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コラム

適格合併の要件とは?資本関係による違いを中心に解説します

導入

この記事は、グループ法人の整理や再編などを計画している企業の経理・経営企画担当者の方に向けて、組織再編成の一つである合併について、適格合併の要件を資本関係ごと(持分100%子会社等の合併、持分50%超の子会社等の合併、持分50%以下で共同事業を行うための合併)に分けてそれぞれ解説します。

この記事の結論

複数の法人を一つに統合する手続である合併には、既存の法人に統合する吸収合併と、新設した法人に統合する新設合併があります。

合併が、法人税法上の適格要件を満たした合併である適格合併に該当する場合、合併法人は原則として被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことができます。

適格合併に該当するための要件は、合併法人と被合併法人との間に完全支配関係がある場合、合併法人と被合併法人との間に支配関係がある場合、合併法人と被合併法人とが共同で事業を行うための合併に該当する場合でそれぞれ異なります。

合併とは

合併とは

「合併」とは、複数の法人を一つの法人に統合する手続きのことをいいます。合併を行う場合の当事者は、合併によって消滅する法人と残存する法人もしくは新規に設立される法人です。合併を行う際は、会社法の規定によって合併契約を締結する必要があります(会社法748条)。

合併の種類

合併には吸収合併(複数の法人を既存の法人に統合する手続き)と新設合併(複数の法人を新設した法人に統合する手続き)の二種類があります。吸収合併と新設合併は、会社法においてそれぞれ次のとおり定義されています。

吸収合併:会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう(会社法2条27号)
新設合併:二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう(会社法2条28号)

また、吸収合併の手続きと効力については会社法749条から752条に、新設合併の手続きと効力については会社法753条から756条にそれぞれ規定されています。

適格合併と非適格合併

適格合併とは?

法人税法における合併には、一定の要件を満たした合併である「適格合併」と、適格合併以外の合併である「非適格合併」があります。 

「適格合併」とは、税制の定めに適合した合併のことをいいます。適格合併の要件は後ほど解説します。適格合併に該当する場合の効果(税務上のメリット)としては、主に次の2点が挙げられます。

ž被合併法人の有していた繰越欠損金を合併法人が引き継ぐことができる

ž含み益のある資産を移転する場合であっても合併時に譲渡益が生じない

 1点目について、適格合併が行われた場合は、原則として被合併法人(合併により消滅する法人)が有していた繰越欠損金を合併法人(合併後に残存する法人)が引き継ぐ(当該繰越欠損金を合併法人において生じた欠損金額とみなす)ことが可能です(法人税法57条2項)。非適格合併ではこの規定の適用を受けることはできないため、被合併法人が多額の繰越欠損金を有している場合において、合併法人において当該繰越欠損金を利用できる見込みがあるときは、合併が適格合併に該当するか否かは極めて重要な問題となりえます。

 2点目について、合併による資産または負債の移転は、合併時の価額(合併時の時価)で譲渡をしたものとするのが原則ですが(法人税法62条1項)、適格合併の場合は、原則にかかわらず適格合併に係る最後事業年度終了の時の帳簿価額による引き継ぎをしたものとされます(法人税法62条の2第1項)。被合併法人の帳簿価額による引き継ぎをするため、合併時に時価評価は行われず、譲渡益に対する課税も行われません。被合併法人が多額の含み益がある資産を保有している場合や、時価評価を行う必要のある資産を保有している場合は、合併が適格合併に該当するか否かは極めて重要な問題となりえます。

非適格合併とは?

「非適格合併」とは、適格合併以外の合併のことをいいます。非適格合併に該当する場合、合併法人は被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことはできず、合併時の価額による資産の譲渡が行われたものとして、譲渡益が生じる場合はそれに対する課税が行われます。合併のスキーム検討においては、「適格合併の要件を満たす」ことが優先検討課題となることも多くある一方、被合併法人が繰越欠損金を有していなかったり、合併により移転する資産及び負債に時価と帳簿価額との乖離が見られるものが存在しなかったりするなど適格合併のメリットが薄い場合は、適格合併要件を充足するかの検討の優先順位を落とすケースも実務では散見されます。

適格合併と非適格合併で共通する事項

適格合併と非適格合併で共通する事項として、次の2点が挙げられます。

ž消費税の取り扱い

ž不動産取得税及び自動車税(環境性能割)の取り扱い

まず、消費税の取り扱いについて、権利義務が包括的に承継される合併取引は消費税の課税の対象から除外されています(消費税法2条12号、消費税法施行令2条1項4号)。そのため、合併によって資産や負債を合併法人に承継させる取引においては消費税が課税されません。消費税の取り扱いが適格合併と非適格合併で変わらないという点は意外と知られていないので、特に非適格合併仕訳の検討時には留意が必要です。

 次に、不動産を取得したことにより課税される不動産取得税と、自動車を取得したことにより課税される自動車税環境性能割の取り扱いについて、これらは法人の合併により取得した場合は非課税とされています(不動産取得税については地方税法73条の7第2号、自動車税については地方税法150条2号)。この「法人の合併」は、法人税法上の適格要件を満たす場合に限られないため、適格合併であっても非適格合併であっても取り扱いは同じ(非課税)です。

