非上場株式の配当は原則として申告が必要で申告をしないと各種罰則を受ける可能性があります。一方、非上場株式の配当が年10万円以下の少額配当に該当する場合は所得税等の申告は不要で罰則もありませんが、この場合でも住民税の申告が必要な点と、申告をして配当控除を受けた方が有利な可能性がある点に注意が必要です。
この記事では、非上場企業の株式を保有している方に向けて、非上場株式の配当を申告しないことが可能なのか、申告しないと罰則はあるのかについて解説します。
非上場株式の配当は、「少額配当」に該当すれば所得税及び復興特別所得税の申告は不要で申告をしないことに対する罰則もありませんが、「少額配当」に該当しない場合は原則としてこれらの申告が必要です。
以下、非上場株式とは何か、配当金にかかる税金の概括、「少額配当」の判定基準、「少額配当」に該当する場合と該当しない場合の違い、申告義務があるにもかかわらず申告を行わなかったときの罰則の順で解説していきます。
非上場株式の配当が少額(原則年10万円以下)の場合は所得税の申告をしないことも可能です。一方、配当が少額ではない(原則年10万円超)の場合は所得税の申告をする必要があり、申告をしないと罰則もあります。なお、配当が少額か否かにかかわらず、住民税の申告は必要です。
非上場株式は、「株式のうち金融商品取引所に上場されていないもの」と一般的に定義されています。「金融商品取引所」の例は、東京証券取引所や大阪取引所です。こういった取引所に上場されていない株式が非上場株式に該当するため、たとえばトヨタ自動車株式会社や任天堂株式会社が発行する株式は非上場株式には該当しません。
なお、「上場株式」と「非上場株式」の判定の時期は、配当金の支払基準日です。
株式の配当金にかかる税金の大まかな取り扱いは下表のとおりです。
上場or非上場 | 場合分け | 税金の取り扱い |
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上場株式 | ①NISAで非課税の適用を受ける場合 | 源泉徴収なし 課税なし |
②大口株主等が支払いを受ける場合 | 20.42%の税率で源泉徴収される総合課税 | |
③上記以外の場合 | 20.315%の税率で源泉徴収 総合課税、申告分離課税、申告不要から選択 |
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非上場株式 | ①「少額配当」に該当する場合 | 20.42%の税率で源泉徴収 総合課税もしくは申告不要から選択(申告不要なのは所得税のみ) |
②上記以外の場合 | 20.42%の税率で源泉徴収 総合課税 |
上場株式の場合、NISA(少額投資非課税制度)における非課税口座で取得したものについては配当が非課税になることから、配当の支払い時における源泉徴収は行われません。一方、非課税とならない配当のうち、大口株主(発行済株式総数の3%以上を保有する個人株主等)が支払いを受ける配当は20.42%の税率により源泉徴収されて総合課税により申告する必要があります。また、大口株主に該当しない個人株主が支払いを受ける配当は20.315%の税率により源泉徴収されて、総合課税により申告する方法、申告分離課税により申告する方法、申告不要とする方法のいずれかを選択することになります。
なお、大口株主が支払いを受ける場合の源泉徴収税率は所得税と復興特別所得税合わせて(以下、「所得税等」といいます)20.42%で、大口株主に該当しない個人が支払いを受ける場合の源泉徴収税率は所得税等が15.315%で住民税5%の計20.315%です。
非上場株式の場合は20.42%の税率で源泉徴収されます。このうち「少額配当」に該当する場合は申告しないこと(申告不要を選択すること)も可能ですが、少額配当に該当しない場合は申告が必要です。申告する場合は総合課税の対象となります。
「少額配当」とは、1回に受ける配当金の額が10万円に配当計算期間の月数を乗じて12で割った金額以下であるものをいいます。たとえば、配当金を支払う会社が配当計算期間を12か月に設定している場合(つまり、配当を年1回行う場合)は、配当金の額が10万円以下であれば、その会社の配当金を受け取った人はその配当金について申告を行う必要がありません。
少額配当に関しては、租税特別措置法第8条の5第1項で次のように規定されています。
内国法人から支払を受ける配当等(次号から第六号までに掲げるものを除く。)で、当該内国法人から一回に支払を受けるべき金額が、十万円に配当計算期間(当該配当等の直前に当該内国法人から支払がされた配当等の支払に係る基準日の翌日から当該内国法人から支払がされる当該配当等の支払に係る基準日までの期間をいう。)の月数を乗じてこれを十二で除して計算した金額以下であるもの
