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事業承継に役立つローンとは?事業承継にかかる費用や支援策についても解説

事業承継をお考えの方の中には「どんな費用が必要になるのだろうか?」、「不足する資金をどこで調達すればよいのだろうか?」とお悩みの方も少なくないと思います。

一般的に事業承継をする場合には、税金や株式の買取り費用等が必要となりますが、手持ちの資金で不足する場合には、融資やローンを利用する必要があります。

この記事では、事業承継の現状やかかる費用、利用できる融資や補助金について解説いたします。

中小企業の事業承継の状況

現在、日本では中小企業の数が総企業数の約99%(小規模事業者は約85%)、従業員数では約69%(小規模事業者は約22%)を占めており、重要な雇用の受け皿となっています。

しかしながら、全国の経営者の平均年齢は、1990年の54.0歳から上昇を続け、2020年には初めて60歳を超えるところとなり、2015年には経営者年齢のピークは「65歳~69歳」になるなど高齢化が進んでいます。

実際に、日本政策金融公庫総合研究所が2020年に公表した調査によれば、回答企業のうちの半数以上が廃業を予定しており、そのうちの29.0%が「子供がいない」、「子供に継ぐ意思がない」、「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を理由として挙げています。

また、廃業予定の会社については、業績が悪化しているところもあるものの、調査結果によれば約6割の企業が黒字廃業(休廃業の直前期の決算で当期損益が黒字であったケース)となっており、企業の業績とは関係なしに後継者不足が深刻化していることがわかります。

このように本来であれば、必要のない企業まで廃業せざるを得ない事態を食い止め、円滑な事業承継を実現するには、早期に事業承継の計画を立て、後継者の確保を含む準備に着手することが不可欠となります。

また、2021版庁「中小企業白書」によれば、経営者の交代があった中小企業においては、交代のなかった同業種の中小企業よりも利益率が1年後では23.3%、3年後では24.4%、5年後では17.4%も高くなっていることから、事業承継は後継者問題の解決だけでなく、事業の成長の契機となる可能性が高いといえます。

事業承継ローンと事業承継の3つのパターン

事業承継ローンとは?

「事業承継ローン」とは、事業承継にともなって発生する費用の支払いを目的とした融資のことをいいます。最近では、多くの民間金融機関や政府系金融機関で取り扱いがされています。

事業承継を行う際、後継者には贈与税、相続税などの税金や、資産、株式の買い取りなど、ケースに応じて多額の資金が必要となります。

これらの費用を手持ちのキャッシュだけで賄うことができる場合はよいですが、不足する場合には事業承継ローンを利用する必要があります。

なお、事業承継ローンは一般的な事業性融資の一部であり、借入れの方法が特別異なるわけではありませんが、資金使途が事業承継やM&A資金に限定されていることがほとんどのため、通常の運転資金や設備資金の目的で利用することは、原則としてできません。

事業承継の3つのパターン

事業承継の方法は、誰に事業を承継するかにより、「親族内での承継」、「従業員承継」、「M&Aによる社外への承継」の3つのパターンに分類されます。

親族内承継

「親族内承継」とは、現経営者の子をはじめとした親族に事業を承継させる方法で、もっとも一般的なパターンとなります。

他の方法と比べて、

  • 内外の関係者から受け入れられやすい
  • 長期の準備期間を確保しやすい
  • 相続等により財産や株式を後継者に移転できるため、所有と経営の一体的な承継が期待できるといった

などのメリットがあります。

ただし、事業承継を行うに当たっては、以下のような資金が必要となる可能性があります。

  • 先代経営者からの株式や事業用資産の買取資金
  • 相続に伴い分散した株式や事業用資産の買取資金
  • 先代経営者の株式や事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税資金
  • 事業承継後に経営改善や経営革新を図るための運転資金

そのため事業承継を行う場合には、事前に税理士などの専門家に費用や税額を見積もっておいてもらうとともに、取引金融機関等との間で事業承継計画や課題、資金ニーズについての認識を共有しておくことが重要となります。

従業員承継

「従業員承継」とは、「親族以外」の役員・従業員に事業を承継させる方法です。

従業員承継には、能力のある人材を見極めて承継させやすいこと、会社をよく理解している社員であれば承継後も経営方針の一貫性を保ちやすいといったメリットがあります。

従業員承継の割合は近年、増加しており、これまで大きな課題であった資金の問題についても、種類株式や持株会社、従業員持株会を活用するスキームの浸透や、税制改正等により

