中小企業が規模の拡大やノウハウの獲得をしようとする場合に、これらを0から行うのでは、多くの資金と時間が必要となるため、近時においては、その解決手段として「M&A」が活用されています。M&Aをすることで、少ない手間や労力により事業やノウハウの獲得をすることができますが、通常、その実施には一定の資金が必要となるため、手元の資金で不足する場合には、融資を受けなくてはなりません。
この記事では、中小企業のM&Aの概要や手続きの流れ、利用できる融資制度について解説いたします。
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称ですが、一般的には株式譲渡や会社分割などの事業再編手段を含みます。
2020年の中小企業庁の試算によれば、2025年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)で後継者が未定となることが見込まれています。
後継者不在の中小企業では、何らの対策も講じない場合には廃業せざるを得ないこともありますが、その際には設備や在庫の処分、店舗の原状回復などにお金がかかるケースも少なくありません。2019年の日本政策金融公庫のデータによれば、100万円以上の廃業費用がかかっている企業は全体の36.3%となっています。
しかし、廃業ではなく、事業を譲り渡すならこうした費用が不要になる一方で、譲渡の対価を得ることができます。この点について上記データによれば、44%の企業が100万円以上の有償での引継ぎに成功しています。
また、廃業するとき従業員がいれば、それらを解雇しなければなりませんが、M&Aならば雇用をそのまま維持することも可能となります。
このような背景もある中で、最近ではM&Aに関する理解が広がり、活用に積極的な企業も増えつつあり、2019年に日本公庫総合研究所が行った調査によれば、「現在、売却を具体的に検討している」4.5%、「事業を継続させるためなら売却してもよい」45.%と、約半数の企業がM&Aに前向きであるという結果となっています。
このように、中小企業によるM&Aに関する基本的な認識やこれを取り巻く環境が大きく変化する中で、単純な事業の譲渡に限らず、最近では後継者難に悩む企業が第三者に事業を承継させるためのスキームの一つとしても活用されています。
M&Aの代表的な手法には、次のようなものがあります。
株式譲渡とは、事業の譲渡側の株式を、譲受側に譲り渡す手法であり、これにより譲渡側の企業が譲受側の会社の子会社や持分会社となります。
原則として、株式を譲り渡すだけのシンプルな手続きでできるため、多くの企業で利用されています。
会社の資産、負債、対外的な契約関係、許認可等も原則、そのまま承継される(但し、許認可については承継できないものもあり)ため、手続きの切り替えや許認可の取り直しなどをする必要がありませんが、簿外債務や契約上のリスクなどを引き継ぐ可能性があります。
事業譲渡とは、譲渡側企業が有する事業の全部又は一部を、譲受側企業に譲渡する手法です。
株式ではなく、事業そのものを譲り渡す点で、株式譲渡と異なります。
ただしこの場合は包括的な権利移転ができないため、債権や債務、契約関係等を個別に移転しなければなりません。また、移転するものの中に不動産が含まれている場合には、その移転登記手続きなども必要となります。
このように事業譲渡では権利や義務、許認可などの移転に手間がかかりますが、簿外債務などを引き継ぐリスクを回避できるという特徴があります。
会社分割とは、会社法が定める組織再編の手続の1つであり、会社の事業の全部又は一部を分割し、他の会社へ承継させる手続です。
この場合の承継は、原則、合併などと同様、包括承継となる他、一定の要件を備えた場合には、雇用や許認可等をそのまま引き継ぐことができます。
※ ただし、引継ぎができないものもあります
なお、会社分割が有効に成立するためには、債権者が異議申述期間を1ヶ月以上設ける債権者保護手続等の他、会社法上で定められた手続きを行う必要があります。
合併とは、特定の企業の権利義務の全部を他の既存会社もしくは新設会社に包括的に承継させる手続きです。
会社分割の場合は、原則として譲渡側企業がそのまま存続するのに対して、合併では元の企業は消滅することとなります。
