
中小企業の成長戦略やグループ内の組織再編において、有力な選択肢となる手法が企業合併です。合併によって複数の法人が一つに統合されることで、経営資源の集約やシナジー効果、さらにはコスト削減など、経営面でメリットを享受できる可能性があります。
しかし、合併の実務においては、法務面の手続きのみならず、税務上の取り扱いが極めて重要な意味を持ちます。特に適格合併に該当するか否かは、資産の含み益への課税や繰越欠損金の引き継ぎ可否を左右し、最終的な再編コストに大きな差を生じさせます。
本記事では、合併の基礎知識から、実務の鍵となる適格・非適格の判断基準、そして検討時に注意すべき税務リスクについて詳しく解説します。
企業の合併には「吸収合併」と「新設合併」があり、実務では手続きの簡便な吸収合併が多く選ばれます。税務上の最大の焦点は「適格合併」の要件を満たすか否かです。適格と判定されれば資産を簿価で引き継げるため、移転時の譲渡益課税を回避できるほか、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継いで将来の税負担を軽減できる大きなメリットがあります。
適格合併に該当するか否かの判定においては、金銭等不交付要件に加え、合併前における資本関係に応じた要件を満たすか否かのテストを行います。完全支配関係(特に100%の親子関係)を有する場合の追加要件はありませんが、支配関係を有する場合、支配関係がない場合の順に満たすべき適格要件は増加します。
適格要件を満たせないと時価評価課税が生じるほか、適格要件を満たしたとしても被合併法人の繰越欠損金を活用できないケースもあるため、税務専門家による事前のシミュレーションが不可欠です。
企業の合併とは、二つ以上の会社が一つの会社になる組織再編の手法です。会社法において、合併は吸収合併と新設合併に大別されており、それぞれ次のように定義されています。
| 吸収合併:会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう(会社法2条27号) 新設合併:二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう(会社法2条28号) |
具体例をあげると、A社とB社が合併してA社またはB社が存続する(存続しなかった会社は消滅する)のが吸収合併、A社とB社が合併して新たにC社を設立する(A社とB社はともに消滅する)のが新設合併です。実務上は、免許や登録の再取得が必要になるなどの手続きの煩雑さから、新設合併よりも吸収合併が選択されるケースがよく見られます。いずれの手法においても、消滅する会社の権利義務は包括的に承継されます。
組織再編の手法として合併が採用されるケースとしては、他社を買収して自社に取り込むことにより事業規模や市場でのシェア率を拡大することを目的としたもの、事業転換に伴うグループ企業の再編を目的としたもの、バックオフィスコストの削減といった経営の効率化を目的としたもの、あるいは被合併法人が有する繰越欠損金の有効活用を目的としたものなどがあります。
中小企業が組織再編の手法として合併を選択することには、経営面および税務面でメリットがあります。
まず経営面においては、複数の法人が持つヒト・モノ・カネといった経営資源を一つに統合することで、経営の効率化やシナジー(相乗効果)が期待できます。具体的なメリットとしては、たとえば各社に存在していた間接部門(経理や人事、総務など)が集約されることよる運営コストの削減、営業拠点・ノウハウの統合による事業規模の拡大、さらには意思決定の迅速化などが挙げられます。
一方、税務面においては適格合併に該当すれば含み益のある資産についても税負担なくグループ再編行うことができる点や、合併により消滅する法人が有していた繰越欠損金を有効利用できる可能性がある点が挙げられます。特に繰越欠損金の有効利用については、組織再編の手法として会社分割ではなく合併が選択される大きな理由の一つです。
ここで「繰越欠損金」とは、過年度において生じた欠損金額(課税所得がマイナスとなった場合の金額)のことをいいます。会計上の赤字(当期純損失)とは異なりますが、計算の考え方(収益から費用を引いた金額であること)は同じです。欠損金額が発生した翌事業年度以降の課税所得の計算上損金の額に算入することや(法人税法57条)、欠損金額が発生した事業年度において繰り戻しによる還付を請求することも可能ですが(法人税法80条)、いずれの場合も課税所得が毎期欠損の状態にある法人の場合はこれらの制度を有効活用することができません。たとえば、同じ企業グループに使い道のない繰越欠損金が積み上がっている法人があれば、合併によって未処理の繰越欠損金の額を合併法人が引き継いで、これを合併法人の課税所得と相殺することにより税負担額を削減することが可能なケースも存在します。
もっとも、繰越欠損金の利用のみを目的とした経済合理性のない合併を行う場合は税務リスクが存在する点に注意が必要です。
法人税法における合併には、一定の要件を満たした適格合併と、それ以外の非適格合併の2種類が存在します。
適格合併とは、税制で定められた要件に適合する合併を指します(法人税法2条12号の8)。合併においては、合併時の時価によって被合併法人(合併により資産負債の移転を行った法人。法人税法2条11号)から合併法人(合併により被合併法人から資産負債の移転を受けた法人。法人税法2条12号)に資産負債の移転が行われるのが原則ですが(法人税法62条1項)、適格合併に該当する場合は資産や負債を帳簿価額(簿価)で引き継ぎます(法人税法62条の2第1項)。このため、合併によって含み益がある資産を移転しても譲渡益が発生せず、合併時点での課税が生じません。さらに、被合併法人の繰越欠損金を、一定の制限のもとで合併法人が引き継ぐことができる点も大きなメリットです(法人税法57条2項)。
