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事業承継税制の特例措置とは?一般措置との違いを中心に詳しく解説

事業承継税制の特例措置とは?一般措置との違いを中心に詳しく解説

写真:電卓と手帳

この記事では、「法人版事業承継税制には措置が2つあると聞いたが、自分たちはどちらの措置の適用を受けた方がいいの?」という疑問をお持ちの方や、「事業承継税制の特例措置と一般措置は何が違うのかをかみ砕いて教えてほしい」という方向けに、事業承継税制の特例措置について、一般措置との違いを中心に詳しく解説します。なお、事業承継税制には「法人版事業承継税制」と「個人版事業承継税制」の2つがありますが、この記事では法人版事業承継税制について解説します。

この記事の結論

写真:パソコンと男性

会社や個人事業の円滑な事業承継を目的とした事業承継税制は、恒久的な措置である一般措置と時限的な措置である特例措置があり、多くの面で特例措置の方が有利です。

特例措置が一般措置より優れている主な点は、100%の納税猶予を受けられる点、複数の後継者が同時に事業承継税制の適用を受けられる点、雇用確保要件が大幅に緩和されている点、経営環境の悪化によって事業を手放す際の課税額が事業を手放す際の価値に再計算される点です。

事業承継税制とは

一般措置と特例措置

事業承継税制とは、会社や個人事業の円滑な事業承継を目的とした税制で、この税制の適用を受けることによって事業の後継者が贈与や相続によって取得した法人の株式(以下、「事業承継税制対象資産」といいます)にかかる税金の納付が猶予され、更に一定の条件を満たした場合はその納付が免除されます

事業承継税制の歴史は、2008年(平成20年)5月に成立し同年10月から施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、「経営承継円滑化法」といいます)の附則第2条において「相続税の課税について必要な措置を講ずる」と規定されたことを受けて、租税に関する特則を定めた法律である租税特別措置法に所要の改正が行われたことに始まります。

事業承継税制の導入当初は原則的な措置しかありませんでしたが(以下、この措置を「一般措置」といいます)、2018年度(平成30年度)税制改正で租税特別措置法が改正され、10年の期間限定で特例的な措置(以下、この措置を「特例措置」といいます)が導入されました。なお、一般措置の根拠条文は租税特別措置法70条の7で、特例措置の根拠条文は租税特別措置法70条の7の5です。

特例措置が導入された経緯

一般措置しかない時代の事業承継税制には次の欠点がありました。

ž納税猶予の対象になる株式数が100%ではなく、かつ相続税の猶予割合も100%ではなかったため、後継者が事業承継をする時に多額の贈与税・相続税を納税する必要があったこと

ž税制の対象となるのは、一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみであり(「一人の先代経営者」の部分は後に改正されています)、たとえば後継者が兄弟で事業を行うため株式を半分ずつ持ち合うケースでは、兄弟のどちらかしか事業承継税制の適用を受けることができなかったこと

ž後継者がその後自主廃業や事業売却を行う際、経営環境の変化により事業承継当時と比べて株価が下落した場合でも、事業承継時の株価を基に贈与税・相続税が課税されるため、過大な税負担が生じえていたこと

ž税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ税金の納付猶予が打ち切られ、その時点で税金と利子税をまとめて納付する必要がある点につき、人手不足の環境下においてこの「平均8割以上の雇用を維持する」という条件は中小企業にとって大きな負担であり、税制の適用を受けることを躊躇する要因となっていたこと

参考:中小企業庁 平成30年度事業承継税制の改正の概要
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180402shoukeizeiseigaiyo.pdf

これらの欠点が理由で、一般措置しかない時代の事業承継税制は十分活用されているとは言い難い制度でした。このままだと「事業承継が原因で地域経済と雇用を下支えする中小企業が廃業することを防止する」という経営承継円滑化法の目的を達成できないため、2018年度(平成30年度)税制改正で特例措置が導入されました。


特例措置は、一般措置の欠点を解消する極めて画期的な措置であり、先に紹介した一般措置の欠点が次のように解消されました(中小企業庁 平成30年度事業承継税制の改正の概要を参考に記載しました)。

