事業承継は企業経営者にとってなかなか結論が出せない大きな問題の1つです。
非上場会社の株式は通常、株式市場が無いので、客観的な評価額が分かりにくいからです。
実際に相続を行わなければならない時が来るまで自社株評価がなされず、相続税の納税額が多額になってしまうというケースはよくあります。
まずは自社株評価を行うところから始めましょう。
この記事では自社株評価について詳しく説明します。
自社株評価とは市場に出回っていない自社の株式の価値を算定することをいいます。
非上場株式は上場企業の株式のように客観的な評価額が示されていないため、国税庁が定める基準で、非上場会社の分類に合わせた評価法を用いて評価を行います。
自社株評価の方法を知っておく必要性はどういったものなのでしょうか。
自社株評価の方法を知っておくと良いのは、事業承継の際、必要となる納税額を把握し、以下2点について理解できるからです。
事業承継に必要な税金には下記3つのパターンがあります。
自社株評価の金額を知っているからこそ、後継者が自社株を買い取ることが出来るのかについてのしっかりとした議論が可能です。
自社株評価の方法には原則的評価方式と特例的評価方式という2種類があります。
原則的評価方式には評価方法が3種類あります。
つまり合計で4種類です。
会社を支配できる一族は原則的評価方式を、会社を支配することのできない一族は特例的評価方式で自社株評価を行います。
会社を支配できる一族のことを同族株主グループと言います。
一方、同族株主グループではない株主のことは少数株主グループと呼ばれます。
少数株主グループに属する株主は、株式を持っていたとしても、例えば、会社を解散させること等はできません。
少数株主グループと同族株主グループとでは、同じ株主でも、会社への影響度が全く異なります。
このことから少数株主グループに属する人が株式を取得する場合には、特例的評価方法である配当還元方式という方法で株式を評価することが認められています。
配当還元方式とは、大雑把に言えば、今後10年間で貰える配当金の総額を自社株の評価額とする評価方式です。
自社株評価においては、まず株主の判定を行います。
同族株主と同族株主以外を判定するためです。
同族株主とは、一人の株主及びその同族関係者の議決権総数が30%以上の場合におけるその株主と同族関係者のことです。
ただしもし議決権総数が50%以上のグループがあれば、その株主と同族関係者のことを指します。
会社の規模の判定は以下の通りに行われます。
①取引高基準(売上高)
卸売業 | 小売・サービス業 | その他 | 会社規模区分 |
30億円以上 | 20億円以上 | 15億円以上 | 大会社 |
7億円~30億円 | 5億円~20億円 | 4億円~15億円 | 中会社 |
3.5億円~7億円 | 2.5億円~5億円 | 2億円~4億円 | 中会社の中 |
2億円~3.5億円 | 0.6億円~2.5億円 | 0.8億円~2億 | 中会社の小 |
2億円未満 | 0.6億円未満 | 0.8億円未満 | 小会社 |
②従業員数を加味した総資産基準
以下の総資産価額基準か従業員数基準のいずれか下の区分
会社の規模 | 総資産価額(帳簿価額) | 従業員数 | ||
卸売業 | 小売・サービス業 | その他の事業 | ||
大会社 | 20億円以上 | 15億円以上 | 15億円以上 | 35人超 |
中会社(大) | 4億円以上 | 5億円以上 | 5億円以上 | |
中会社(中) | 2億円以上 | 2億5,000万円以上 | 2億5,000万円以上 | 20人超 |
中会社(小) | 7,000万円以上 | 4,000万円以上 | 5,000万円以上 | 5人超 |
小会社 | 7,000万円未満 | 4,000万円未満 | 5,000万円未満 | 5人以下 |
・従業員の範囲
従業員とは自社で使用されている個人のことであり、賃金を支払われる全ての者のことです。
一般的には「従業員」というと、正社員のことを指すことが多いですが、自社株評価においては業務に従事する全ての者を含みます。
1週間の労働時間が30時間超の個人を一人の従業員としてカウントします。
アルバイトなどの非常勤者については、1年間の労働時間の合計値を1,800時間で除した数値を人数としてカウントします。
小数点以下の端数が生じた場合は、「3.1であれば3名超」「2.9ならば3名以下」のように処理します。
正社員とそれ以外でカウントの方法の違いがみられます。
ただしどちらも従業員として含まれます。
社長などの役員に関しては使用人に該当しないため、この従業員には含まれません。
特定会社とは、特定の資産のバランスが非常に高い会社や、業態が一般的な会社とは異なる会社のことです。
特定会社は一般的な会社とは事情が異なります。
そのため、計算が煩雑になることが多いです。
特定会社等に該当すれば、原則として、純資産価額方式で評価を行います。
類似業種比準価額方式とは、一言でいうと、自社と同業種で上場している会社を比較して、株式の評価額を計算するアプローチです。
上場している会社には、一般に公開されている株価があります。
一方、上場していない会社には、明確な株価は存在しません。
類似業種比準価額方式の計算式:
1株あたりの株価=似た業種の株価×(利益比準+配当比準+純資産額比準)÷3×斟酌率
利益比準=評価会社の利益/類似会社の利益
配当比準=評価会社の配当/類似会社の配当
純資産額比準=評価会社の純資産/類似会社の純資産
※斟酌率は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5
純資産価額方式とは、自社を解散させた場合、株主に返ってくる金額を株価として算定する考え方です。
この評価方法で計算した結果は、貸借対照表の純資産の部の金額とある程度近いものになります。
実際に会社を解散させるにあたっては、例えば土地の現在の評価額が株主に返還されることになりますので、現在の時価と貸借対照表に記載されている金額にズレが生じている場合には、株価もその分の調整が必要になります。
大雑把にいうと、会社の時価純資産で評価するということです。
純資産価額方式による非上場株式の自社株評価の算式は以下の通りです。
1株に対する純資産額=((資産の相続税評価額)-(負債の相続税評価額)-評価額に掛かる法人税)÷発行済株式の数(自己株式を除く)
自社の規模がどの分類になるかを確認し、算出した値に分類ごとに決められた料率を掛けることで、自社株評価額が決まります。
大会社・・・類似業種比準のみ
中会社(大)・・・類似業種比準×0.9+純資産価額×0.1
中会社(中)・・・類似業種比準×0.75+純資産価額×0.25
中会社(小)・・・類似業種比準×0.6+純資産価額×0.4
小会社・・・純資産価額または類似業種比準×0.5+純資産価額×0.5
会社を支配することのできない一族の非上場株式の場合は、自己株評価に配当還元方式を用いることになります。
自社株評価を下げたい場合、以下のような方法等で引き下げることが可能です。
自社株評価は、原則的に類似業種比準方式か純資産価額方式またはその折衷で算出します。
自社株評価の算出は非常に複雑です。
会社の規模により自社株評価の方法も変わります。
また原則的な自社株評価方法が適用できないケースもあります。
事業承継を見越し、自社株評価額を引き下げておきたい場合などは、どういった方法で自社株評価かを行うことになるのかを確認しておく必要があります。
【自社株評価の原則的な方法】
類似業種比準方式
純資産価額方式
併用
【自社株評価を下げる方法】
類似業種株価の下落
純資産株価の下落
会社の規模を変える
後継者への事業承継