この記事は、「親族間に散らばってしまった自社株を、今後数年かけて自分に100%集約させたいと考えている。どのようにすれば自社株の集約を進めることができるか知りたい」という方や、「経営者の友人が最近自社株を買い集めているらしい。メリットがあれば自分も自社株を集約しようと思うが、いったいどんなメリットがあるのだろうか?」という疑問をお持ちの方に向けて、自社株を100%集約する方法と、そのメリットデメリットについて解説します。
自社株を100%集約する方法としては、株式の買い取り、株式の贈与、株式併合後の端数株式買い取り、特別支配株主の株式等売渡請求があります。前者2つは自社株の集約を進めようとする方と、現にその会社の株式を保有している方との関係が良好な場合に有効な方法で、後者2つは良好な関係になくても自社株の集約を進めることができる方法です。
自社株の集約をするメリットは、会社運営をスムーズに行うことができる点と相続発生後の相続人の苦労を減らすことができる点で、デメリットは株式を買い取る際にお金がかかる点、少数株主との関係性によっては手続きに手間と時間がかかる点、少数株主から反感を買う可能性がある点があります。
自社株を100%集約する方法の代表例には「株式の買い取り」があります。たとえば、ある会社の株式を所有しているのが2名である場合、一方の保有する当該会社の株式のすべてをもう一方が買い取れば100%の集約を達成することができます。
株式の買い取り以外の主な方法は次のとおりです。
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以下、非上場企業A社のオーナー社長である甲氏が、A社株式を100%集約するために選択できる各方法の手続き、当該方法を選択する場合のメリットデメリット、主要な税務上の留意点について解説します。
株式の買い取りは、自社株の集約を行うための最もシンプルな方法です。売主と買主との間で譲渡金額を合意した後、代金の引き渡し、株券の授受(株券発行会社の場合)、株主名簿書換といった諸手続きを実施します。売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによってその効力を生ずるとされていることから(民法555条)、手続き面で契約書の作成は必須ではありませんが、後々のトラブルを防止する意味で契約書を作成しておくとよいでしょう。
株式の買い取りを選択するメリットは、手続きがシンプルな点と、他の方法と比べると後々のトラブルが起きにくい点にあります。売主(株式を手放す側)としては、自身が納得した金額で株式を売却して現金を得ることができるのであれば悪い話ではないでしょうから、株式の移転を巡って恨みが残るというケースも少ないと考えられます。
一方、株式の買い取りを選択するデメリットは、買主(株式を買い取る側)に現金が必要な点と、株式の評価額の算定が難しいという点にあります。
株式買い取りにおける主要な税務上の留意点は、次の2点です。
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1点目について、非上場株式の譲渡所得がプラスの場合は、譲渡所得に20.315%の税率を乗じた金額の所得税が売主に課税されます。譲渡所得は、譲渡金額から取得費及び譲渡費用(株式の取得額と譲渡費用の合計額)を引いて計算します。たとえば、譲渡金額が100万円、売主が当該株式を取得した際に支払った費用が30万円、今回の売主から買主への譲渡の際に売主が支払った手数料等が10万円の場合、譲渡所得は60万円と計算されます。
2点目について、譲渡金額が株式の時価と乖離している場合は、譲渡金額と当該時価との差額について、買主または売主に贈与税を課税される可能性があります(相続税法7条。なお、どちらが課税されるかは低額譲渡なのか高額譲渡なのかによって異なります)。取引相場のない株式の評価額は、財産評価基本通達に従って算定を行います。評価方法は、評価対象の会社の規模や納税者の選択に応じて、類似業種比準価額を使用する場合、1株当たりの純資産価額を使用する場合、類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額の両方を使用する場合があります(財産評価基本通達179)。具体的な評価額の算定が必要な場合は、税理士に相談するとよいでしょう。
株式の贈与は、贈与者(株式を贈与する人)と受贈者(株式の贈与を受ける人)の意思が合致すれば行うことができます(民法549条)。贈与者と受贈者との間で贈与について合意した後、株券の授受(株券発行会社の場合)、株主名簿書換といった諸手続きを実施します。なお、書面によらない贈与は、すでに履行が終わった部分を除いて各当事者が解除することができるため(民法550条)、贈与者と受贈者の意思が合致したタイミングで贈与契約書を作成しておくことをおすすめします。
株式の贈与を選択するメリットは、株式の取得者が株式価値に見合う対価を支払わなくても自社株の集約を進めることができる点にあります。株式の贈与以外の方法では株式価値に見合う対価を通常現金で相手方に支払う必要があるため、手元に現金がないと自社株の集約を進めることができませんが、株式の贈与であれば現金が少なくても自社株の集約を進めることが可能です。
一方、株式の贈与を選択するデメリットは、そもそも株式の贈与を受けるというケースがレアケースである点と、贈与者の家族や親族とトラブルになる可能性がある点です。贈与者本人は株式を贈与したいと思っていても、たとえば贈与者の配偶者や子どもから反対されるケースもよくあることから、贈与者には「ご家族としっかり話し合ってから贈与することを決めてください」と伝えることをおすすめします。
