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コラム

役員給与の損金不算入とは?基礎から応用まで詳しく解説します

導入

法人の役員へ支給する給与について、支給額や支給時期をきちんと管理しないと損金不算入になってしまうということは知っていても、具体的にどういった給与が損金算入でき、どういった給与は損金不算入になるかまではご存じない方が多いのではないでしょうか。この記事では、企業の役員や経理担当者に向けて、役員給与の損金不算入額の規定について基礎から応用まで詳しく解説します。

この記事の結論

役員給与が法人の損金に算入されるには、以下の要件を満たす必要があります。

<要件1>:次のいずれかに該当すること
 ž   定期同額給与
 ž   事前確定届出給与
 ž   業績連動給与

<要件2>
不相当に高額でないこと、および事実の隠蔽や仮装経理による支給ではないこと

役員の定義には取締役や監査役などが含まれ、顧問などの実質的な経営者も該当する場合があります。制度は2006年に改正され、報酬や賞与が「役員給与」に統一されました。損金算入可能な給与形態は以下のとおりです。

 ž   定期同額給与: 毎月同額で支給されるもの。
 ž   事前確定届出給与: 所定の時期に確定額を支給するもの。
 ž   業績連動給与: 利益や株価指標を基に算定される給与。

役員給与の損金不算入

税制の概要

法人税法の定めにより、次に示す要件1及び要件2のいずれにも該当する役員給与は、役員給与を支給する法人の損金の額に算入されます(法人税法34条。以下、法人税法を「法」、法人税法施行令を「法令」、法人税基本通達を「法基通」とそれぞれ表記します。)。

<要件1>
次のいずれかに該当するもの。
 ž   定期同額給与
 ž   事前確定届出給与
 ž   業績連動給与
<要件2>
次のいずれにも該当しないもの。
 ž   不相当に高額な部分の金額
 ž   法人が事実を隠蔽または仮装経理して支給した役員給与の額

「役員」の定義

役員給与の損金不算入の規定における「役員」とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの、同族会社の使用人のうち一定の者と定義されています(法2条15号、法令7条)。一般に、監査役会設置会社においては取締役及び監査役へ支給する報酬が役員給与の損金不算入額の規定の対象となりますが、「相談役」や「顧問」といった肩書で実質的に法人の経営に従事している者がいる場合は、相談役や顧問へ支払う報酬についても役員給与の損金不算入額の規定が適用されます(法基通8-2-1)。

なお、「執行役員」は法人の使用人(従業員)の職制の一つであることから、執行役員へ支払う報酬は原則として役員給与の損金不算入の規定の対象外です。執行役員へ支払う報酬は原則として損金算入されますが、当該執行役員が特殊関係使用人であり、かつ不相当に高額な部分の金額は例外的に損金不算入となります(法36条)。

税制の歴史

役員給与の損金不算入制度は平成18年度(2006年度)税制改正において抜本的な見直しが行われました。見直し前の税制においては、①役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額(旧法34条1項)、②法人が事実を隠蔽または仮装経理して支給した役員報酬の額(旧法34条2項)、③役員賞与の額(旧法35条)、④役員に対する退職給与のうち損金経理をしなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額(旧法36条)は損金不算入とされていました。

見直し後の税制においては、役員報酬・役員賞与・退職給与という区別がなくなって「役員給与」に一本化された上で、旧来の役員賞与に相当する金額についても一定の要件を満たせば損金算入が可能となりました。

参考:国税庁 平成18年度法人税関係法令の改正の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei2006/03.pdf

