社内の問題点を解決するための施策として、資本政策と財務戦略があります。資本と財務はどちらもお金に関する言葉であるため、似たような意味と感じられる方が多いとは思いますが、この2つは異なる施策をさします。
それでは、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。今回は違いと共に、主に財務戦略について、紹介をします。
資本政策とは、株式の移動をもって、資金調達や株主の議決権比率の調整等の社内の問題点を解決するものです。
一方で、財務戦略とは、社内の問題点を株式の移動のみならず、金銭の授受サイクルの調整や、金融機関からの借入等によって、問題を解決するものです。
このように、お金に関する問題点を解決する施策として同じような使われ方をする場面が多いものの、株主の存在を意識して行われる施策が資本政策、資本政策を含む様々なお金に関する問題を解決していくために行われる施策を財務戦略、と資本政策と財務戦略は異なるものであるといえます。
それでは、財務戦略はどのように策定をしていくべきなのでしょうか。まずは下記の事項を確認し、どのような問題が生じているのか把握する必要があります。
まずは自社の財務状況を確認しましょう。財務戦略の策定が検討されるということは、何かしら自社の財務状況に問題が生じているということです。
例えば、仕入先への支払いが期日に間に合わないことが生じているのであれば、まずはそれが常態化しているのか確認します。
売上先からの入金が臨時的に遅くなり、その入金が無いことによって仕入先への支払いが臨時的に行えなかったものであれば、今後そのような事態にならないよう備えとしての対策を行うべきですし、それが常態化しているのであれば、常に資金不足に陥っており破綻が懸念されるため早急な対策を行うべきであるといえます。
このように、どのような策が必要であるか、と財務戦略を策定するためには、まずは現在の財務状況を把握することが必要です。
財務戦略を策定するためには、社内の財務状況を確認するだけでなく、社内外の環境の確認も必要です。
会社の財務状況及び経営成績は、人材不足や知識不足等の内部の原因のみならず、世界の経済情勢や市場の動向等の社外の経済環境が大きく影響します。
例えば、財務戦略の策定の結果、現在最も販売実績のある商品を、更に販路を拡大して販売数を伸ばし、その商品の売上による資金繰りの改善を目標にしたとします。
しかし、販路を拡大し続けるには、市場でそれが常に求められる必要があり、それを達成するためには、競合他社よりもより良い商品であり続ける必要があります。
良い商品を提供し続けることができる社内の状況を維持できるのかという社内の環境の確認、そして市場でその商品が常に求められるような情勢であるか、競合他社が脅威となる商品を販売することは無いのかという社外の環境の確認は、財務戦略の策定において重要です。
財務戦略の策定において、最も実態や数値を把握しているのは、それぞれの業務の担当者ですが、経営者の意向を無視しては、策定した戦略を実施することは出来ません。
例えば、資金繰りを改善したいと考える場合に、上記のように最も販売実績のある商品の販売数を伸ばそうと考える経営者もいれば、全く異なる商品を開発して実績とは異なる方法を見出そうとする経営者もいます。
また、資金繰りを改善したいと考える場合に、売上による収入を増やすことでは無く、仕入による支出を減らすことを手法として考えたい経営者、もしくは収入や支出の調整では無く借入を手法として考えたい経営者等、同じ目標をもっても、手法は様々です。
販売担当者が、最も販売実績のある商品の販売数は更に伸ばせそうだと判断をした場合でも、また経理担当者がそれによって資金繰りが改善できると判断した場合でも、経営者がそれに同意をしなければ、経営戦略に沿った財務戦略とはいえなくなるため、必ず経営者の意向の確認はしなくてはいけません。
財務状況の把握が財務戦略の策定に必要である紹介しましたが、その財務状況の把握は、下記のような分析に基づくことで、客観的な数値による状況の確認をすることができます。
収益性分析とは、会社の儲けである利益が効率的に発生しているものであるか確認するための分析です。
売上高に対する収益性の分析による指標は、その事業のコストパフォーマンスを表しています。売上高に対する収益性は、下記のような指標で確認することができます。
売上高総利益率は、売上総利益の売上高に占める割合を表すもので、粗利率ともいいます。売上高総利益率は、下記の算式で求めます。
(売上総利益/売上高)×100%
売上高営業利益率は、本業から得た利益である営業利益の売上高に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(営業利益/売上高)×100%
売上高経常利益率は、本業以外からの損益を含む経常利益の売上高に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(経常利益/売上高)×100%
売上高当期純利益率は、臨時に生じた損益を含む当期純利益の売上高に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(当期純利益/売上高)×100%
資本に対する収益性の分析による指標は、資本の活発性や効率性を表しています。資本に対する収益性は、下記のような指標で確認することができます。