株式の贈与を行う場合の主要な税務上の留意点は、贈与を受ける側に税金(原則として贈与税)が課税されることです。課税される贈与税の金額は、時価評価した株式の評価額(時価の算定については「株式の買い取り」のセクションで説明しています)から贈与税の基礎控除額(年110万円)を引いた金額に贈与税率を乗じて計算します。なお、受贈時に最大2,500万円の特別控除を受けることができる相続時精算課税制度の適用を受けると、株式の贈与を受けた年にかかる贈与税の金額を大きく減らすことも可能ですが、贈与者の相続発生時にこの株式の価額が相続財産に含まれることになるため、適用を受けようとする場合は事前に税理士に相談することをおすすめします。
以上、甲氏がA社株式を100%集約するための方法として株式の買い取りと株式の贈与を紹介しました。株式の買い取りと贈与は、いずれも甲氏と現株主(以下、「本件少数株主」と呼びます)との関係が良好でなければ実現することが難しい方法です。以下では、甲氏と本件少数株主が良好でない場合に、本件少数株主をA社の株主から強制的に締め出し(スクイーズアウト)するための方法として、株式併合後の端数株式買い取りと、特別支配株主の株式等売渡請求について解説します。
株式併合とは、会社の株式数を一つの単位にまとめてその単位を1株とする方法です。たとえば、100株を持っている株主について、併合の割合(会社法180条2項)が10分の1の場合、既存の株式数はそれぞれ10分の1されて、併合後は10株を保有することになります。
会社法においては、株式会社が株式併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずるときは、その端数の合計数に相当する数の株式を競売し、その端数に応じてその競売により得られた代金を株主に交付しなければならないと規定されています(会社法235条、234条)。この規定を利用して、株式併合によって本件少数株主が保有する株式数を一株に満たない端数株式としてしまえば、本件少数株主の意思にかかわらず甲氏はA社株式を取得することができます。
株式併合は、上記のとおり少数株主の権利を害する可能性もあることから、いくつかの少数株主保護制度が導入されています。具体的な制度の内容や、どのようにすれば株式併合後の端数株式買い取りを進めることができるかは税法ではなく会社法の問題なので、弁護士に相談することをおすすめします。
株式併合後の端数株式買い取りを選択するメリットは、特別支配株主(次のセクションで解説します)に該当しなくてもスクイーズアウトを行うことができる点です。もっとも、株式併合の決議は特別決議で行うため、議決権総数の3分の2以上を株式併合に賛成する株主が所有しておく必要がある点には留意が必要です。
一方、株式併合後の端数株式買い取りを選択するデメリットは、会社法上の手続きが煩雑である点、反対株主から株式併合の差し止め請求(会社法182条の3)を受ける可能性がある点、弁護士の関与を受ける場合は弁護士費用が必要である点などがあげられます。
株式併合後の端数株式買い取りを行う場合の主要な税務上の留意点は、通常の株式売却と同じです。
特別支配株主の株式等売渡請求とは、特別支配株主(株式会社の議決権総数の原則として90%以上を保有する株主、会社法179条1項)が他の株主に対して当該株式会社の株式を自身に売り渡すことを請求することができる制度です。
特別支配株主の株式等売渡請求を選択するメリットは、株式併合と比べると株主総会特別決議が必要ない分手続きが少なくて済む点があります。
一方、特別支配株主の株式等売渡請求を選択するデメリットは、特別支配株主でないと選択できない方法である点や、少数株主から差し止め請求(会社法179条の7)を受ける可能性がある点です。株式併合と同じく、法的なリスクについては事前に弁護士へ相談するとよいでしょう。
特別支配株主の株式等売渡請求を行う場合の主要な税務上の留意点は、通常の株式売却と同じです。
自社株を集約するメリットは次の2点です。
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1点目について、会社に少数株主がいると、会社の経営方針や財務方針(配当なども含む)について口を出してくる可能性もあります。現経営者と現在の少数株主との関係が良好であっても、少数株主に相続があってその配偶者や子どもが株主になったときに、関係性が壊れない保証はありません。少数株主との関係が良好なうちに円満に株主から外れてもらうことによって、将来起きるかもしれないトラブルを未然に防ぐことができる可能性もあります。
2点目も1点目と関連しますが、会社に少数株主がいる状態で相続が発生すると、相続人(会社の経営を後継する人)が少数株主との関係に苦労する可能性もあります。特に、相続人が若く、少数株主が年長の場合は、会社についてあれこれ口を出してくることもあるでしょう。そうした気苦労を相続人に負わせないためにも、自身が存命のうちに、少数株主をスクイーズアウトして相続人が気兼ねなく会社運営に邁進できる環境を整えておくということも、自社株を集約するメリットの一つです。
自社株を集約するデメリットとしては、株式を買い取る際にお金がかかる点、少数株主との関係性によっては手続きに手間と時間がかかる点、少数株主から反感を買う可能性がある点があります。特に3点目については、自社株の集約を急ぐあまり最初から強引な手段に出てしまうと関係性に亀裂が入るリスクもあるので、できる限り最初は穏当な手段で交渉を始めることを推奨しますが、このあたりは弁護士にアドバイスをもらって進めるのがよいでしょう。
以上、自社株を100%集約する方法と、各方法の手続き・メリットデメリット・税務上の留意点を解説した上で、自社株を集約するメリットとデメリットについて説明しました。
自社株の集約は、支配株主と少数株主の関係が良好な場合は比較的手間がかからず行うこともできますが、関係が良好でない場合は弁護士や税理士のサポートを受けながら慎重に進めていく必要があります。どのような進め方がよいかはケースバイケースですので、自社株の集約を検討している方は、まずお近くの税理士に相談してみてはいかがでしょうか。