法人事業税における「外形標準課税」は、企業の利益だけでなく事業規模を示す「外形」に着目して課される税金であり、外形標準課税対象法人は赤字であっても法人事業税を納付する必要があります。この制度は、2004年の導入以来、地方財源の安定化や税負担の公平性確保を目的として運用されてきましたが、近年では外形標準課税適用法人の判定基準をめぐる議論が活発化し、令和6年度の税制改正において、実質的に大規模な企業を外形標準課税対象法人とする方針が打ち出されています。
本記事では、外形標準課税の基本から、最新の税制改正が企業にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。
法人事業税における外形標準課税は、企業の利益だけでなく事業規模に着目して課税され、対象法人は赤字でも納税が必要です。2004年の導入以来、資本金の額が1億円を超える法人が対象でしたが、令和6年度税制改正により、資本金の額が1億円以下であっても、2025年4月1日以降に開始する事業年度からは資本金と資本剰余金の合計額が10億円超の法人が、また2026年4月1日以降に開始する事業年度からは資本金と資本剰余金の合計額が50億円超の親会社を持つ資本金1億円以下の100%子会社等が、それぞれ新たに外形標準課税の対象となります。これにより、今まで外形標準課税の対象外だった実質的に大規模な企業も課税対象となり、企業は税負担の増加や経営戦略の見直しを迫られることになります。
「外形標準課税」とは、日本の地方税制における法人事業税の一部であり、企業の所得ではなく、資本金や従業員給与、支払賃借料といった「外形」を課税標準として法人に課される税金です。
外形標準課税は、事業に対する応益課税としての事業税の性格、都道府県の税収の安定的確保、赤字法人に対する課税の適正化等の背景から、2004年に導入されました。総務省の資料によると外形標準課税導入の意義は次の4点です。
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参考:総務省 第1回地方法人課税のあり方等に関する検討会議 資料4
https://www.soumu.go.jp/main_content/000182314.pdf
2025年7月現在における外形標準課税の対象法人は、原則として事業年度末における資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人です(地方税法第72条の2第1項第1号イ)。
以下、地方税法第72条の2第1項第2号から第4号に掲げる事業以外の事業を行う普通法人でグループ通算制度の適用を受けていない法人を前提に解説を行います。
世の中には資本金の額をぴったり1億円としている企業が多く存在しますが、これは事業税における「1億円の壁」を意識したものです。後述するように、外形標準課税対象法人は赤字の年度(課税所得が発生しない年度)であっても事業税の納税額が生じることから、これを避けるため、企業規模は大きくてもあえて資本金の額を1億円にしているケースがよく見られます。
「資本金の額が1億円以下」という基準のみで外形標準課税適用法人か否かを判定することについてはかねてから批判があり、令和5年度税制改正大綱において次のとおり見直しが示唆されていました。
外形標準課税の対象法人数は、資本金1億円以下への減資を中心とした要因により、導入時に比べて約3分の2まで減少している。また、持株会社化・分社化の際に、外形標準課税の対象範囲が実質的に縮小する事例も生じている。こうした事例の中には、損失処理等に充てるためではなく、財務会計上、単に資本金を資本剰余金へ項目間で振り替える減資を行っている事例も存在する。また、子会社の資本金を1億円以下に設定しつつ、親会社の信用力を背景に大規模な事業活動を行っている企業グループの事例もある。 こうした減資や組織再編による(外形標準課税)対象法人数の減少や対象範囲の縮小は、上記の法人税改革の趣旨や、地方税収の安定化・税負担の公平性といった制度導入の趣旨を損なうおそれがあり、外形標準課税の対象から外れている実質的に大規模な法人を対象に、制度的な見直しを検討する。 |
参考:自由民主党ホームページ 令和5年度税制改正大綱(2022年12月16日)
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/information/204848_1.pdf
法人事業税は次のとおり計算します。
外形標準課税対象法人以外:所得割 外形標準課税対象法人:所得割、付加価値割、資本割の合計額 |
以下、所得割、付加価値割、資本割の計算方法の概要を解説します。なお、事業税の税率には地方税法に定める税率である標準税率と(地方税法第72条の24の7)、地方自治体の条例によって定められる標準税率よりも高い税率(超過税率)がありますが、この記事では標準税率に基づいて解説を行います。
所得割の額は、各事業年度における所得金額に税率を乗じて計算します。ここでいう「所得金額」は基本的に法人税の所得金額と同じですが、繰戻還付を受けた場合の繰越欠損金の取り扱いなど、法人税と事業税所得割の課税所得が異なるケースもあるのでご注意ください。
また、外形標準課税対象法人であってもなくても所得割の計算方法自体は同じですが、税率は異なります。具体的な税率は次のとおりです。
外形標準課税対象法人以外:次のとおり
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なお、所得割の税率だけを見ると外形標準課税対象法人の方が有利(税率が低い)ですが、これは外形標準課税対象法人が所得割の他に付加価値割及び資本割を課税されるためです。
付加価値割は、収益配分額と単年度損益の合計額に1.2%の税率を乗じて計算します。「単年度損益」は繰越欠損金控除前の事業税の所得金額で、これが負の値のときは収益配分額から控除します(結果、付加価値額が負の値となった場合は付加価値割の額はゼロになります)。
