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コラム

組織再編行為の一つである株式交付の税制(株式交付税制)について

組織再編行為の一つである株式交付に係る株式交付税制は、一定の条件を満たすと、株式交付子会社の株主が株式交付子会社の株式を株式交付親会社へ譲渡した場合の課税が繰り延べられる税制です。令和5年度税制改正によって、一定の同族会社にかかる株式交付が税制の適用対象から除外される点に注意が必要です。

導入

この記事では、組織再編行為の一つである株式交付に関する税制である株式交付税制(株式等を対価とする株式の譲渡に係る所得の計算の特例)について、会社法における株式交付の位置づけ、株式交付税制の適用要件と効果、令和5年度税制改正による影響を中心に解説します。

株式交付税制は、100%ではない子会社化を行うために自社株式を対価として交付する場合に便利な税制ですが、令和5年度税制改正によって一部の株式交付が税制の適用対象から除外された点には注意が必要です。この記事を読んで、株式交付税制に関するご理解を深めていただければと思います。

この記事の結論

組織再編行為の一つである株式交付について、令和3年度税制改正で株式交付税制が導入されました。

株式交付税制の適用要件は、株式交付子会社の株主が株式交付によって株式交付子会社(被買収会社)の株式を譲渡して対価として株式交付親会社(買収会社)の株式の交付を受け、かつ株式交付子会社の株主が交付を受けた株式交付親会社の株式の価額を計算すると、交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合が80%以上になることです。

株式交付税制の効果は株式交付子会社の株式を譲渡した株主に対する課税の繰り延べです。株式交付税制の適用を受けない場合、当該株主が課税を受けるタイミングは株式交付子会社の株式を譲渡した時点ですが、株式交付税制の適用を受けるとこれが交付を受けた株式交付親会社の株式を譲渡したタイミングまで繰り延べられます。

なお、令和5年度税制改正によって、令和5年(2023年)10月1日以降に行われる株式交付について、株式交付の直後の株式交付親会社が一定の同族会社に該当する場合は株式交付税制の適用対象から除外されたのでご注意ください。

組織再編行為と株式交付

組織再編行為とは

会社法における「組織再編」とは、「合併」、「会社分割」、「株式交換」、「株式移転」、「株式交付」を意味します。また、「事業譲渡」も、組織再編には該当しませんが会社に重大な影響を与える行為であることから、組織再編と同じ文脈で紹介されることも多くあります。

株式交付とは

株式交付は、令和元年会社法改正によって新設された制度です。従来、金銭ではなく自社株式を対価に相手企業の株式を取得する場合は、現物出資もしくは株式交換という選択肢がありました。しかしながら、現物出資は手続きが煩雑であり、株式交換は100%子会社化以外の場合には使えないことから、「100%子会社化ではないが、自社株式を対価とする買収をスムーズに行いたい」というニーズに会社法が対応できていませんでした。

こういったニーズに対応するために新設されたのが株式交付です。株式交付は、会社法において「株式会社が他の株式会社をその子会社(・・・)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう」と定義されています(会社法2条32号の2)。

株式交付税制

株式交付税制の概要

株式等を対価とする株式の譲渡に係る所得の計算の特例(株式交付税制)は、租税特別措置法66条の2に規定されています。
株式交付税制によって、対象会社の株主が対象会社を株式交付子会社とする株式交付により所有する対象会社の株式を譲渡した場合は、原則として当該株主が受ける株式譲渡益に対する課税が繰り延べられます(株式を売却したときに課税されます)。

株式交付税制の概要図は次のとおりです(経済産業省の税制改正説明資料を引用しました)。

株式交付税制の概要

図の出典:経済産業省 令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2021/zeisei_k/pdf/zeiseikaisei.pdf

株式交付税制が創設された経緯

株式交付税制は、会社法で株式交付が新設されたことへの対応として、令和3年度税制改正で導入されました。経済産業省の税制改正説明資料によれば、「日本企業の収益性の向上を目指して迅速かつ大規模なM&Aの促進や新たな産業・企業の育成を進める」という観点からすると、株式対価M&Aは有用な手段であり、その株式対価M&Aを円滑化し、企業の機動的な事業再構築を促すために株式交付税制が導入されたと説明されています。

また、同じ資料で、株式交付税制を「実効的な制度とするため、事前認定を不要とし、現金を対価の一部に用いるものも対象とする(総額の20%まで)とともに、恒久的な制度として創設する」とも説明されています。

出展:上掲の経済産業省税制改正説明資料

株式交付税制の適用要件

株式交付税制の適用を受けるためには、次のすべての要件を満たす必要があります(令和5年度税制改正前)。

  • 株式交付子会社の株主が株式交付によって株式交付子会社(被買収会社)の株式を譲渡し、対価として株式交付親会社(買収会社)の株式の交付を受けたこと
  • 株式交付子会社の株主が交付を受けた株式交付親会社の株式の価額が、交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合を計算した場合に80%以上となること、つまり譲渡対価の合計額のうち、金銭やその他の額の占める割合が20%以下であること

株式交付税制の効果

通常の場合、株式交付子会社の株主は、保有する株式交付子会社の株式を株式交付親会社へ譲渡した時点でその譲渡益に対して課税されます。一方、株式交付税制の適用を受ければ、譲渡損益の計上は株式交付子会社の株式を譲渡したタイミングではなく、交付を受けた株式交付親会社の株式を譲渡したタイミングまで繰り延べられることとなります。

令和5年度税制改正の影響

令和3年度税制改正によって導入された株式交付税制は便利な税制でしたが、会社のオーナーが自らの保有する株式を無税で資産管理会社へ移管するという、税制が創設された目的から逸脱した使われ方をするケースもありました。本来、会社のオーナーが資産管理会社へ株式を移転した場合は譲渡益に課税されるべきところ、株式交付税制を使うとこれが無税でできてしまうということが指摘されていました。

こうした指摘を受けて、令和5年度税制改正において、令和5年(2023年)10月1日以降に行われる株式交付について、株式交付の直後の株式交付親会社が一定の同族会社に該当する場合が適用対象から除外されました(租税特別措置法37の13の4第1項)。「同族会社」とは、会社の株主の3人以下とその特殊関係者が会社の発行済株式の総数または総額の50%を超える株式を持っている会社のことをいいます。たとえば、A社の発行済株式の30%をB氏、15%をC氏、10%をD氏が持っている場合、A社は同族会社に該当します。

なお、「一定の同族会社」について、国税庁パンフレットでは「同族会社であることについての判定の基礎となった株主のうちに同族会社でない法人がある場合には、その法人をその判定の基礎となる株主から除外して判定するものとした場合においても同族会社となる同族会社をいいます」と説明しています。一定の同族会社に該当するかを実際に判定する際は、これらの規定も考慮の上で判定する必要があります。

出展:国税庁パンフレット
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r05aramashi.pdf

まとめ

以上、株式交付税制について解説しました。株式交付税制は便利な税制ですが、令和5年度税制改正によって、2023年10月1日以降に行われる一定の株式交付では課税の繰り延べを受けられなくなる点に注意が必要です。「一定の同族会社」の判定の判定を行う場合に気を付けるべき点もあるので、株式交付税制の適用を受けることを検討している方は、税理士のアドバイスを受けるとよいでしょう。