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コラム

移転価格税制って何?基本から丁寧に解説します

導入

この記事は、「勤務先が海外取引を始めることになり、移転価格税制に対応する必要が生じているが、そもそも移転価格税制がどういったものかわからない」という経理担当者の方や、「経理担当者と対等に話ができるように移転価格税制に関する知識を習得しておきたい」という経理部門以外の方に向けて、移転価格税制の概要について基本から丁寧に解説します。

この記事の結論

移転価格税制とは、国外関連者、すなわち国外にあるグループ企業(50%以上の議決権を保有している関係等がある企業)との取引における取引価格が独立企業間価格であることを求める税制で、租税特別措置法で規定されています。

独立企業間価格の算定方法には6つの方法があり、それぞれ適用できる場面が異なります。実務上は、公開情報から比較対象取引を発見しやすい取引単位営業利益法(TNMM)が多く適用されます。

移転価格税制とは?

移転価格税制の概要

移転価格税制とは、国境をまたぐグループ間取引における取引価格を、第三者との間で行われる取引においても適用される価格であることを求める税制のことです。移転価格税制は1986年に導入され、導入以来多くの改正がなされて今日に至っています。

移転価格税制の特徴は、OECD(経済協力開発機構)での議論を踏まえて、諸外国との共通の基盤に立って整備された税制である点です。移転価格税制は国際取引に適用される税制ですから、税制の適用に当たっては必ず相手国の存在があります。移転価格税制を各国が完全に独自の解釈で適用すると大きな混乱をきたすことから、「OECD移転価格ガイドライン」というOECD加盟国に共通のガイドラインが整備されており、日本の移転価格税制もこのガイドラインに沿って運用されています。

移転価格税制の存在理由

移転価格(Transfer Pricing)とは、国境をまたぐグループ間取引における取引価格のことをいいます。移転価格税制の対象となる取引には、製品や原材料といった有形資産の取引だけでなく、無形資産の取引(ソフトウェアやロイヤリティ)や役務提供(サービスの提供)取引も含まれます。

移転価格税制が存在するのは、グループ間取引の価格を操作して税率の低い国に課税所得を集中させることを防ぎ、各国の適正な税収を確保するためです。たとえば、甲グループの親会社である甲社(A国の企業)が乙社(B国の企業)へ機械を販売し、乙社がそれをB国にある顧客(第三者)へ販売する取引を考えてみます。この取引においては、甲社の売上原価1,000と、乙社の売上20,000を所与のものとします。

移転価格税制の存在理由

ここで、A国の税率が40%、B国の税率が10%とした場合、移転価格としてどういった金額を設定すると甲グループ全体で税引後利益(図中では税後利益と省略表記しています)を最大化することができるでしょうか。

移転価格税制の存在理由

たとえば、移転価格を3,000とした場合、甲社も乙社も納税額が発生し、2社合計の納税額は1,500、税後利益の合計額は7,500です。

移転価格税制の存在理由

一方、移転価格を1,000とした場合、乙社のみに納税額が発生し、2社合計の納税額は900、税後利益は2社合計で8,100になります。

移転価格税制の存在理由

このケースだと、移転価格として低い価格を設定した場合、甲グループ全体としての税引後利益を最大化できそうですが、この状態を放置すると甲社が所在するA国から大量の税収が流出してA国の財政基盤が危うくなってしまいます。こうした事態は国家間の税率引き下げ競争にもつながることから、移転価格が独立第三者との取引価格(独立企業間価格)であることを求める税制(移転価格税制)が各国で導入されています。

なお、「独立第三者」とは、独立した(お互いに支配関係がない)企業同士の関係のことをいいます。お互いに支配関係がない(同じグループに属していない)相手方との取引の場合は、自社の利益を最大化するような取引価格を相手方に提示すると想定されるため、この独立第三者との取引価格は経済合理性があるものと考えられています。

移転価格税制の条文

移転価格税制は、各税法の時限的な特別措置を定めた法律である租税特別措置法の第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)に規定されています。第66条の4は全32項からなる条文で、さらに第66条の4の2から第66条の4の5まで含めると、租税特別措置法の中でもかなり内容が多い条文となっています。

移転価格税制の対象

対象となる取引、ならない取引

移転価格税制は、法人が、昭和六十一年四月一日以後に開始する各事業年度において、当該法人に係る国外関連者(・・・)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に適用されます(租税特別措置法第66条の4第1項)。

ここから、移転価格税制の適用対象となるのは、法人が国外関連者との間で資産の販売等の取引を行った場合であることがわかります。たとえば、次のような取引は移転価格税制の対象とはなりません。

  • 個人が行う取引
  • 内国法人(日本国内に本店または主たる事務所がある法人)と内国法人の取引
  • 国外関連者に該当しない外国法人との取引

国外関連者とは

移転価格税制における「国外関連者」は、法令で次のように規定されています(租税特別措置法第66条の4第1項)。

外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(・・・)のあるものをいう

ここで重要なのは、「百分の五十以上」の「以上」の部分です。子会社の定義が「総株主の議決権の過半数を有する」(会社法第2条第3号)、つまり50%超であるのに対し、国外関連者の定義は「50%以上」となっていることから、たとえば出資比率が50:50のジョイントベンチャーの場合、形式基準で見ると、「子会社」には該当しない一方で「国外関連者」には該当することになります。

