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インボイス制度が始まると、仕事が無くなるのは誰?

インボイス制度の開始に備え、課税事業者は適格請求書発行事業者になるための手続きを行う必要があります。

一方で免税事業者は、そのまま免税事業者として事業を行い続けることについて、非常に危機的な状況となっています。

免税事業者の危機的な状況と、その打開策についてご紹介致します。

インボイス制度と免税事業者

インボイス制度の開始は様々な事業者に影響を及ぼしますが、特に免税事業者には影響が大きいことが予想され、仕事が無くなってしまう程の不利な状況となることが危惧されています。

インボイス制度とは

インボイスとは、売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類するものをいいます。

消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されることにより、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である適格請求書発行事業者が交付するインボイス等の保存が仕入税額控除の要件となります。

免税事業者とは

仕入税額控除の要件として、適格請求書発行事業者が交付するインボイス等の保存が必要です。

インボイスを発行することが出来る適格請求書発行事業者とは、税務署長に申請を行いその認定を受けた事業者のことをいいますが、この申請を行える事業者は課税事業者であり、免税事業者は申請を行うことが出来ない、つまりインボイスを発行することが出来ません。

免税事業者とは、その名の通り消費税の納税義務を免除される事業者のことをいい、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者が該当をします。

課税売上高

課税売上高とは、課税取引の売上金額と輸出取引などの免税売上金額の合計金額から、売上返品や売上値引き、売上割戻し等の合計額を差し引いた残額をいいます。

1年間の売上の額が1,000万円を超えるか、だけが消費税の納税義務の判断基準とはなりません。

例えば、同じ不動産賃貸業であっても、消費税が発生をする事務所家賃収入や駐車場収入で2,000万円の売上がある事業者と、消費税の発生しない家賃収入で2,000万円の売上がある事業者とでは、前者には消費税の納税義務があり、後者には消費税の納税義務がありません。

基準期間における課税売上高

基準期間における課税売上高とは、原則として、個人事業者の場合は前々年の課税売上高のことをいい、法人の場合は前々事業年度の課税売上高のことをいいます。

基準期間が1年でない法人の場合は、1年相当に換算した金額により判定することとされており、具体的には、基準期間中の課税売上高を、基準期間に含まれる事業年度の月数で割った額に12を掛けて計算した金額により判定します。

新たに設立された法人については、設立1期目および2期目の基準期間が無いため、原則として納税義務が免除されます。

しかし、基準期間のない事業年度であっても、その事業年度の開始の日における資本金の額または出資の金額が、1,000万円以上である法人や特定新規設立法人に該当する法人の場合は、納税義務は免除されません。

免税事業者は仕事が無くなる?!

上記のように免税事業者は消費税の納税義務がない一方で、インボイスを発行することが出来ません。

適格請求書発行事業者に登録をすることが出来ない免税事業者への支払いは、インボイスを受け取ることが出来ないことにより、取引先の消費税の納付税額を引下げる効果のある支払とはならず、このことにより取引先が免税事業者との取引を停止、又は取引先として免税事業者を選択しなくなるということが考えられます。

例えば税込110万円の支払いを行うにあたり、適格請求書発行事業者へ支払いインボイスを受け取った場合には、10万円が仕入税額控除として認められる金額となりますが、免税事業者へ支払い従来通りの領収書を受取った場合は、仕入税額控除として認められる金額は0円であるため、同じ税込110万円の支払いを行っても、前者と後者では消費税の納付税額に10万円の差が生じます。

免税事業者が出来る打開策は?

このような不利な状況を打開する方法として、免税事業者は課税事業者になることを選択し、適格請求書発行事業者になることが挙げられます。

適格請求書発行事業者になることで、仕事を獲得するうえでの不利な状況は打開することが出来ますが、免税事業者が課税事業者となるということは、消費税の納税義務が同時に生ずることになるため、消費税の納付額分の支出が増加する、経理処理の負担が増加する等の変化があるため、この選択は慎重に行う必要があります。

免税事業者が適格請求書発行事業者になるかの判断のポイント

免税事業者が適格請求書発行事業者及び課税事業者になるべきかの判断は、下記のポイントについて考えてみると良いでしょう。

売上先からインボイスの交付を求められるか、検討と確認をする

売上先がインボイスの交付を求めている場合には適格請求書発行事業者になることが望まれますが、交付を求めていない事業者のみが売上先であれば、その必要はありません

・課税事業者である売上先は、仕入税額控除のため、交付するインボイスが必要です。
・課税事業者であっても簡易課税制度を選択している売上先は、インボイスが不要です。
・消費者、免税事業者である売上先は、インボイスが不要です。

登録を受けた場合と受けなかった場合について、比較をする

登録を受けた場合と受けなかった場合とでは、市場での事業者の立場、納税義務の有無が異なります。

・登録を受けた場合は、インボイスが交付出来、課税事業者として消費税の申告が必要です。
・登録を受けない場合は、インボイスを交付出来ませんが、課税事業者となる必要はありません。なお、売上先は、経過措置期間は仕入税額の一部が控除できます。
・必要に応じて、取引先と取引条件の見直しを相談する等の検討が推奨されます。また、逆に、取引先から相談を受ける場合もあり得ます

