相続や贈与があったときの非上場株式の評価は財産評価基本通達に従って実施します。評価方法は、非上場株式を取得した人が同族株主か否か、非上場株式の会社規模が大会社・中会社・小会社のいずれかによってそれぞれ異なります。評価方法が複数から選択できるケースもあるので詳しくは税理士に相談するとよいでしょう。
この記事は、「故人が保有していた非上場株式を相続することになった。非上場株式の相続税評価をどのように行うのか知りたい」という方や、「非上場株式の相続税計算を税理士に依頼するにあたって、一通りの知識をつけておきたい」という方に向けて、非上場株式の評価方法について詳しく解説します。
非上場株式の評価が必要となる場面は主に相続税額・贈与税額の計算時ですが、所得税額の計算時にも必要となることもあります。
非上場株式の評価方式には原則的評価方式と特例的な評価方式(配当還元方式)があります。非上場株式の評価を行う最初のステップは、どちらの方式で評価するかを判定することです。
原則的評価方式で評価を行う場合は、評価対象会社の会社規模を判定した上で、それぞれの会社規模に従って方式で評価額の計算を行います。
非上場株式の評価は次の場面で必要になります。
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以下、それぞれについて解説します。
非上場株式の相続や贈与があった場合は、これらに対する相続税額や贈与税額の計算を行う過程で非上場株式の評価を行う必要が生じます。
非上場株式の評価は、「財産評価基本通達」に従って行います。財産評価基本通達とは、相続税および贈与税の課税価格(遺産や財産の評価額)を計算するための基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを国税庁が定めたものです。
参考:国税庁 財産評価基本通達
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
非上場株式を売却したときの譲渡所得は、売却金額から非上場株式の取得費(購入時に支払った費用)と譲渡費用(売却手数料等)の合計額を差し引いて計算します。
売却金額が時価であれば上記の計算をするだけで問題ありませんが、個人から法人への譲渡の場合は、売却金額が時価から大きく乖離していると別の課税関係が生じる可能性もあり、このようなときに非上場株式の評価を行う必要が出てきます。所得税法における非上場株式の評価は基本的に相続税・贈与税の計算方法と同じく財産評価基本通達に基づいて行いますが、所得税法独自の規定も所得税基本通達で設けられているため、これらの規定も考慮した上で評価を行う必要があります。所得税法独自の規定については後ほど解説します。
非上場株式の相続や贈与があった場合における非上場株式の評価額は、次のステップで計算します。
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以下では、まず非上場株式の取得者が同族株主である場合における非上場株式評価額の具体的な計算例について解説します。その後、非上場株式の取得者が同族株主である場合における会社分類の判定方法と、評価対象会社が大会社、中会社、小会社に該当する場合における評価額の計算方法をそれぞれ解説します。なお、説明の簡略化のため、いずれの場合も同族株主のいる非上場企業であることを前提にします。
非上場株式を取得した株主が同族株主ではない場合は、「配当還元方式」と呼ばれる方式によって評価を行います(財産評価基本通達188)。
「同族株主」とは、非上場企業の議決権総数の一定割合を自己及び自己の親族等が保有している株主のことです。「一定割合」は、当該非上場企業の株主構成によって変わります。
①自己と自己の親族等の有する議決権の合計数が全体の50%超を占める株主がいる場合 50%超 ②①以外の場合 30%以上 |
たとえば、被相続人Aが有していた議決権総数が100%で、これをA氏の妻が35%、A氏の子が55%、A氏の友人(親族外)が10%を相続または遺贈により取得したとします。この場合、A氏の妻とA氏の子は同族株主に該当しますが、A氏の友人は同族株主には該当しません。
参考:国税庁ホームページ 質疑応答事例 同族株主の判定
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/05/01.htm
非上場株式を取得した株主が同族株主ではない場合は、原則として特例的評価方式である配当還元方式で評価を行います。配当還元方式とは、直前期の配当金の額を基礎にして非上場株式の評価額を算定する方法です。具体的には、次の①に②を乗じて1株当たりの評価額を計算します(財産評価基本通達188-2)。
①その株式に係る年配当金額÷10% ②その株式の1株当たりの資本金等の額÷50円 |