一方、非適格合併とは、適格合併以外の合併を指します。非適格合併では、原則どおり合併時の時価によって被合併法人から合併法人に資産負債の移転が行われるため、時価と帳簿価額に差がある場合には譲渡損益が計上され、含み益があればそれに対する課税が行われます。また、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐこともできません。
このように、適格合併と非適格合併とは税務上の取り扱いが異なるため、適切に判定を行わないと思わぬ税負担が発生するリスクもあります。以下、税制適格と非適格の判定基準について詳しく解説します。
適格合併に該当するか否かの判断基準の1つ目は、原則として、被合併法人の株主等に合併法人または合併親法人の株式等以外の資産が交付されないことです(これを「金銭等不交付要件」といいます)。たとえば、A法人をB法人が吸収合併する場合、A法人の株主に対してB法人の株式を交付すれば適格合併に該当し得ますが、A法人の株主に対して金銭を交付する場合は原則として非適格合併となります。なお、次のような場合は、金銭等不交付要件には抵触しません(法人税法2条12号の8)
|
適格合併に該当するか否かの判断基準の2つ目は、合併法人と被合併法人(新設合併においては被合併法人と他の被合併法人)との資本関係によって、次の3パターンが存在します。
|
完全支配関係は、「一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう」と定義されています(法人税法2条12号の7の6)。前者(当事者間の完全支配の関係)の典型例は、親会社とその100%子会社の関係です。また、後者の典型例は兄弟会社であり、たとえば親会社A社が子会社B社及び子会社C社の発行済株式の100%を保有している場合におけるB社とC社との間にも完全支配関係があります。
また、支配関係は、「一の者が法人の発行済株式若しくは出資(中略)の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう」と定義されています(法人税法2条12号の7の5)。前者の典型例は、親会社が子会社の発行済株式等の50%超を保有している関係です。また、完全支配関係と同じく、兄弟会社であっても支配関係が発生するケースもあります。
以下、2つ目の判断基準について、資本関係ごとの要件を見ていきます。
完全支配関係がある場合の適格要件につき、親子間の合併の場合は他の要件はありませんが、兄弟会社間の合併などの場合は、合併後に合併法人と親法人との間に当該親法人による完全支配関係が継続することという要件が追加されます(法人税法施行令4条の3第1項。以下、これを「継続保有要件」といいます。)。
支配関係がある場合の適格要件については、継続保有要件に加えて、次の要件が追加されます(法人税法2条12号の8ロ)。
|
支配関係がない場合の適格要件については、支配関係がある場合における3つの要件に加えて、次の要件が追加されます(法人税法施行令4条の3第4項)。
|
このように、2つ目の判断基準は、資本関係が薄くなればなるほど満たすべき要件が追加されていきます。
とりわけ支配関係がある場合及び支配関係がない場合の適格要件は複雑ですので、判定にあたっては専門家の助言を受けることを推奨します。
合併を行う場合の主な注意点は次のとおりです。
|
1点目について、会社としては適格合併の要件を満たしていると判断しても、税務調査でこの要件を満たさず非適格合併であるとして、資産の含み益に対して課税を受けたり、引き継いだ繰越欠損金の損金算入を否認されたりするリスクが存在します。こうしたリスクを最小化するためにも、比較的シンプルと思われる合併であっても、スキームなどを専門家にチェックしてもらうことが重要です。
2点目について、適格合併に該当したとしても、一定の要件を満たす被合併法人の繰越欠損金(未処理欠損金額)は、合併法人において活用することができません(法人税法57条3項など)。被合併法人が有する繰越欠損金の活用をする場合は、こうした制限に該当しないように注意する必要があります。
参考:国税庁質疑応答事例
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/36.htm
3点目について、合併というスキームを採用する場合、被合併法人の簿外債務も引き継いでしまうといったデメリットも存在します。簿外債務が存在する可能性がある場合は、他のスキームを採用する検討を行ったほうがよいでしょう。
本記事では、企業合併の定義から適格・非適格の判定基準、そして実務上の注意点について解説しました。
企業合併は、中小企業でもよく見られる組織再編の手法で、適切なストラクチャーを組めば経営効率の向上といった効果や税務上のメリットを得ることができます。適格合併の判定基準は資本関係に応じて段階的に複雑化し、特に支配関係があるケースや共同事業を目的とするケースでは、要件の解釈を誤ると、後に多額の課税リスクを背負いかねません。また、繰越欠損金の引継制限・利用制限といった落とし穴にも十分な警戒が必要です。
組織再編を成功させるためには、スキームの構築段階から税務面での緻密なシミュレーションを行うことが不可欠です。円滑な承継とリスク回避のためにも、まずは経験豊富な税理士へお早めにご相談ください。