合併のメリットとしては、企業が一体化することで規模やノウハウ、競争力を大きくできるなどの他、許認可等をそのまま引き継げるなどがあります。ただし、簿外債務・偶発債務などを引き継ぐリスクがあります。
M&Aには、売手と買手のそれぞれについてメリットとデメリットがあるため、この両方を十分に理解した上で行わないと、思わぬリスクを負ったり、十分な効果を発揮できないことがあります。
① 事業やノウハウを残すことができる
M&Aをすることで廃業することなく、事業資産やノウハウ、技術、人材等を新たな企業に引き継ぐことができます。
② 売却代金が得られる
M&Aでは、事業の売却に伴いその対価として代金が交付される場合があります。これを活用することで、経営者の生活資金への充当や経営者保証の解除等ができる可能性があります。
③ 従業員の雇用を守ることができる
通常、廃業した場合には従業員は解雇となりますが、M&Aにより事業を継続することにより、従業員の雇用を守ることができます。
① 経営資源を承継してスピーディな経営ができる
事業を成長させていくためには、「お客さまからの信頼」、「食材仕入等の取引基盤」、「地域での知名度」など、経営上の強みとなる経営資源が必要となりますが、これらを作り出すのは容易ではありません。しかし、M&Aをすることで、本来、ゼロからつくりあげていくこれらの経営資源を受け継ぐことができるため、スピーディに経営を始めることができます。
② 創業時のコストを軽減できる
創業の場合は、出店場所の確保や設備類の購入、取引先の開拓などを行わなくてはなりません。しかし、M&Aにより、これらの必要な資源を取得した状態で経営を始めることができるため、新たな設備投資を抑え、資金負担を減らせる可能性があります。
③ 受け継いだ知見やノウハウを活かすことができる。
事業アイディアを実現するには、多くのトライ&エラーが必要となりますが、それには多くの時間や労力がかかります。しかし、M&Aをした場合、そのために必要な知見やノウハウを受け継ぐことができるため、大きなアドバンテージとなります。
① 引受先企業が見つかるとは限らない
M&Aにおけるマッチングは運やタイミングにもよるため、時間や労力をかけても希望の相手に出会えなかったり、成約できないことがあります。
② 予定の金額で売却できない可能性がある
事業の売却額は最終的に、当事者双方の合意により決まるため、金額について双方で大きな隔たりがある場合には、予定した価格で売却できないことがあります。
③ 周囲の協力や理解の取り付けが必要
スムーズにM&Aを成功させるためには、あらかじめ家族や従業員、取引先等の理解や協力を取り付けておく必要があります。
① 簿外債務等が存在する可能性がある
M&Aでは、財務等のデューデリジェンスを行うのが基本です。しかし、事業の規模が小さな場合にはデューデリジェンスを行わないもしくは簡易的に済ませる場合があり、このような場合には簿外債務を引き継ぐリスクがあります。
② 店舗や従業員の引継ぎで問題が生じる可能性がある
譲渡側企業の店舗や従業員を引き継ぐ場合、店舗の立地が限定される、従業員との信頼関係が構築できない等の問題が生じる可能性があります。
③ デューデリジェンス等の手続きに手間や費用がかかる
デューデリジェンスは、安全・公平なM&Aのために欠かせない手続きです。しかし、弁護士や税理士等の専門家に依頼する必要があるため、その実施には一定の時間や費用がかかります。
一般的に、中小企業のM&Aは、以下のフローに沿って行うことが多いですが、企業の事業規模が小さな場合には、より簡易的に行われることもあり、そのため、実際の手続きでは相互の企業規模や状況、手数料などを考慮し、柔軟に行うこととなります。
なお、下記フローは、仲介者やFAを選定することを前提としたものとなります。
<中小M&Aのフロー>
① 身近な支援機関への相談
② 後継者不在の確認
③ M&Aの意思決定
④ バリエーションの算定
⑤ 譲受側企業の選定
⑥ 交渉手続き
⑦ 基本合意の締結
⑧ デューデリジェンス
⑨ 最終契約の締結
⑩ クロージング
⑪ クロージング後の手続き
