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コラム

自社株の無償譲渡はどのように行えばよいの?税務上の留意点についても解説します

導入

この記事では、自社株の無償譲渡を検討している企業のオーナー社長や経理担当者の方に向けて、自社株の無償譲渡に係る法規制や税務上の留意点について詳しく解説します。

この記事の結論

株式の発行法人が行う自社株の譲渡(自己株式の処分)を行うにあたっては、原則として募集事項の決定といった会社法上の手続きを踏む必要があり、さらに無償による処分の場合は有利な価格での交付をする理由を株主総会で説明することが求められます。税務上の留意点としては、株式の発行法人から株式の無償譲渡を受けた相手方が個人の場合は所得税が、法人の場合は法人税がそれぞれ課税される点が挙げられます。


企業のオーナー社長が所有する当該企業の株式を無償譲渡する場合の手続きとしては譲渡(贈与)契約書の作成があります。契約書の作成は贈与契約の効力発生のために必須ではありませんが、後々のトラブル発生を予防するために契約書を作成しておくとよいでしょう。税務上の留意点としては、個人から個人への無償譲渡の場合は譲渡人に税金がかからない一方、個人から法人への無償譲渡の場合は譲渡人に所得税が課税される点が挙げられます。


自社株の無償譲渡とは

自社株の譲渡

「自社株」とは、企業のオーナー社長個人が保有する当該会社の株式と、株式の発行会社が保有する自己株式の両方を意味し、「自社株の譲渡」とはオーナー社長が保有する株式または発行会社が保有する自己株式を譲渡(売却)することをいいます。そして、「自社株の無償譲渡」とは、自社株の譲渡を無償、つまり対価を得ずに行うことを指します。

自社株譲渡の法規制

発行法人が自社株を他社へ譲渡する場合は、第三者へ譲渡する場合、既存株主へ譲渡する場合、株式交付を行う場合に大別されます。

自社株を第三者もしくは既存株主へ譲渡する場合(会社法においては「自己株式の処分」といいます)、まずは募集事項を決定する必要があります(会社法199条)。有利発行の場合を除けば、募集事項の決定は非公開会社においては株主総会(取締役会への委任も可)、公開会社においては取締役会において行います(会社法199条、200条、201条)。

自社株を既存株主へ譲渡する場合は、第三者に割り当てる際の募集事項に加えて、次の事項を定める必要があります(会社法202条1項)。

一 株主に対し、次条第二項の申込みをすることにより当該株式会社の募集株式(種類株式発行会社にあっては、当該株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨
二 前号の募集株式の引受けの申込みの期日

また、株式交付(会社法2条32号の2)を行う場合は、株式交付計画の作成(会社法774条の2)、申し込みをしようとする者に対する株式交付計画等の通知(会社法774条の4)、株式の割当(会社法775条)といった手続きを経る必要があります。なお、株式交付計画の承認は株主総会決議による必要があり(会社法816条の3)、株式交付計画に関する書面等を備え置く必要もあります(会社法816条の2)。

一方、オーナー社長が保有する株式を他者へ譲渡する際は、発行会社が自社株式を譲渡するような法規制はありませんが、無償譲渡を行う際に気を付けたいポイントはいくつか存在します。これらについて次のセクションで解説します。

自社株を所有する個人からの無償譲渡

無償譲渡に必要な手続き

自社株を所有する個人から個人もしくは法人(当該自社株の発行法人を除きます。以下同じです)に対して無償譲渡を行うにあたっては、後々のトラブルの発生を防止するために、譲渡(贈与)契約書を作成するとよいでしょう。

個人から個人への無償譲渡における税務上の留意点

個人から個人に対して自社株式を無償譲渡(贈与)した場合、譲渡人に税金はかかりませんが、譲受人(株式をもらった人)には原則として贈与税が課せられます。譲受人の課税関係は次のとおりです。

場合分け課税関係
相続開始前7年間より前に贈与を受けた場合贈与税
相続開始前7年以内に贈与を受けた場合贈与税及び相続税(相続税の課税価格に算入されますが、納付した贈与税は相続税の計算上控除されます)

「相続開始前7年以内」については、令和5年(2023年)12月31日までに行われた贈与については「3年以内」でしたが、税制改正によってこれが「7年以内」に延長されました。税制改正の詳細は国税庁のパンフレットをご参照ください。

