンでは、事業の内容よりも不動産の価値にもとづいて融資をするという違いがあります。
不動産担保ローンには、簡単な審査で大きな額の融資を受けられる、所有している土地を活用できる、会社の財務状況が悪くとも利用できるといったメリットがあります。
しかし、以下のようなデメリットもあります。
「ファクタリング」とは、利用者が保有する売掛金(=売掛債権)をファクタリング業者に譲渡・売却することで、売掛金の回収を待たずに資金調達をすることができるサービスです。
ファクタリングには、短時間での資金調達が可能、決算書のオフバランスに役立つ(借入れではなく売掛金の譲渡・売却のため負債とならない)、売掛先会社の信用力が高ければ申込人の財務状況が悪くとも利用できるといった特徴があります。
ただし、その反面、次のような多くのデメリッがあるため、できるだけ利用は控えた方がよいでしょう。
保険の契約者貸付とは、加入している生命保険の解約返戻金の一定割合(一般的には6〜8割の範囲)を契約者に貸し付ける制度です。解約返戻金を利用できる代表的な商品としては、終身保険、定期保険、個人年金保険などがあります。
保険の契約者貸付には、一定の範囲までならば確実に利用できる、比較的低い金利で利用できる、借入れが決算書にのらないといった特徴があります。保険を利用した資金調達としては、保険を解約した解約返却金を利用する方法もありますが、この場合には病気やケガの時に無保険となってしまうため、貸付を利用した方が有利といえます。
しかし、解約返戻金については、積み立てた保険部分の一定割合までしか利用できない、貸付の利率はその時の金融情勢によるため時期によっては金利が高くなることがある、利率が複利で計算されるので返済額が大きくなりやすいなどに注意する必要があります。
以上のように資金調達にはメリットだけでなく、デメリットや注意すべき点もありますが、本人に以下のような問題がある場合には、資金調達そのものが難しくなってしまいます。また、資金調達ができたとしても、金利が高くなったり、調達額が低くなるなどのリスクが生じます。
創業融資では、申し込みの際に一定の自己資金があることが条件となっています。(例えば、日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用する場合の最低自己資金は、創業にかかる経費の1/10以上)そのため、この要件で定める自己資金を用意できない場合には、融資を申し込んでもお断りとなってしまいます。
一部の業種については、国の政策やその他の理由により、金融機関の融資や信用保証協会の保証を利用することができません。このような業種を「融資(保証)対象外業種」といいます。風俗営業やラブホテル、パチンコ、宗教団体などがこれに該当します。
したがって、これらの業種に該当する場合には、経営内容がよくても融資等を受けることはできません。なお、スナック営業については、日本政策金融公庫では融資が認められていますが、信用保証協会では保証の対象外業種となっています。
金融機関から見た会社の融資の信用枠を「与信枠」といい、これが少ない場合には、その枠を超えて融資を受けることができなくなります。
例えば、与信枠が5,000万円の会社についてすでに4,000万円の借り入れがある場合には、この会社が融資を受けることができる額は、残りの与信枠の1,000万円ということになります。与信枠は金融機関が独自の判断にもとづき設定しているため、各金融機関ごとに異なりますが、自分ではこれを知ることができないため、与信枠を知りたい場合には金融機関に確認する必要があります。
信用保証協会を利用している会社については融資の与信枠と同様に、信用保証の利用枠が定められているためこれを超えて保証を受けることができません。ただし、融資の与信枠は金融機関ごとにこれを定めますが、保証枠は信用保証協会全体でこれを設定しています。そのため、ある会社の信用保証枠が7,000万円の場合、すでに7,000万円の保証を受けているときには、それ以上の保証を利用することができなくなります。
金融機関の融資の返済について、過去に返済の遅れや未納がある場合には、それが原因で融資が受けられなくなることがあります。延滞の頻度としては、1年間の間に2回以上の返済の遅れがあるときは、要注意といえます。
