コラム

企業版ふるさと納税のメリットを徹底解説!税制優遇から企業イメージ向上まで

導入

企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)をご存じでしょうか。これは、企業が地方公共団体の地方創生事業に寄附を行うことで、税制上の優遇措置を受けられる制度です。個人のふるさと納税と異なり返礼品はありませんが、最大で寄附額の9割もの税額軽減効果が期待でき、企業イメージの向上にもつながるというメリットがあります。本記事では、この企業版ふるさと納税の制度概要から、税制優遇の仕組みや留意点までを分かりやすく解説します。地方創生に貢献しながら税負担を軽減したいとお考えの経営者の方や経理担当者の方は、ぜひご一読ください。

この記事の結論

企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は、企業が地方創生事業に寄附を行うことで、法人関係税から最大で寄附額の9割が軽減される制度です。最大9割の税額軽減は、通常の寄附金と同様に寄附金の全額を損金算入できることに加え、企業版ふるさと納税にのみ適用される税額控除(最大で寄附額の6割)が上乗せされることで実現されます。

税額控除額にはそれぞれ上限があることから、寄附金額が増えるほど税額軽減の割合は下がります。税額軽減のメリットを上限まで受けるためには事前のシミュレーションが重要です。また、本社所在地の地方公共団体への寄附は対象外となることや、寄附を行うことの代償として経済的な利益を受けることが禁止されていることなど、いくつかの留意点もあります。

企業版ふるさと納税とは?

企業版ふるさと納税の制度概要

企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は、地方公共団体が行う地方創生の取組に対する企業の寄附について、法人関係税を税額控除する制度のことです。企業版ふるさと納税の仕組みに基づいて寄附金の額を支出することにより、最大で支出額の約9割の税額軽減効果を受けることができます。

なお、企業版ふるさと納税を行ったとしても、個人のふるさと納税とは異なり返礼品を受け取ることはできず、寄附の見返りとして経済的利益を受け取ることも禁じられていますが、寄附によって地域社会に貢献することで、企業イメージの向上をはかることは可能です。

企業版ふるさと納税の導入目的と制度の変遷

企業版ふるさと納税の制度は、2016年度(平成28年度)税制改正で導入され、2020年度(令和2年度)税制改正によって税の軽減効果が拡充されて今日に至ります。

企業版ふるさと納税の制度は、2015年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」に基づいて地域再生法が改正され、この地域再生法の改正に伴い、認定地方公共団体のまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附を税制で支援する観点から創設されました。

参考:財務省 平成28年度税制改正の解説 pp.407-408

2016年の導入当時における税額軽減効果は、最大で寄附金支出額の6割でした。6割となった理由について、衆議院の予算委員会において当時の内閣府副大臣は次のとおり答弁しています(一部表現を修正しています)。

地方創生に資するために企業からの寄附を促進するという観点からは、税制面においてある程度インパクトがある、そういうインセンティブが必要ではないかと考えております。ただ一方で、寄附行為によりましてイメージの向上であったり、何らかの利益を企業自身にももたらすことが当然考えられるわけですから、一定の企業負担は残しておくことが大切だと思っておりまして、これらのバランスを勘案いたしまして、現行の損金算入による約3割の軽減効果を、3割の税額控除を追加することで2倍に拡充することによって6割の負担軽減とし、4割は企業負担としました

出典:財務省 平成28年度税制改正の解説 p.409

2020年度(令和2年度)税制改正においては、「志ある企業の地方への寄附による地方創生の取組への積極的な関与を促し、地方への資金の流れを飛躍的に高める観点」から、税額軽減効果が従来の6割から9割に引き上げられました。
出典:財務省 令和2年度税制改正の解説 p.1235

企業版ふるさと納税の税制優遇

最大9割の税額軽減の仕組み

企業版ふるさと納税で寄附額の最大9割の税額が軽減されるのは、寄附金の損金算入の規定(法人税法)と、特定寄附金の税額控除の規定(租税特別措置法及び地方税法)。このうち前者は通常の寄附金にも適用されますが、後者は企業版ふるさと納税特有の規定です。具体的なイメージは下図をご参照ください。

最大9割の税額軽減の仕組み

出典:内閣府ホームページ
https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20240822.html