実施しやすい環境が整いつつあります。

従業員承継の場合も、贈与税やその他の税金・手数料が発生しますが、この場合には親族内承継と比べて税金の優遇が少なくなる、手続きが複雑となる分仲介会社や専門家に支払う費用が多くなることから、十分な資金対策をする必要があります。

社外への引継ぎ(M&A)

「社外への引継ぎ」は、株式譲渡や事業譲渡等により社外の第三者に事業を引き継がせる方法をいいます。

親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができることや、現経営者は会社の売却により利益を得ることができるなどのメリットがあります。

しかし、社外への引継ぎの場合には、譲渡側の企業では仲介会社等や専門家への報酬支払い、経営者保証の解除が必要となり、譲受側では買収資金やその後の統合作業等の費用が必要となります。

M&Aを活用した事業承継は、近年増加傾向にあり、認知度も高まりつつあります。

また、融資についても、原則、親族内承継の場合と同様の制度が利用できますが、実質的には新たな事業への貸付とほぼ同じこととなるため、金融機関から融資を受ける場合のハードルは高くなります。

代表的な事業承継ローンの活用のケース

以上のように事業承継においては、さまざまなシーンで資金が必要となりますが、とくに事業承継ローンがよく利用されるケースとしては、次のようなものがあります。

事業用資産の買い取り

事業承継が完了する前に、十分な対策をせずに現在の経営者が亡くなってしまうと、店舗や土地等の事業に必要な資産が承継をしない相続人に渡ったり、共有されてしまうことがあります。

このような事態を防ぐには、株式や不動産等を相続した人から買い取る必要がありますが、そのための資金がない場合には事業承継ローンを活用し、対策資金を確保する必要があります。

事業承継後の資金の獲得

経営者の多くは会社の借入金に対して個人で連帯保証人となっていることがほとんどです。

しかし、このような場合、連帯保証が後継者の負担になることから、経営者の中には自分の代で個人保証の解除を希望する方も少なくありません。

しかし、経営者が個人保証を解除すると、金融機関は後継者の信用度や実績の乏しさを理由に融資に消極的となるケースがあります。

このようなときに、事業承継ローンによる借換えを活用して現在の債務を返済し、新たな借り入れについては経営者の保証をつけない融資とすることが可能です。

各種の納税資金

経営者が亡くなったとき、相続財産があると後継者に相続税が、また、経営者の生前に後継者への贈与が行われた場合は、贈与税がかかることがあります。

しかし、相続財産等が土地や建物などの不動産や動産の場合には、すぐに現金化することが難しいため、手持ち資金が十分でないと納税資金が不足することになります。

このような場合、事業承継ローンを活用することで、納税に必要な資金を確保することができます。

M&Aの事業資金

事業承継は、営業譲渡や会社分割などのM&Aを活用しても行うことができますが、その他には、M&Aの仲介会社に依頼をした場合の手数料や成功報酬、デューデリジェンス手数料、M&Aに関する諸費用などが必要となります。

これらの額は数百万円~数億円となることもあるため、手持ちの資金で不足する場合には、その分について融資等を受ける必要があります。

事業承継ローンの申し込み手続きの流れ

事業承継ローンは通常の事業資金の融資とは異なるため、事前にどのように手続きをしておくべきかや、その流れを確認しておく必要があります。

① 必要な資金額を把握する
融資の申込みの時には、融資額を確定させておく必要があります。

通常の事業資金の融資であれば「設備資金として〇円」や「〇か月分の運転資金として〇円」などのように、比較的簡単に金額を算定することができますが、事業承継資金の場合には、その手法や承継の内容により必要となる金額はさまざまです。

とくに納税資金や事業の買取り資金については、専門家による調査をした上でなければ正確な金額を算定するのが難しい場合が少なくありません。

したがって、事業承継ローンの申込みをする場合には、まずは専門家に相談し、必要額を目核にする必要があります。

② 事業承継計画書を作成する
通常の融資申込みは借入申込書を提出して行いますが、事業承継やM&A資金については、内容が複雑となることから、事業計画書を作成するのが普通です。

計画には、承継に至る経緯や、資産・負債の状況、問題点、必要な資金額、今後の方針などについて記入します。専門的な部分については、専門家やコンサルに協力してもらうと、間違いのないものが作成できます。

③ 金融機関や支援機関への相談
民間の金融機関では事業承継ローンの扱いに慣れていないところも多いため、いきなりローンを申し込んでも断られてしまうことが少なくありません。