また、金融機関は公益的機関としての立場から、税金や家賃、ローンといった定期に支払うものについても延滞や未納があるときには、厳しく対応します。この場合の税金には、住民税、法人税、消費税、住居の固定資産税などが該当しますが、社会保険料についても納付状況を確認されることがあります。
最近融資を受けており、その時からあまり時間が経っていない場合には、返済実績が不十分という理由で、融資を断られることがあります。通常の金融機関では、1年以上の返済実績を見て、その間に延滞や未納がないかを審査の判断材料としているため、この期間内での追加融資については断られる可能性が高いといえます。
ただし、急激に業績が上向いて仕入れ代金が不足するなどの資金(増加運転資金)については、前回の借入れから時間がたっていなくとも、融資に応じてもらいやすくなります。
会社の財務内容に問題がある場合には、融資はお断りとなります。財務内容の判断は金融機関ごとに異なりますが、一般的には、連続した売り上げの低下や利益の赤字、債務超過となっている場合などには、融資を受けるのが難しくなります。また、表面的には問題がない決算であっても、その内容について粉飾がされている(もしくはその疑いが強い)場合には、同様に融資を受けることはできません。
債務者区分とは、以前、金融庁の指導により金融機関が貸出先に行っていたランクの区分で、正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の6つに区分にされていました。
その後、金融庁の指導内容が変わり、この債務者区分は正式には利用されていませんが、現在でもこの基準にしたがって融資判断をしている金融機関が少なくありません。
この区分において融資を受けられるのは、要注意先まで(一部の都市銀行では正常先のみ)となっていることから、これより下のランクの企業は融資を受けるのが難しくなります。
事業会社の業種が衰退業種に分類されるものであるときには、金融機関はリスクが高いとして、その業種全体について融資を引き締めることがあります。そのため、このような場合にはその会社の財務内容に問題がない場合でも、追加融資を受けるのが難しくなることがあります。
事業会社に既存の借入れがあり、その額が一定水準を超えている場合には、その残高がある程度減るまで、追加融資を受けるのが難しくなります。借入金の多寡は、「借入金月商倍率」を計算することで、ある程度調べることができます。借入金月商倍率は、次の式で算定できますが、業種ごとに目安となる数値が異なります。
借入金月商倍率(ヶ月)=有利子負債÷1月あたり売上高
小売業や卸売業の借入金月倍率の目安は、以下の通りとなっています。
<小売業の借入金月倍率の目安>
1.5:正常 3.0:注意 6.0:危険
<卸売業の借入金月倍率の目安>
0.8:正常 1.5:注意 3.0:危険
ただし、借入金月商倍率が目安として使えるのは運転資金についてだけであり、設備資金には適用できないことに注意が必要です。
融資の借入額と返済余力のバランスが崩れ、返済までの期間が一定以上の数値となる場合には追加融資を受けることができません。この負債を返済するのにかかる年数を表す指標として、「債務償還年数」があります。
債務償還年数=(有利子負債-現預金-所要運転資金)÷キャッシュフロー(純利益+減価償却費)
一般的に、債務償還年数限度の目安は10年以内とされているため、これを超える場合には適正な期間となるまで新規融資や追加融資が制限されます。
金融機関は、融資審査の際に代表者の個人情報を確認しますが、信用情報に問題があることが判明した場合には、融資は否決となります。また、会社については、代表者だけでなく、取締役も審査の対象となることがあります。なお、延滞や未納などのネガティブな信用情報はそのまま放置していても勝手に消えることはなく、その原因がなくなったとき(支払いによる延滞の解消など)から数年間、残ることとなります。
融資をはじめ各種の資金調達にはそれぞれについてデメリッがありますが、工夫をすることでこのデメリットを最小限にすることができます。ここでは、そのいくつかについてご紹介いたします。
借入れをする際には、担保や保証が必要な制度を選ぶと、後になってからその負担が大きくなる可能性があります。そのため、融資を利用する場合にはできるだけ無担保・無保証の者を選ぶことをおすすめします。
通常、プロパー融資では、ほぼ無担保無保証の融資を利用することはできませんが、日本政策金融公庫では創業者向けに「新創業融資制度」を、一般事業者向けに「担保を不要とする融資」を用意しています。また、信用保証協会付融資でも、代表者以外の第三者による保証人不要で保証を受けることができます。