損金算入できる役員給与

損金算入できる役員給与

冒頭で紹介したとおり、現行の税制で損金算入できるのは次の役員給与です。

 ž   定期同額給与
 ž   事前確定届出給与
 ž   業績連動給与

以下、それぞれの概要をご紹介します。

定期同額給与の概要

「定期同額給与」とは次のいずれかを満たすものをいいます。

 ž   事業年度中毎月同額を支給するもの(法34条1項1号)
 ž   次の事由により支給額の改定が行われ、事業年度開始から改定前までの各月及び改定後から事業年度終了後までの金額がそれぞれ同額であるもの
 ・一定の時期における改定(法令69条1項1号イ)
 ・臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情)による改定(同号ロ)
 ・業績悪化改定事由(法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由)による減額改定(同号ハ)
 ž   継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令69条1項2号)

要するに、役員に対して毎月支給する給与や供与する経済的利益の額が事業年度を通じて同額であるか、一定の時期または事由に基づいて改定を行う場合は改定前、改定後でそれぞれ同額性が維持されていれば損金算入できるというルールです。各事由への具体的な当てはめについては税理士にご相談いただくとよいでしょう。

事前確定届出給与の概要

事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与のことをいいます(法34条1項2号)。詳細は次のセクションで解説します。

業績連動給与の概要

業績連動給与とは、同族会社に該当しない法人が業務を執行する役員に対して支給する給与のうち、利益の状況を示す指標や株式の市場価格の状況を示す指標等を基礎として算定される額の給与等のことをいいます(法34条1項3号)。こちらも、詳細は次の次のセクションで解説します。

事前確定届出給与の要件と手続き

事前確定届出給与の定義

事前確定届出給与とは、役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭、確定した数の株式、新株予約権、確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式、特定新株予約権を交付する給与のうち、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(一定の場合はそれぞれの要件を満たすものに限る)をいいます(法34条1項2号)。

場合要件
<法34条1項2号イ>
「定期給与を支給しない役員に対して同族会社に該当しない法人が支給する金銭による給与」以外の給与である場合(一定のものを除く)
納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること
<法34条1項2号ロ>
株式を交付する場合
当該株式が「適格株式」であること
<法34条1項2号ハ>
新株予約権を交付する場合
当該新株予約権が「適格新株予約権」であること

なお、イ及びロ、もしくはイ及びハのいずれにも該当する場合は、それぞれに規定された要件の両方を満たす必要があります(法基通9-2-15の4)。以下、それぞれの要件について解説します。

事前確定届出給与に関する届出要件(法34条1項2号イ)

事前確定届出給与に関する原則的な届出は、役員の職務について株主総会等の決議が行われた日から1か月を経過する日までに行う必要があります(法令69条4項1号)。この点、株主総会においては役員給与の支給限度額のみ決議し、各人別の支給額は取締役会で決定する場合において、株主総会の翌日以降に取締役会決議が行われる場合は、役員の職務の執行の開始の日である株主総会の日(法基通9-2-16)から1か月を経過する日までに届出を行う必要がある点に注意が必要です(同号かっこ書き)。なお、株主総会における役員給与の支給限度額の決議(会社法361条1項)は、限度額が変わらなければ毎年決議をする必要がないと解されています。

また、臨時改定事由があったことにより新しく事前確定給与に関する届出を行う際は当該臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日が(法令69条4項2号)、臨時改定事由による変更届出を行う際には原則として当該臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日が(法令69条5項1号)、業績悪化変更事由による変更届出を行う際には原則として株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日が(同項2号)それぞれ届出期限となります。

なお、会社とは委任の関係にある役員の報酬は後払いが原則であるため、職務の執行の終了後に役員賞与を支給するケースが多く見られますが、職務の執行の中途に支給した場合であっても、役員への賞与の支給時期を使用人と同じ時期とし、かつ、毎期継続して同時期に賞与の支給を行っているなど、支給時期が一般的に合理的に定められているような場合で、必要な届出を行っていれば当該役員賞与を損金の額に算入することも可能です。

参考:国税庁 質疑応答事例
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/17.htm

適格株式に該当するための要件(同号ロ)

