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コラム

グループ法人税制と連結納税制度の違いは?グループ通算制度についても解説します

グループ法人税制と連結納税制度の違いは、適用対象法人、強制適用か任意適用か、所得計算の方法にあります。グループ法人税制は制度ごとに適用対象法人が異なる点と強制適用である点に注意が必要です。連結納税制度は2022年度からグループ通算制度に改められました。グループ通算制度では各法人が申告納税の主体となります。


導入

この記事では、新たに税務業務を担当することになった方や、グループ通算制度の適用を受けている会社に転職した方などに向けて、グループ法人税制と連結納税制度の違いと、連結納税制度とグループ通算制度の共通点と相違点について解説します。

以下、グループ法人税制と連結納税制度の概要、グループ法人税制と連結納税制度の相違点、グループ通算制度の概要、連結納税制度とグループ通算制度の共通点と相違点の順で解説していきます。

この記事の結論

グループ法人税制と連結納税制度の相違点は、適用対象法人の違い、強制適用か任意適用かの違い、所得計算の方法の違いにあります。グループ法人税制は制度ごとに適用対象法人が異なる点と、連結納税制度とは異なり強制適用である点が特徴であり、実務上注意を要する点でもあります。

2022年度から導入されたグループ通算制度は、旧制度である連結納税制度との共通点もありますが、申告納税が各社になること、修更正が遮断されること、一定の制度の計算単位が連結納税グループではなく各社になるなど、これまでとは異なる取り扱いがされる点もいくつかあります。

グループ法人税制と連結納税制度の概要

グループ法人税制の概要

「グループ法人税制」とは、平成22年度(2010年度)税制改正で導入された100%グループ内の法人間の取引等に関する税制です。グループ法人税制が導入された理由として、国税庁は次のとおり説明しています。

企業グループを対象とした法制度や会計制度が定着しつつある中、さらに持株会社制のような法人の組織形態の多様化に対応するとともに、課税の中立性や公平性等を確保する必要が生じてきたこと

出典:国税庁ホームページ 平成22年度法人税関係法令の改正の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2010/01.htm

グループ法人税制で導入された各制度は次のとおりです。

  • 譲渡損益調整資産に係る譲渡損益の繰り延べ(法人税法第61条13第1項)
  • 完全支配関係がある法人間の寄附金の損金不算入(法人税法第37条第2項)
  • 完全支配関係がある法人間の受贈金の益金不算入(法人税法第25条の2第1項)
  • 適格現物分配による資産の簿価譲渡(法人税法第62条の5第3項)
  • 完全支配関係がある法人から受けた配当金全額の益金不算入(法人税法第23条)
  • 株式発行法人への株式譲渡損益の非計上(法人税法第61条の2第16項)

なお、グループ法人税制は制度によって適用対象法人が変わる点に注意が必要です。詳細は「グループ法人税制と連結納税制度の相違点」のセクションで解説します。

連結納税制度の概要

「連結納税制度」とは、企業グループ全体を一つの納税単位として課税する制度で、平成14年度(2002年度)税制改正で導入されました。連結納税制度の特徴は、親会社と親会社が直接または間接に100%の株式を保有する全ての国内子会社を一つの納税主体として、親会社が法人税の申告・納付の義務を負うという点にあります。また、グループ法人税制とは異なり、適用を受けるかどうかは企業グループの任意であるという点も連結納税制度の特徴です。

また、2022年4月1日以降に始まる事業年度からは、連結納税制度が廃止されて「グループ通算制度」に移行されました。グループ通算制度の概要や、連結納税制度とグループ通算税制の違いなどについては後ほど説明します。

グループ法人税制と連結納税制度の相違点

主な相違点

グループ法人税制と連結納税制度は似通った部分もある一方、相違点もいくつかあります。以下では、主な相違点として次の3点について解説します。

  • 適用対象法人
  • 強制適用か任意適用か
  • 所得計算の方法

適用対象法人

グループ法人税制の適用対象法人は、100%グループ内の法人です。上述したとおり、グループ法人税制は制度によって適用対象法人が変わります。制度ごとの具体的な適用対象法人等は下表のとおりです。