一般措置の欠点
特例措置による解消
納税猶予の対象になる株式数が100%ではなく、かつ相続税の猶予割合も100%ではなかった
ž納税猶予の対象になる株式数が100%になった
ž相続税の猶予割合も100%になった
税制の対象となるのは、一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみであった(注:後の改正で、一般措置でも複数人からの贈与・相続となりました)
ž親族外を含む複数の株主からの承継も税制の適用対象となった
ž後継者は一人に限られず、最大三人への承継も税制の適用対象となった(これによって、後継者が複数人で共同経営することも可能となった)
後継者がその後自主廃業や事業売却を行う際、経営環境の変化により事業承継当時と比べて株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与税・相続税が課税された
自主廃業時や事業売却時の株価を基に贈与税・相続税の課税がされることになったため、承継時から株価が下落した場合に過大な税負担を負うことになるリスクが排除された
税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ税金の納付猶予が打ち切られ、その時点で税金と利子税をまとめて納付する必要があった
5年間で平均8割以上の雇用要件を未達成の場合でも直ちに税金の納付猶予が打ち切られることがなくなった(経営悪化などが理由で平均8割以上の雇用要件を達成できなくなった場合は、認定経営革新等支援機関による指導と助言を受ける必要はある)

以上、事業承継税制の歴史と特例措置が導入された経緯を紹介しました。次に、特例措置と一般措置の違いを総論的に紹介します。

特例措置と一般措置との違い(総論)

特例措置と一般措置の違いについて、経済産業省中小企業庁が作成した「経営承継円滑化法申請マニュアル」を参考に、下表のとおりまとめました。

No.項目特例措置一般措置有利な方
1特例承継計画の策定必要不要一般措置
2贈与または相続をする期限適用期限ありなし一般措置
3対象株数全株式総株式の最大3分の2特例措置
4納税猶予割合100%贈与は100%相続は80%特例措置
5承継パターン承継する人:複数可
承継される人:最大3人
承継する人:複数可
承継される人:1人のみ
特例措置
6雇用確保要件弾力化された承継後5年間は平均8割の雇用維持が必須特例措置
7経営環境の変化に対応した免除ありなし特例措置
8相続時精算課税の適用受贈者:20歳以上の者(直系卑属に限定されない)受贈者:20歳以上の直系卑属(子や孫)特例措置

参考:中小企業庁 経営承継円滑化法申請マニュアル
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2019/190403shoukei_manual_1.pdf

この表から分かるように、特例措置と一般措置を比べると、特例措置の方が有利な項目が多くあります。以下では、これらの項目のうち、No.1、No.5、No.6、No.7、No.8について各論的に解説します。

特例措置と一般措置との違い(各論)

No.1(特例承継計画の策定)

特例承継計画とは、事業承継税制の特例措置の適用を受けるために策定する計画のことです。一般措置の適用を受ける場合は特例承継計画の策定が不要なので、この点は一般措置の方が有利です。


特例承継計画は、定められた様式に後継者の⽒名、事業承継の予定時期、承継時までの経営上の課題と課題への対応策、承継後5年間の事業計画などを記入し、それに対して税理士や商工会議所などの「認定経営⾰新等⽀援機関」による指導と助言を受けた上で、定められた期日までに都道府県庁へ提出します。


特例承継計画のうち会社が記載すべき容量はA4用紙で2枚程度ですが、経営上の課題や事業計画について何を書いたらよいか悩む方も多いので、顧問税理士や商工会議所に相談することをおすすめします。

No.5(承継パターンの弾力化)

特例措置は、一般措置と比べて承継パターンが弾力化されているため、この点は特例措置の方が有利です。特に、後継者が兄弟などで共同経営をする場合、一般措置では兄弟のうち1人しか事業承継税制の対象となりませんが、特例措置では3人まで事業承継税制の対象となります(それぞれの承継者が承継後において議決権の10%以上を有し、かつ、それぞれの後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと、つまり後継者の中で承継後の議決権数が最も少ない者の有する議決権の数が、後継者に該当しない同族関係者の中で議決権数が最も多い者の有する議決権の数を上回ることが必要です。


