この記事は、「グループ間取引は移転価格税制の対象になると聞いたが、自社グループのどの会社との取引が移転価格税制の対象になるかの判定方法を知りたい」という方や、「グループ間取引に関して、移転価格税制の観点から気をつけるべきポイントをかいつまんで教えてほしい」という方に向けて、グループ間取引における移転価格税制上の留意点について解説します。
企業グループ間取引のうち、移転価格税制の対象となるのは「国外関連取引」に限定されます。国外関連取引とは「国外関連者」との間で行う資産の譲渡や役務の提供取引のことです。
移転価格税制の観点からグループ間取引で気を付けたいポイントは、国外関連者の判定を正確に行う点と、間に第三者を介した間接的な取引であっても移転価格税制の対象になる可能性がある点です。
国外関連者の判定は「50%以上の資本関係」で見る形式基準の他に、「特定事実」の有無から国外関連者判定を行う実質基準があります。実質基準の場合は50%未満の資本関係であっても国外関連者に該当するリスクがあります。また、商社等の第三者企業を介した取引であっても、一定の事実があると「みなし国外関連取引」として移転価格税制の対象となる点にも注意が必要です。
移転価格税制とは、国外関連取引(国境をまたぐ同一企業グループ間の取引)における取引価格を、独立企業間価格(第三者との間で行われる取引において適用される価格)であることを求める税制のことです。
移転価格税制においては、国外関連取引を独立企業間価格で行われたとみなして法人税の課税所得の計算を行います。移転価格税制においては、寄附金の論点とは違って「贈与の意思」の有無は問題とならないことから、国外関連取引における取引価格が独立企業間価格で行われたとは認められない場合は、たとえ取引の当事者間で贈与や所得移転の意思がなかったとしても課税される可能性がある点に注意が必要です。
国外関連取引とは、「国外関連者(中略)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合」における当該取引のことをいいます(租税特別措置法第66条の4第1項。以下、租税特別措置法のことを単に「措置法」といいます)。
たとえば、日本のA社からA社の100%子会社である英国企業のB社へ完成品を販売する取引や、米国企業のC社がC社の100%子会社である日本企業のD社へ製品の原材料を販売する取引はいずれも国外関連取引に該当します。
それでは、国外関連取引の対象となる「国外関連者」はどのような者をいうのでしょうか。次のセクションで具体的に解説します。
国外関連者は、「外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(中略)の総数又は総額の百分の五十以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(・・・)のあるものをいう」と定義されています(措置法第66条の4第1項)。
また、「政令で定める特殊の関係」とは、主に次の関係をいいます(措置法施行令第39条の12)。
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また、「特定事実」とは、次の事実その他これに類する事実のことをいいます。
イ 当該他方の法人の役員の二分の一以上又は代表する権限を有する役員が、当該一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している者又は当該一方の法人の役員若しくは使用人であつた者であること ロ 当該他方の法人がその事業活動の相当部分を当該一方の法人との取引に依存して行っていること ハ 当該他方の法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該一方の法人からの借入れにより、又は当該一方の法人の保証を受けて調達していること |
以上から、国外関連者の判定においては、「50%以上を直接または間接に保有する関係」という形式基準と、「特定事実の有無」という実質基準を検討する必要があります。次のセクションでは、国外関連者に該当するか否かの判定を行う際のポイントを解説します。
国外関連者の判定は形式基準から先に行うのがポイントです。形式基準を確認したあとに実質基準を確認すると手戻りが少なくて済みます。
形式基準の判定を行う際のポイントは、グループ会社の資本関係図を国境がわかる形で作成することです。形式基準の判定は「直接または間接」ですから、たとえば親会社と孫会社との取引の場合も、お互いが国外関連者となりえます。また、M&Aなどによって資本関係が複雑化している場合は特に資本関係図を作成することが有用です。作成した資本関係図を俯瞰して見ると、図を作る前には気づかなかった国外関連者が浮かび上がってくることもよくあります。
また、実質判定を行う際のポイントは、親会社の有価証券報告書で実質判定の検討が必要な対象者を絞り込んだうえで、各社のアニュアルレポート等を確認することです。有価証券報告書で当たりをつけてからアニュアルレポートで詳細を確認するようにすると、作業に無駄が生じなくなります。
ここまで、国外関連者の定義と判定のポイントを解説しました。それでは、日本に本社を置く多国籍グループを例に挙げて国外関連者の具体的な判定方法を見ていきましょう。
日本法人であるA社の資本関係図は次のとおりです。なお、甲社と乙社はAグループと一切の資本関係はないものとします。
会社 |
所在国 |
株主 |
備考 |
---|---|---|---|
B社 | 英国 | A社のみ | |