そのため、融資の申込みをするときにはその前に、金融機関や事業承継引継ぎ支援センター、中小企業振興公社などの公的な機関に相談することをおすすめします。

②で作成した事業計画書をもとに取引金融機関に説明することで、金融機関側では時間をかけて内容を検討することができます。

また、公的機関では、事業承継に関する相談に乗ってもらえるだけでなく、計画の内容やスキームに関するアドバイスの他、必要に応じて金融機関との橋渡しをしてもらえます。

このように公的機関に間に入って調整をしてもらうことで、金融機関との協議をスムーズに進めることが可能となります。

④ 事業承継ローンの申込み
必要資金額の目途や事業計画書の作成ができたら、金融機関へ融資の申込みをします。

申込む先は、取引先の金融機関へ申し込む場合にはその支店、日本政策金融公庫などの政府系金融機関へ申し込む場合には、事業所を管轄する支店へ申し込みます。

融資申込みに必要な書類については、金融機関から指示がありますが、通常は以下のような書類を準備します。

  • 借入申込書
  • 代表者の身分証明書
  • 法人の登記事項証明書
  • 直近2~3期分の決算書や確定申告書
  • 事業で使用している通帳
  • 会社案内、ホームページをダウンロードしたもの
  • 決算月から6か月以上経過している場合には、試算表
  • 既存の借入れがある場合には、借入の内容がわかる資料
  • 事業計画書
  • 経営者について相続が発生している場合には、相続人関係説明図、戸籍、遺産分割協議書のコピー
  • 納税証明書
  • 設備投資を行うときは、設備の見積書など
  • 不動産担保の提供をする場合は、不動産の登記事項証明書、公図等

状況によっては、これらの書類以外のものを求められることもあるため、具体的には金融機関の指示に従ってください。

⑤ 審査・契約手続き
申込みをした後は、審査が行われます。

審査では、金融機関の担当者が物件の確認のために現地や事務所を訪問することや、申し込みや計画の内容について面談をすることがあるので、事前にそれらの内容を説明できるようにしておきます。

⑥ 融資決定後、貸付契約の打ち合わせをする
審査の結果、融資が決定した場合には本人にその旨の連絡がされ、その後に融資の契約(金銭消費貸借契約)の締結が行われます。また、不動産への担保設定をする場合には、根抵当権などの権利設定手続きも同時に行われます。

⑦ 資金の入金
契約手続きが完了後、1~2週間後に口座へ資金の入金がされます。

事業承継に利用できる融資の種類

事業承継の実施には一定の資金が必要となりますが、その調達方法としては、以下のような制度が利用できます。

日本政策金融公庫による事業承継ローン

<事業承継・集約・活性化支援資金(国民生活事業)>

「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業の譲渡、株式の譲渡、合併などにより事業承継やM&Aに取り組む中小企業の資金調達を支援する融資制度です。

法人だけでなく、個人事業主や創業者も利用することができます。

① 利用対象
  1. 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者と共に事業承継計画を策定している方
  2. 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方
  3. 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化の規定に基づき一定の認定を受けた中小企業者の方
  4. 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難になっている方であって、公庫が融資に際して経営者個人保証を免除する方
  5. 事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化・事業転換)または新たな取組みを図る方
② 資金使途事業承継等に必要となる設備資金および運転資金
③ 融資限度額別枠7,200万円(うち運転資金4,800万円)
④ 返済期間設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内>
運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内>
⑤ 利率原則、基準金利。ただし、一定の条件に該当する場合には特別金を適用
⑥ 担保・保証   要相談ただし、無担保無保証を希望する場合には、以下の制度を併用できます。
【税務申告を2期終えていない方】  新創業融資制度
【税務申告を2期以上終えている方】 担保を不要とする融資制度、経営者保証免除特例制度

上記の条件は小規模中小企業向けの国民生活事業のものとなりますが、中規模以上の企業で利用できる中小事業の場合には、融資限度額は7億2千万円となります。

信用保証協会による事業承継ローン保証

信用保証協会による保証とは、中小企業が金融機関から事業融資を調達する際に、信用保証協会が保証人となって融資をサポートする制度です。直接融資を得るのではなく、融資のための保証となります。

信用保証協会では、事業承継やM&Aに関し以下のような保証を行っています。

<事業承継特別保証>
「事業承継特別保証」は、経営者保証が不要であり、また経営者保証ありの既存の借入金についても借換えにより経営者保証を不要にすることが可能な制度です。