参考:令和5年度相続税および贈与税の税制改正のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf

株式の贈与を受けた譲受人に課せられる贈与税または相続税の金額の計算は、財産評価基本通達に定められた方法によって行います。具体的には、譲受人が「中心的な同族株主」の場合は原則的な評価方法で、それ以外の場合は配当還元方式によって計算を行います。譲受人が中心的な同族株主に該当するかの判定や、評価額の計算は複雑であるため、お近くの税理士に相談するとよいでしょう。

なお、自社株の無償譲渡が事業承継を目的として行われる場合は、法人版事業承継税制の適用を検討することをおすすめします。法人版事業承継税制は、自社株(非上場株式等)の贈与・相続があった場合に適用を受けることができる税制で、特例措置では全株式、一般措置では総株式の3分の2までに係る贈与税の納税猶予を受けることができます。法人版事業承継税制の適用を受けるためにはいくつかの手続きが必要なので、こちらもお近くの税理士に相談することをおすすめします。

個人から法人への無償譲渡における税務上の留意点

個人から法人へ無償譲渡を行った場合は、個人に対して所得税が、法人に対して法人税がそれぞれ課税されます。上述したとおり、個人から個人への無償譲渡においては譲渡人に所得税は課せられない一方、個人から法人への無償譲渡においては譲渡人に所得税が課せられます。「個人からの贈与は贈与を受けた方でのみ課税される」のは個人から個人への贈与に限ったものである点は見落としがちであるため注意が必要です。

個人から法人への無償譲渡において譲渡人に所得税が課せられる根拠は、所得税法59条1項です。この条文では、贈与(法人に対するものに限る)によって譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、贈与が行われた時に、その時における価額(つまり時価)に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす、と規定されています。

ここでいう時価については、所得税基本通達23~35共-9に準じて算定した価額とされています(所得税基本通達59-6)。具体的には、上場株式や気配相場のある株式の場合は終値、売買実例がある株式の場合は最近において売買の行われたもののうち適正と認められる金額、株式公開手続中等の場合は公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる金額に基づいて算定され、これらのいずれにも該当しない場合は発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額において算定されます。そして、この「通常取引されると認められる価額」は、著しく不適当と認められるときを除いて、財産評価基本通達178から189-7により算定することができます。

なお、個人から無償譲渡を受けた法人は、時価相当額を益金の額に算入する必要があります。

自社株発行会社からの無償譲渡

無償譲渡に必要な手続き

自社株発行会社が自己株式の無償譲渡を行うことは有利な金額による自己株式の処分に該当するため、取締役は、株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明する必要があります(会社法199条3項)。

法人から個人への無償譲渡における税務上の留意点

法人から個人への無償譲渡においては、原則として何らかの形で当該個人に所得税が課税されます。所得税の計算にあたっては、個人が法人の従業員等である場合は給与所得、個人の退職によって無償譲渡を受ける際は原則として退職所得、個人と法人との間に何の関係もない場合は一時所得として取り扱われることとなります。

法人から法人への無償譲渡における税務上の留意点

法人から法人への無償譲渡において、株式を取得とした法人は時価により当該株式を取得したものとされ、時価と対価の差額(対価はゼロなので時価とイコール)は受贈益として益金算入されます。このため、株式譲渡を受けた法人側で法人税が課税されることになる点に留意が必要です。

まとめ

以上、自社株の無償譲渡に係る法規制や税務上の留意点について解説しました。

株式の発行法人が自社株の無償譲渡、つまり自己株式の処分を無償で行うためには会社法に規定された諸手続を実施する必要があります。手続きについてご不明な点があれば、弁護士や司法書士といった会社法の専門家に相談することをおすすめします。税務上の取り扱いとしては、自社株の無償譲渡を受けた個人または法人に対して税金がかかるのが原則です。税額の具体的な計算方法については税理士にご相談ください。

また、企業のオーナー個人から個人へ自社株の無償譲渡を行う場合、オーナーには税金がかからず、譲受けた個人に贈与税または相続税がかかります。事業承継目的で自社株の無償譲渡を行う場合は、事業承継税制の適用を受けることで贈与税の納税猶予を受けることができる可能性もあります。一方、個人から法人に対して自社株の無償譲渡を行う場合は、オーナー個人に所得税が、譲受けた法人には法人税が課税されることとなります。こちらについても、税額の具体的な計算方法については税理士にご相談することをおすすめします。