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コラム

試験研究費に係る税額控除について、基本から丁寧に解説します

導入

企業の成長に欠かせない研究開発の支援策として「試験研究費に係る税額控除制度(研究開発税制)」が設けられています。この制度を活用すれば、研究開発費の一部を法人税額から控除でき、資金繰りの改善につながります。しかし、適用要件や控除率は企業の規模や研究開発費の割合によって異なり、正しく理解することが重要です。本記事では、研究開発税制の概要や適用ポイントを解説し、効果的な活用方法について紹介します。

この記事の結論

研究開発税制(試験研究費に係る税額控除)は、企業の研究開発投資を支援する税制優遇措置で、一定の条件を満たせば、研究開発費の一部を法人税額から控除できます。

試験研究費に係る税額控除の制度には「一般型」「中小企業型」「オープンイノベーション型」があり、「一般型」と「中小企業型」はいずれかしか適用を受けることができません。控除率(試験研究費の額のうち何%を法人税額から控除できるか)と控除上限(法人税額の何%まで控除できるか)はそれぞれ異なります。特に一般型は控除率の計算がややこしい上、控除上限も3段階設定されているといった複雑な制度ですので、計算間違いをしないよう注意が必要です。

試験研究費の額とは、自然科学の分野において新たな知見を得たり、知見の応用を考案したりするために行う創造的・体系的な調査研究に係る費用を指すため、既に完成している製品を量産化するための費用やソフトウエアの機能維持のために要する費用は含まれません。

なお、この記事は2025年2月時点で適用されている法令に基づいて記載しています。

試験研究費に係る税額控除の概要

試験研究費に係る税額控除(研究開発税制)とは

試験研究費に係る税額控除は、税制としては「研究開発税制」と呼ばれ、試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を法人税額から控除できる制度です。この制度は、次の3つで構成されています(以下、租税特別措置法を「措法」、租税特別措置法基本通達を「措通」と略します)。

  • 一般試験研究費の額に係る税額控除制度(措法第42条の4第1項)
  • 中小企業技術基盤強化税制(同第4項)
  • 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(同第7項)

参考:経済産業省 研究開発税制の概要と令和5・6年度の税制改正について
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/R6gaiyou_set.pdf

一般試験研究費の額に係る税額控除制度(以下、「一般型」といいます)は研究開発投資の全体額に適用可能な制度で、企業の大きさにかかわらず適用を受けることができます。また、中小企業については、一般型に代えて一般型よりも控除率の高い中小企業技術基盤強化税制(以下、便宜上「中小企業型」といいます)の適用を受けることが可能です。

また、特別試験研究費の額に係る税額控除制度(以下、「オープンイノベーション型」といいます)は、研究開発投資のうち他社との共同・委託試験研究費等について、一般型及び中小企業型よりも高い控除率が設定されています。

3つの制度の概要と適用関係

3つの制度の控除率(試験研究費の額または特別試験研究費の額の何%を控除することができるか)と控除上限(法人税額の何%まで控除することができるか)は次の表のとおりです。

控除率 控除上限
一般型 1%~14% 法人税額の25%(原則)法人税額の35%(上乗せ措置適用後)法人税額の20%(一定の場合)
中小企業型 12%~17% 法人税額の25%(原則)法人税額の35%(上乗せ措置適用後)
オープンイノベーション型 20%~30% 法人税額の10%

たとえば、中小企業型の適用対象法人の試験研究費の額が1億円で控除率が12%のケース(つまり試験研究費の額に控除率を乗じた金額は1,200万円)を考えてみます。適用対象法人の法人税額が2億円のときの控除上限額は5,000万円(2億円に25%を乗じた金額)であるため、満額の1,200万円を控除することができます。一方、適用対象法人の法人税額が1,000万円のときの控除上限額は250万円(1,000万円に25%を乗じた金額)であるため、満額ではなく250万円しか控除できないことになります。なお、法人税額が0またはマイナスの場合は控除額も0です。

また、一般型と中小企業型は重複適用できませんが、一般型とオープンイノベーション型、一般型と中小企業型は両方の適用を受けることができます(オープンイノベーション型の控除上限は、一般型及び中小企業型とは別枠で設けられています)。もっとも、同じ試験研究費の額で両方の控除を受けることはできず、一般型もしくはオープンイノベーション型の計算の基礎に含めた試験研究費の額の額は、オープンイノベーション型の対象となる特別試験研究費の額には含まれません。

中小企業型の対象法人

中小企業型の適用を受けられる法人は、中小企業者(適用除外事業者を除く)と農業協同組合等です(以下、まとめて「中小企業者等」といいます)。「中小企業者」とは、事業年度末における資本金または出資金が1億円以下の法人で、かつ次のいずれにも該当しない法人をいいます(資本を有しない法人及び通算法人については説明を省略します)。

  • 資本または出資の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人
  • 資本または出資の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人