なお、少額配当に該当する場合は申告が不要なだけで非課税ではないため、20.42%の税率で源泉徴収が行われます。申告不要を選択すると配当控除(一定の方法により計算した金額を、所得税等の額及び住民税額から控除できる制度)の規定の適用を受けられないことから、場合によっては総合課税により申告したうえで配当控除の規定の適用を受けるほうが、トータルの税負担額が減る可能性もあります。
また、「申告が不要」なのは所得税等に限ります。少額配当に該当する配当所得について所得税等で申告不要を選択した場合であっても、住民税の申告が別途必要な点にご注意ください。
少額配当に該当しない場合
少額配当に該当しない場合は、20.42%の税率で源泉徴収された上で、原則どおり総合課税により申告する必要があります。総合課税により申告すると、上述のとおり配当控除の規定の適用を受けることができます。なお、配当控除の金額の計算式は、その年分の課税総所得金額等が1,000万円以下かどうかやその他の基準で異なります。
所得税法120条に定める確定申告書を提出する義務に反して申告を行わなかった場合は、いくつかの罰則が用意されています。罰則は、国税通則法に定める延滞税及び無申告加算税と、所得税法に定める懲役または罰金に大別されます(仮装隠蔽や偽りその他不正の行為があった場合は、さらに重い罰則が用意されています)。
国税通則法第60条に定める延滞税を計算するには、毎年変わる「延滞税特例基準割合」を参照する必要があります(租税特別措置法第94条)。令和5年の延滞税特例基準割合は0.4%であることから、納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については年2.4%、そのあとの期間については年8.7%です。また、国税通則法第66条に定める無申告加算税は、納付すべき税額に対して50万円までは年15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額となります(税務調査前に自主的に申告を行った場合等は、一定の軽減を受けられることもあります)。
国税通則法第60条及び同66条の条文を抜粋して紹介します。
第六十条 納税者は、次の各号のいずれかに該当するときは、延滞税を納付しなければならない。
一 期限内申告書を提出した場合において、当該申告書の提出により納付すべき国税をその法定納期限までに完納しないとき。(中略)
二 延滞税の額は、前項各号に規定する国税の法定納期限(中略)の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じ、その未納の税額に年14.6%の割合を乗じて計算した額とする。ただし、納期限(中略)までの期間又は納期限の翌日から二月を経過する日までの期間については、その未納の税額に年7.3%パーセントの割合を乗じて計算した額とする。
(筆者注)国税通則法第60条第2項の割合は、租税特別措置法第94条(延滞税の割合の特例)によって上記で説明した割合となっています
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告(中略)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
一 期限後申告書の提出又は第二十五条(決定)の規定による決定があつた場合
二 期限後申告書の提出又は第二十五条の規定による決定があつた後に修正申告書の提出又は更正があつた場合
また、所得税法第241条には、正当な理由がなくて提出期限までに確定申告書を提出しない場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処すると規定されています。同上には、「情状により、その刑を免除することができる」とも規定されていることから、故意ではなくうっかり申告書の提出を忘れてしまった場合のすべてにこの規定が働くことは考えられませんが、このような規定があることは理解しておくべきでしょう。
ご参考に、所得税法第241条の条文を抜粋して紹介します。
正当な理由がなくて第百二十条第一項(確定所得申告)、(中略)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかった者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
以上、非上場株式の配当を申告しないことが可能なのか、申告しないと罰則があるのかについて、所得税法等の条文を引用しながら解説しました。
非上場株式の配当が年10万円以下の少額配当に該当する場合であっても、個人住民税の申告が必要である上に、所得水準によっては確定申告をして配当控除を受けたほうが有利なこともあるという点がこの記事の結論です。
申告不要を選択した方が有利か、それとも申告をして配当控除を受けた方が有利かどうかについては各個人の所得の状況などによって異なるため、詳しく知りたい方はお近くの税理士にご相談されるとよいでしょう。