金融機関 | 制度名 | 利用額 | |
日本政策金融公庫 | 新創業融資制度 | 3,000万円 | 無担保・無保証※1 |
担保を不要とする融資 | 4,800万円 | 無担保・無保証※2 | |
信用保証協会付融資 | 全制度共通 | 8,000万円 | 無担保・無保証※2 |
※1 代表者の保証も第三者の保証も不要
※2 代表者の保証のみ必要
融資の申し込みをする時には、政府系金融機関と民間金融機関の両方に、かつ同時に申し込むと希望額以上の融資を獲得できる可能性が高くなります。なぜなら、政府系金融機関と民間金融機関はそれぞれがまったく異なる体系で融資を行っており、相互の連絡や情報交換をしていないからです。
しかしどちらか一方の金融機関に先に申し込みをし、その結果が出た後で別の金融機関に申し込んだ場合は借り入れの実績が明らかとなってしまうため、後から申し込んだ金融機関からは希望する金額が出ない可能性が高くなります。(後の金融機関から見た場合、その会社はすでに借入れがある会社と見られるため)
しかし双方の金融機関に同時に申し込んだ場合には、融資が出る時期もほぼ同じとなるため、先の場合のように融資額を減額される可能性が少なくなるだけでなく、それぞれから融資を獲得することも可能となります。
融資には、政策上の利用からとくに中小企業等を優遇した制度があるため、このようなものから優先して使うと、より資金を獲得しやすくなります。
例えば、信用保証協会の行っている制度融資の中に「小口制度」というものがありますが、これは全国の信用保証協会の保証付融資の合計残高が2,000万円以下の小規模企業者が利用できる制度であり、低金利で信用保証料の補助を受けられるものとなっています。
また、東京都制度融資の「コロナ・ウクライナ・円安・エネルギー等融資」は最大2億8千万円まで利用でき(コロナ融資の借り換えにも利用可能)、最大4/5の信用保証料の補助を受けられます。
以上のように、一部の融資については特別な優遇がされており、これらの融資は国の政策にもとづいて行われているため、通常の融資と比べて審査に通りやすいというメリットがあります。
融資を利用した場合には、その翌月から返済が始まるため、予想以上に使える資金が少ないということがあります。そのような場合には、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」をおすすめします。
この資本性ローンは、期限日一括返済のため、途中の返済で資金が目減りすることを心配せずに利用でき、また金利の条件も経営が苦しいときほど低くなるという特徴があります。
金融機関の借入れや出資がいやだという方は、自分で社債を発行して資金調達することも可能です。企業が50人未満を対象に募集する社債を「少人数私募債」といい、通常の社債発行とは別に、取締役会決議のみで、無担保無保証、長期にわたって資金を調達することができます。
しかし、少人数私募債には、引受人の募集はすべて自分で行わなければならない、不特定多数を対象とした募集活動ができない(インターネットを利用した募集や告知等)といったさまざまな制約があるため、募集や発行にあたっては専門家に依頼することをおすすめします。
手元に資金が少ない場合には、リースの利用も検討してみましょう。リースには以下のようなメリットがあるため、初期費用を抑えることができます。
ただし、リースについては、「本体価格に加えて、金利や保険料、手数料が加わってくるため、一括購入と比較するとトータルの費用は高くなる」、「原則として、途中解約はできない。やむを得ない理由で解約をした場合は、リース料金の残高を支払わなければならない」、「所有権が保有できない」などのデメリットもあるため、これらについてもよく考慮して検討する必要があります。
企業が経営を続けていくには、定期的に資金調達をする必要があります。資金調達は設備の更新や運転資金の補充などに役立ちますが、他方では返済負担により資金繰りが厳しくなる、経営権に影響することがあるなどマイナスの面もあります。また、経営の内容に問題がある場合には、資金調達そのものができなくなります。したがって、資金調達をする場合には、借りやすさやメリットだけでなく、その後のデメリットも検討するようにしましょう。