ここで、「その株式に係る年配当金額」とは、「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合における直近2事業年度の配当金額」を意味します。また、「その株式の1株当たりの資本金等の額」は、非上場企業の法人税申告書に記載された資本金等の額を直前期末の発行済み株式数で割った金額です。
一例として、下記の場合の評価額を計算してみましょう。
発行済株式総数:10,000株 資本金等の額:10,000,000円 直前2事業年度の平均配当金額:1,000,000円 |
まずは、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合における発行済株式数を計算します。これは資本金等の額を50で割って求めることができるため、200,000株と計算できます。次に、「その株式に係る年配当金額」を計算します。この金額は、2年平均配当金額を1株当たりの資本金等の額を50円とした場合における発行済株式数で割って求めますから、5円と計算できます(なお、この金額が2円50銭未満の場合は2円50銭とされます)。
以上から、①その株式に係る年配当金額÷10%は50円、②その株式の1株当たりの資本金等の額÷50円は20円となるため、この株式の1株当たりの評価額は1,000円と計算できました。
なお、非上場株式を取得した株主が同族株主であったとしても、一定の要件(個人として保有する議決権の割合が5%に満たない、非上場企業の役員ではない、中心的な同族株主に該当しないなど)を満たすと、配当還元方式で評価が行われます。詳しくは税理士にご相談ください。
以上、特例的評価方式である配当還元方式で評価を行う場合と具体的な評価プロセスについて解説しました。次は、原則的評価方式で評価を行う場合の評価プロセスについて解説します。
原則的評価方式で評価を行う場合は、評価対象会社の規模によって評価方法が変わります。評価の具体的なステップは次のとおりです。
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表:従業員数が70人未満の会社規模判定
総資産価額 | 年間取引金額 | |
大会社 | 卸売業:20億円以上 その他:15億円以上 (いずれも従業員数が35人未満の場合は該当しない) | 卸売業:30億円以上 小売・サービス業:20億円以上 その他:15億円以上 |
中会社 | 大会社に該当しない場合で、かつ 卸売業:7,000万円以上 小売・サービス業:4,000万円以上 その他:5,000万円以上 (いずれも従業員数が5人未満の場合は該当しない) | 大会社に該当しない場合で、かつ 卸売業:2億円以上 小売:サービス業:6,000万円以上 その他:8,000万円以上 |
小会社 | 中会社に該当しない場合 |
たとえば、卸売業を営むA社の従業員数が50名、総資産価額が5千万円、年間取引金額が10億円の場合は、大会社の基準には足りませんが、年間取引金額が中会社の基準を満たすため、A社は中会社に該当します。
なお、「従業員数」、「純資産価額」、「年間取引金額」の意義はそれぞれ次のとおりです(財産評価基本通達178)。詳細の計算は税理士に依頼するとよいでしょう。
従業員数:直前期末以前1年間に勤務していた従業員数(1週間あたりの労働時間が30時間以上の従業員に限る)に、その他の従業員の総労働時間を1,800時間で割った数を足した数 純資産価額:直前期末の評価会社の各資産の帳簿価額の合計額 年間取引金額:評価会社の目的とする事業に係る収入金額 |
大会社に該当する場合は、原則として「類似業種比準方式」と呼ばれる方式で評価を行います。類似業種比準方式とは、評価対象会社が営む事業と類似した業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額をベースに非上場株式の相続税評価額を計算する方式です(財産評価基本通達180)。
類似業種批准方式では、まず「評価対象会社が営む事業と類似した事業」を特定する必要があります。この作業は、国税庁による「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」を元に行います。たとえば、評価対象会社が製本業を営んでいるときは、類似業種比準価額計算上の業種目の大分類は製造業、中分類は印刷・同関連業です。
参考:国税庁ホームページ 分類項目と業種目との対比表
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/170613/01.htm
次に、国税庁が公表している「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和5年分)」を使って、印刷・同関連業の株価等を確認します。
なお、株価については下記のうち最も低い金額を選択することができます(財産評価基本通達182)。印刷・同関連業の場合、最も低い株価は201なのでこれを採用します。
□課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いもの □類似業種の前年平均株価 □類似業種の課税時期の属する月以前2年間の平均株価 |
