交際費等の損金不算入については、最近いくつかの重要な税制改正がありました。この改正によって、企業規模に応じた3つの区分が設けられ、それぞれで損金不算入額の計算方法が異なることとなりました。この記事では、交際費等の損金不算入制度について、企業規模ごとの損金不算入額の範囲を解説し、さらに2025年開催の大阪・関西万博のチケット購入費用など、交際費等に関連する隣接費用の取り扱いについても紹介します。
交際費等の損金不算入制度は、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」と定義される交際費等のうち一部を法人の損金の額に算入しない(損金不算入とする)制度です。
損金不算入となる交際費等の範囲は法人規模により異なります。資本金の額等が100億円超えの法人は全額損金不算入、資本金の額等が1億円超100億円以下の法人は接待飲食費の50%のみ損金算入可、資本金の額等が1億円以下の法人は800万円までまたは接待飲食費の50%を損金算入することができます。
交際費等の隣接費用である交通費、福利厚生費、広告宣伝費・販売促進費は、それぞれ交際費等に該当しそうではあるものの、その性質によって交際費等の範囲から除外されているものがあります。2025年に行われる大阪・関西万博のチケット購入費用についても特別な取り扱いがあるため、税務処理の検討を行う上ではこういった取り扱いを漏れなく参照することが重要です。
交際費等の損金不算入制度とは、法人が支出する交際費等のうち一定のものを法人の損金の額に含めない(損金不算入とする)制度のことで、租税特別措置法第61条の4に規定されています(以下、租税特別措置法を「措法」といいます)。
この制度が採用されている理由として、国税職員の研修機関である税務大学校が発行する「税大講本」では次のように説明しています。
法人が支出する交際費等は、販売促進等の事業のために支出し、その使途が明らかである限り、企業会計上その全額が費用となるべきものである。しかし、交際費等の支出額は、毎年巨額に上っており、その冗費性が社会的に問題となっている。そこで、交際費等については、損金として認めないことにより、その支出を抑制して冗費の節約を図るという政策上の目的から、租税特別措置法において交際費等の損金不算入を規定している。なお、現在では上記に加え、「公正な取引の阻害の防止」と「正常な価格形成」が趣旨に含まれている。 |
出典:税大講本 法人税法(令和6年度版)p.84
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/houjin/pdf/all.pdf
また、ここでいう「交際費等」とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」のうち、一定のものを除いたものと定義されています(措法第61条の4第6項)。
交際費等の損金不算入制度の概要は次の図のとおりです。交際費等の損金不算入制度は、損金不算入となる範囲が対象法人の規模によって3つに分かれるため、まずは自社がどの区分に該当するかを確認することが重要です。
図の出典:国税庁 令和6年度法人税関係法令の改正の概要 スライド36
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/01.htm
措法及び租税特別措置法施行令(以下、「措令」といいます)には、「交際費等」には該当しない費用として、次の費用を規定しています。
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こうした費用については、確かに「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答」には該当するものの、社会通念上これらまで冗費であるとは考えられないことから、損金不算入となる交際費等から除外されています。なお、「飲食その他これに類する行為のために要する費用のうち一定のもの」については次のセクションで解説します。
上述したとおり、「飲食その他これに類する行為のために要する費用のうち一定のもの」は交際費等から除外されます。措法第61条の4における「飲食費」とは、「飲食その他これに類する行為のために要する費用(専ら当該法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。)」と定義されています(措法第61条の4第6項)。その上で、飲食費のうち1人あたりの金額が1万円以下のものが、交際費等から除外されます(措令第37条の5第1項)。
この規定は法人の規模にかかわらず適用されるため、資本金の額等が100億円を超える法人であっても適用を受けることが可能です。