以下、損金算入による税額軽減と、税額控除による税額軽減についてそれぞれ解説します。

損金算入による税額軽減

通常、寄附金の額は法人税法の規定により損金算入が制限されていますが(法人税法37条1項)、
国または地方公共団体に対する寄附金は損金算入が制限される寄附金の額には含まれないことから(同3項)、支出額の全額を損金算入することができます。

損金算入による税額軽減効果はその法人の課税所得や規模によって異なりますが、一般的な法定実効税率が約30%であることから、十分な課税所得がある場合の税額軽減効果は寄附金支出額の約30%(約3割)となります。たとえば、法人が横浜市に100万円寄附をした場合、損金算入効果によって約30万円の税額が軽減されます。

税額控除による税額軽減

企業版ふるさと納税の要件を満たす寄附金(特定寄附金)については、最大で寄附額の4割の法人住民税と2割の法人事業税が税額控除され、合計で6割の税額軽減効果があります(ただし、それぞれの税額の20%が上限。法人住民税については地方税法附則8条の2の2、法人事業税については地方税法附則9条の2の2)。

また、法人住民税額で控除しきれなかった金額については、その寄附額の10%を限度として法人税から税額控除を受けることもできます(ただし、法人税額の5%が上限。租税特別措置法42条の12の2)。

以上をまとめると、次のとおりです。

控除対象控除額控除限度額根拠法令
法人住民税寄附金支出額の40%法人住民税額の20%地方税法附則8条の2の2
法人事業税寄附金支出額の20%法人事業税額の20%地方税法附則9条の2の2
法人税法人住民税から引ききれなかった金額(寄附金支出額の10%が上限)法人税額の5%租税特別措置法42条の12の2

たとえば、法人税額が1億円、法人住民税額が800万円、法人事業税額が1,000万円の場合において、特定寄附金を200万円支出したときの控除額はそれぞれ次のとおり計算されます(ケース1)。

控除対象控除額控除限度額実施の控除額
法人住民税80万円(200万円の40%)160万円(800万円の20%)80万円<160万円のため、80万円
法人事業税40万円(200万円の20%)200万円(1,000万円の20%)40万円<200万円のため、40万円
法人税法人住民税から引ききれなかった金額がないため法人税額からの控除額なし500万円(1億円の5%)なし

ケース1は、特定寄附金の支出額が200万円、控除額が120万円のため、税額軽減効果を上限(寄附金支出額の6割)まで受けることができています。

また、法人税額、法人住民税額、法人事業税額はケース1と同じで、特定寄附金を700万円としたときの控除額は次のとおりです(ケース2)。

控除対象控除額控除限度額実施の控除額
法人住民税280万円(700万円の40%)160万円(800万円の20%)280万円>160万円のため、160万円
法人事業税140万円(700万円の20%)200万円(1,000万円の20%)140万円<200万円のため、140万円
法人税法人住民税から引ききれなかった金額は280万円-160万円=120万円で、この金額は寄附金支出額の10%(つまり70万円)より多いため、控除額は70万円500万円(1億円の5%)70万円

ケース2は、特定寄附金の支出額が700万円、控除額が370万円のため、特定寄附金支出額の約53%の税額軽減を受けることができていますが、上限(420万円)には達していません。

更に、法人税額、法人住民税額、法人事業税額はケース1及びケース2と同じで、特定寄附金を2,000万円としたときの控除額は次のとおりです(ケース3)。

控除対象控除額控除限度額実施の控除額
法人住民税800万円(2,000万円の40%)160万円(800万円の20%)800万円>160万円のため、160万円
法人事業税400万円(2,000万円の20%)200万円(1,000万円の20%)400万円>200万円のため、200万円
法人税法人住民税から引ききれなかった金額は800万円-160万円=640万円で、この金額は寄附金支出額の10%(つまり200万円)より多いため、控除額は200万円500万円(1億円の5%)200万円

ケース3は、特定寄附金の支出額が2,000万円、控除額が560万円のため、ケース2よりも更に税額軽減割合が減って、特定寄附金支出額の28%しか税額軽減を受けることができなくなっています。

このように、一般的には特定寄附金の支出額が増えれば増えるほど税額軽減割合は減ることから、税額軽減効果を上限(寄附金支出額の6割)まで受けたい場合は、事前のシミュレーションをすることを推奨します。なお、ケース1からケース3は簡略化したシミュレーションであり、実際の計算結果とは異なりますので、実際のシミュレーションは税理士にご相談ください。