制度適用対象法人取引相手の制限完全支配関係の範囲
譲渡損益調整資産
国内の普通法人または協同組合等
完全支配関係のある国内の普通法人または協同組合等制限なし
寄附金の損金不算入
国内の法人
完全支配関係のある国内の法人
法人によるものに限る
受贈金の益金不算入
国内の法人
完全支配関係のある国内の法人
法人によるものに限る
適格現物分配
国内の法人(公益法人等、人格のない社団等を除く)
完全支配関係のある国内の普通法人または協同組合等
制限なし
配当金の益金不算入
内国法人及び日本に恒久的施設がある外国法人
配当等の計算期間を通じて完全支配関係のあった国内の法人(公益法人等、人格のない社団等を除く)
制限なし
株式譲渡損益非計上
国内の法人
完全支配関係のある国内の法人
制限なし

参考:国税庁ホームページ グループ法人税制の適用対象法人等の比較
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/100810/pdf/05.pdf

一方、連結納税制度の適用対象法人は、日本国内の法人である親会社(普通法人または協同組合等)と、その親会社が直接または間接にその発行済株式のすべてを保有する国内の子会社(普通法人のみ)です。子会社が外国法人もしくは協同組合等の場合や、個人による完全支配関係がある場合の兄弟会社間には、連結納税制度は適用されません。

強制適用か任意適用か

グループ法人税制は要件を満たした場合に強制適用される規定である一方、連結納税制度は要件を満たした場合であっても適用を受けるか否かは納税者の任意です。また、グループ法人税制と連結納税制度はそれぞれ独立した制度であり、「連結納税制度の適用を受ければグループ法人税制の適用を受けずに済む」というものではありませんのでご注意ください。

グループ法人税制の中で特に気を付けたい制度が譲渡損益調整資産に係る譲渡損益の繰り延べです。この制度によって、100%グループ内で譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上である土地、建物、有価証券などの譲渡が行われた場合、譲渡法人に生じた譲渡益または譲渡損の金額が税務上繰り延べられます(正確にいうと、会計で計上された譲渡利益の額に相当する金額を損金の額に、譲渡損失の額に相当する金額を益金の額にそれぞれ算入することによって、この取引における税務上の譲渡損益が生じなくなります)。

グループ間で土地や建物の譲渡を頻繁に行わない企業グループの場合、この規定の存在をうっかり忘れてしまうこともあります。グループ間における固定資産や有価証券の譲渡があった場合は、確定申告書の作成を依頼している税理士に必ず共有するようにしましょう。

所得計算の方法

法人の所得計算の方法の原則は、法人ごとに所得を計算した上で法人税額の申告納税を行う「単体申告」です。グループ法人税制は所得の計算方法を規定した税制ではないため、グループ法人税制の適用を受ける場合であっても所得計算の方法に影響はありません。

一方、連結納税制度は企業グループ全体を一つの納税単位として課税する制度であることから、単体申告ではなく連結グループでの申告納税を行います。

以上、グループ法人税制と連結納税制度の3つの相違点について解説しました。次に、連結納税制度とグループ通算制度について解説します。

連結納税制度とグループ通算制度

グループ通算制度の概要及び導入の背景

「グループ通算制度」とは、従来の連結納税制度の代わりに導入された制度で、2022年4月1日以後に開始する事業年度に適用されます。たとえば、3月決算法人の場合は2022年度が適用初年度です。

連結納税制度が廃止されてグループ通算制度が導入された背景には、連結納税制度による事務負担が官民ともに重かったという点があります。この点、政府税制調査会、連結納税制度に関する専門家会合の報告書である「連結納税制度の見直しについて」では次の指摘がなされています。