ここで、「大規模法人」とは、資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人または大法人による完全支配関係がある法人をいい、「大法人」とは資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人等をいいます。判定基準は2分の1「超」ではなく2分の1「以上」ですので、たとえば資本金の額が2億円の会社に発行済株式総数の50%を所有されている法人は、残りの株主がすべて少数株主であったとしても中小企業者には該当しない点に注意が必要です。

なお、中小企業型の適用を受けられない法人(適用除外事業者)とは、ざっくりいうと3年平均の所得金額が15億円を超える法人が該当します。具体的には、判定対象年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の合計額を各基準年度の月数の合計数(通常は12×3の36)で除し、これに12を乗じて計算した金額が15億円を超える法人が該当します(措法第42条の4第19項第8号)。

試験研究費に係る税額控除の適用要件

試験研究費に係る税額控除は、平成30年度(2018年度)税制改正で導入された「特定税額控除規定の不適用措置」の対象であるため、原則として中小企業者等以外の法人は一定の要件を満たさない限り試験研究費の税額控除の適用を受けることができません(措法第42条の13第5項)。

ここでいう「一定の要件」とは次のいずれかをいい、一つでも満たせば「特定税額控除規定の不適用措置」の対象から外れます(判定対象年度は設立事業年度にも合併等事業年度にも該当しないとします)。

  • 当期の所得金額が前期の所得金額以下であること
  • 継続雇用者給与等支給額増加率が1%以上であること
  • 当期の国内設備投資額が、当期償却費総額の40%超であること

2点目と3点目の要件は、企業規模等によって緩和されます。「一定の要件」については細かいルールもあるので、詳細は国税庁の税制改正パンフレット(特定税額控除規定の不適用措置の見直し)をご参照ください。

参考:国税庁 税制改正パンフレット
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/pdf/E.pdf

以上、試験研究費に係る税額控除の概要を解説しました。次のセクションでは、一般型、中小企業型、オープンイノベーション型の各制度について解説します。

試験研究費に係る税額控除の各制度

一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)

一般型は大法人であっても適用を受けられる制度で、試験研究費の額に控除率(1%~14%)を乗じた金額のうち、控除上限(法人税額の20%~30%)に達するまでの金額を法人税額から控除することができます。

控除率の計算

控除率は増減試験研究費割合と試験研究費割合によって決定されます。「増減試験研究費割合」とは、増減試験研究費の額(=当年度の試験研究費の額から前年度の試験研究費の額を引いた金額)の比較試験研究費の額に対する割合を意味します。「比較試験研究費の額」とは、適用年前3年以内の各年分の試験研究費の額を平均した額をいうことから、要するに、増減試験研究費割合は次の式で計算します。

増減試験研究費割合 = (当年度の試験研究費の額 - 前年度の試験研究費の額)÷(適用年前3年以内の各年分の試験研究費の額の平均)

また、「試験研究費割合」とは、平均売上金額(適用年及び前3年以内の事業年度における売上金額の平均額)に占める試験研究費の額の割合を意味します。

控除率は、増減試験研究費割合が12%以下か否かと、試験研究費割合が10%以下か否かによって計算方法が分かれます。

まず、増減試験研究費割合が12%以下、かつ試験研究費割合が10%以下の場合は、次の計算式で控除率を計算します。

控除率 = –(12% – 増減試験研究費割合)× 0.25 + 11.5%

たとえば、増減試験研究費割合が12%以下の場合、控除率は次のとおり計算します。

控除率 = –(12% - 10%)× 0.25 + 11.5% = – 0.5% + 11.5% = 11%

増減試験研究費割合はマイナスになることもありますが、マイナスになった場合でもそのまま計算します。たとえば増減試験研究費割合がマイナス18%の場合の控除率は次のとおりです。なお、控除率の下限値は1%です。

控除率 = –(12% – –18%)× 0.25 + 11.5% = – 7.5% + 11.5% = 4%

次に、増減試験研究費割合が12%超、かつ試験研究費割合が10%以下の場合は、次の計算式で控除率を計算します。

控除率 =(増減試験研究費割合 – 12%)× 0.375 +11.5%

たとえば、増減試験研究費割合が22%の場合、控除率は次のとおり計算します(小数点は三位未満切り捨てで計算します)が、控除率の上限は14%であるため、このケースにおける控除率は14%です。

控除率 =(22% - 12%)× 0.375 +11.5% = 3.75% + 11.5% = 15.2%

最後に、試験研究費割合が10%超の場合は、上記で計算した控除率に控除割増率を乗じた金額が控除率となります(最大14%)。控除割増率は、(試験研究費割合 – 10%)× 0.5で計算します(上限10%)。たとえば、試験研究費割合が15%のときの控除割増率は2.5%です。

