企業が社会貢献や地域支援を目的に寄附を行うことは一般的ですが、寄附金は法人税の計算において一定の範囲でしか損金算入が認められません。寄附金の税務上の分類や、損金算入限度額の計算を誤ると想定外の税負担を招く可能性があることから、寄附金の税務処理は慎重に行う必要があります。この記事では、「寄附金の損金不算入制度」の概要、寄附金の種類と税務上の取り扱い、損金算入限度額の具体的な計算方法について、実務に役立つポイントを解説します。
法人が支出した寄附金(金銭その他の資産または経済的な利益の贈与または無償の供与)については、課税の公平の観点から損金算入が制限されています。
極めて公共性の高い国・地方公共団体への寄附金や指定寄附金は全額損金算入できる一方、特定公益増進法人への寄附金や一般寄附金は損金算入限度額を超えた部分が損金算入できず、完全支配関係がある法人への寄附金や国外関連者寄附金は全額が損金算入できません。
「寄附金の損金不算入制度」とは、法人が支出した寄附金の額のうち、一定のものを損金不算入とする制度のことです。たとえば、損益計算書上の寄附金の額が1,000で、うち損金不算入となる寄附金の額が400の場合、差し引き600のみが課税所得の計算上損金の額に算入されます。
寄附金の損金不算入制度の趣旨は、課税の公平にあります。この点、税務職員に対して必要な研修を行う機関である税務大学校が作成した資料(税務大学講本)では次のように説明しています。
法人の支出した費用が法人税法上の損金となるためには、その法人の事業活動に必要なものでなければならない。しかし、寄附金はその性質上、直接には反対給付がない支出であるため、事業活動に必要なものであるかどうかの判定が極めて困難である。 このような寄附金を無制限に損金として認めた場合、本来課税されるべきはずの所得並びに税金の減少を招き、結果的に国が法人に代わって寄附をしたのと同じことになり、課税の公平を欠くこととなる。 しかしながら、法人として事業を円滑に実施し、規模を拡大するためには、地域への貢献や福祉活動も必要であり、損金性が認められるとする考え方もある。そのようなところに、ある種の損金性を擬制して、行政的便宜と課税の公平の観点から、統一的な限度額を設けて、それを超える金額については損金の額に算入しないこととしている。 |
出典:国税庁 税務大学講本 法人税法(令和7年度版)p.89
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/houjin/pdf/all.pdf
法人税法における寄附金は、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と定義されています(法人税法37条7項)。その上で、「寄附金の額」を次のように定義しています(同)。
寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。 次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。 |
損金不算入額の計算においては寄附金をいくつかの区分に分けて取り扱います。具体的な区分と損金不算入額は次のとおりです。
区分 | 損金不算入額 |
国または地方公共団体への寄附金(法人税法37条3項1号) | なし(全額損金算入) |
指定寄附金(同項2号) | なし(全額損金算入) |
完全支配関係がある法人への寄附金(法人税法37条2項) | 全額損金不算入 |
国外関連者への寄附金(租税特別措置法66条の4第3項) | 全額損金不算入 |
特定公益増進法人への寄附金(法人税法37条4項) | 損金算入限度額を超えた部分が損金不算入 |
一般寄附金(同条1項) | 損金算入限度額を超えた部分が損金不算入 |
以下、区分ごとの取り扱いを解説します。
国や地方公共団体(都道府県、市区町村、特別区など)への寄附金は損金算入が制限される「寄附金の額の合計額」には算入されず、他に損金算入を制限する規定もないため、全額が損金算入されます。ここでいう「国」は日本国、「地方公共団体」は日本国の地方公共団体を指すものと解されるため、外国政府や外国の州への寄附金はこれに該当しません。
国または地方公共団体への寄附金の典型例は、公立高校の施設の新築費用にあたるための寄附金や、公立図書館の図書を購入するための寄附金です。施設の建設や拡張を目的とした後援会への寄附であっても、施設の完成後に建物が国または地方公共団体に帰属するものが明らかなときは、形式上は後援会への寄附であっても国または地方公共団体への寄附金に該当します(法人税基本通達9-4-3)。
なお、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の適用を受けることができる一定の寄附金を地方公共団体へ支出した場合は、地方公共団体への寄附金の損金算入に加えて、法人住民税、法人事業税、法人税の各税目で税額控除を受けることができます。企業版ふるさと納税は、寄附を行うことによる経済的利益(例:補助金を得る、寄附金を使って建設した施設の優先利用権を得る)を受けることは禁止されていますが、企業のPRや縁のある地方公共団体への貢献をすることは可能です。企業版ふるさと納税の詳細については、内閣府地方創生サイトのパンフレットをご参照ください。
参考:内閣府地方創生サイト
https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/portal/pdf/R6panph.pdf
指定寄附金も、国または地方公共団体への寄附と同じく理由で全額が損金算入されます。指定寄附金とは、公益社団法人、公益財団法人等に対す寄附金で、次の2要件を満たすと認められるものとして財務大臣が指定したものをいいます。
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指定寄附金には、国立大学法人や日本赤十字社へ支出した寄附金といった毎年指定されているもの(包括指定)と、万博の費用や平安神宮の保存修繕費用といった特定の目的のために期限を定めて指定されているもの(個別指定)があります。2025年5月現在有効な指定寄附金の告示は次のとおりです。
出典:昭和40年4月30日大蔵省告示第154号(包括指定)