収益配分額は、報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料を合計して計算します。
報酬給与額は、役員や使用人(従業員)に対して支払う給与や賞与など(雇用関係等に基づき労務の提供の対価として支払われるもの)のうち、法人税で損金に算入され、かつ、所得税で給与所得または退職所得とされる性質のものをいいます。派遣社員を受け入れている場合は、派遣契約料の75%を報酬給与額に加算します。
純支払利子は、各事業年度において損金の額に算入される支払利子の額から、益金の額に算入される受取利子の額を控除して計算します。利子税や申告期限延長に係る延滞金は支払利子の額に、還付加算金は受取利子の額にそれぞれ含まれますが、納期限後の納付に係る延滞金は損金算入されないため支払利子の額にも含まれません。
純支払賃借料は、各事業年度において損金算入される支払賃借料の額から、益金の額に算入される受取利子の額を控除して計算します。支払賃借料の額については、当該土地及び家屋を使用しうる期間が継続して1月に満たない場合は支払賃借料の計算から除外されます。この点の詳細は東京都が公表しているQ&Aのうち、純支払賃借料のQ3をご参照ください。
参考:東京都 外形標準課税に関するQ&A
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/work/a1/gaikeiqa#q01d
なお、報酬給与額が収益配分額の70%を超えるときは、付加価値額から雇用安定控除額を控除することができます。雇用安定控除額は、報酬給与額から収益配分額の70%を引いた金額です。たとえば、報酬給与額が1,000、純支払利子が100、純支払賃借料が100のときは、収益配分額は1,200ですから、報酬給与額(1,000)が収益配分額の70%(つまり840)を超えるため雇用安定控除の適用を受けることができます。この場合の雇用安定控除額は1,000から840を引いた160です。
資本割の額は、事業年度末における資本金等の額に0.5%を乗じて計算します。ここでいう「資本金等の額」とは、法人税法第2条第16号に規定する資本金等の額に一定の調整を加えた金額を指します
ここでいう「一定の調整」について、主なものは次のとおりです。
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なお、上記調整後の資本金等の額が資本金の額と資本準備金の額の合計額よりも小さい場合は、資本金と資本準備金の合計額が資本割の課税標準とされます。
令和6年度税制改正により、資本金の額が1億円以下であっても、一定の要件を満たす法人は2025年4月1日以降に開始する事業年度、もしくは2026年4月1日以降に開始する事業年度から外形標準課税対象法人となりました。
「一定の要件」の1つ目は、次のすべての要件を満たすことです。これらの要件を満たす法人は、2025年4月1日以降に開始する事業年度(これを「最初事業年度」といいます)から外形標準課税対象法人となります。
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なお、最初事業年度においては、経過措置として、「前事業年度が外形標準課税対象法人」という要件が「公布日(2024年3月30日)を含む事業年度の前事業年度から、最初事業年度の前事業年度までのいずれかの事業年度が外形標準課税対象法人」という要件に変わります。
参考:経済産業省 令和6年度税制改正について
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2024/zeisei_k/pdf/zeiseikaisei.pdf
前述した「一定の要件」の2つ目は、次のすべての要件を満たすことです。これらの要件を満たす法人は、2026年4月1日以降に開始する事業年度から外形標準課税対象法人となります。
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「資本金と資本剰余金の額が2億円超」という要件を満たさないようにするための方法としては、資本剰余金からの配当や、欠損填補による減資が考えられます。ただ、このうち公布日(2024年3月30日)以後に行われる資本剰余金による配当については減少した払込資本を加算する措置が取られているため、この方法は採用できません。一方、欠損填補による減資は特に規制されていないため、100%子会社を外形標準課税対象法人にしたくない場合は、早めに動き出すことをおすすめします。
なお、上記100%子法人等への対応により外形標準課税の対象となった法人に対しては、一定の負担軽減措置があります。具体的な軽減措置の内容は次のとおりです(3月決算法人を例に説明します)。
事業年度 | 軽減額 |
2027年3月期 | 外形標準課税対象法人となったことにより増加した法人事業税額の3分の2に相当する金額 |
2028年3月期 | 外形標準課税対象法人となったことにより増加した法人事業税額の3分の1に相当する金額 |
外形標準課税は、企業の安定的な税収確保や税負担の公平性といった目的のもと導入された制度です。この制度の大きな特徴は、「資本金の額が1億円を超えるか否か」という単一の基準で判定されていた点と、企業が赤字の場合であっても付加価値割や資本割といった「外形」に基づく課税が行われるため一定の法人事業税の納付が必要となる点です。そして、令和6年度税制改正では、いわゆる「外形逃れ」への対策が講じられ、実質的には大規模な法人であるにもかかわらず資本金の額が1億円以下であることからこれまで外形標準課税の適用対象外だった法人や、親会社の信用力を使って事業活動を行っていたにもかかわらず資本金の額が1億円以下であることからこれまで適用対象外だった100%子会社等も、順次外形標準課税適用法人として取り扱われるようになります。
令和6年度税制改正の内容は企業グループの税負担や経営戦略に大きな影響を与えるため、自社や子会社の状況を正確に把握し、適切な対応を検討することが重要です。ぜひお近くの税理士にご相談ください。