
2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)から新しいリース会計基準が公表され、日本の会計基準が大きく変わろうとしています。これは、国際的な会計基準であるIFRSとのコンバージェンス(収斂)を目的としたもので、特にこれまでオフバランスで処理されてきたオペレーティング・リースが、原則としてオンバランスされる点が大きな変更点です。新基準は2027年度から強制適用されますが、今からその影響を理解し、準備を進める必要があります。本記事では、新リース会計基準のポイントを分かりやすく解説し、税務上の影響についても詳しくご紹介します。
2027年4月以降に開始する事業年度から、新リース会計基準が強制適用されます。これにより、従来オフバランスで処理できたオペレーティング・リースも、原則として資産(使用権資産)と負債(リース負債)に計上する必要があります。対象となるのは主に上場企業や、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の大会社とその子会社です。中小企業は強制適用されませんが、任意適用は可能です。新リース会計基準によってリースの3つの区分判定が不要になったり会計処理が変わったりしますが、税務上は旧リース会計基準のときと基本的に取り扱いが変わらないため、税務上のリース取引の区分判定は引き続き行う必要があり、オペレーティング・リースについては申告調整(法人税別表での調整)も発生します。新基準の適用まで時間があるように見えますが、準備には専門的な知識と時間が必要なため、早めに契約内容の精査や申告調整方法の検討を始めることが重要です。
「新リース会計基準」とは、2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を指します。新リース会計基準の適用によって、従来リース会計について規定していた企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、これを「旧リース会計基準」といいます)は適用が終了します。
日本の会計基準(以下、「日本基準」といいます)がリースの会計基準を改める背景には国際的な会計基準の変化があります。旧リース会計基準の導入が行われた2007年においては、日本基準(旧リース会計基準)と国際的な会計基準は整合的なものとなっていました。しかしながら、2016年に公表された国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」においては、オペレーティング・リースを含むすべてのリースについて資産及び負債を計上するところ、日本基準ではオペレーティング・リースは通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行う(旧リース会計基準15項)としており、ここに日本基準と国際的な会計基準との間にギャップが生じていました。
新リース会計基準においては、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」と同様に、原則としてすべてのリースについて資産及び負債を計上する(オンバランスする)ことになり、IFRSへのコンバージェンス(収斂)が行われました。
参考:企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 「リースに関する会計基準」等の公表
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2024/2024-0913.html
新リース会計基準の適用対象法人は、次のいずれかに当てはまる法人です。
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上場会社や、非上場会社でも会計監査人による監査を受ける義務がある会社(たとえば資本金の額が5億円以上または負債総額200億円以上の会社)とその子会社などは、新リース会計基準が強制適用されます。一方、これらのいずれにも該当しない会社(たとえば中小企業)は、企業会計基準ではなく「中小企業の会計に関する指針」に沿って会計処理を行うため、新リース会計基準は強制適用されません(任意で適用することは可能です)。
参考:日本公認会計士協会等 中小企業の会計に関する指針4項
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-0-0-2-20230510.pdf
新リース会計基準は、原則としてすべてのリースに関する会計処理及び開示に適用されますが、次の取引には適用されません(新リース会計基準3項)。
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なお、無形固定資産のリースについては、新リース会計基準を適用しないことも可能です(同4項)。
参考:企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 「リースに関する会計基準」
https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20250423_01.pdf
新リース会計基準は2027年4月1日以降に開始する事業年度から強制適用が開始されます。そのため、3月決算法人の場合は2027年度(2028年3月期)が最初の適用対象期間です。なお、新リース会計基準は2025年4月1日以後に開始する事業年度から早期適用することも可能ですが、適用にあたっては準備期間も必要なため、実務上はほとんどの企業が2028年3月期から適用を受けることが想定されます。
旧リース会計基準においては、リースは所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの3つに区分され、ファイナンス・リースは売買取引に準じた会計処理、オペレーティング・リースは賃貸借取引に準じた会計処理を行うものとされていました。ファイナンス・リース取引とは、ノンキャンセラブル(リース契約が中途解約不能等)かつフルペイアウト(リース契約の借手が自己所有資産と同等の経済的利益とコストを負担する契約)のリース取引で、オペレーティング・リース取引はファイナンス・リース取引以外の取引を指します。
旧リース会計基準におけるファイナンス・リースとオペレーティング・リースの借手の会計処理はそれぞれ次のとおりです(簡略化のため消費税はないものとします)。
【ファイナンス・リース】
リース資産引き渡し時
| リース資産 | XXX | リース債務 | XXX |
リース料支払時
| リース債務 | XXX | 現金預金 | XXX |
| 支払利息 |
年度末
| 減価償却費 | XXX | 減価償却累計額 | XXX |
【オペレーティング・リース】
リース資産引き渡し時
| 仕訳なし |
リース料支払時