免税事業者が適格請求書発行事業者になるために必要な手続き

慎重な判断の結果、適格請求書発行事業者の登録をすることとなった場合には、下記の手続きが必要となります。

適格請求書発行事業者の登録

適格請求書発行事業者になるためには、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。

インボイス制度が開始される令和5年10月1日から登録を受けるためには令和5年3月31日までに行います。

適格請求書発行事業者になるための消費税課税事業者選択届出書

免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには、課税事業者になる必要があることから、消費税課税事業者選択届出書の提出が必要です。

消費税課税事業者選択届出書は原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出をする必要がありますが、適格請求書発行事業者への登録日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中である場合は、課税選択届出書を提出しなくても、登録を受けることが出来ます。

消費税の申告が必要となる時点

上記のように、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受けることとなった場合には、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。

この経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者の登録を受けた場合、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要となります。

インボイス制度の影響を受けない事業者

課税事業者はインボイスを発行するための手続きを要し、免税事業者はインボイスを発行しないことで市場において不利な状況となるため、多くの事業者が影響を受けるインボイス制度ですが、一定の事業者は影響を受けません

それはインボイスを発行する必要がないため、インボイスを発行するための手続きも、インボイスを発行しないことでの不利な状況にも陥らない事業者です。

適格請求書発行事業者になる必要がない事業者

適格請求書発行事業者になる必要がある事業者とは、売上の取引先が課税事業者であり、取引先の消費税額の増加による取引条件の悪化を防ぎたいと考える事業者です。

しかし、売上の取引先が課税事業者でない場合は、インボイスによる仕入であっても、従来の領収書や請求書による仕入であっても、そもそも売上の取引先に消費税の納付義務がない以上は、どちらでも影響がありません。

売上の取引先が課税事業者でない場合とは、一般消費者や免税事業者である事業者のみを売上の取引先として事業を行っている場合のことをいい、この場合は適格請求書発行事業者になる必要がありません。

影響を受けない業種とは?

一般消費者や免税事業者である事業者のみを売上の取引先として事業を行っている場合は、適格請求書発行事業者になる必要がありません。

売上の取引先が免税事業者であるかについては、いつその事業者が課税事業者になるか判断がしにくいため、一律にどのような仕事とはいえませんが、一般消費者のみを売上の取引先としている仕事には、下記のような内容を行う事業者が挙げることが出来ます。

・個人相手の美容院や理髪店、エステ店等の美容系の事業
・個人相手の学習塾、音楽教室、水泳教室等の習い事に類する事業 等

つまり、個人が私的に利用をし、経費として計上するために領収書の発行を求められることがないような仕事は、適格請求書発行事業者になる必要がないといえます。

売上の取引先が個人消費者と課税事業者の両者存在する場合

上記のように、売上の取引先が個人事業者や免税事業者である事業者のみである場合は、適格請求書発行事業者になる必要がありませんが、課税事業者にも売上の取引先がある場合には、検討が必要です。

例えば美容院が個人への散髪等のサービス提供をしながらも、シャンプー等の美容関係商品を課税事業者に販売している場合には、個人消費者と課税事業者の両者が存在する場合といえます。

この場合は、美容院を営む事業者が、既に課税事業者である場合には、適格請求書発行事業者になる方が、美容関係商品の取引先に負担をかけずに済むため、良いと考えられます。

しかし、美容院を営む事業者が免税事業者である場合には、適格請求書発行事業者になるためには課税事業者になる必要があり、美容院を営む事業者が消費税を納めるための負担を強いられるため、美容商品の取引先との兼ね合いにより、適格請求書発行事業者になるべきかについては、慎重に検討をする必要があります。

なぜインボイス制度が必要なのか

インボイス制度により、免税事業者は適格請求書発行事業者になるために課税事業者となって消費税を納めるのか、もしくは市場で不利な状況を受け入れて消費税の納税義務のない免税事業者を続けるのか、という選択を迫られています。

免税事業者にとっては非常に困難な判断を強いられている状況ですが、インボイス制度の導入の背景には、益税の解消という目的があるといわれています。

益税とは、消費者が事業者へ支払った消費税のうち、その消費税が国に納付されずに事業者の手元に利益として残る部分をいいます。

消費税は、商品を購入した消費者が負担をして、商品を売り上げた事業者が商品購入代金と共に預かり、事業者が国に納める間接税です。

事業者は国に納めるために一時的に消費税を預かっているという認識が、消費税の仕組みとしての原則ですが、事業者が納めるべき消費税額は、必ずしも消費者から預かった消費税額と同額とは限りません。

免税事業者は消費税の納付義務が無く、また簡易課税を選択している事業者は有利な計算方法により、消費者から預かった消費税額よりも、納めるべき消費税額を少なく計算することが出来、免税事業者、簡易課税を選択している事業者には益税が発生しています。

益税が発生をすることは、現時点での税制では免税事業者や簡易課税制度を認めていることから、合法的なことです。しかしながら、消費者が負担をした消費税額が事業者の利益となってしまっていることについて、問題視をする意見もあります。

まとめ

上記のように、免税事業者は適格請求書発行事業者になることが出来ないことから、適格請求書を発行することが出来ず、そのため取引先から取引を停止されたり、市場において排除されたり、不利な立場になる可能性が大いにあります。

よって、免税事業者は課税事業者となり適格請求書発行事業者となるか、又は免税事業者のまま事業を行うかの判断をすることを迫られています。

インボイス制度の仕組みや、課税事業者になった際の増加される消費税の税額算出を行いたい場合等、ご不明な点がございましたら、弊社までお気軽にご相談ください。