「接待飲食費」とは、「飲食費のうちその旨につき財務省令で定めるところにより明らかにされているものをいう」と定義されています(措法第61条の4第6項)。接待飲食費に該当する費用は、交際費等には該当するものの、資本金の額等が1億円超100億円以下の法人においては、その支出額の50%を損金の額に算入することができます。また、資本金の額等が1億円以下の法人であっても、接待飲食費の50%を損金算入することは可能ですが、800万円の定額控除とは選択適用であるため、接待飲食費の50%を損金算入する場合は800万円の定額控除を受けられなくなる点に注意が必要です(措法第61条の4第1項、第2項)。
ここまで解説してきた内容を踏まえ、法人規模ごとの交際費等の損金不算入の範囲を下表にまとめました。○は損金算入可、△は一部損金算入可、×は損金算入不可を意味し、「大法人1」は資本金の額等が100億円を超える法人、「大法人2」は資本金の額等が1億円を超え100億円以下である法人を意味します。
交際費等に該当しない費用 | 1人あたり1万円以下の飲食費 | 接待飲食費 | 左以外の交際費等の額 | |
大法人1 | ○ | ○ | × | × |
大法人2 | ○ | ○ | △(50%) | × |
中小法人 | ○ | ○ | △(50%)もしくは× | ×もしくは△(800万円まで○) |
以上、交際費等の損金不算入の制度概要と、法人規模ごとの損金不算入額の計算方法について解説しました。次のセクションでは、交際費等との隣接費用であり、交際費等に該当するか実務上悩むケースの多い費用として、交通費、福利厚生費、広告宣伝費・販売促進費について解説を行います。
懇親会や接待へ参加するために支出する交通費が全て交際費等に該当するわけではなく、他社との懇親会等へ参加するために自社の役員や従業員が支払ったタクシー代などは旅費交通費に該当し、法人税の計算上損金算入することができます。一方、自社主催の懇親会等に参加してもらうため、他社の役員や従業員分のタクシー代を負担した場合は交際費等として取り扱われます。
参考:国税庁ホームページ 質疑応答事例
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/15/01.htm
交際費等の対象である「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、自社の従業員も含まれます(租税特別措置法基本通達61の4⑴-22。以下、租税特別措置法基本通達を「措通」といいます)。このため、自社従業員に対する接待や贈答、すなわち自社従業員の飲食代を会社が負担したり、何らかの物を従業員へ渡したりする際の費用は、原則として交際費等に該当します。
一方、次のような費用は交際費等には該当せず、福利厚生費として損金算入することができます。
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1点目の例としては全従業員が参加する会社創立パーティーの飲食代に係る費用、2点目の例としては会社が支給する結婚祝金に係る費用が挙げられます。いずれも場合もあまりにも高額の場合は損金算入が認められない可能性もありますのでご注意ください。
また、2025年に開催される大阪・関西万博の入場チケットを従業員に配布する場合の費用については、次のことを前提として、福利厚生費として損金算入することが可能です。
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参考:大阪・関西万博 入場券購入費用の取扱い① Q2及びQ5
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/tickets-index/handling01.pdf
得意先や仕入先に対して接待や贈答等を行う場合の費用は原則として交際費等に該当しますが、次の費用は原則にかかわらず、広告宣伝費として損金算入することができます(措通61の4(1)-9)。
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また、2025年に開催される大阪・関西万博の入場チケットを、販売促進等の目的で取引先等に配布する場合の費用については、観劇等に招待する費用とは性質が異なり、入場券の購入という形で大阪・関西万博に参加・貢献しているとの企業イメージを与えることを意図しているものであって、企業イメージの向上という販売促進や広告宣伝等の一環と考えられることから、交際費等ではなく販売促進費や広告宣伝費として処理します。
参考:大阪・関西万博 入場券購入費用の取扱い① Q3
以上、交際費等の損金不算入制度について解説しました。この制度は、法人が支出する交際費等の一部を損金不算入とする(損金の額から除外する)制度で、冗費の抑制や公正な取引の実現を目的としています。適用範囲は法人規模に応じて異なり、特定の条件下では損金算入が認められる費用も存在します。また、交通費、福利厚生費、広告宣伝費との区別を正確に理解することが税務処理の適正化には欠かせません。自社が正確な対応をできているかご不安な方は、ぜひ税理士にご相談ください。