| 賃借料 | XXX | 現金預金 | XXX |
年度末
| 仕訳なし |
所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースの区別について、次のいずれかに該当する場合は所有権移転ファイナンス・リースに、それ以外のファイナンス・リースは所有権移転外ファイナンス・リースに該当します(リース取引に関する会計基準の適用指針11項。なお、この適用指針は旧リース会計基準の適用指針です)。
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出典:企業会計基準適用指針第16号リース取引に関する会計基準の適用指針
https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/shihanki-s_9.pdf
なお、法人税法における所有権移転外リース取引の意義は、会計基準における意義とイコールではない点に注意が必要です。具体的な意義は国税庁のタックスアンサーをご参照ください。
参考:国税庁タックスアンサー No.5704 所有権移転外リース取引
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5704.htm
法人税法及び消費税法上の取り扱いは次のとおりです。
| 法人税法 | 消費税法 | |
| 所有権移転ファイナンス・リース | リース資産の売買があったものとして、自己所有の減価償却資産と同じ償却方法により償却する | リース資産の引き渡しを行った日の属する事業年度において課税資産の譲渡等があったものとして取り扱う(一括控除) |
| 所有権移転外ファイナンス・リース | リース資産の売買があったものとして、リース期間定額法により償却する | 原則:一括控除 例外:賃借人が賃貸借処理をしている場合は、リース料を支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとして処理できる(分割控除) |
| オペレーティング・リース | 賃貸借取引として処理する | 同左 |
参考:国税庁税制改正の概要 新リース会計基準に対応する改正
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2025/pdf/D.pdf
所有権移転外ファイナンス・リースの消費税法上の取り扱いについては、国税庁の質疑応答事例も合わせてご参照ください。
参考:国税庁質疑応答事例 所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/16/23.htm
ここまで、現行のリース会計基準(旧リース会計基準)の取り扱いを整理しました。次のセクションでは、新リース会計基準導入による影響を見ていきます。
新リース会計基準の主要な変化点は次のとおりです。
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すべてのリースが原則としてオンバランス化(借方は使用権資産、貸方はリース負債)されることに伴い、従来はオペレーティング・リースに該当することから契約内容の精査をしてこなかった契約や、単なる賃貸借取引としてリース取引に該当するか否かの確認を行っていなかった契約についても、今後は個別の契約を精査する必要が生じます。
会計基準の新旧対照表については下記資料をご参照ください。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(企業会計基準第13号等との比較)
https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20240913_03.pdf
新リース会計基準導入後も、短期リースと少額リースはオンバランスする必要はなく費用として計上することができます。
「短期リース」とは、「リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリース」を指します(リースに関する会計基準の適⽤指針4項)。短期リースはリース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます(同20項)。
また、「少額リース」とは、「重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース」及び「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース、または新品時の原資産の価値が少額であるリース」を指します(同22項)。少額リースの具体的な金額基準は適用指針本文に記載はありませんが、「結論の背景」において、「リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース」の「金額」は300万円以下(BC43)、「新品時の原資産の価値が少額であるリース」の「少額」は5,000米ドル以下(BC45)とされています。
参考:企業会計基準適⽤指針第33号 リースに関する会計基準の適⽤指針
https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20240913_04.pdf
新リース会計基準が導入されても、法人税法及び消費税法におけるリース取引の判定や取り扱いは基本的に変わりません(割賦基準の廃止とリース期間定額法の見直しはあります)。
新リース会計基準によって会計上はリースに係る3つの区分判定が不要となりました。一方、税務上はファイナンス・リースかオペレーティング・リースかで取り扱いが異なるため、税務の観点からは引き続き3つの区分判定を行う必要があります。リースの区分判定をこれまで会計チームが行ってきた企業は、新リース会計基準導入後に区分判定をどの部署が担当するのかを検討する必要があるでしょう。
新リース会計基準においては、オペレーティング・リースに該当するリースで会計と税務の不一致(税会不一致)が生じるため、法人税別表における調整(申告調整)を行う必要があります。
具体的な申告調整の方法については、国税庁が公表している計算資料をご参照ください。
参考:国税庁 オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2025/pdf/0025006-179.pdf
新リース会計基準の導入により、従来オフバランスで処理されていたオペレーティング・リースも原則オンバランス処理となることは、会計処理の変更だけでなく、税務上にも申告調整やリース判定といった影響を及ぼします。
新リース会計基準の強制適用開始は2027年4月以降ですが、準備には時間と専門的な知識が求められます。円滑な移行のためにも、取引内容の精査や、申告調整方法の検討を計画的に進めることが重要です。具体的な対応策やご不明な点については、お近くの税理士にご相談ください。