控除上限の計算

控除上限の原則は法人税額の25%ですが、増減試験研究費割合が4%超もしくはマイナス4%未満の場合は、それぞれ次の計算式で控除上限を計算します。

<増減試験研究費割合が4%超の場合>
控除上限(上限30%) = 25% +(増減試験研究費割合 – 4%)× 0.625
<増減試験研究費割合がマイナス4%未満の場合>
控除上限(下限20%) = 25% +(4% – 増減試験研究費割合)× 0.625

また、試験研究費割合が10%を超える場合は、(試験研究費割合 – 10%)× 2に25%を加えた割合(最大35%)が控除上限となります。その他、時限措置の重複適用ができない規定などもありますので、実際の計算にあたっては税理士にご相談ください。

中小企業技術基盤強化税制(中小企業型)

中小企業型は中小企業者等が適用を受けられる制度で、試験研究費の額に控除率(12%~17%)を乗じた金額のうち、控除上限(法人税額の25%~35%)に達するまでの金額を法人税額から控除することができます。

控除率は原則12%ですが、増減試験研究費割合が12%を超える場合、または試験研究費割合が10%を超える場合は、一般型と同じく控除率の上乗せ措置が用意されています。

また、控除上限は原則25%ですが、増減試験研究費割合が12%超の場合は控除上限が35%にアップします。また、増減試験研究費割合が12%以下であっても、試験研究費割合が10%を超えるときは、(試験研究費割合 – 10%)× 2に25%を加えた割合(最大35%)が控除上限となります。

特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)

オープンイノベーション型は、特別試験研究費の額(定義は追って紹介します)に以下の控除率を乗じた金額のうち、控除上限(法人税額の10%)に達するまでの金額を法人税額から控除することができます。

類型 控除率
特別研究機関、大学等との共同・委託試験研究 30%
スタートアップ等との共同・委託試験研究 25%
民間企業等との共同・委託試験研究、高度研究人材の活用に関する試験研究等 20%

試験研究費の額の範囲

「試験研究費の額」とは

試験研究費の税額控除における「試験研究費の額」とは、自然科学の分野において新たな知見を得たり、知見の応用を考案したりするために行う創造的・体系的な調査研究に係る費用をいいます。この点、措通42の4(1)-1では、「試験研究」を次のとおり定義しています。

事物、機能、現象などについて新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う創造的で体系的な調査、収集、分析その他の活動のうち自然科学に係るものをいい、新製品の製造又は新技術の改良、考案若しくは発明に係るものに限らず、現に生産中の製品の製造又は既存の技術の改良、考案若しくは発明に係るものも含まれる

試験研究費の額の定義は措法第42条の4第19項第1号で示されています。これをざっくりまとめると次のとおりとなります。

<対象となる費用>
  • 製品の製造、技術の改良・考案、発明に係る試験研究のために要する費用
  • 対価を得て提供する新たなサービスの開発に係る試験研究として一定のものに要する費用
<所得計算上の取り扱い>
  • 損金算入される費用
  • 研究開発費として損金経理をした金額のうちソフトウエア等の取得価額に算入される費用

「特別試験研究費の額」とは

特別試験研究費の額とは、試験研究費の額のうち次のいずれかに該当するものをいいます(措法第42条の4第19項第10号)。

  • 共同試験研究(国の試験研究機関、大学その他の者と共同して行う試験研究)
  • 委託試験研究(国の試験研究機関、大学その他の者に委託する試験研究)
  • 中小企業者からその有する知的財産権の設定又は許諾を受けて行う試験研究
  • 新規高度研究業務従事者に対して人件費を支出して行う試験研究
  • その他一定のもの

このうち、「新規高度研究業務従事者」とは、博士の学位を授与されてから5年以内の従業員、もしくは他社(一定のグループ企業は除きます)で10年以上専ら研究業務に従事していた従業員で自社の従業員となってから5年を経過していないものを意味します。

「試験研究費の額」に含まれない費用の例示

次のような活動に係る費用は「試験研究費の額」には含まれません(措通42の4(2)-3より抜粋)。これらの費用を試験研究費の額に含めないようご注意ください。

  • 人文科学及び社会科学に係る活動
  • 性能向上を目的としないことが明らかな開発業務の一部として行うデザインの考案、及び当該デザインに基づいて行う設計・試作
  • 生産方法、量産方法が技術的に確立している製品を量産化するための試作
  • 製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウエアに係るプログラムの機能上の障害の除去等の機能維持に係る活動
  • ソフトウエア開発に係るシステム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート及びソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの制作

まとめ

以上、試験研究費に係る税額控除(研究開発税制)の制度概要、各制度の控除率及び控除上限の計算方法、「試験研究費の額」の範囲を解説しました。試験研究費の税額控除制度の適用要件や控除率は企業規模や研究開発費の割合によって異なるため、正確な理解が必要です。また、税額控除の適用にあたっては、証拠資料の整備や申告手続きも重要となります。制度を最大限に活用し、税負担を軽減するためにも、専門知識を持つ税理士にご相談ください。