さらに、経営者保証コーディネーター※による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。

※経済産業省の委託等を受けて事業の承継に対する支援に係る事業を行う者(事業承継ネットワーク地域事務局等)が雇用する専門家です。

① 利用対象次の1又は2に該当し、かつ、3に該当する中小企業者
  1. 保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人
  2. 令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、事業承継日から3年を経過していないもの。
  3. 次の(1)から(4)までに定める全ての要件を満たすこと。
    (1)資産超過であること
    (2)EBITDA有利子負債倍率※が10倍以内であること
    ※EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)
    (3)法人・個人の分離がなされていること
    (4)返済緩和している借入金がないこと
② 資金使途事業資金。ただし、既存のプロパー借入金(個人保証あり)の本制度による借り換えも可
③ 保証限度2億8,000万円

<事業承継サポート保証>

持株会社を設立し、持株会社が事業会社の株式を買い取る資金に利用できる保証制度です。

① 利用対象新設持株会社
② 資金使途事業会社の株式取得資金
③ 保証限度2億8,000万円

<特定経営承継関連保証>

後継者である中小企業者の代表者が経営の承継に伴い当該中小企業者以外の者から株式等を取得するために必要な資金に利用できる保証制度です。


① 利用対象経営承継円滑化法第12条第1項第1号イの規定による経済産業大臣の認定を受けた代表者
② 資金使途株式等の取得資金
事業用資産の取得資金
事業用資産等に係る相続税又は贈与税の納税資金
遺産分割に伴う返済資金又は遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額認定中小企業者の事業活動の継続に特に必要な資金
③ 保証限度2億8,000万円

<経営承継準備関連保証>

M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。

① 利用対象経営承継円滑化法第12条第1項第1号ロ、第2号ロ又は第1号ハ(※)の規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者
② 資金使途株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金
③ 保証限度2億8,000万円

※ 第1号ハに該当し、一定の要件を満たす場合には連帯保証人を徴求しない。

<特定経営承継準備関連保証>

従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。

① 利用対象経営承継円滑化法第12条第1号第3号の規定による経済産業大臣の認定を受けた事業を営んでいない個人
② 資金使途株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金
③ 保証限度2億8,000万円

制度融資による事業承継ローン

制度融資とは、都道府県や市区町村などの自治体と信用保証協会、金融機関の3者が協調して、中小企業の融資を受けやすくするための仕組みです。

金融機関から申し込むことで、信用保証協会の保証のついた融資を受けることができます。

制度融資は、自治体ごとで行われているため、その内容も地域ごとに異なりますが、事業承継に関する融資制度としては、以下のようなものがあり。

<事業承継融資(M&Aつなぎ)-東京都>

① 利用対象M&Aにより事業承継に取り組む中小企業者 (ただし、売却側で廃業を前提としている場合は含まない)
② 資金使途運転資金・設備資金
③ 限度額2,500万円
④ 返済期間3年以内
⑤ 利率固定1,7%以内
⑥ 担保保証原則として法人代表者を除き連帯保証人は不要

<新たな事業展開対策融資-神奈川県>

① 利用対象新たな事業展開、新規販路の開拓や事業改善等を行う中小企業者等
② 資金使途運転資金・設備資金
③ 限度額8,000万円
④ 返済期間10年以内
⑤ 利率固定2,1%以内
⑥ 担保保証原則として法人代表者を除き連帯保証人は不要。担保は必要に応じて

<事業承継資金-横浜市>

① 利用対象次のいずれかに該当する方
  1. 事業継続が困難な事業者から事業用資産等の譲渡を受けて、当該事業を承継しようとする方
  2. 経営権の集約を目的として、持株会社によって事業会社の株式を集約化し、当該事業を承継しようとする方
  3. 事業承継を実施した後、議決権株式の取得資金、事業用資産の取得資金又は相続税・贈与税の納税資金等を必要とする方
  4. M&A等による事業承継をこれから実施するため、事業継続が困難な事業者の株式や事業用資産等の取得資金を必要とする方
  5. EBO(従業員による買収)等による事業承継を実施するため、事業継続が困難な事業者の株式や事業用資産等の取得資金を必要とする方
  6. 被後継者から事業を引き継いで3年を経過していない方 他
② 資金使途事業承継に伴い必要な運転資金・設備資金
③ 限度額2億8,000万円
④ 返済期間運転資金10年以内 設備資金15年以内
⑤ 利率金融機関所定利率
⑥ 担保保証必要に応じて担保をつける

