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コラム

『法人成り』はいつするべき?税の仕組みと損得の境界線を確認

個人事業主と法人の違いの一つに利益に対する税負担があります。個人事業主はある一定の利益を超えたら法人化したほうが税負担を軽くすることができます。個人事業主が法人化することを『法人成り』といいますが、法人成りに適したタイミングについて説明します。

個人事業主の法人成りのメリット 税負担のほかにも有利な点は?

個人事業主が法人成りするメリットはいくつかありますが、対外的な信用度が向上することや、商取引を法人に限定している企業もあるため、取引先を増やすうえでは法人のほうが適していることなどがあげられます。また、何よりも大きなメリットは、節税効果が高いことでしょう。

節税となる理由の一つは給与所得控除です。個人事業主は売上から経費を差し引いた所得に対して所得税がかかりますが、企業から給与を支払われる給与所得者は、給与などの収入金額から一定の給与所得控除額を差し引いた額に対して所得税がかかります。法人成りした場合も同様に、自分に役員報酬として給与を支払う形にすることで、給与所得控除を受けることができます。さらに給与は企業の経費として計上することができます。また、個人事業主の場合は家族に対する給与は特例申請により青色事業専従者給与としなければ経費として計上できませんが、法人成りすれば申請の必要なく経費として計上できます。つまり、法人成りして給与を支払うことで、企業としても個人としても税負担を軽くできるのです。

そのほか、欠損金の繰越控除可能期間が長いのもメリットです。個人事業主でも青色申告をしていれば、損失分の赤字を3年間は翌年以降に繰り越し、黒字の利益分と相殺することができます。法人の場合は平成30年4月1日以降に開始した事業年度に生じた欠損金は10年間、平成20年4月1日以降から平成30年4月1日以前の欠損金は9年間繰越すことが可能で、その間のどこかで黒字化できれば、過去の赤字分と相殺し、課税所得を減らすことができます。

さらに、個人事業主では認められない出張手当や慶弔見舞金なども、それぞれ規定を設けることで経費計上することができます。

法人成りの時期を見極めよう ポイントは税負担額

個人事業主が法人成りするタイミングは、課税所得に対する税を比較し、個人事業所得に対する税が法人よりも高くなる前がよいでしょう。

個人事業主は課税総所得金額に対して所得税、復興特別所得税、10%の住民税が課せられます。所得税は累進課税です。1年間の課税所得が194万9,000円までは税率5%、所得が増えるごとに10%、20%と高くなっていき、所得が1,800~3,999万9,000円になると40%、4,000万円超では45%となります。住民税の10%と合わせると最大55%であり、1年間の所得の半分以上を税金として納めることになります。

一方、法人の所得には法人税や事業税などが課せられます。資本金が1億円以下の普通法人では、1年間の課税所得が800万円以下の部分が15%、800万円超の部分は開始事業年度によって税率は異なりますが、23%程度の比例税率となっています。比例税率とはどれだけ所得が増加しても税率が変わらない課税方式で、所得が大きくなればなるほど累進課税に対してのメリットがあります。

さまざまな税控除などを考慮すると、法人成りの具体的な目安は、個人事業主の1年間の課税所得が500~700万円ほどに達したときだといわれています。課税所得が700~1000万円くらいであれば、法人成りのメリットは大きく、逆に課税所得が500万円以下であれば、法人成りするメリットはあまりありません。気をつけたいのは、法人成りではさまざまな費用や負担が増えることです。登記申請などの設立費用のほか、経理や決算を税理士に依頼する費用、日常的な経理事務を行うための負担増などもあります。これらの費用も計算のうえ、法人成りのタイミングを考えましょう。