譲渡側企業の経営者がM&Aの意思決定を行うにあたっては、さまざまなポイントを検討しなければなりません。
しかし、経営者本人が専門的な知見を有さない場合や進め方のプロセスについて不安がある場合には、最終的な意思決定をする前に、身近な支援機関へ相談し、方針についてのアドバイスや大まかな成功の見込み、費用などについて確認することが重要となります。
具体的な相談先としては、事業引継ぎ支援センター、商工団体、士業等専門家、金融機関等がありますが、この中でも取引先金融機関には早めに相談すべきといえます。
なお、相談の際には、直近3年分の税務申告書・決算書(すべての別表等を含む。)・勘定科目内訳明細書の写し、会社の登記事項証明書、会社案内、自社ホームページの写しなどを用意した方がスムーズとなります。
また、マイナスな情報や後ろめたい情報がある場合には、支援機関に先に伝えておくと、後日のトラブルや方針の間違いなどを防ぐことができます。
後継者不在型のM&Aでは、親族や社内に後継者候補がいないことが前提となるため、この点につき間違いがないかを確認しておく必要があります。
親族内承継を希望する親族がいる場合やその可能性がある場合には、しっかりとM&Aをすることについての了承を得ておかないと後日にトラブルとなります。
同様に従業員についても、承継を希望するものがいないことを確認しましょう。
なお、社内に株券の保有をしている人間がいる場合や所在不明の株主がいる場合には、M&Aを実行する際に重大な障害となるおそれがあるため、事前に買取りなどの手続きをしておく必要があります。
また、株主名簿が正しく整備されているか、実際に出資していない親族・知人等の名義になっている株式がないかなどについても注意が必要です。
支援機関に相談し、整理すべき事項をまとめたら、M&Aをするかしないかについて意思決定をする必要があります。
M&Aの手続きをする上では、「仲介者・FAを選定する場合」と「仲介者・FAを選定せず、自ら行う場合」のいずれかとなりますが、どちらにするかにより、その後の進め方や、手続きの負担が大きく異なるため、この点を考慮に入れて慎重に検討するようにしましょう。
なお、仲介者とFAとでは、次のような違いがあります。
<仲介者>
譲り渡し側と譲り受け側の双方と契約を締結し、サポートをする支援者です。両当事者の事情が分かるため、意思疎通がしやすく、円滑な手続きが期待できます。また、双方から手数料を取るため、一社当たりの金額を押さえられるケースが多いといえます。
<FA>
譲り渡し側、または譲り受け側の一方と契約を締結し、サポートをする支援者です。契約した当事者にとって、有利な助言や指導等が期待できる一方、手数料は高めとなることが多いといえます。
また、仲介者やFAの選定の際には、テール条項の有無についても確認しておきましょう。
テール条項とは、契約期間内にM&Aが成立しなかった場合でも、その後の一定期間内に譲渡側企業がM&Aを行った場合には、その取引を仲介者・FAが行ったものとみなして手数料を請求できる条項をいいます。このような条項があるとその後のM&Aの支障となる可能性があります。
また、M&Aをする上での希望条件についても、絶対に守りたいと思うことを中心に内容を明確にし、優先順位付けをしておくことで、円滑に交渉を進めやすくなります。
バリエーションとは、企業価値評価や事業価値評価のことを意味し、具体的には仲介者・FAや士業等専門家が、譲渡側企業の経営者との面談や提出資料、現地調査等にもとづいて評価を行います。
中小企業のM&Aでは、「簿価純資産法」、「時価純資産法」、「類似会社比較法(マルチプル法)」といった手法により算定した事業価値をベースとして譲渡額を交渉するケースが多いですが、事例ごとに適切な方法は異なります。
また、これらの方法により算出された金額が必ずそのまま譲渡額となるわけではなく、交渉等の結果、「簿価純資産法」または「時価純資産法」で算出された金額に数年分の任意の利益を加算する場合等もあります。
通常のマッチングにおいては、まずは、譲渡側企業を特定できない形で作成された資料(ノンネーム・シート)を、一定の条件にもとづき数十社程度にまで絞り込んだリスト(ロングリスト)の企業に送付し打診します。
