HOME > コラム多国籍企業は要確認!BEPS2.0「第2の柱」グローバル・ミニマム課税の仕組みと日本の法制化

コラム

多国籍企業は要確認!BEPS2.0「第2の柱」グローバル・ミニマム課税の仕組みと日本の法制化

導入

国際的な租税回避と法人税の引き下げ競争を防ぐための新たな国際課税ルールとして、BEPS2.0が導入されました。このルールの中心となるのが、グローバル・ミニマム課税を含む第2の柱(Pillar2)です。グローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が一定の規模を超える多国籍企業グループに対し、進出国各国において最低でも15%の税率により計算した税額を負担させることを目的としています。この記事では、複雑なBEPS第2の柱の仕組みをわかりやすく解説するとともに、日本で法制化された具体的なルールとその適用時期について、詳細に見ていきます。

この記事の結論

BEPS2.0の第2の柱として導入されたグローバル・ミニマム課税は、年間総収入額が7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業グループに対し、最低税率15%を確保する国際課税ルールです。日本でもすでに法制化が進んでおり、2024年4月1日以降に開始する事業年度から「所得合算ルール(IIR)」が、2026年4月1日以降に開始する事業年度から「軽課税所得ルール(UTPR)」と「国内ミニマム課税(QDMTT)」がそれぞれ適用されます。

3月決算法人の場合は、2025年3月末時点における情報に基づき、2026年9月末までに最初の国際最低課税額確定申告書や特定多国籍企業グループ等報告事項等を提出する必要があります。2026年9月末まであと約1年の時間的猶予があるとはいえ、制度が複雑で収集すべき情報も多いことから、早めに自社の状況をまとめて税理士へ相談することを推奨します。

BEPS第2の柱(Pillar2)とは?

BEPS1.0とBEPS2.0

「BEPS(ベップス)」は、Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)の略称で、多国籍企業が税制の隙間や低税率国を利用して、人為的に利益を移転し、税負担を不当に軽減する行為を指します。この問題に対処するため、OECD(経済協力開発機構)とG20(財務大臣・中央銀行総裁会議)は2012年にBEPSプロジェクトを立ち上げ、国際課税ルールの見直しを行いました。これらの取り組みを「BEPS1.0」と呼びます。

BEPS1.0は、既存の国際課税ルールの枠内で、租税回避行為を防止することを目的としていました。具体的には、ハイブリッド・ミスマッチ取決め(税制の違いを利用する租税回避)の無効化、有害税制への対応、恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止、多国籍企業の企業情報の文書化といった15の行動計画が策定され、各国で法制化が進められました。日本においても、たとえばBEPS行動計画13に基づき、2015年度税制改正において一定の多国籍企業グループの最終親会社に対して、マスターファイルやCbCR(国別報告書)の作成と提出が義務付けられました(租税特別措置法第66条の4第4項)。

BEPS1.0が策定された後も、デジタル経済の急速な発展により新たな課題が浮上しました。従来の国際課税ルールは、物理的な拠点(恒久的施設)がなければ課税できないという原則に基づいていましたが、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるデジタル企業は、物理的な拠点がなくても、インターネットを通じて広範な市場で事業を展開し、多額の利益を上げることが可能になりました。これにより、事業活動を行う市場国に十分な課税権が及ばないという問題が発生しました。

また、多くの国が低い法人税率や優遇税制によって外国企業を誘致する動きをとることで、世界的な法人税率の引き下げ競争が起きて各国の法人税収基盤が弱体化するという懸念が現実のものになろうとしていました。

これらの新たな課題に対応するため、OECDとG20は従来の国際課税ルールにとらわれない新たな国際課税ルールの作成を目的としたBEPE2.0の議論を開始し、2021年10月に新たな国際課税ルールの導入が136ヵ国・地域によって合意されています。

参考:財務省 新BEPS研究会
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/beps_kenkyukai/240621shiryo.pdf

BEPS2.0の第1の柱と第2の柱

BEPS2.0は「第1の柱(Pillar1)」と「第2の柱(Pillar2)」の2つの柱から構成されており、デジタル経済への課税権の配分と、国際的なグローバル・ミニマム課税を導入することで、国際的な租税回避と法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけることを目指しています。

第1の柱と第2の柱の対象となる企業グループはそれぞれ次のとおりです。

対象となる企業グループ
第1の柱(市場国への新たな課税権の配分)全世界売上が200億ユーロ(約3兆円)超で、かつ利益率が10%超の多国籍企業
第2の柱(グローバル・ミニマム課税)年間総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業

第1の柱の対象となる企業グループの数は極めて限定的であるため、この記事では第2の柱に絞って解説を行います。

第2の柱(Pillar2)の構成と対象企業

第2の柱は、グローバル・ミニマム課税に関するルールと、租税条約の特典否認ルールに大別されます。

グローバル・ミニマム課税に関するルールは、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保することを目的としたものであり、具体的には次の3つで構成されます。

  • 所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)
  • 軽課税所得ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)
  • 国内ミニマム課税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)

