コラム

相続した空き家、どうする?税務面から考える売却と活用

導入

相続した空き家の扱いに悩む方は少なくありません。売却、賃貸、あるいは自分で住むなど、様々な選択肢がありますが、それぞれに異なる税金が関係してきます。不動産に関する税制は複雑で、特例制度の期限など、知っておかなければ大きな損につながる可能性もあります。この記事では、相続した空き家をどうするべきか、税務の視点からそれぞれの選択肢を比較検討し、賢い選択をするためのポイントを解説します。

この記事の結論

相続した空き家の税金としては、売却する場合は譲渡所得に対する所得税が、賃貸の場合は不動産所得に対する所得税及び固定資産税が、自分で住む場合は固定資産税がそれぞれ発生します。

空き家を放置すると、固定資産税の負担をする必要があるだけでなく、不動産に関する期限付きの各種特例の適用を受けられなくリスクがあります。たとえば、空き家特例は「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること」が要件とされており、この期限を過ぎてしまうと特例が適用できず、税負担が重くなる可能性があります。

不動産の売却には時間がかかるケースが多くあります。これらの期限を念頭に置き、相続した空き家をどうするかについて、税理士のアドバイスを受けつつ早めに計画を立てることが非常に重要です。

税務の視点から空き家を考える必要性

売却・活用における税金の種類と影響

相続した空き家をどうするかは、多くの人が直面する問題です。主な選択肢として「売却する」「他人に貸す」「自分で住む」が考えられますが、それぞれでかかる税金の種類や金額が大きく異なります。

まず、売却する場合について、最も影響が大きいのは譲渡所得にかかる所得税及び住民税です(以下、単に「所得税」という場合は復興特別所得税を含み、所得税及び住民税を総称して「所得税等」といいます)。所得税等は、売却額から被相続人の取得費(家屋の購入費用や建築費用など)と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いた利益(譲渡所得)に対して課される税金です。利益が出なければ課税されません。また、相続した空き家には、一定の要件を満たすことで最大3,000万円の特別控除を受けられる特例があります。この特例を適用できれば、税負担を大幅に軽減できます。

次に、他人に貸す場合です。家賃収入は不動産所得として所得税等の課税対象となります。所得税等は、家賃収入から必要経費(固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費など)を差し引いて計算します。不動産所得が発生する場合、一般的には毎年確定申告が必要です(不動産所得の金額が20万円以下等一定の場合は除く)。

最後は自分で住む場合です。自分で住む場合は、売却や賃貸のように所得税等はかかりませんが、所有している限り毎年固定資産税と都市計画税が発生します(以下、これらを総称して「固定資産税等」といいます。なお、都市計画税を課税しない自治体もあります)。なお、相続した空き家をリフォーム・リノベーションする場合は、所得税等の税額控除を受けることができることもあります。

ここまでの内容を表にまとめました。

選択肢税金の種類その他の影響
売却する所得税等(譲渡所得)
他人に貸す所得税等(不動産所得)
固定資産税等
自分で住む固定資産税等リフォーム・リノベーションをする場合は所得税の税額控除を受けられる可能性あり

期限付きの特例制度の存在

相続した空き家をどうするか、早めの検討が重要です。なぜなら、不動産関連の税制には期間限定の特例制度が存在し、その適用期限を過ぎてしまうと大きな税負担につながる可能性があるからです。

代表的な例として、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除や相続税額の取得費加算が挙げられます。3,000万円特別控除は相続した空き家を売却した際に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度で、取得費加算は相続した財産の取得費に一定の方法により計算した相続税額を上乗せすることができる制度です。これら特例を適用できれば税金の負担を大幅に軽減できますが、これらの特例はいずれも適用を受けられる期限が決まっています。

空き家をどうするにしても、専門家にも相談しつつ、余裕をもって計画を立てることが賢明です。期限付きの特例を最大限に活用するためにも、早めにアクションを起こすことが税負担軽減の鍵となります。

ここまで、相続した空き家に関する税金を概括しました。次に、空き家を売却する場合と活用する場合に分けて、それぞれの税務上の取り扱いについてご紹介します。

相続した空き家を売却する場合

売却のタイミングが税金に与える影響

相続によって取得した不動産を売却する際、どのタイミングで売却するかによって支払う税金の額が大きく変動する可能性があります。特に注意すべきは、所得税の税率と各種特例の適用有無です。

所得税(譲渡所得)の税率は、不動産の所有期間によって短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられ、それぞれ税率が異なります。具体的な税率は次のとおりです(租税特別措置法31条、32条)。

所得適用対象適用税率
短期譲渡所得譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の譲渡39.63%
所得税:30%
復興特別所得税:0.63%
住民税:9%
長期譲渡所得譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年超の譲渡20.315%
所得税:15%
復興特別所得税:0.315%
住民税:5%

相続(限定承認にかかるものは除きます)により取得した資産の所有期間は、旧所有者(被相続人)の所有期間を引き継ぐため(所得税法60条1項)、被相続人がその資産を取得した日から起算して5年以下か5年超かの判定を行います。なお、この規定は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものは除きます)でも適用されますが、特別縁故者が相続財産の分与によって不動産を取得した場合には適用されません。

参考:国税庁質疑応答事例 相続財産の分与により取得した資産の取得費等
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/05/15.htm

たとえば、被相続人が2000年に取得した建物を、相続人が2024年に相続により取得して2025年に売却したときは、被相続人の所有期間を引き継ぐため、相続人が実質的に所有していた期間が5年以下であっても、譲渡所得の税率の判定においては長期譲渡所得と取り扱われます。