出典:国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/r05/2306/pdf/07-08/list_02.pdf
次に、評価対象会社の1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額を計算します(計算方法は財産評価基本通達183に定められています)。これらの計算においては、「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額」が使われます(以下、「発行済株式数」といいます)。発行済株式数は評価対象会社の資本金等の額を50で割って計算します。たとえば、資本金等の額が1,000万円の場合の発行済株式数は20万株です。
1株当たりの配当金額は「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額」で計算するため、計算式の分母は単純に評価対象会社の発行済株式数を配当金額で割ったものではなく、上記で求めた発行済株式数で計算します。分子は直前2期分の配当金額の平均値です。たとえば、発行済株式数が20万株、直前2期の配当金額がともに100万円だった場合の1株当たりの配当金額は100万円÷20万株=5円と計算できます。
1株当たりの利益金額は、直前1年間における法人税の課税所得金額(非経常的な利益の金額を除く)に益金不算入となった配当などを調整した金額を上記で計算した発行済株式数で割った金額と、直前2年間における上記の金額の平均のいずれか小さいほうで計算することができます。たとえば、評価対象会社の直前2年間における各年の課税所得は5,000万円で調整額がない場合の1株当たりの利益金額は、5,000万円÷20万株=250円と計算できます。
1株当たりの純資産価額は、直近における法人税法上の資本金等の額と利益積立金額の合計額を発行済株式数で割って計算します。たとえば、資本金等の額が5,000万円、利益積立金額が2,000万円の場合、1株当たりの純資産価額は(5,000万円+2,000万円)÷20万株=350円です。
以上を元に、評価対象会社の株価を次のとおり計算します。
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中会社に該当する場合は、大会社の原則的評価方式(類似業種比準方式)と小会社の原則的評価方式(純資産価額方式)の両方を取り入れた方法で評価することが原則です。具体的な算式は次のとおりで、Lは割合を意味します。
類似業種比準価額 × L + 1株当たりの純資産価額 ×(1-L) |
Lの数字は、評価対象会社の総資産価額及び従業員数、または直前期末以前1年間における取引金額に応じて、0.9、0.75、0.6の三段階に分かれます。純資産価額方式の計算例はこの次に解説します。
小会社に該当する場合は、原則として純資産価額方式によって評価を行います。純資産価額方式とは、原則として相続税評価額によって計算された資産から同じく相続税評価額によって計算された負債を引き、その残額に37%(法人税等相当額として財産評価基本通達186-2で定められている割合)を乗じた金額を評価対象会社の発行済株式数で割ることで1株当たりの相続税評価額を計算する方法です。なお、株式取得者の議決権が50%以下など一定の場合は、この方法で計算した1株当たり純資産価額の80%を相続税評価額とします。
たとえば、評価対象会社の発行済株式数20万株、資産が1億円、負債が3,000万円のときの1株当たり純資産価額は7,000万円ー(7,000万円×37%)÷20万株=220.5円となります。
以上、非上場株式の相続や贈与があったときにおける評価額の計算について解説しました。次に、非上場株式の譲渡があった場合における計算上の留意点について解説します。
所得税法における非上場株式の譲渡時の時価は、原則として財産評価基本通達の定めに従って計算します(所得税基本通達59-6)。
所得税基本通達59-6に定められた例外的な取り扱いは次のとおりです。
□株式を譲渡等する個人が中心的な同族株主に該当する場合で、株式の価額を原則的な評価方法によって算定する場合は、常に小会社の方法(純資産価額方式もしくはLを0.5とした中会社の方法)によること □土地や上場有価証券は時価評価すること □1株当たりの純資産価額の計算に当たっては、評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと |
以上、非上場株式の評価方法について、計算のステップと原則的評価方式で評価を行う場合における具体的な評価手順を解説しました。
原則的評価方式で評価額の算定を行うときは、複数の評価方法から納税者が評価方法を選択することができます。評価方法によって税額が大きく変わることも珍しくないので、非上場株式を相続や贈与によって取得したときは税理士に依頼することをおすすめします。