その上で、関心を示した候補先から譲り受け側となり得る数社程度をリスト(ショートリスト)化し、これらとの間で秘密保持契約を締結した上で、その後の手続を進めていきます。
なお、この作業においては、仲介者・FAとの間で、打診を行う優先順位について十分な話し合いを行い、依頼者側もマッチングを希望する候補先、あるいは打診を避けたい先などを、事前に仲介者・FAへ伝えることなどが重要となります。
交渉の進め方は、譲渡側・譲受側の関係や事業の類似性、仲介者・FAとの関係度合、双方の企業の経営者同士の面談(トップ面談)の時期や方法も含め、さまざまな形態があります。
とくに、トップ面談は、譲受側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会となります。
しかしその一方で、交渉時の態度や表情も相手方に直接伝わりやすく、不用意な言動も信頼を損なうおそれがあるため誠意ある態度で真摯に臨む必要があります。
当事者間の交渉により大体の条件の合意に達した場合には、譲渡側と譲受側との間で最終契約におけるスキーム(株式譲渡や事業譲渡といった手法)、譲渡対価の予定額や経営者その他の役員・従業員の処遇、最終契約締結までのスケジュールなどを確認し、これらの事項を盛り込んだ基本合意を締結します。
なお、基本合意の締結にあたっては、当事者企業のみで行うのではなく、仲介者・FAや士業等専門家の助言を受けて、もしくは立ち合いにより調印することが大切です。
ただし、資金繰り等の関係で、クロージングを急ぐ必要がある場合には、基本合意を締結せず、秘密保持契約だけを行い、最終契約締結に進むケースもあります。
デューデリジェンスとは、譲渡側企業の財務・法務・ビジネス等の実態について、FAや士業等専門家を活用して調査をするプロセスで、主に譲受側起業が行います。
譲渡対価額の精査や、判明した実態を踏まえて更に事業の改善を行う目的で行われるもので、どのような調査を行うかについては、原則、譲り受け側企業の意向に従います。
なお、デューデリジェンスは、想定されるすべてのリスクについて行われる場合の他、税務のみのように調査項目を限定した簡易な形で行うこともあり、また、M&Aの実務においては、譲り渡し側の数年分の税務申告書の確認及び譲渡側企業の経営者へのヒアリング等だけで終えることもあります。
デュー・デリジェンス後は、調査で発見された事実やまだ決定されていない項目について再交渉を行い、必要な事項が網羅されているかを最終的に確認した後、調印を行います。
契約に盛り込む内容や条件を早い段階から仲介者・FAに伝えておくと、円滑な契約締結につながりやすくなります。
なお、通常、譲渡対価の支払いは、クロージングの完了後に行われますが、M&Aに関する情報をクロージング後に公表する旨の合意をしている場合には、それまでの間、秘密保持を貫く必要があります。
クロージングとは、M&Aの手続きを完了させる行為であり、このときに株式の引き渡しや譲渡対価の支払いなどを行います。
事業譲渡の手法を選択し、承継対象財産の中に不動産が含まれる場合には、司法書士の立会いの下で登記必要書類と譲渡対価を交換して行うのが一般的です。また、金融機関からの借入れにともない不動産への担保設定がある場合は、担保解除につき取引金融機関の同意が必要となります。
クロージングを迎えた後、譲渡側企業の経営者は、譲受側企業への円滑な引継ぎの一環としてPMI(M&A実行後における事業の統合に伴う作業)等に協力します。
具体的な引継ぎ作業としては、以下のようなものがあります。
これらの作業には、3カ月~1年程度の時間を要することが多いですが、具体的な内容やかかる期間は事業ごとに異なります。
M&Aを行う場合、さまざまな費用がかかります。そのため、これらの費用について、資金調達をする場合には、事前にどの程度の費用がかかるのかを詳細に見積もったうえで融資の申込みをする必要かあります。
事業の譲渡をする場合などには、買収のための資金が必要となります。買収金額は、最終的には当事者間の合意により決定されますが、規模が大きな場合や事業価値が高い企業の買収の場合には、必要となる金額も数百万円から数億円と大きくなります。
