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コラム

確定申告における損益通算とは

導入

この記事は、「今年は不動産投資を始めようと思っている。不動産業者から損益通算という制度があると聞いたがどういう制度なのか知りたい」という方や、「今年は赤字が出た所得があるので確定申告で他の所得を相殺できるか知りたい」という方に向けて、確定申告における手続きの一つである損益通算について解説します。

この記事の結論

損益通算とは、確定申告における課税所得の計算において、プラスの所得からマイナスの所得を引く手続きのことです。損益通算をすることによって課税所得が小さくなるため、所得税等の額も減ることになります。

 損益通算には対象となる所得とならない所得があります。損益通算の対象とならない所得(たとえば雑所得)は、損失の金額が生じたとしても他の所得と相殺(通算)することはできません。また、損益通算には順序に関する細かいルールがあるので、実際に確定申告で損益通算をしようと思っている方は、税理士に相談するとよいでしょう。

損益通算と効果

損益通算とは

損益通算とは、ざっくりいうと「損失(マイナスの所得金額)と利益(プラスの所得金額)を相殺する」という手続きのことを言います。損益通算については所得税法で下記のとおり規定されています(所得税法69条1項)。

総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。

損益通算の条文で示されているように、どの所得であっても相殺が可能なわけではなく、相殺可能な所得は限定されています。以下、損益通算の効果を説明したうえで、どういった所得が損益通算の対象となるのかを解説していきます。

損益通算の効果

損益通算の効果は、プラスの所得とマイナスの所得を相殺することで課税される所得金額が減り、その結果として所得税額が減ることにあります。たとえば、事業所得の金額が▲300万円で不動産所得の金額が1,000万円とすると、所得税額は1,000万円から300万円を引いた700万円をベースに計算されることになります。

損益通算の対象となる所得とならない所得

所得税法における所得区分

所得税は個人が1年間に得た所得に基づいて課税される税金です。ここでいう「所得」は収入金額のことではなく、収入金額から経費を差し引いた利益部分を意味します。個人が1年間に得る所得は、労働の対価として受け取った給料、銀行預金から得られる利息、雑誌の懸賞の賞金など多種多様であり、これらについて一律に税金を課すことは不合理な結果を招くことから、所得税法ではその性格に応じて所得を次の10種類に分類しています。

所得概要
利子所得預貯金や公社債の利子など
配当所得株式の配当金など
不動産所得土地や建物の賃料など
事業所得個人事業主の所得など
給与所得会社員の給料など
退職所得会社員が受け取る退職金など
山林所得山林を伐採して得た木の譲渡代金など
譲渡所得資産の譲渡による所得など
一時所得利子所得から譲渡所得以外の所得で偶然当選した懸賞金など
雑所得利子所得から一時所得のいずれにも該当しない所得(年金や副業で得た所得など)

損益通算の対象となる所得とならない所得

上記10種類の所得のうち、その所得が赤字のときに他の所得と通算できるものは、下記の4つに限定されています。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 山林所得
  • 譲渡所得

これ以外の所得、たとえば雑所得が赤字であっても他の所得と通算することはできません。確定申告において、会社員が土日に副業して得た所得(たとえばWebライティングやUber Eatsの配達などの対価)が赤字であったとしても、これを給与所得と相殺することはできないのでご注意ください。

参考:国税庁タックスアンサーNo.2250 損益通算
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm

損益通算のルール

損益通算の順序

損益通算は、①内部通算、②他の所得(山林所得・退職所得以外)との通算、③山林・退職所得との通算の順で行います。①の内部通算は、同じ所得内での損益を相殺することを意味します。たとえば、ウェブライティングとUber Eatsの配達員の2つの副業を行っている人につき、ウェブライティングに係る所得がマイナス5万円、配達業務で得た所得がプラス35万円のときは、35万円から5万円を引いた30万円が雑所得の金額となります。