<事業承継貸付-北海道>

① 利用対象事業承継に取り組む中小企業者等で、国の全国統一保証制度である「事業承継特別保証」の対象となる中小企業者等
② 資金使途事業資金
③ 限度額1億円以内
④ 返済期間1年超10年以内(うち据置1年以内)
⑤ 利率固定1,1%~1.7%※期間により異なる
⑥ 担保保証金融機関の定めるところによる

民間金融機関による事業承継ローン

民間の金融機関融資で取り扱っている事業承継ローンには、以下のようなものがあります。

<事業承継応援ローン-北陸銀行>

① 利用対象借入対象の自社株を発行している法人の後継者(予定)であるなど一定の要件を満たす方
② 資金使途事業承継に必要な自社株取得資金、自社株取得に伴う納税資金、自社株取得に伴い税理士等専門家に支払いする諸費用
③ 限度額300万円以上3,000万円以内
④ 返済期間10年以内(元金据置期間6か月以内)
⑤ 利率銀行所定利率
⑥ 担保保証不要
⑦ その他金利の他、融資金額×1.10%(税込)の事務手数料がかかります。
税理士や公認会計士作成の「株式評価明細書」、資金使途確認資料(売買契約書、贈与契約書等)が必要となります。

<事業承継・相続対策サポートローン-きらぼし銀行>

① 利用対象公益財団法人東京都中小企業振興公社において、事業承継計画の策定支援を行い、公社が作成した「提案書」および「外部専門家による意見書」を開示できる法人・個人事業主の方
② 資金使途公益財団法人東京都中小企業振興公社が策定した「提案書」に示された承継計画の実行にあたり必要な以下の資金
  • 事業承継に必要な株式取得資金・納税資金
  • その他事業承継に必要な資金
③ 限度額1,000万円以上5億円以内
④ 返済期間15年以内(元金据置期間5年以内)
⑤ 利率銀行所定利率
⑥ 担保保証要相談

その他

事業承継ローンではありませんが、事業承継を支援する以下のようなファンドもあります。

<埼玉りそな事業承継・IPOファンド-りそな銀行>

① 事業目的事業承継・MBOにかかる投資、株式公開(IPO)にかかる投資
② 利用対象埼玉りそな銀行との取引がある企業で、経営が安定しており、継続的な配当が期待できる企業。※事業承継につき
② 組合総額10億円
③ 期間10年間

事業承継時の融資に関するその他の支援制度

現在、政府は中小企業の事業承継の円滑化を支援するため、さまざまな施策を実施しています。その中でも、以下の施策は、事業承継に役立つものといえます。

経営承継円滑化法における信用保証

日本政策金融公庫の事業承継ローンにおいても、経営承継円滑化法による融資の特例が付されていますが、それとは別に信用保証の特例が利用できます。 

この信用保証の特例とは、たとえば後継者が借入をしていて、信用保証協会の保証枠が限度いっぱいだったとしても、通常の保証枠とは別枠で事業承継に関する借入の保証枠を使えます。ただし、経営承継円滑化法による支援を利用するためには、法律で定められた申請手続きを行い、都道府県知事からの認定を得る必要があります。

なお、経営承継円滑化法による信用保証の特例の具体的な保証枠額は、以下のとおりです。

普通保険:2億円

無担保保険:8,000万円

特別小口保険:2,000万円

参考:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kinyushien_pamphlet.pdf

事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)

これも上記の対策の一環として行われたもので、以下の一定の要件を満たす場合には、経営者保証を不要とする信用保証が利用できます。

① 利用要件
  • 3年以内に事業承継(=代表者交代等)を予定する「事業承継計画」を有する法人または令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、承継日から3年を経過していない者
  • 資産超過であること
  • 返済緩和中ではないこと
  • 一定の返済能力があること(EBITDA有利子負債倍率(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)が10倍以内)
  • 法人と経営者の分離がなされていること
② 保証限度額2.8億円(うち無担保80百万円) ※責任共有制度(8割保証)の対象
③ 保証期間【一括返済の場合】1年以内、【分割返済の場合】10年以内
④ 対象資金事業承継時までに必要な事業資金。既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能(ただし、令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人に対しては、事業承継前の借入金に係る借換資金に限る)
⑤ 保証料率0.45%~1.90%【経営者保証コーディネーターの確認を受けた場合には、0.20%~1.15%に軽減】

事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家による支援

「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」の中の一つとして、2020(令和2)年4月から開始されたのが、事業承継時の経営者保証解除を専門家によって支援する施策になります。