それぞれの仕組みは次のとおりです。

ルール仕組み
IIR軽課税国に所在する子会社等の税負担が国際的に合意された基準税率(15%)に至るまで、親会社の所在する国において課税を行う仕組み
UTPRIIRによる課税が行われない場合のバックストップとして、子会社等所在地国で課税を行う仕組み(IIRによる課税を補完する仕組み)
QDMTT自国に所在する事業体全体の実効税率が15%未満の場合に、他国において上乗せ課税されるのを防ぐため、各国が導入できる仕組み

なお、グローバル・ミニマム課税に関するルールは、直近4事業年度のうち、2事業年度で連結売上高が7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業グループが適用対象です(実際の円換算は、法人税法施行規則第38条の3に基づき、対象会計年度開始の日の属する年の前年12月における欧州中央銀行によって公表された外国為替の売買相場の平均値を用いて行うこと等とされています)。

参考:令和5年度経済産業省委託事業 Pillar2(グローバル・ミニマム課税)制度の概要
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/itaxseminar2023/26.Pillar2.pdf

また、租税条約の特典否認ルール(STTR:Subject to Tax Rule)は、軽課税国に所在する関連者に対する支払について、最低税率(9%)と、対象となる支払に対して支払先の国で適用される税率の差分について源泉地国へ課税権を認める仕組みです。STTRは国内法ではなく二国間で締結される租税条約に導入されるもので、他の規定が定める租税条約上の特典(免税・限度税率)にかかわらず適用されますが、重要性の閾値を下回る場合は適用されません。

参考:財務省 新BEPS研究会(前掲)

以上、BEPS第2の柱について、BEPS1.0とBEPS2.0の違いや、BEPS2.0のうち第1の柱と第2の柱の違いなどを踏まえて解説しました。次のセクションでは、日本において法制化されたルールについて解説します。

日本において法制化されたルール

所得合算ルール(IIR)

IIRは令和5年度税制改正で導入されました。2024年4月1日以後に開始する対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税について適用され、特定多国籍企業グループ等に属する内国法人に対しては、法人税法第5条の規定による法人税のほか、各対象会計年度の法人税法第82条の2第1項(国際最低課税額)に規定する国際最低課税額に対する法人税が課税されます(法人税法第6条の2)。

特定多国籍企業グループ等に属する内国法人は、その対象会計年度の課税標準国際最低課税額がない場合を除き、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月以内に、国際最低課税額確定申告書を提出する必要があります(法人税法第82条の6第1項)。ただし、申告書を最初に提出すべき場合は「1年3月」ではなく「1年6月」となります(同第2項)。3月決算法人の場合、2025年3月期が最初の対象会計年度であり、2025年3月末から数えて1年6ヶ月後である2026年9月末までに、最初の国際最低課税額確定申告書を提出することになります。

参考:国税庁 グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023003-075.pdf

軽課税所得合算ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)

UTPR及びQDMTTは令和7年度税制改正で導入されました。UTPRは「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」として(法人税法第6条の3)、QDMTTは「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」として(同法第6条の4)、それぞれ2026年4月1日から施行される法律に規定されています。

UTPR及びQDMTTはいずれも、2026年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。3月決算法人の場合の最初の対象会計年度は2027年3月期です。

参考:国税庁 グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし(2)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-012.pdf

情報申告制度

情報申告制度は、IIRの対象となる特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の名称、国別実効税率、グループ国際最低課税額等の事項を税務当局に提供する制度として令和5年度税制改正で導入されました。

特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人は、特定多国籍企業グループ等報告事項等を各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月以内に、e-Taxを使用する方法で、所轄税務署長に提供する必要があります(法人税法第150条の3第1項。ただし、国際最低課税額確定申告書と同じく、同条第6項の規定により最初に報告事項等を提出すべき会計年度については1年6月以内)。

国際最低課税額確定申告書は課税標準国際最低課税額がなければ提出不要でしたが、特定多国籍企業グループ等報告事項等は、課税標準国際最低課税額がなくても(つまりグローバル・ミニマム課税制度による課税を受けなくても)提出する義務がある点に注意が必要です。3月決算法人の場合、最初の提出期限は2026年9月末です(2025年3月期にかかる特定多国籍企業グループ等報告事項等を提出します)。特定多国籍企業グループ等報告事項等の様式にどういった内容を記載すべきかについては、国税庁が公表している記載要領をご参照ください。

参考:国税庁 特定多国籍企業グループ等報告事項等の記載要領
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/global-minimum/pdf/01.pdf

まとめ

BEPS第2の柱は、グローバル・ミニマム課税に関するルールと租税条約の特典否認ルールで構成されており、このうちグローバル・ミニマム課税に関するルールは年間総収入が7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業グループを対象に、各国において最低税率15%での課税を確保する国際的ルールです。日本でもすでに所得合算ルール(IIR)や情報申告制度が法制化されており、2026年4月からは軽課税所得ルール(UTPR)や国内ミニマム課税(QDMTT)も導入されます。

いずれのルールも制度が複雑で、グローバル・ミニマム課税による課税を受けなくても情報申告は必要であるため、企業にとって新たな負担となることは間違いありません。自社の状況を正確に把握し、対象となるグループ企業の絞り込み、適用免除基準(デミニマスやセーフハーバー)に該当するか否かの判断、課税所得の計算などを正しく行うためには専門的な知識が不可欠です。ご不明な点や具体的な対応については、お近くの税理士にご相談いただくことをおすすめします。