M&Aの仲介会社に依頼して手続きをした場合には、これらの会社に対して一定の報酬等を支払う必要があります。報酬の内容は仲介会社との契約により決まりますが、一般的には、着手金、成功報酬の他、リティナ―フィー(顧問料)が必要となる場合もあります。
また、成功報酬の算定については定額制、定率制、レーマン方式制(買収価格により手数料の率が変動する算定方式)などがあり、どれを採用しているかは仲介会社により異なります。
そのため、仲介会社を利用した場合には、その規模に応じた手数料や報酬が必要となりますが、小さな規模の案件でも100万円~300万円程度の資金が必要となります。
デューデリジェンスは、買収や譲受会社が相手先企業に対して行う、財務や業務に関する事前の調査です。これを行うことにより、簿外債務や偶発債務、法律上の手続きの不備の確認や訴訟リスクを軽減することができます。
デューデリジェンスの対象項目としては、財務・税務に関するものがメインとなりますが、それ以外にも必要に応じて法務・労務・許認可等などについて行う場合もあります。
デューデリジェンスの費用は調査項目にもよりますが、財務・税務に関するデューデリジェンス行った場合の相場の額は数十万円〜200万円程度となります。
M&Aで会社を買収したときは、相続税が必要となることがあります。
M&Aで会社や事業を買収した場合には、相続税はその事業の売買価格ではなく、原則として、財産評価基本通達にもとづく相続税評価額により算定されます。
大規模なM&Aほど相続税は高くなりますが、その支払いは会社の引き渡しのときに必要となるため、「M&Aは成立したけれど相続税が払えない」ということのないように準備する必要があります。
M&Aでは、直接的な買収費用以外にも、従業員の給与や移転の支度金、印紙代、設備や備品の購入費等の費用が発生します。
また、M&Aの方法によっては役員変更や事業目的の追加、不動産の所有権移転などの登記手続きが必要になる他、ケースによっては許認可の取得の費用も必要となります。
これらの費用を手持ちの資金で賄うことができない場合には、金融機関から融資を受ける必要がありますが、総額でいくらの資金が必要となるのかを明確にするため、各費用でかかる額を正確に把握しておく必要があります。
M&Aの実施には一定の資金が必要となりますが、その調達方法としては、以下のような制度が利用できます。
<事業承継・集約・活性化支援資金(国民生活事業)>
「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業の譲渡、株式の譲渡、合併などにより事業承継やM&Aに取り組む中小企業の資金調達を支援する融資制度です。
法人だけでなく、個人事業主や創業者も利用することができます。
① 利用対象 |
|
② 資金使途 | 事業承継等に必要となる設備資金および運転資金 |
③ 融資限度額 | 別枠7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
④ 返済期間 | 設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内> 運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内> |
⑤ 利率 | 原則、基準金利。ただし、一定の条件に該当する場合には特別金を適用 |
⑥ 担保・保証 要相談 | ただし、無担保無保証を希望する場合には、以下の制度を併用できます。 【税務申告を2期終えていない方】 新創業融資制度 【税務申告を2期以上終えている方】 担保を不要とする融資制度、経営者保証免除特例制度 |
この条件は小規模中小企業向けの国民生活事業のものとなりますが、中規模以上の企業で利用できる中小事業向けの場合には、融資限度額は7億2千万円となります。
信用保証協会による保証とは、中小企業が金融機関から事業融資を調達する際に、信用保証協会が保証人となって融資をサポートする制度です。
信用保証協会では、事業承継やM&Aに関し以下のような保証を行っています。
<事業承継特別保証>
「事業承継特別保証」は、経営者保証が不要であり、また経営者保証ありの既存の借入金についても借換えにより経営者保証を不要にすることが可能な保証制度です。