https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/kokuji/KO-19650430-0154.pdf
出典:昭和40年5月13日大蔵省告示第159号(個別指定)
https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/kokuji/KO-20250331-159.pdf
完全支配関係がある法人に対する寄附金については、寄附金を支払った法人は当該寄附金の全額が損金不算入とされ、寄附金を受け取った法人は当該受贈益の全額が益金不算入とされます(受贈益については法人税法25条の2をご参照ください)。
ここでいう「完全支配関係」とは、「一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう」とされています(法人税法2条12号の7の6)。完全支配関係の典型例は親会社とその100%子会社の関係で、この場合、たとえば親会社から子会社への寄附金は親会社側で損金不算入、これに対応する受贈益は子会社側で益金不算入となります。
国外関連者に対する寄附金は全額が損金不算入として取り扱われます。国外関連者への寄附金は法人税法ではなく、租税特別措置法で規定されます(租税特別措置法66条の4第3項)。
ここでいう「国外関連者」とは、法人との間に、50%以上の株式等の保有関係(親子関係、兄弟関係等)や実質的支配関係(役員関係、取引依存関係、資金関係等)といった特殊の関係がある外国法人をいいます。詳細は国税庁のホームページをご参照ください。
参考:国税庁ホームページ 用語の解説
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/kobetsu/itenkakakuzeisei/05.htm
国外関連者寄附金の典型例は、日本親会社から、その100%海外子会社への寄附金です。この場合、日本親会社側で支出した寄附金は全額が損金不算入となります。一方、海外子会社側は当該子会社が所在する国の税制に従って益金算入されるか否かを判断します。
一般寄付金とは、ここまで紹介してきたもの及び特定公益増進法人等に対する寄附金以外の寄附金をいいます。たとえば、政治団体、寺社、町内会などへの寄附金がこれに該当します。
一般寄附金は損金算入限度額を超えた部分が損金不算入となります。損金算入限度額は、次のとおり計算します(簡略化のため当期の月数は12とします)。
<資本基準額> 資本基準額 = 期末の資本金及び資本準備金の合計額 × 0.25% <所得基準額> 所得基準額 = 当期の所得金額 × 2.5% ※「当期の所得金額」は申告書別表4の仮計欄に寄附金の額を加算した金額を使用します <損金算入限度額> 損金算入限度額 = (資本基準額 + 所得基準額)× 25% |
設例として、次の場合の損金不算入額を計算してみましょう。
<設例> 一般寄附金の額:1,000,000円 期末の資本金及び資本準備金の合計額:200,000,000円 当期の別表4仮計の金額:89,000,000円 <損金不算入額の計算> 資本基準額:200,000,000円 × 0.25% = 500,000円 所得基準額:(89,000,000円 + 1,000,000円)× 2.5% = 2,250,000円 損金算入限度額:(500,000円 + 2,250,000円)× 25% = 687,500円 損金不算入額:1,000,000円 - 687,500円 = 312,500円 |
損金不算入額を計算するにあたってのポイントは、一般寄附金を正しく集計すること(たとえば国等への寄附金を一般寄附金に含めないこと)と、所得基準額における当期の所得金額を「仮計の金額+寄附金の額」とすることの2点です。
最後に、特定公益増進法人等に対する寄附金の取り扱いを解説します。特定公益増進法人等への寄附金は、一般寄附金とは別枠で計算する損金算入限度額を超えた部分が損金不算入となります。
「特定公益増進法人等」とは、公益の増進に著しく寄与する法人として政令に掲げられた団体のことで(法人税法37条4項)、具体的には次の法人が該当します(法人税法施行令77条)。
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特定公益増進法人等への寄附金の典型例は公益社団法人や公益財団法人への寄附金です。特定公益増進法人等への寄附金の損金算入限度額は次のとおり計算します(簡略化のため当期の月数は12とします)。
<資本基準額> 資本基準額 = 期末の資本金及び資本準備金の合計額 × 0.375% <所得基準額> 所得基準額 = 当期の所得金額 × 6.25% ※「当期の所得金額」は申告書別表4の仮計欄に寄附金の額を加算した金額を使用します <損金算入限度額> 損金算入限度額 = (資本基準額 + 所得基準額)× 50% |
特定公益増進法人等への寄附金の損金算入限度額は一般寄附金より多いため、特定公益増進法人等への寄附金を誤って一般寄附金の額に含めないようにしましょう。
ここまで、寄附金の損金不算入額の計算を中心に解説しましたが、そもそも寄附金の額を正しく集計することができなければ、損金不算入額の計算を正しく行うこともできません。そこで、このセクションでは寄附金の隣接費用である交際費との違いについて、基本通達からいくつかご紹介します。
交際費と寄附金は、「金銭や物品を贈与する」という場面で隣接費用となり、交際費で計上すべきか寄附金で計上すべきか悩む場面も出てきます。この点、租税特別措置法基本通達61の4(1)-2では、「事業に直接関係のない者に対して金銭、物品等の贈与をした場合において、それが寄附金であるか交際費等であるかは個々の実態により判定すべきであるが」としつつ、金銭でした贈与は原則として寄附金とするものとし、社会事業団体、政治団体に対する拠金や、神社の祭礼等の寄贈金は交際費等に含まれないとしています(よって寄附金に該当します)。
以上、寄附金の損金不算入制度について解説しました。同じ「寄附金」であっても、損金算入されるか否かは寄附金の区分や損金算入限度額によって異なります。企業側が想定していない税負担を避けるためにも、寄附の計画段階から税務に詳しい専門家と相談することが重要です。寄附に伴う税負担を正しく管理し、企業の社会的貢献と財務健全性を両立させるためにも、ぜひ税理士にご相談ください。