 ②の他の所得との通算は次の順序で行います(所得税法施行令198条)。

損失が生じている所得最初に差し引く所得次に差し引く所得
不動産所得・事業所得利子、配当、不動産、事業、給与、雑の各所得(まとめて「経常所得」)の金額譲渡所得、一時所得の順で差し引く
譲渡所得・一時所得譲渡所得の金額を一時所得の金額から差し引く経常所得の金額から差し引く

①及び②を行ってもなお損失の金額が残る場合は、最後に山林所得、退職所得の順で控除します。

具体的な計算例

会社員A氏の1年間の所得が下記の場合の損益通算の計算例を解説します。

  • 勤務先からの給料に係る給与所得:800万円
  • ワンルーム投資に係る不動産所得の損失の金額:50万円
  • 資産の譲渡損失の金額:100万円
  • 一時所得の金額:60万円

まず、A氏の不動産所得の計算上生じている損失の金額は、給与所得の金額から控除します。これによって、A氏の経常所得の金額は750万円となります。

次に、A氏の譲渡損失の金額を一時所得の金額から控除します。その結果、譲渡損失の金額は40万円となりました。最後に、経常所得の金額から残った譲渡損失の金額を控除します。その結果、A氏の所得金額は710万円となりました。

以上がシンプルな事例における計算例です。実際の計算にあたっては、譲渡損失が生じた資産の種類などについても考慮する必要があります。

損益通算しきれない部分の取り扱い

上記①から③の順序で損益通算を行った後でなお残る損失の金額(これを「純損失の金額」といいます)は、その損失が生じた年について青色申告書を提出している場合に限り、これを翌年以降3年間に渡って繰り越し、繰越期間における総所得金額、山林所得金額、退職所得金額の計算において控除を受けることができます(所得税法70条)。

純損失の繰越控除の規定の適用を受けるためには、例外(たとえば変動所得の場合)を除いて青色申告書の提出が必要である点にご注意ください。青色申告書を提出するにあたっては、事前に承認申請書を提出したり、正確な帳簿をつける必要があったりという手間もかかりますが、青色申告特別控除や純損失の繰越控除といった特典もあるため、現在白色申告書を提出している方はこれを機に青色申告書の提出を検討してみてはいかがでしょうか。

各所得における注意点

損益通算の規定の適用を受けるにあたっての注意点はいくつかありますが、ここでは不動産所得と雑所得の注意点について解説します。

まず不動産所得の注意点は、別荘のように趣味、保養、娯楽で保有する不動産の貸付に係る赤字は損益通算の対象にはならないという点です。別荘の減価償却費に経費を加えた金額が年間100万円で、貸付で得た収入が20万円とすると、不動産所得の金額はマイナス80万円となりますが、このマイナス80万円は事業所得や給与所得といった他の所得と通算することはできません。

参考:タックスアンサーNo.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm

次に雑所得の注意点は、そもそも雑所得の赤字は損益通算ができないという点です。たとえば、ウェブライティングに係る収入が10万円で経費が15万円であったとしても、事業所得のように差し引き5万円を給与所得などの他の所得と通算することはできません。「雑所得の計算の結果生じた損失は他の所得と通算できない」ということを知らずに「節税」のために副業を始めようとしている方もいますが、副業の赤字はそのまま切り捨てられるだけなのでご注意ください。

損益通算をするための方法

損益通算をするためには確定申告書の提出が必要です。単純な損益通算であればどなたでも計算できますが、複数の所得がある方の損益通算は順序などについても考慮する必要があるため、可能であれば税理士に相談する方がよいでしょう。

まとめ

以上、損益通算について解説しました。損益通算をすることによって課税所得を圧縮することが可能ですが、損益通算が可能な所得とそうでない所得がある点や、損益通算には細かいルールがある点に注意が必要です。この記事をお読みいただいて、ご自身の確定申告において損益通算の規定の適用を受けられるのではないかと思われた方は、お近くの税理士にご相談されることをおすすめします。