グローバル化が進む現在、多くの企業が海外にも事業展開を行っています。そうした中で避けられない問題の一つが、同じ所得に対して日本と外国の双方で課税される「国際的二重課税」です。この二重課税を排除するための仕組みとして設けられているのが「外国税額控除」です。本記事では、企業が適切に外国税額控除を活用するために必要な制度の仕組みや計算方法、注意点などをわかりやすく解説します。
なお、外国税額控除の制度は、法人税のみならず、所得税、地方法人税、法人住民税においても存在しますが、この記事においては法人税の外国税額控除についてのみ取り扱います。
外国税額控除制度は、内国法人が国外で得た所得に対し、日本と外国の双方から課税を受ける「国際的二重課税」を排除するための制度です。
外国税額控除の対象となる「外国法人税」の範囲は、「外国の法令により課される法人税に相当する税」であり、具体的には法人税法施行令で対象となるものと対象とならないものが示されています。また、外国法人税に該当するものであっても高率負担部分や租税条約における限度税率を超えて課税を受けた部分は控除対象外国法人税額には該当しませんが、みなし税額控除の適用を受けるものについては、外国の法令によって実際に課された税を超えた部分についても外国税額控除の適用を受けることができます。
外国税額控除額は、内国法人の全世界所得に対する法人税額に国外所得を乗じ、全世界所得で除して計算しますが、控除額の計算における国外所得の金額が全世界所得の90%を超える場合は、全世界所得の90%であるとされます。
外国税額控除には、控除対象外国法人税額が控除限度額を超える場合と、控除対象外国法人税額が控除限度額に満たない場合の二つの繰越控除の制度が設けられています。これらの制度を上手く活用することで、国際的二重課税を受ける金額を減らすことが可能です。
外国税額控除とは、法人が外国法人からの支払いを受ける際に源泉徴収される等によって納付した外国法人税の一部を、当該法人の日本の法人税の額から控除する制度のことです。外国税額控除は日本に恒久的施設(PE)を有する外国法人にも適用されますが、以下では内国法人(日本に本店または主たる事務所を有する法人)に絞って解説を行います。
外国税額控除の制度が設けられている趣旨は二重課税を排除するためです。財務省の資料では、「外国税額控除制度は、国際的な二重課税の排除方式として国際的に確立した制度であり、外国で納付した外国税額を、国外所得に対しわが国で納付すべき法人税額の範囲内で、控除することを認めるもの」であると説明しています。
出典:財務省ホームページ 国際的な二重課税排除方式に関する資料
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/h02.htm
日本と外国とで二重課税が生じる理由は、日本の法人税が、内国法人に対しては国内だけでなく国外で得た所得に対しても日本の法人税を課す制度(全世界所得課税方式)を採用しているためです。この制度によって、たとえば内国法人の米国支店が稼得した所得にも日本の法人税が課されますが、この所得(米国源泉所得)に対しては米国政府も課税権を持っているため、一つの所得に対して日米両政府が課税を行う国際的二重課税の状況が発生します。これを排除するための仕組みが、外国税額控除の制度です。
参考:国際税務の基礎知識 令和5年度経済産業省委託事業https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/itaxseminar2023/01.kokusaizeimu.pdf
内国法人が各事業年度において外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの)を納付する場合、当該事業年度の所得の金額につき当該事業年度の国外所得金額に対応するものを限度として、その外国法人税の額(一定のものを除く)は当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除されます(法人税法69条1項)。
政令(法人税法施行令)においては、「外国法人税」は「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」と定義されています(法人税法施行令141条1項)。また、外国法人税に含まれるもの、含まれないものとして、それぞれ次のものが列挙されています。
【外国法人税に含まれるもの(法人税法施行令141条2項)】
「法人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、法人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税」の代表例は、外国法人から利息や配当の支払いを受ける際に源泉徴収される外国源泉税です。これらの外国源泉税も外国税額控除の対象となります(法人税基本通達16-3-4)。
また、「法人税法82条31号に規定する自国内最低課税額に係る税」とは、国内ミニマム課税(QDMTT、Qualified Domestic Minimum Top up Tax)の制度によるものです。
【外国法人税に含まれないもの(法人税法施行令141条3項)】
外国法人税に含まれないものの代表例は、外国において課された過少申告加算税や延滞税に相当する税金です。たとえば、内国法人の外国支店が当該国の税務当局から所得の計算誤りを指摘され、所得に係る法人税額を1,000、これに対応するペナルティーとしての附帯税を100支払った場合、1,000は外国法人税に該当して外国税額控除の対象になりますが、100は法人税法施行令141条3項の規定により外国税額控除の対象とはなりません。