たとえば、下図のように先代経営者とその妻が会社の株式を所有しており、これらの株式を子どもたち(後継者1と後継者2)にそれぞれ半分ずつ贈与した場合を考えます。この場合、一般措置であれば後継者1と後継者2のいずれか1名のみが事業承継税制の適用を受けることができる一方、特例措置であれば2名とも事業承継税制の適用を受けることができます。

図:No.5(承継パターンの弾力化)

No.6(雇用確保要件の緩和)

事業承継後5年間平均で雇用の8割を維持できなかった場合、一般措置においては経営承継円滑化法の認定が取り消されて猶予されていた贈与税・相続税の納付が必要となる一方、特例措置においては引き続き贈与税・相続税の納付が猶予されるため、この点は特例措置の方が有利です。


なお、特例措置の適用を受けている場合において、事業承継後の5年間平均で雇用の8割を維持できなかったときは、「特例承継計画に関する報告書(様式27)」を作成し、認定経営⾰新等⽀援機関に所見を記入してもらった上で都道府県庁へ提出する必要があります。様式27は中小企業庁ホームページで入手することができます。

参考:中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_tokurei_yoshiki.htm


様式27を記入するにあたっては、「平均雇用人数の5年間平均が贈与の時の従業員の数の8割を下回った理由」として次のいずれかを選択する必要があります。

ž高齢化が進み後を引き継ぐ者を確保できなかった
ž採用活動を行ったが、人手不足から採用に至らなかった
ž設備投資等、生産性が向上したため人手が不要となった
ž経営状況の悪化により、雇用を継続できなくなった
žその他

このうち、経営状況の悪化が理由である場合、または雇用を維持できなかったことについて正当な理由が認められないと認定経営⾰新等⽀援機関が判断した場合は、別途指導と助言を行い、様式27に指導及び助言の内容を記入する必要があります。

No.7(経営環境の変化に対応した免除)

特例措置には経営環境の変化によって事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除規定がある一方、一般措置にはこの規定がないため、この点は特例措置の方が有利です。


具体的には、贈与税または相続税の申告期限の翌日から5年を経過する日以後に、後継者が事業承継税制対象資産を譲渡した場合において、事業の継続が困難な一定の事由(後述します)が生じていたときは、その譲渡対価の額(下限あり)をもとに贈与税額または相続税額が再計算されます。その上で、その再計算された税額が当初の納税猶予額を下回る場合は、下図のとおりその差額の納付が免除されます。


図:No.7(経営環境の変化に対応した免除)

なお、上図にもあるとおり、この規定が租税回避的に使われることを避けるため、過去5年間の配当や過大給与の額が「その再計算された税額」に加算される点は注意が必要です。


図の出典:国税庁 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201905/01.pdf


また、「事業の継続が困難な一定の事由」は租税特別措置法施行令に規定されており、大ざっぱにいうと、次のいずれかの事由をいいます。


ž過去3年間のうち2年以上が赤字である場合
ž過去3年間のうち2年以上がその年の前年から売上減となっている場合
ž借入金の額が6ヶ月分の売上金額以上ある場合
ž類似業種の上場企業の株価が前年の株価を下回る場合
ž心身の故障等により後継者による事業の継続が困難な場合

No.8(相続時精算課税の適用)

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から成人している直系卑属(子や孫)に対して財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。一般措置の適用を受ける場合の適用対象者は原則と同じですが、特例措置の適用を受ける場合は「直系尊属から直系卑属への贈与」という要件が外れ、「60歳以上の人から成人している人への贈与」であれば相続時精算課税制度の適用を受けることができるようになるため、この点は特例措置の方が有利です。


なお、相続時精算課税制度の適用を受けると、贈与税に2,500万円の特別控除額が生じるため、贈与を受けたタイミングでの課税額を大幅に減少させることが可能です。ただ、免税となるわけではなく、相続発生時に相続税が課税される点は注意が必要です。

まとめ

以上、事業承継税制の特例措置について、一般措置との違いを中心に詳しく解説しました。特例承継計画の策定が必要という手間はあるものの、特例措置は一般措置よりもかなり使いやすいので、特例措置の適用を受けることをおすすめします。特例措置の適用を受けることに関してご不安などがありましたら、ぜひお近くの税理士にご相談ください。