さらに、経営者保証コーディネーター(※)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。
※経済産業省の委託又はその委託を受けた者の再委託を受けて事業の承継に対する支援に係る事業を行う者(事業承継ネットワーク地域事務局等)が雇用する専門家です。
① 利用対象 | 次の1又は2に該当し、かつ、3に該当する中小企業者
|
② 資金使途 | 事業資金。ただし、既存のプロパー借入金(個人保証あり)の本制度による借り換えも可 |
③ 保証限度 | 2億8,000万円 |
<事業承継サポート保証>
持株会社を設立し、持株会社が事業会社の株式を買い取る資金に利用できる保証制度です。
① 利用対象 | 新設持株会社 |
② 資金使途 | 事業会社の株式取得資金 |
③ 保証限度 | 2億8,000万円 |
<特定経営承継関連保証>
後継者である中小企業者の代表者が経営の承継に伴い当該中小企業者以外の者から株式等を取得するために必要な資金に利用できる保証制度です。
① 利用対象 | 経営承継円滑化法第12条第1項第1号イの規定による経済産業大臣の認定を受けた代表者 |
② 資金使途 | 株式等の取得資金 事業用資産の取得資金 事業用資産等に係る相続税又は贈与税の納税資金 遺産分割に伴う返済資金又は遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額 認定中小企業者の事業活動の継続に特に必要な資金 |
④ 保証限度 | 2億8,000万円 |
<経営承継準備関連保証>
M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。
① 利用対象 | 経営承継円滑化法第12条第1項第1号ロ、第2号ロ又は第1号ハ(※)の規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者 |
② 資金使途 | 株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金 |
④ 保証限度 | 2億8,000万円 ※ 第1号ハに該当し、一定の要件を満たす場合には連帯保証人を徴求しない。 |
<特定経営承継準備関連保証>
従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。
① 利用対象 | 経営承継円滑化法第12条第1号第3号の規定による経済産業大臣の認定を受けた事業を営んでいない個人 |
② 資金使途 | 株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金 |
④ 保証限度 | 2億8,000万円 |
<経営承継借換関連保証>
経営者保証を提供している金融機関からの借入れによる債務を経営者保証が不要とする融資に借り換えるための保証制度です。
さらに、経営者保証コーディネーター(※)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。
※経済産業省の委託又はその委託を受けた者の再委託を受けて事業の承継に対する支援に係る事業を行う者(事業承継ネットワーク地域事務局等)が雇用する専門家です。
① 利用対象 | 経営承継円滑化法第12条第1項第1号ニの規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者 |
② 資金使途 | 経営の承継に必要な資金のうち、認定日から経営承継日までの借換資金 (代表者が保証債務を負う借入に限る) |
③ 限度額 | 2億8,000万円 |
制度融資とは、都道府県や市区町村などの自治体と信用保証協会、金融機関の3者が協調して、中小企業の融資を受けやすくするための仕組みです。
金融機関から申し込むことで、信用保証協会の保証のついた融資を受けることができます。
制度融資は、自治体ごとで行われているため、その内容も地域ごとに異なりますが、M&Aに関する代表的な融資制度としては、以下のようなものがあり。
<事業承継融資(M&Aつなぎ)-東京都>