また、内国法人の従業員が海外出張した際に当該国で支払った消費税に相当する金額(VATやGSTなどの付加価値税)は、「法人の所得を課税標準として課される税」には該当しないため、外国税額控除の対象とはなりません。
外国法人税の定義に該当したとしても、所得に対する負担が高率な部分の金額は外国税額控除の対象から除外されます(法人税法69条1項)。この「所得に対する負担が高率な部分」は、具体的には35%とされ、これを超える部分の税額は原則として外国税額控除の適用を受けることができません(法人税法施行令142条の2)。
日本と租税条約を締結している国から使用料や配当を受領する場合、租税条約の規定により軽減された税率に基づき源泉徴収されたときは、当該税額は外国税額控除の適用を受けることができる外国法人税額に該当します。
一方、実務上その他何かしらの理由で、租税条約によって軽減される前の税率によって計算された税額が源泉徴収されたときは、外国税額控除の適用を受けられるのは租税条約により軽減された税率に係る部分に限られるため、国税庁の質疑応答事例にあるように、これを超えた分は外国税額控除の適用を受けられません(法人税法施行令142条の2第8項5号)。同じ外国源泉税でも、租税条約の適用を受けた税率か否かで取り扱いが異なる点に注意が必要です。
参考:国税庁質疑応答事例 租税条約に定める限度税率を超える外国法人税の額の取扱い
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/23/09.htm
外国税額控除は、外国法人税を納付することとなる日の属する事業年度で適用を受けるのが原則です。ただし、納付することが確定した外国法人税を合理的な基準に基づいて費用計上した日の属する事業年度で継続的に適用を受けている場合は、これによることもできます(法人税基本通達16-3-5)。
「みなし外国税額控除」とは、租税条約の定めにより、相手国で減免された租税を納付したものとみなして外國税額控除の規定を受けられる制度のことです。この制度があるのは、開発途上国が外国からの投資を呼び込む目的で租税上の優遇措置を講じたとしても、減免されたあとの税額が外国税額控除の対象となるのであれば結果として租税上の優遇措置の効果が発揮できないためです。
参考:内閣府税制調査会 国際課税関係資料
https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/1996-2009/gijiroku/soukai/2000/pdf/49kai3c.pdf
みなし外国税額控除の対象となる国や所得の種類は限定的であるため、適用を受ける場合は事前に相手国との租税条約を確認する必要があります。たとえば、日本とブラジルとの租税条約においては第22条にみなし外国税額控除の規定があります。
参考:財務省 日伯租税条約
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/Brazil1976_P_jp_en.pdf
控除対象外国法人税の額は、課税所得の計算上損金不算入とされます(法人税法41条)。外国税額控除の規定の適用を受けない場合は、外国法人税の額を損金算入することができますが、外国税額控除を受けることができるのであれば一般的にはそちらの方が有利です。
外国税額控除の控除額は次の流れで計算します。
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外国税額控除額は、内国法人の全世界所得に対する法人税額に国外所得を乗じ、それを全世界所得で除して計算します。法人税額がゼロの場合は外国税額控除額もゼロであることから、控除対象法人税額を計算する必要がなくなるのが通常であるため、まずは法人税額が発生するか否かを確認することをおすすめします。
また、控除額の計算における国外所得の金額が全世界所得の90%を超える場合は、全世界所得の90%であるとされます(シーリング制度)。このため、法人税額から控除することができる外国法人税額は、控除対象外国法人税額の最大90%相当額となります。
外国税額控除額の計算要素の一つである国外所得は、国外源泉所得の金額(マイナスの場合はゼロ)であり、具体的には次の所得の合計値をいいます。なお、資料における「PE」とは、Permanent Establishment、恒久的施設のことであり、恒久的施設とは支店、事務所、工場など事業を行う一定の場所を意味します。
出典:国税庁 国際課税原則の帰属主義への見直しに係る改正のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/h27kokusai-aramashi.pdf
外国税額控除には繰越控除の制度が二つ設けられています。一つは控除対象外国法人税額が控除限度額を超える場合の繰越控除で、超えた金額を3年繰り越して、翌事業年度以降に生じる控除限度額に達するまでの金額を各事業年度の外国税額控除額とすることができます。もう一つは、控除対象外国法人税額が控除限度額に満たない場合の控除限度額の繰越で、満たない部分の限度額を3年繰り越して、翌事業年度以降に生じる外国法人税の額を各事業年度の税額から控除することができます。
以上、外国税額控除について、控除の対象となる外国法人税の範囲、適用時期、控除額の計算方法、租税条約との関係、繰越控除制度などの概要を解説しました。
外国税額控除は、日本の法人が外国で得た所得に対して日本でも外国でも課税されることで生じる二重課税を回避するための重要な制度ですが、制度が複雑で、正しい控除額の計算をするためには専門家のアドバイスが欠かせません。制度の適用を受けるにあたっての細かい留意点や、実際の税額計算については、貴社の顧問税理士にご相談ください。