総資本利益率は、当期純利益の自己資本と他人資本の合計である総資本額に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(当期純利益/総資本)×100%
自己資本利益率は、当期純利益の純資産の部の合計額である自己資本に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(当期純利益/自己資本)×100%
安全性分析とは、会社の財務が健全的であり継続的な経営ができるものであるか確認するための分析です。
安全性分析は、下記のような指標で確認することができます。
流動比率は、短期的な支払能力を示す流動資産の流動負債に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(流動資産/流動負債)×100%
当座比率は、短期的な支払い能力である資産のうち、預貯金等の当座資産の流動負債に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(当座資産/流動負債)×100%
固定比率は、長期的な安全性を示す固定資産の自己資本に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(固定資産/自己資本)×100%
株主資本比率は、長期的な安全性を示す株主資本の総資本に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(株主資本/総資本)×100%
自己資本比率は、長期的な安全性を示す自己資本の総資本に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
{(純資産△新株予約権)/総資本}×100%
活動性分析とは、会社の経営が活発性や効率性をもって行われているか確認するための分析です。
活動性分析は、下記のような指標で確認することができます。
総資本回転率は、売上が自己資本と他人資本の合計である総資本額の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上高/総資本
自己資本回転率は、売上が純資産の部の合計額である自己資本の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上高/自己資本
棚卸資産回転率は、売上が販売前の商品や製品、仕掛品等である棚卸資産の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上高/棚卸資産
固定資産回転率は、売上が機械や建物等の設備投資である固定資産の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上高/固定資産
売上債権回転率は、売上が売掛金や受取手形等である売上債権の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上高/売上債権
買入債務回転率は、売上原価が買掛金や支払手形等である買入債務の何倍であるかを表すもので、下記の算式で求めます。
売上原価/買入債務
生産性分析とは、会社に投入した資源が効率的に売上に貢献されているか確認するための分析です。
生産性分析は、下記のような指標で確認することができます。
労働生産性は、従業員の労働力が売上に貢献した価値を示し、従業員一人あたりの売上総利益を表すもので、下記の算式で求めます。
付加価値額/平均従業員数
労働分配率は、人件費の投入適正性を示し、人件費が付加価値に占める割合を表すもので、下記の算式で求めます。
(人件費/付加価値額)×100%
成長性分析とは、売上高や総資本の変化等により会社の将来の可能性を確認するための分析です。
成長性分析は、下記のような指標で確認することができます。
売上高増加率は、前期売上高に対する当期売上高の伸びを表すもので、下記の算式で求めます。
{(当期売上高△前期売上高)/前期売上高}×100%
経常利益増加率は、前期経常利益に対する当期経常利益の伸びを表すもので、下記の算式で求めます。
{(当期経常利益△前期経常利益)/前期経常利益}×100%
営業利益増加率は、前期営業利益に対する当期営業利益の伸びを表すもので、下記の算式で求めます。
{(当期営業利益△前期営業利益)/前期営業利益}×100%
総資本増加率は、前期総資本に対する当期総資本の伸びを表すもので、下記の算式で求めます。
{(当期総資本△前期総資本)/前期総資本}×100%
従業員増加率は、前期従業員数に対する当期従業員数の伸びを表すもので、下記の算式で求めます。
{(当期従業員数△前期従業員数)/前期総資本}×100%
財務戦略は、資本政策と異なり、株式の移動のみならず、金銭の授受サイクルの調整や、金融機関からの借入等によって、問題を解決するものです。
財務戦略の策定にあたっては、状況の確認が必須であり、財務状況の確認については、収益性分析、安全性分析、活動性分析、生産性分析、成長性分析といった5つの客観的指標から導くことが望ましいです。
この指標の改善目標は、業種や業態毎に異なります。財務戦略の実施についてお困りの方は、お気軽に弊社までご相談ください。