また、売却のタイミングは適用税率のみならず、各種特例の適用有無にも影響を及ぼします。次のセクションでは、代表例である空き家特例と取得費加算について解説します。

空き家特例(被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除)の活用

空き家特例とは、一定の要件を満たす土地建物を売却した場合に適用を受けることができる特例で、譲渡所得の金額から最大で3,000万円(相続人が3名以上のときは最大で2,000万円)を控除することができます(租税特別措置法35条3項)。

この特例の適用を受けるためには、「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること」という要件があります。この期限までに売却が完了しなければ空き家特例の適用を受けることができませんが、不動産は狙ったタイミングで買い手が見つかるとは限らないため、売却すると決めたらできる限り早めに動き出すことをおすすめします。

空き家特例のその他の適用要件は国税庁のタックスアンサーをご参照ください。

参考:国税庁タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

相続税額の取得費加算の活用

相続税額の取得費加算とは、相続または遺贈により取得した土地、建物などの財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる特例です。この特例の適用を受けることで、譲渡所得の計算における取得費の額が増えることになるため、所得税額を節税することができるようになります。

取得費加算の特例の適用を受けるためには、「相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却していること」という要件を満たす必要があります(租税特別措置法39条)。空き家特例とは適用期限が異なる点に注意が必要です。相続税額の取得費加算の特例の適用要件は国税庁のタックスアンサーをご参照ください。

参考:国税庁タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm

なお、空き家特例と相続税額の取得費加算の特例は併用することができず、いずれかの一方の特例しか適用を受けることができません。他の特例との併用関係は国土交通省の資料をご参照ください。

参考:国土交通省 空き家特例 特例措置の概要(令和6年1月1日以降の譲渡)
https://www.mlit.go.jp/common/001283848.pdf
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html

譲渡所得税の計算方法

所得税のうち譲渡所得にかかる税額は次のとおり計算します。

(1)譲渡所得の計算
  収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額

(2)税額の計算
  1. 短期譲渡所得:譲渡所得金額 × 30.63%
  2. 長期譲渡所得:譲渡所得金額 × 15.315%
※上記の他、短期譲渡所得は9%、長期譲渡所得は5%の住民税が課税されます

最初に、収入金額は不動産の買主から受領する金額です。売買契約上、未経過固定資産税を収受することになっている場合は当該未経過固定資産税も収入金額に含めます。

次に、取得費は被相続人やその土地建物を買い入れたときの購入代金を基礎に計算した金額(購入手数料、設備費、改良費等を含みます)から、所有期間中の減価償却費相当額を控除した金額をいいます。相続税額の取得費加算の適用を受ける場合は、ここに相続税額を加算します。なお、取得費がわからないときは、譲渡金額の5%を取得費とすることができます(租税特別措置法31条の4)。

なお、建物所有期間中の減価償却費相当額は次の式で計算します。

建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

償却率は建物の償却率は木造が0.031、鉄筋コンクリートが0.015と法定されています。また、経過年数は6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨てます(所得税法施行令85条)。たとえば、取得価額1,000万円の木造家屋につき、売却までの経過年数が20年4か月とした場合、減価償却費相当額は558万円と計算されます。よって、このケースにおける建物の取得費は1,000万円から558万円を引いた442万円です。

最後に、譲渡費用は土地建物を売却する際に要する費用、たとえば仲介手数料、測量費用、印紙代が含まれます。固定資産税は譲渡費用には含まれません。

以上、相続した空き家を売却する場合の取り扱いを解説しました。次に、相続した空き家を他人に貸したり、自分で住んだりなどして活用する場合の取り扱いについて見ていきましょう。

相続した空き家を活用する場合

賃貸物件として活用する場合

相続した不動産を賃貸物件として他人に貸す場合、得られる賃料収入は不動産所得として取り扱われます。不動産所得は、総収入金額から必要経費の金額を引いて計算し、給与所得や雑所得といった他の所得と通算して所得税を課税されます。

総収入金額には賃料の他に更新料や返還不要の敷金として受領した金額を含みます。また、必要経費は貸付資産に係る固定資産税、修繕費、減価償却費などが該当します。

なお、不動産所得が発生する場合は、一定の例外(たとえば、給与所得者であって給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合など)を除いて、毎年確定申告を行う必要があります。特に、これまでご自身で確定申告をしていなかった会社員は、これまで不要だった確定申告を毎年行う必要が生じることになりますので、こういった手間を勘案の上で空き家をどうするかを検討することをおすすめします。

自宅として自分で住む場合

相続した建物が比較的新しい場合は、そのまま自宅として活用することもあるでしょう。自分で住むケースでは譲渡所得も不動産所得も発生しませんが、住み始めるにあたってリフォームやリノベーションを行ったときは、それが省エネ改修工事、耐久性向上改修工事、バリアフリー改修工事などに該当すれば、工事費の一部が所得税から控除される可能性もあります。

詳しい要件や効果については国税庁のタックスアンサーをご参照ください。

参考:国税庁タックスアンサー No.1219 省エネ改修工事をした場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1219.htm

参考:国税庁タックスアンサー No.1227 耐久性向上改修工事をした場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1227.htm

参考:国税庁タックスアンサー No.1220 バリアフリー改修工事をした場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1220.htm

まとめ

相続した空き家の活用や売却には、様々な税金が複雑に絡み合っています。特に、期間限定の特別控除など、知っているか知らないかで税負担が大きく変わる特例制度も存在します。これらの制度を最大限に活用し、税負担を軽減するためには、早めの情報収集と計画的な行動が不可欠です。また、税務の判断には専門的な知識が必要となるため、ご自身の状況に合わせて最適な方法を見つけるためにも、早めにお近くの税理士にご相談ください。