なお、「その他の政令で定める特殊の関係」については、租税特別措置法施行令第39条の12に規定されています。国外関連者の判定には、50%以上の支配関係という形式基準の他に、「特定事実が存在することによりいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部または一部につき実質的に決定できる関係」という基準もある点に注意が必要です。

国外関連取引とは

移転価格税制における「国外関連取引」は、法令で次のように規定されています(同上)。

国外関連者(・・・)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引(当該国外関連者が恒久的施設を有する外国法人である場合には、当該国外関連者の法人税法第百四十一条第一号イに掲げる国内源泉所得に係る取引として政令で定めるものを除く。以下この条において「国外関連取引」という。)

一般的には、国外関連者との間で行う取引は国外関連取引に該当すると考えておけば十分です。なお、「法人税法第百四十一条第一号イに掲げる国内源泉所得に係る取引として政令で定めるもの」とは、法人税法第141条第1号イに掲げる国内源泉所得に係る所得(例外あり)とされています(租税特別措置法施行令39条の12第5項)。

法人税法第141条第1号イに掲げる国内源泉所得とは、法人税法第138条第1項第1号に掲げる国内源泉所得とされており、具体的には恒久的施設帰属所得、国内にある資産の保有または運用による所得、国内にある資産の譲渡のうち一定のものなどが該当します。

独立企業間価格とは

独立企業間価格の考え方

独立企業間価格(Arm’s Length Price、ALP)とは、お互いに資本関係がなく、取引において利害関係が対立する企業同士の取引における価格を意味します。利害関係が対立する企業間(独立企業間)の取引価格は、お互いが経済合理性を追求した結果定まるものであることから、移転価格税制においては国外関連取引の価格が独立企業間価格であることを求めています。

独立企業間価格の算定方法

独立企業間価格の算定方法として、日本の税法は次の6つの算定方法が定められており、このうち、上3つの方法は「基本三法」と呼ばれます。

  • 独立価格比準法
  • 再販売価格基準法
  • 原価基準法
  • 利益分割法
  • 取引単位営業利益法
  • ディスカウント・キャッシュ・フロー法

独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method、CUP法)は、検証対象取引に係る価格と比較対象取引に係る価格を直接比較する方法です。最も直接的に独立企業間価格を算定できる方法ではありますが、検証対象取引と同種の資産や役務の内容に係る比較対象取引を公開情報から見つけ出すのは極めて困難であるため、実務ではほとんど使われません。

再販売価格基準法(Resale Price Method、RP法)及び原価基準法(Cost Plus Method、CP法)は、検証対象取引に係る売上総利益の水準と比較対象取引に係る売上総利益の水準を比較する方法です。売上総利益は売上から売上原価を引いた金額であるため、直接的に独立企業間価格を算定できる方法ではありますが、検証対象取引において当事者が果たす機能リスクと同種の比較対象取引を公開情報から得ることは困難です。

取引単位営業利益法については次のセクションで解説します。

利益分割法(Profit Split Method、PS法)は、取引による利益を当事者間に分割することにより独立企業間価格を算定する方法です。利益分割法には、比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余利益分割法があり、国外関連取引のいずれの法人もある程度の機能リスクを有している場合(いずれも機能リスク限定的な法人とは言えない場合)に適用されることが多い方法です。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)は、近年採用された新しい方法であり、国外関連取引に係る比較対象取引を見いだすことが困難な場合で、利益分割法を適用できないときに有用となり得る算定方法です。一方、予測利益の金額のような不確実な要素を用いる方法であるため、他の方法が採用できるのであればDCF法は採用しないとされていることや、独立企業間価格を算定するために合理的で検証可能な情報が入手できなければDCF法は採用できないとされていることから、DCF法が適用されるケースは限定的です。

参考:移転価格税制の適用に当たっての参考事例集

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/010601/pdf/bessatsu.pdf

最もよく使用される算定方法

取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method、TNMM)は、実務上最も頻繁に使用される独立企業間価格の算定方法です。取引単位営業利益法の長所と短所について、「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」では次のように解説されています。

国外関連取引に係る営業利益の水準と比較対象取引に係る営業利益の水準を比較する方法であるが、営業利益は売上総利益のように価格と近接した関係にはなく、独立企業間価格の算定は基本三法と比較して間接的なものとなる。

他方、営業利益の水準も取引の当事者が果たす機能の差異によって影響を受けることがあるが、事業を行う場合に遂行される機能の差異は、一般的に機能の遂行に伴い支出される販売費及び一般管理費の水準差として反映され、売上総利益の水準では大きな差があっても営業利益の水準では一定程度均衡すると考えられることから、取引の当事者が果たす機能に差異があっても調整が不要となる場合がある。したがって、取引単位営業利益法は、基本三法よりも差異の影響を受けにくい方法ということができ、公開情報から比較対象取引を見いだすことができる場合が多くなる。

上記の解説にも記載されているとおり、取引単位営業利益法は公開情報(対象企業のアニュアルレポートやホームページなど)から比較対象取引を見つけることができる可能性が他の方法と比べて高いため、特に取引当事者の一方が機能リスク限定的な会社(典型例としては、研究開発と製造機能を担う日本親会社が担う場合における現地での販売機能のみを担う海外子会社)であるケースに多く適用されます。

まとめ

以上、移転価格税制の概要について、基本的な部分から解説しました。

移転価格税制の対応を間違えると大きな課税リスクを抱えてしまう可能性があります。今後、国外関連者との取引を増やしていく予定がある企業の経理担当者の方は、早めに顧問税理士に相談を行い、移転価格税制への対応プランを練っていくことをおすすめします。