これは、各都道府県に「経営者保証コーディネーター」という専門家を配置し、経営者保証解除を目指す中小企業から相談があった場合に、金融機関との経営者保証解除交渉への支援を行うものです。相談窓口は、各都道府県に組織されている事業承継ネットワーク事務局となっています。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターとは、事業承継・引継ぎのワンストップ支援を行う機関で、全国47都道府県に設置されています。

同センターでは、親族内および第三者承継支援や、経営者保証に関する支援、後継者人材のマッチングなどを中心に、事業承継に関するあらゆる相談や支援を受けることができます。

参考:事業承継・引継ぎ支援センター

https://shoukei.smrj.go.jp/

日本政策金融公庫によるマッチング支援

事業承継マッチング支援は、後継者がいないなどを理由に「事業を譲り渡したい」企業と、創業や新分野進出等を目的に「事業を譲り受けたい」企業をつなぐ、無料のマッチングサービスです。

参考:https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosyokei/matching/index.html

法人版・個人版事業承継税制

法人版事業承継税制は、後継者である受贈者や相続人が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合に、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

なお、法人版事業承継税制の適用に当たっては、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」にもとづく認定等が必要となります。

一方、個人版事業承継税制は、青色申告された事業者(不動産貸付事業等を除く)の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合において、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

参考:法人版事業承継税制
https://profession-net.com/professionjournal/inheritance-article-224/

個人版事業承継税制
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm

経営者保証ガイドライン

経営者保証ガイドラインとは、企業の経営者の個人保証を解除するルールや、保証の履行時のルールを定めたものとなります。

本ガイドラインを活用すれば、「経営者が個人保証をせずに金融機関から資金調達できる」、「資金調達時の条件の改善に役立つ」、「倒産など万が一の場合の経営者の負担を減らすことができる」などのメリットが得られます。

参考:経営者保証ガイドライン
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf

事業承継に利用できる補助金

事業承継ローンは気軽に利用できる資金調達の方法ですか、融資であるため、事業の状況によってはその後の返済が負担となることもあります。

しかし、補助金は返済が不要なため、資金繰りの負担を大幅に軽減することができます。

<事業承継補助金>

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継やM&Aを契機として経営革新等を行う中小企業者およびM&Aによる経営資源の引継ぎを行う中小企業者に対して、その取り組みにかかる経費の一部を補助するものです。

従来の「事業承継補助金」と「経営資源引継ぎ補助金」を併合したものとなります。

2018年事業承継補助金の採択率は、Ⅰ型「後継者承継支援型」では70%以上の高率となっています。なお、平成4年度当初分の申請受付期間は、2022年7月25日~8月15日の予定です。

本補助金は3つの類型から構成されており、それぞれの概要は以下の通りとなります。


【経営革新事業】

補助率:1/2 補助上限:500万円以内

事業承継やM&A(事業再編・事業統合等。経営資源を引き継いで行う創業を含む。)を契機とした経営革新等(事業再構築、設備投資、販路開拓 等)への挑戦に要する費用を補助。

(補助対象経費:設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用、等)


【専門家活用事業】

補助率:1/2 補助上限:400万円以内

M&Aによる経営資源の引継ぎを支援するため、M&Aに係る専門家等の活用費用を補助。

(補助対象経費:M&A支援業者に支払う手数料※、デューデリジェンスにかかる専門家費用、セカンドオピニオン 等)

 

【廃業・再チャレンジ事業】

補助率:1/2 補助上限:150万円以内

再チャレンジを目的として、既存事業を廃業するための費用を補助。

(補助対象経費:廃業支援費、在庫廃棄費、解体費 等)

 

なお、補助金は使った経費の一部が補助される仕組みのため、補助を受けるためには、先にすべての事業費を立て替える必要があります

そのため、手持ちの資金が少ないという場合には、まずは事業承継ローンを利用して資金を獲得し、その上でその資金を補助事業に使用すると大きな額の補助金を申し込むことができます。

参考:https://jsh.go.jp/r4/

まとめ

事業承継では、株式の買取り資金の他、相続税や贈与税などの負担が発生します。

また、M&Aによる第三者への承継をする場合には、仲介会社や専門家に対する報酬も必要となります。

そのため、手元資金が十分でない場合には事業承継ローンを利用する必要がありますが、これは通常の事業性融資とは内容が異なるため、金融機関や支援機関の協力を得ながら進めていくことが成功のポイントとなります。

また、最近では、ローンの利用だけでなく、事業承継向けの各種支援策や補助金なども実施されているので、これらも活用すると資金繰りの負担を大きく軽減することができます。