「適格株式」とは、次のいずれの要件を満たすものをいいます。

 ž   市場価格のある株式または市場価格のある株式と交換される株式
 ž   給与の支払いを行う内国法人または関係法人が発行した株式

よって、たとえば上場企業がその役員に対して支給するものは「適格株式」に該当します。

適格新株予約権に該当するための要件(同号ハ)

「適格新株予約権」とは、次のいずれの要件を満たすものをいいます。

 ž   新株予約権の行使によって市場価格のある株式が交付される新株予約権
 ž   給与の支払いを行う内国法人または関係法人が発行した新株予約権

届出が不要な場合

次の給与は、事前確定給与に関する届出を行う必要はありません。

 ž  定期給与を支給しない役員に対して同族会社に該当しない法人が支給する金銭による給与
 ž   株式または新株予約権による給与で、将来の役務の提供に係る一定のもの

1点目について、たとえば非同族会社が非常勤役員に対し年2回のみ給与を支給する場合が該当します。この給与はたとえ年2回分が同額だったとしても定期同額給与ではなく事前確定届出給与に該当しますが(法基通9-2-12)、この給与については事前確定給与に関する届出は不要です。 

2点目の「一定のもの」とは、役員の職務につき株主総会等の決議による事前確定届出給与に関する定めに基づいて交付される特定譲渡制限付株式または特定新株予約権による給与をいいます(法令69条3項)。

業績連動給与の要件と手続き

業績連動給与の定義

「業績連動給与」とは、利益の状況を示す指標や株式の市場価格の状況を示す指標等を基礎として算定される額の給与のことをいいます(法34条1項5号)。そして、業績連動給与のうち内国法人(同族会社の場合は同族会社に該当しない法人による完全支配関係がある法人に限ります)が業務執行役員へ支給するもののうち、一定の要件を満たしたものについて損金算入することが可能です(同項3号)。

業績連動給与を損金算入するための要件

業績連動給与を損金算入するためには、①客観性の要件と、②期限内支給の要件の両方を満たす必要があります。

客観性の要件について、交付される金銭の額等の算定方法が、その給与に係る職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標または売上高の状況を示す指標を基礎とした客観的なもので、次の要件を満たす必要があります。

 ž   確定額または確定数を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する業績連動給与に係る算定方法と同様であること
 ž   事業年度開始の日から3か月(原則)を経過する日までに報酬委員会等が支給額の算定方法を決定していること
 ž   支給額の算定方法等が、報酬委員会等の決定のあと、有価証券報告書への記載もしくは一定の方法により開示されていること

また、期限内支給の要件については、次の区分に応じた期限までに交付され、または交付される見込みであることが必要です。

支給方法期限
金銭支給額算定の基礎とした指標の数値が確定した日の翌日から1か月を経過する日
株式または新株予約権株式数または新株予約権数の算定の基礎とした業績連動指標の数値が確定した日の翌日から2か月を経過する日

なお、特定新株予約権または承継新株予約権による給与で、無償で取得され、または消滅する新株予約権の数が役務提供期間以外により変動するものについては、特定新株予約権または承継新株予約権に係る特定新株予約権が業績連動給与の算定方法につき適正な手続の終了の日の翌日から1か月を経過する日までに交付されることが適用要件です。

手続要件

業績連動給与を損金算入するための手続き要件として、給与の額を損金経理をしていること、または給与の見込額として損金経理により引当金勘定に繰り入れた金額を取り崩す方法により経理していることが必要です(法令69条19項2号)。

まとめ

役員給与の損金不算入制度は、企業の税務処理において重要な論点です。役員給与を損金算入するためには、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかの要件を満たし、不相当に高額でないこと等が求められます。また、届出や計算方法などには複雑な手続きが伴うため、適切に対応しないと税務リスクが生じる可能性があります。特に、法令や基準の詳細を正確に理解し、個別の状況に応じた判断を行う必要があります。

税務調査での指摘や将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、役員給与に関する制度や手続きについて疑問がある場合は、税理士にご相談ください。専門家の助言を受けることで、安心して税務対応を進められるでしょう。