税額控除の適用を受けるための要件

これらの税額控除の適用を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります(地方税法附則8条の2の2、地方税法附則9条の2の2、租税特別措置法42条の12の2)。

  • 青色申告書を提出していること
  • 認定地方公共団体に対して、当該認定地方公共団体が行うまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金を支出すること
  • 寄附によって設けられた設備を専属的に利用すること、その他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものではないこと
  • 確定申告書に一定の書類を添付するとともに、特定寄附金に該当することを証する書類を保存すること

地方公共団体への寄附金であればすべて企業版ふるさと納税の対象となるわけではなく、認定地方公共団体に対して支出する、まち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金のみが対象となる点に注意が必要です。地方公共団体への寄附を行う前に、寄附予定先の地方公共団体が認定地方公共団体に該当するか、寄附対象事業に該当するかの確認を行うとよいでしょう。

通常の寄附金との違い

通常の寄附金(国や地方公共団体への寄附金)と企業版ふるさと納税の違いは次のとおりです。

寄附金損金算入による税額軽減税額控除による税額軽減
通常の寄附金ありなし
企業版ふるさと納税ありあり

企業版ふるさと納税のほうが税額軽減は大きいため、地方公共団体への寄附を行う場合は企業版ふるさと納税の要件を満たす寄附にすると、少ない自己負担額で寄附することができます。

以上、企業版ふるさと納税の税額軽減メリットについて解説しました。この記事の最後に、税制優遇以外のメリットと、企業版ふるさと納税の留意点についてご紹介します。

税制優遇以外のメリットと留意点

税制優遇以外のメリット

企業版ふるさと納税には、税額軽減以外に次のメリットがあります。

  • 地域社会への貢献を通じて企業イメージの向上をはかることができる
  • 地方自治体との連携を強化することができる

地方自治体との連携強化について、寄附を行うことにより経済的利益を受けることは禁止されていますが、地方自治体とのコネクションができることで、当該地方自治体における事業を拡大する一助になることが期待できます。

企業版ふるさと納税の留意点

メリットも多い企業版ふるさと納税ですが、気をつけたいルールもいくつか存在します。主な留意点は次のとおりです。

  • 本社所在地の地方公共団体への寄附は対象外であること
  • 1回あたり10万円以上の寄附が対象であること
  • 寄附金の使途は地方公共団体が決定すること(寄附をした企業が自由に選べるわけではない)
  • 個人のふるさと納税と異なりは返礼品等を受け取れず、寄附を行うことの代償として経済的な利益を受けることも禁止されていること

内閣府の解説によると、「寄附を行うことの代償として経済的な利益を受けること」の例示は次のとおりです。

  • 寄附を理由とした補助金の交付
  • 寄附を理由とした、他の法人の場合より低い金利での貸付け
  • 入札や許認可での便宜の供与
  • 合理的な理由なく、市場価格より低い価格で財産を譲渡すること
  • 寄附を理由とした換金性の高い商品(商品券やプリペイドカード等)の提供
  • 寄附を行うことを、公共事業の入札参加要件とすること
  • 寄附を活用して整備した施設を専属的に利用させること
  • 合理的な理由なく、他の利用者より低廉な料金で公共施設を利用させること

上記のほか、「寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与すること」についての細かい解説は、内閣府の解説をご参照ください。

参考:内閣府「寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与すること」についての解説
https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/portal/pdf/250401kaisetsu.pdf

まとめ

企業版ふるさと納税は、地方創生に貢献しつつ、最大で寄附額の9割という高い税額軽減効果を得られる魅力的な制度です。損金算入による効果に加え、企業版ふるさと納税特有の税額控除が適用されることで、税負担を大きく軽減することができます。また、地域社会への貢献を通じて企業イメージを向上させ、地方自治体との連携を強化できるといった、税制優遇以外のメリットも期待できます。

企業版ふるさと納税には、本社所在地の地方公共団体への寄附は対象外となることや、寄附を行うことの代償として経済的な利益を受けることが禁止されているなど、いくつかの留意点も存在します。留意点に対する判断に迷われたり、税額軽減効果について詳細なシミュレーションを行いたい場合は、お近くの税理士にご相談いただくことをお勧めします。