持株会は、社内検討及び社内承認、発起人会及び設立総会の開催、各種協定等の締結のステップで設立することが一般的です。持株会に係る税務対応は会社側と持株会側それぞれが行う必要があります。
人手不足による人材獲得競争が激化する昨今、福利厚生の一環として多くの企業で導入されている従業員持株会を自社にも導入してみようとお考えの方も多いのではないでしょうか。この記事では、従業員持株会に代表される持株会の設立方法を中心に、設立のメリットや税務対応についてもご紹介します。
従業員持株会に代表される持株会は、多くの場合民法上の組合として設立されます。
会社が持株会を設立して従業員がこれに参加してもらうことは、会社側にとっては安定株主の確保や福利厚生の充実による優秀な人材の獲得といったメリットが、従業員側にとっては奨励金を得られる点や働くモチベーションが上がるというメリットがあります。その反面、会社側にとっては事務処理コストがかかる点や株価低迷により従業員のモチベーションが落ちるリスクがある点、従業員にとっては勤務先が倒産した場合は大きなダメージを受ける点やインサイダー取引規制の観点から株式売却には一定の制限がかかるケースもある点といったデメリットもあることに留意する必要があります。
持株会は、①社内検討及び社内承認、②発起人会及び設立総会の開催、③各種協定等の締結のステップで設立します。すべてを自社で実施することも可能ですが、証券会社にサポートしてもらうとよりスムーズに開設を進めることができます。
持株会に関しては、会社側、従業員側、従業員持株会側でそれぞれ税務対応や課税関係が生じる場合があります。会社側は奨励金の源泉徴収や配当金の支払調書の提出、従業員側は奨励金や配当金に対する課税、従業員持株会側は信託の計算書等の提出が必要です。
持株会とは、一定の身分の人たちが株式保有のための仕組みのことであり、任意団体として設立されることもありますが、多くの場合は民法上の組合として設立されます。持株会の代表例は従業員持株会や役員持株会で、上場企業はもちろん、非上場企業であっても従業員持株会を導入している企業も多く見られます。
上記のとおり、多くの持株会は民法上の組合に該当します。ここでいう「民法上の組合」とは、民法第667条における組合のことを指します。民法上の組合は法人税の課税対象とならず、持株会が保有する株式にかかる配当金は組合の各構成員(持株会の会員)に帰属します。
会社側が持株会を設立する主なメリットとしては次の3点が挙げられます。
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また、従業員持株会には奨励金が設けられているケースが多いことや、会社が成長すると持株会で購入した株式価値の上昇を見込むことができるため、持株会に参加することは従業員側にとってもメリットがあります。
一方、会社側が持株会を設立する主なデメリットとしては次の2点が挙げられます。
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また、従業員にとってのデメリットとしては次の2点が挙げられます。
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2点目について、インサイダー取引規制の観点から、持株会で取得した株式を売却することが難しいケースもある点が挙げられます。持株会を通じた株式の買付けは「毎月行う定時定額の買付け」に該当するよう運営されていると考えられ、この場合はインサイダー取引規制の適用除外となるため、インサイダー取引を気にする必要はありません。
一方、株式の売却においては、たとえ持株会を通じて取得した株式であってもインサイダー取引規制の適用除外とはならないため、「未公表の重要事実」を知っている状態で売却をするとインサイダー取引規制違反となる恐れがあります。急に現金が必要となるような事象が生じたとしても、それを理由にインサイダー取引規制の適用は除外されませんので、持株会に資金を投入しすぎると手元に資金が必要となったときに困る可能性がある点に留意が必要です。
参考:日本取引所グループ インサイダー取引
https://www.jpx.co.jp/regulation/preventing/insider/index.html
民法上の組合として設立する従業員持株会を設立するためのステップは次のとおりです。
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これで従業員持株会の設立は完了しますが、従業員持株会を設立した後も、従業員に対して持株会への入会を募集する、入会に係る事務手続きを行うといった事務対応が必要となります。
なお、持株会の設立は自社のみで行うこともできますが、持株会設立を経験したことのある従業員が会社にいるケースは稀であるため、設立に係る事務手続き等を証券会社にサポートしてもらうとよりスムーズに進めることができます。持株会設立のプロジェクトチームの担当者になった場合は、取引のある証券会社にご相談することをおすすめします。
持株会の留意点としては、上記で持株会のデメリットとして紹介したとおり、持株会事務局を設置して持株会に係る事務処理を行う必要がある点が挙げられます。具体的には、会社に持株会事務の担当者を置く必要がある点、年に一度決算報告を作成する必要がある点、入会・退会時に事務処理が発生する点に留意する必要があります。
民法上の組合として設立する従業員持株会における会社側、従業員側、従業員持株会側の税務対応は次のとおりです。
課税関係 | 提出書類等 | |
会社側 |
| 従業員持株会に対する配当の支払いに係る支払調書を税務署へ提出する必要がある |
従業員側 |
| なし |
従業員持株会側 | なし | 信託の計算書及び信託の計算書合計表を税務署へ提出する必要がある |
以下、それぞれの内容について解説します。
従業員持株会における奨励金は従業員に対する給与とされているため、会社側は奨励金の支給時に所得税を源泉徴収して、法定期限までに税務署へ納付する必要があります。なお、奨励金は給与または福利厚生費として損金の額に算入されます。
また、従業員持株会に係る株式の配当は会社から従業員持株会へ支払われ、従業員持株会から持株会の会員(各従業員)へ分配されることから、会社が各会員について配当に係る支払調書を作成する必要はありません。ただし、「支払いを受ける者」が従業員持株会である支払調書を作成し、税務署へ提出する必要があります。
従業員持株会が取得した株式は出資に応じて各会員に帰属し、当該株式から得られた配当金は各会員の配当所得に該当します。また、奨励金は給与所得として取り扱われます。
給与も配当金も支払時に源泉徴収され、上場企業の配当金であれば配当金の金額にかかわらず確定申告が不要となるため従業員側が確定申告をする必要はありませんが、配当金は配当控除の対象となることから、確定申告をして配当控除の適用を受けたほうが有利となる可能性もありえます。
なお、持株会から個人の証券口座へ株式を引き出すだけでは課税関係は生じませんが、引き出した株式を売却した際は譲渡益に対して所得税が課税されます。
持株会側は、配当金を受け取った会員について、信託の計算書及び信託の計算書合計表を作成して、給与にかかる源泉税と同じく1月末までに税務署へ提出する必要があります。
参考:SMBC日興証券ホームページ
https://www.smbcnikko.co.jp/next-one/office/o_houtei/houteichousho.html
以上、持株会の設立方法と税務対応について、民法上の組合として設立される従業員持株会を例に解説しました。
持株会は、社内検討、発起人会及び設立総会の開催、③各種協定等の締結のステップで設立します。設立のステップを自社で進めることも可能ですが、取引のある証券会社で持株会設立サポートサービスを行っているか確認の上、証券会社の協力を得ながら設立を進めるとスムーズかつ確実に設立することができます。
持株会の税務対応に関しては、会社側と従業員持株会側で支払調書等の提出が必要となり、会社側と従業員側で課税関係が生じます。税務対応や課税関係についてより詳しく知りたい方は、お近くの税理士にご相談されることをおすすめします。