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コラム

会社分割と事業譲渡の決定的な違いとは?目的別の使い分けガイド

導入

経営の効率化や事業承継、あるいは不採算部門の切り離しを検討する際、会社分割と事業譲渡という二つの手法が選択肢にあがります。どちらも事業を他社へ移転させるための手法ですが、法律や税務、労働法上の取り扱いは大きく異なります。誤った選択は、思わぬ税負担や複雑な手続きを招くことにもなりかねません。本記事では、会社分割と事業譲渡の決定的な違いと、目的に応じた使い分けのポイントを分かりやすく解説します。

この記事の結論

会社分割と事業譲渡の違いは権利義務の移転方法と税務上の取り扱いにあります。会社分割は適格要件を満たせば資産・負債を帳簿価額で引き継ぐため課税が生じませんが、事業譲渡は資産の時価売買となるため譲渡損益が課税対象となります。また、消費税については、会社分割は課税対象外ですが、事業譲渡は個別売買のため原則課税されます。

さらに、労働法や許認可面でも、会社分割は労働契約承継法に基づき包括的に引き継がれる一方、事業譲渡は個別の同意取得や許認可の再取得が必要です。不採算部門の切り離しによる再建には包括移転可能な会社分割、特定資産のみの選別移転には事業譲渡が適しており、再編目的と税負担のバランスを見極めた判断が不可欠です。

会社分割と事業譲渡の違い

会社分割とは?

会社分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる組織再編の手続きをいいます。会社分割は、特定の事業部門を独立させて経営の効率化を図る場合や、M&Aの一環として特定の事業のみを他社へ譲り渡すための準備の一環として活用されます。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、会社がその事業の全部または一部を他の会社に譲渡する手続きをいいます。事業譲渡についての会社法上の手続き(株主総会決議の要否)については、会社法467条及び468条で規定されています。

法的な違い

会社分割が会社法における組織再編の手法として会社法第5編に規定される一方、事業譲渡は会社法における組織再編行為ではなく、単なる売買として取り扱われます。このため、会社分割と事業譲渡では、これらを実行するための法的プロセスが大きく異なります。

この他、会社分割と事業譲渡の大きな違いには、会社分割は事業にかかる権利義務を包括的に移転するのに対し、事業譲渡は事業にかかる権利義務を個別的に移転する点があります。このため、事業譲渡は事業にかかる特定の資産のみを譲渡したい場合や、特定の負債の移転を受けたくない場合に選択される傾向にあります。

税法上の違い

会社分割と事業譲渡は税法上の取り扱いも異なります。

法人税について、会社分割は一定の要件を満たすことで適格分割として扱われ、適格分割に該当すれば資産・負債を帳簿価額で引き継ぐため、移転に伴う譲渡損益の計上は行われず、課税は発生しません。一方、事業譲渡は通常の売買であり、会社分割のような特別な取り扱いもないため、資産を時価で譲渡したものとして譲渡損益が計算され、利益が出れば法人税の課税対象となります。

また、消費税について、会社分割は会社法上の組織再編行為であり、権利義務が包括的に承継されるため、適格・非適格を問わず消費税の課税対象から除外されています。一方、事業譲渡は資産の個別売買であるため、譲渡対象の資産に建物や棚卸資産が含まれる場合は消費税が課税されます(なお、土地の売買は消費税の非課税取引です)。

労働法や許認可の観点からの違い

実務上の負担を左右するのが、従業員の雇用や許認可の引き継ぎに関する手続きの違いです。

分割される事業に従事する従業員の雇用契約につき、会社分割の場合は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)に基づいて原則として分割承継法人へ引き継がれます。一方、事業譲渡の場合は、それぞれ従業員と個別の同意を得る必要があります。労働契約承継法の詳細については、厚生労働省の解説ページも合わせてご参照ください。

参考:厚生労働省 企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/saihen/index.html