適格合併の要件

法令の定め

適格合併の要件は、次のいずれかに該当する合併で、かつ被合併法人の株主等に合併法人または合併親法人の株式または出資以外の資産が原則として交付されないもの(金銭等不交付要件を満たすもの)をいいます(法人税法2条12号の8)。

ž完全支配関係がある場合の適格要件を満たすもの

ž支配関係がある場合の適格要件を満たすもの

ž共同で事業を行うための合併の適格要件を満たすもの

以下、金銭等不交付要件以外の要件についてそれぞれ解説します。

完全支配関係がある場合

まずは、完全支配関係がある場合の適格要件について解説します。「完全支配関係」は、ざっくりいうと100%の資本関係がある法人間の関係のことをいいます。たとえば、A社(親会社)がB社(子会社)の発行済株式のすべてを保有している場合、A社とB社との間には完全支配関係があるといえます。完全支配関係について、法人税法では「一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(・・・)または一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう」と定義されています(法人税法2条12号の7の6)。

 完全支配関係がある場合の適格要件は、「完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合」とされています(法人税法2条12号の8ハ)。「政令で定める関係」については、法人税法施行令4条の3に規定されています。

支配関係がある場合

次に、支配関係がある場合の適格要件について解説します。「支配関係」とは、ざっくりいうと50%超100%未満の資本関係がある法人間の関係のことをいいます。たとえば、C社(親会社)がD社(子会社)の発行済株式の70%を保有していて、残りの30%はC社と資本関係のない法人等が保有している場合、C社とD社との間には支配関係があるといえます。支配関係について、法人税法では「一の者が法人の発行済株式(・・・)の総数もしくは総額の百分の五十を超える数もしくは金額の株式(・・・)を直接もしくは間接に保有する関係として政令で定める関係(・・・)または一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう」と定義されています(法人税法2条12号の7の5)。

支配関係がある場合の適格要件は、支配関係その他の政令で定める関係があり、かつ従業者引継要件及び事業継続要件の両方を満たすこととされています(法人税法2条12号の8ロ)。

従業者引継要件は、「被合併法人の従業者の概ね80%以上が合併法人の営む事業に従事すること」という要件です。「従業者」とは、「役員、使用人その他の者で、合併(・・・)の直前において被合併法人の合併前に行う事業(・・・)に現に従事する者をいうものとする」とされているため(法人税基本通達1-4-4)、法人の役員であっても事業に従事していれば従業者にカウントされます。

事業継続要件は、「被合併法人の主要な事業が合併後に合併法人等において引き続き行われることが見込まれていること」という要件です。被合併法人が2以上の事業を営んでいた場合にどちらを「主要な事業」とするかについては、「それぞれの事業に属する収入金額または損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定する」とされています(法人税基本通達1-4-5)。たとえば、被合併法人が飲食事業と小売事業を営んでいた場合において、収入のほとんどが飲食事業からのものであるときは、合併法人においても飲食事業を継続しなければ事業継続要件を満たせない可能性がある点に注意が必要です。

共同で事業を行うための合併に該当する場合

最後に、共同で事業を行うための合併に該当する場合の適格要件について解説します。この場合の適格要件は、次の4点を全て満たすことです(法人税法施行令4条の3第4項)。

ž事業関連性要件

ž事業規模要件または特定役員引継要件

ž従業者引継要件(支配関係がある場合における要件と同じ)

ž事業継続要件(支配関係がある場合における要件と同じ)

事業関連性要件は、「合併前に被合併法人が営んでいた主要な事業のうちいずれかの事業と、同じく合併前に合併法人が営んでいた事業が相互に関連していること」という要件です。この要件は、「共同で事業を行うための合併」であれば当然に満たすものだと言えます。

 

事業規模要件と特定役員引継要件は、両方ではなくいずれかを満たすことが要件です。事業規模要件は大きい会社が小さい会社を飲み込む合併など、とても「共同で事業を行うための合併」とは見えないものを適用対象外とするための要件で、特定役員引継要件は合併後の合併法人の役員に被合併法人の役員が誰も就任しないなど、こちらも「共同で事業を行うための合併」とは見えないものを適用対象外とするための要件です。

 事業規模要件は、「被合併法人の被合併事業と、被合併事業と関連する合併法人の合併事業のそれぞれの売上金額、従業者数、資本金の額もしくは出資金の額もしくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと」という要件です。判定は、これら全ての指標ではなく、いずれか一つの指標で行います(法人税基本通達1-4-6注書)。

 特定役員引継要件は、「被合併法人の特定役員のうち少なくとも1名と、合併法人の特定役員の少なくとも1名が合併後の合併法人の特定役員となることが見込まれていること」という要件です。「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役もしくは常務取締役、またはこれらと同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法人税法施行令4条の3第4項第2号、法人税基本通達1-4-7)。

 なお、被合併法人に支配株主がいる場合には、上記4点の他に支配法人による株式継続保有要件が追加されます。この要件は、合併によって交付された合併法人株式を、被合併法人の支配株主が継続して保有することを求める要件です。

まとめ

以上、適格合併の要件について合併前の資本関係ごとにそれぞれ解説しました。

適格合併の判定を間違えてしまうと、本来引き継げるはずの繰越欠損金を引き継げなくなったり、合併時に多額の譲渡益課税が発生してしまう可能性もあります。適格合併の判定を行う場合は、顧問税理士にご相談の上、法令の定めに実際のケースが合致するかを一つ一つ確認することが重要です。