① 利用対象 | M&Aにより事業承継に取り組む中小企業者(ただし、売却側で廃業を前提としている場合は含まない) |
② 資金使途 | 運転資金・設備資金 |
③ 限度額 | 2,500万円 |
④ 返済期間 | 3年以内 |
⑤ 利率 | 固定1,7%以内 |
⑥ 担保保証 | 原則として法人代表者を除き連帯保証人は不要 |
<新たな事業展開対策融資-神奈川県>
① 利用対象 | 新たな事業展開、新規販路の開拓や事業改善等を行う中小企業者等 |
② 資金使途 | 運転資金・設備資金 |
③ 限度額 | 8,000万円 |
④ 返済期間 | 10年以内 |
⑤ 利率 | 固定2,1%以内 |
⑥ 担保保証 | 原則として法人代表者を除き連帯保証人は不要。担保は必要に応じて |
<事業承継資金-横浜市>
① 利用対象 | 次のいずれかに該当する方
|
② 資金使途 | 事業承継に伴い必要な運転資金・設備資金 |
③ 限度額 | 2億8,000万円 |
④ 返済期間 | 運転資金10年以内 設備資金15年以内 |
⑤ 利率 | 金融機関所定利率 |
⑥ 担保保証 | 必要に応じて担保をつける |
M&Aの融資には、通常の事業資金の調達とは異なる部分が多いため、以下の点について注意する必要があります。
金融機関が買収資金の融資を検討するにあたって、もっとも重視するのが企業の収益力です。これは、買収企業については当然ですが、それだけでなく売却側の企業も審査の対象となります。
審査では、融資資金の返済が問題なくできるのかといった返済力を中心にみられることとなりますが、それ以外にもキャッシュフローがどの程度あるのかも重要なポイントとなります。
通常、M&A資金の融資については、一般的な事業資金と異なり、いきなり融資がOKとなることはほぼありません。そのため、商工会議所や政府機関が行っている相談窓口を利用し、そこからの紹介を受けるという形がスムーズといえます。また、信用保証協会を利用する場合には、協会にも事前に相談しておく必要があります。
このようにM&A資金の借入れを希望する場合には、取引銀行にアナウンスしておくだけでなく、関係箇所に対しても協力を取り付けておくことが重要となります。
M&A資金の融資においては、企業の収益力だけでなく、財務内容も重視されます。
通常はM&Aにより、資産や負債、売掛・買掛金、動産・不動産などの資産や負債が増加することとなります。
一般的な事業資金の融資であれば、現状の財務内容を確認すれば、ある程度の評価をすることができますが、M&Aをする場合には「資産や負債がどの程度増減するのか?」や、「今後の経営にどのように影響するのか?」を予測した上で判断する必要があります。
とくに負債の引継ぎをする場合には、その後の経営への影響が大きいため、慎重な判断となります。また、融資をするあたり担保が必要となる場合には、「それらの時価評価がいくらなのか?」や、「資金の保全に十分なのか?」といったことも、審査の対象となります。
これから行おうとするM&Aの事業プランがどのようなものなのかという点は、大きなポイントとなります。
具体的には、「そのM&Aによりどのようなシナジー効果が得られるのか?」や、「業界におけるシェアーはどう変化するのか?」、「それにより収益や収益体質はどう変化するのか?」などが大きなポイントとなります。
そのため、短期的な収益が見込める内容であっても、中長期的に見た場合に企業の競争力が低下する、または、シナジーが見込めないものである場合には、融資が難しくなることもあります。
M&Aは、新たに事業を始める場合と比べて、少ない手間や労力で事業やノウハウの獲得をすることができるだけでなく、譲渡側の企業にとっても、売却代金が見込める、事業承継ができる、従業員雇用を守れるなどメリットがあります。
しかし、通常、M&Aの実施には一定の費用がかかるため、これをする場合には、M&Aの手続きだけでなく、資金の確保についても検討しておく必要があります。
M&A資金の調達手段としては、日本政策金融公庫や制度融資を利用する、信用保証協会から保証を受けるなどの方法がありますが、進め方や審査には通常の事業資金の融資とは異なる部分も多いため、しっかりと金融機関等と連携しながら準備をすることが重要となります。