また、許認可の引き継ぎについて、会社分割の場合は一定の手続きを経て許認可を承継できるケースもあります(承継にあたっては事前手続が必要なこともあります)。一方、事業譲渡の場合は、原則として許認可の承継は認められず、譲受会社側で新たに許認可を取得し直す必要があります。

会社分割の種類と税制適格要件

会社分割の手法としては、既存の会社に承継させる吸収分割(会社法2条29号)と、新設した会社に承継させる新設分割(会社法2条30号)の二種類があります。また、分割対価の受け取り手が分割法人なのか、それとも分割法人の株主であるかによって、税法上、分社型分割と分割型分割に分類されます。

また、税法上、会社分割は適格分割と非適格分割に大別されます。適格分割の要件は分割法人と分割承継法人との間の資本関係(完全支配関係、支配関係、共同事業)に応じて設定されており、資本関係が薄くなればなるほど適格分割となるために満たすべき条件が増えていきます。たとえば、完全支配関係がある場合は主に金銭等不交付要件等が求められますが、支配関係がある場合や共同事業を目的とする場合には、従業者引継要件や事業継続要件など、実質的な事業の連続性を裏付ける追加要件を満たす必要が生じます。

ここまで、会社分割と事業譲渡の違いと、会社分割における税制適格要件を解説しました。会社分割と事業譲渡にはそれぞれ長所と短所があることから、会社分割と事業譲渡のどちらを選択すべきかは、個々のケースごとに異なります。以下、会社分割と事業譲渡の目的別使い分けガイドとして、いくつかのケースを紹介します。

会社分割と事業譲渡の目的別使い分けガイド

ケース1:不採算部門を切り離して再建したい場合

不採算部門を切り離して会社の経営を再建したい場合、負債や契約関係を含めて包括的に承継できる会社分割を活用することが効果的です。会社分割では負債も分割対象であるため、不採算事業に関連する負債を切り離すことで、債務超過の解消や経営のスリム化を図ることができます。

また、不採算部門のみを残して、それ以外の事業を会社分割により切り出す方法(第二会社方式)においても会社分割を活用するケースもあります。第二会社方式においては、個々の状況によって会社分割と事業譲渡のどちらが税務上有利かは異なりますので、具体的な税金シミュレーションを行うとよいでしょう。

ケース2:含み益のある資産を有する事業を分社して後継者に引き継がせたい場合

含み益のある資産(たとえば土地)を有する事業を分社する場合、税務の観点からは一般的に事業譲渡より会社分割の方が有利です。これは、会社分割のうち適格分割に該当すれば、分割法人が有していた資産・負債が帳簿価額によって分割承継法人へ移転するため、事業承継時に含み益に対する課税を受けずに済むためです。

事業譲渡には会社分割のような税制適格の制度が存在しないことから、譲渡法人が有していた資産・負債は時価により譲受法人へ移転し、その時価と帳簿価額との差額(譲渡益)に対して税金が課税されます。この点は、非適格分割の場合も同じですが、会社分割を選択する場合は適格分割の要件を満たすように制度設計をするのが通常です。

ケース3:特定の資産・負債以外を自社から切り離したい場合

特定の資産・負債を自社に残しつつ、それら以外の資産・負債を自社から切り離したい場合は、事業を包括的に承継させる会社分割は原則として使うことができません。この場合、個別に資産・負債を移転させる事業譲渡の方法により、各資産・負債を移転するか否かを相手方と交渉して決めることになります。

まとめ

会社分割と事業譲渡は、それぞれ税金面や手続き面で異なる特徴を持ちます。適格要件を満たして税負担を抑えるか、あるいは個別の資産を選別して移転させるかなど、目的や状況によって最適な選択肢は千差万別です。また、これらを実行する際には、労働法上の手続きや許認可の引き継ぎなど、高度な専門知識が求められる場面も少なくありません。自社にとってどの手法が最善か迷われた際は、ぜひお近くの税理士にご相談ください。