各法人の個別帰属額を記載した書類も提出することとなっているため、所得計算及び税額計算が煩雑になる上、連結法人間での連絡・調整手続も煩雑で、特に税務調査が行われた後の修正申告又は更正・決定(中略)に時間がかかり過ぎるという指摘もある。

出典:政府税制調査会 連結納税制度の見直しについて
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/1zen24kai1.pdf

こうした指摘へ対応するためと、グループ経営の多様化に対応した中立性・公平性の観点からの見直しを行った結果、グループ通算制度が導入されました。

連結納税制度とグループ通算制度の共通点

連結納税制度とグループ通算制度の主な共通点は次の3点です。

  • 適用対象法人
  • グループ間で損益通算ができること
  • 研究開発税制及び外国税額控除の計算単位

1点目について、適用対象法人は連結納税制度もグループ通算制度も同じで、親会社と親会社が直接または間接に100%の株式を保有する全ての国内子会社が適用を受けます。

2点目について、グループ間で損益通算ができること、つまりプラスの課税所得とマイナスの課税所得を打ち消しあうことが可能なのはグループ通算制度でも同じです。連結納税制度においては各法人の益金の額の合計額から損金の額の合計額を引いて連結所得金額を計算しましたが、グループ通算制度においては、課税所得がマイナスである法人(欠損法人)の欠損金額の合計額のうち、課税金額がプラスである法人(所得法人)の所得金額の比で配分された金額が当該所得法人の損金の額に算入され、同額を欠損法人の欠損金額の比で配分された金額が当該欠損法人の益金の額に算入されることで、疑似的な損益通算を可能としています。

3点目について、試験研究費の税額控除と外国税額控除の計算単位は連結納税制度における計算単位が維持されました。グループ通算制度においても、通算グループを一体として税額控除の金額を計算します。

連結納税制度とグループ通算制度の主な共通点は以上です。次に、連結納税制度とグループ通算制度の主な相違点について解説します。

連結納税制度とグループ通算制度の相違点

連結納税制度とグループ通算制度の主な相違点は次の3点です。

1点目について、連結納税制度における申告納税の単位は連結グループ全体で、親会社が法人税の申告と納付の義務を負っていました。一方で、グループ通算制度における法人税の申告納税の単位は各社であり、各社が個別に法人税額の計算および申告を行う必要があります。

  • 申告納税の単位
  • 修正・更正の遮断
  • 寄附金の損金不算入額の計算単位

2点目について、連結納税制度においては、修正申告や更正処分といった後発的な事由によって連結所得金額が変動した場合、連結納税グループで全体計算をやり直して各法人の所得金額や個別帰属額を改めて算出し、それに基づいた申告等を行う必要がありました。これが、グループ通算制度においては、修更正の結果を他のグループ法人の税額計算に反映させないという仕組み(遮断措置)が取り入れられたため、連結納税グループで全体計算をやり直す必要がなくなりました。

3点目について、連結納税制度では寄附金の損金不算入額を連結納税グループで行っていましたが、グループ通算制度では個社ごとに損金不算入額の計算を行うこととなります。グループ通算制度では、通算グループを一体として計算する制度(例:試験研究費の税額控除と外国税額控除)と、個社ごとに計算する制度(例:寄附金の損金不算入額)が併存するため、どちらで計算すべきかを確認しないと計算ミスが発生する可能性がある点に留意が必要です。

まとめ

以上、グループ法人税制と連結納税制度の相違点についてグループ法人税制と連結納税制度の概要にも触れながら解説した後、連結納税制度とグループ通算制度の共通点と相違点を説明しました。

グループ通算制度は適用を選択した企業グループのみが関係しますが、グループ法人税制は要件を満たした企業グループ間の取引に強制適用されます。うっかり申告調整漏れをしないためにも、顧問税理士などへの情報共有を密に行うようにしましょう。