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コラム

自社株消却で株価は上がる?下がる?

導入

この記事では、「株価を上げるには自社株消却という手段があると聞いたが、そもそも自社株消却とは何かを知りたい」という方や、「自社株消却によって株価が上がるのか下がるのか気になる」という方に向けて、自社株消却と株価の関係について詳しく解説します。

この記事の結論

自社株消却における「自社株」とは自社が発行した株式、すなわち「自己株式」のことで、「消却」とは株式を消滅させることを意味します。

自社株消却をすると1株あたりの純資産額などが増えることになるため、一般的には株価の上昇要因となりますが、どの程度の上昇要因となるかは様々な要因、たとえば上場会社か非上場会社か、あるいはその会社を取り巻く環境などによって左右されます。場合によっては、当初期待したほど株価が上昇しないこともある点に注意が必要です。

自社株消却とは

自社株とは

自社株とは、自社が発行する株式を保有する場合におけるその株式のことをいいます。会社法や企業会計の文脈では「自己株式」と呼ばれ、会社法では自己株式を「株式会社が有する自己の株式をいう」と定義しています(会社法113条4項)。

自己株式が通常の株式と異なる点としては、会社が自己株式を取得出来る場合が限定されていることや(会社法155条)、議決権を有しないこと(会社法308条2項)があげられます。1994年の商法改正前においては、会社が自己株式を取得することは原則として禁じられていましたが、数回の法改正によって現在の制度になっています。

自社株消却とは

「自社株消却」とは、会社が自己株式を消却することを意味します。「消却」は消滅と同義で、会社が自己株式を消滅させるのと同じです。株券発行会社が自己株式の株券をシュレッダーにかけてこの世から消す、というイメージで捉えると分かりやすいかと思います。

なお、会社が自己株式を消却できることは、会社法178条1項に定められています。

自社株消却と自社株処分の違い

自社株消却と似た手続きに「自社株処分」があります。自社株処分、すなわち自己株式の処分とは、主に自己株式を譲渡する(売却する)ことを意味します。自己株式の処分においては当該株式が消滅しない一方、自己株式の消却においては当該株式が消滅するという違いがあります。このため、自己株式の処分では発行済株式数は変わりませんが、自己株式の消却では発行済株式数が変わります(減ります)。

自社株消却で株価は上がる?下がる?

上場企業の株式の場合

上場企業が発行する株式の場合、自社株を消却すると株価は上がる傾向にあります。これは、自社株を消却して発行済株式数が減れば1株あたり純資産額(BPS)や1株あたり純利益額(EPS)が増えることになり、その結果として株式の価値が高まると考えられるためです。

たとえば、発行済株式数が10万株で純資産額が100億円の企業の場合、1株あたり純資産額は10万円です。これが、自社株買いによって市場から2万株を買い入れてすべて消却したとすると、1株あたり純資産額は12万5千円となります(純資産額が変わらないと仮定した場合)。なお、会計基準においては、1株あたり純資産額を計算する際の発行済株式数は自己株式数を引いて計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針34)。そのため、自己株式を保有しておくか消却するか否かは結果に影響を与えません。

参考:企業会計基準適用指針第4号 1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/shihanki-s_5.pdf

もっとも、上場企業の株価は需要と供給のバランスによって決定されるため、自社株の消却が必ずしも株価上昇につながるとは限りません。小規模な自社株消却を行うというリリースと同時に、その会社の業績にネガティブな影響を与えるニュースが流れた場合は、株価が下落するということも考えられます。

非上場企業の株式の場合

非上場企業が発行する株式の場合は、上場企業の株式と同様、自社株を消却すると株式の評価額は上がる傾向にあるものの、相続および贈与や譲渡の場面での評価額に与える影響は株式を取得する人や非上場企業の規模などによって異なります。相続および贈与と、譲渡における評価額(相続税評価額)の計算方法は基本的に同じであることから、以下では相続の場合における株式の評価額について説明します。

まず、非上場株式を取得した株主が同族株主ではない場合について説明します。「同族株主」とは、企業の議決権総数の一定割合を自己及び自己の親族等が保有している株主を意味します。非上場株式を取得した株主が同族株主ではない場合、非上場株式の評価は「配当還元方式」と呼ばれる方法で行うのが原則です。配当還元方式は、直前期の配当金の額を基礎に非上場株式の評価額を算定する方法で、次の①に②を乗じて1株当たりの評価額を計算します(財産評価基本通達188-2)。

① その株式に係る年配当金額(1株当たりの資本金等の額を50円とした場合における直近2事業年度の配当金額)÷10%

② その株式の1株当たりの資本金等の額(非上場企業の法人税申告書に記載された資本金等の額を直前期末の発行済株式数で割った金額)÷50円

たとえば、発行済株式数が10,000株、資本金等の額が1,000万円、直近2事業年度の平均配当金額が100万円の場合、非上場株式の1株当たりの評価額は1,000円と計算できます。これが、自社株買いと株式消却によって発行済株式数が5,000株になっていた場合、この評価額は1株当たり2,000円となります。このように、配当還元方式においては、自社株買いと株式消却を行うことによって1株当たりの評価額が増加します。

次に、非上場株式を取得した株主が同族株主の場合に適用される原則的評価方式の場合について説明します(一定の同族株主の場合は配当還元方式で評価しますが、説明は割愛します)。原則的評価方式の場合、評価会社を大会社、中会社、小会社に分類し、それぞれに応じた方式で評価します。

評価会社の分類
評価方式(原則)
評価方式(選択可)
大会社
類似業種比準方式
純資産価額方式
中会社
類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
純資産価額方式
小会社
純資産価額方式
類似業種比準方式と純資産価額方式の併用

大会社の原則的評価方式である類似業種比準方式とは、評価対象会社が営む事業と類似した業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額をベースに非上場株式の相続税評価額を計算する方式です。また、小会社の原則的評価方式である純資産価額方式とは、相続税評価額によって計算された資産から同じく相続税評価額によって計算された負債を引き、その残額に37%を乗じた金額を評価対象会社の発行済株式数で割ることで1株当たりの相続税評価額を計算する方式です。いずれの場合であっても、純資産価額の計算において自社株買いと株式消却を行った影響を受けます。

なお、会社が自社株を消却せずに自社で保有していた場合、議決権を用いた判定上は自己株式にかかる議決権の数を0とする旨が定められています(財産評価基本通達188-3)。よって、議決権を用いた判定においては、会社が自己株式を消却したか否かで相続税評価額の計算方法が変わり、評価額そのものも変わる可能性があります。

【財産評価基本通達188-3】

188((同族株主以外の株主等が取得した株式))の(1)から(4)までにおいて、評価会社が自己株式を有する場合には、その自己株式に係る議決権の数は0として計算した議決権の数をもって評価会社の議決権総数となることに留意する

まとめ

以上、自社株消却で株価が上がるのか下がるのかについて、自社株とは何か、消却と処分の違いを説明した上で、上場企業と非上場企業に分けて解説しました。

自社株消却を行うことによって、一般的に株価は上がります。ただし、必ずしも株価の上昇につながるとは限らない点と、株価が上がったことによる影響(たとえば相続税評価額の上昇)を考慮する必要がある点に注意が必要です。自社株消却によって思わぬところで負の効果が生じないよう、事前に顧問税理士へ相談することをおすすめします。