C社 | カナダ | A社が50%、甲社が50% | |
D社 | デンマーク | A社が40%、B社が60% | |
E社 | エジプト | B社が100% | |
F社 | フィンランド | A社が40%、乙社が60% | F社の役員は3名でうち2名はA社からの出向者であり、F社の売り上げの9割はAグループ向け |
まず、B社とC社はA社が発行済株式の50%以上を直接保有する関係に該当するため、国外関連者の定義に当てはまります。また、D社はA社の保有割合が40%、E社は0%ですが、それぞれA社の100%子会社であるB社が残りの株式を保有しているため、A社が発行済株式の50%以上を間接的に保有する関係に該当するため、国外関連者の定義に当てはまります。
判定が難しいのはF社です。F社は乙社からみると国外関連者に該当しますが、A社の保有割合は50%未満であるため、A社から見ると形式基準では国外関連者に該当しません。しかしながら、F社は役員の2分の1以上(3名中2名)をA社からの出向者が占めており、また事業活動の相当部分(売上の9割)をA社との取引に依存しているため、特定事実があると考えられます。このことから、実質基準によって、F社はA社の国外関連者に該当すると判定されます。
以上、国外関連者の定義と判定のポイントについて解説しました。次に、取引別の気をつけたいポイントを紹介します。
有形資産の取引において気をつけたいポイントは次の2点です。
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1点目について、独立企業間価格の算定方法を選定する際、国外関連者間で取引される有形資産と全く同じものを第三者へ販売する取引がある(これを「非関連者取引」といいます)場合は、独立価格比準法の適用を検討するのが一般的です。この際、取引する有形資産が同じだからといって非関連者取引における販売価格をそのまま独立企業間価格としてしまうと、取引条件に重要な差異があった場合に正しい独立企業間価格を算定することができなくなるため、まずは国外関連取引と非関連者取引における取引条件の違いを確認し、その差異を調整することができる場合は引き続き独立価格比準法の適用可能性の検討を継続します。
差異の調整については、国税庁が発行している「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」の事例10(差異の調整)をご参照ください。
参考:移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/010601/pdf/bessatsu.pdf
2点目について、有形資産の輸入取引においては、移転価格税制以外に関税の問題も生じえます。移転価格税制においては、個々の取引価格ではなく各当事者の利益配分に着目して独立企業間価格の判定を行うケースもありますが、こうしたケースであっても関税については個々の取引における輸入価格(輸入申告価格)が判定の基礎となります。そして、輸入申告価格が妥当でない場合には、移転価格税制上は問題なくても、納付すべき関税の額が過少であるとの指摘を受けるリスクもあります。有形資産の取引においては特に、移転価格税制と関税の両方をケアする必要がある点に留意が必要です。
無形資産の取引において気をつけたいポイントは、特許やソフトウェアの譲渡といった無形資産の取引だけでなく、それらを使用する対価として支払われるロイヤリティも移転価格税制の対象となる点です。国外関連者へ支払う(あるいは受け取る)ロイヤリティの料率が妥当かどうかは、各国における税務調査で頻出の論点であるため、移転価格の観点から妥当な料率をベンチマーク分析などによって算出した上で、その算出根拠などを示す分析を保存することをおすすめします。
役務提供取引も移転価格税制の対象となります。税務調査においては、親会社から子会社への支援業務の対価が適切に設定されているかについて、親会社側の調査の場合は対価が低すぎないか、子会社側の調査の場合は対価が高すぎないかをチェックされるため、どちら側の調査が入っても対応できるよう、適切な対価を設定することがポイントです。
役務提供取引について検討するにあたっては、国税庁が発出している「移転価格事務運営要領」の3-9から3-11が参考になります。
参考:移転価格事務運営要領
金銭の貸し借りや利息の授受といった金融取引も移転価格税制の対象となるため、金融取引についても移転価格税制への対応が必要です。金融取引において気をつけたいポイントは、移転価格事務運営要領の改正が近年行われた点です。この改正では、改正前の事務運営要領3-8に記載されていた3つの具体的方法が削除され、OECD移転価格ガイドラインの改訂が反映されました。金融取引における利率等について、これまで3-8に記載されていた内容に沿って決定していた会社は、改正後の事務運営要領に沿った対応が求められます。
改正箇所の詳細については、移転価格事務運営要領の新旧対照表をご参照ください。
参考:「移転価格事務運営要領」(事務運営指針)新旧対照表
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/kaisei/220610/pdf/01.pdf
移転価格税制の適用対象となる取引は国外関連者との取引に限定されるのが原則ですが、一定の要件を満たした場合は「みなし国外関連取引」として、法人と国外関連者との間に非関連者が介在する取引であっても移転価格税制の対象となる可能性があります(措置法第66条の4第5項)。
次のいずれの要件も満たす場合は、みなし国外関連取引として認定される可能性があります(措置法施行令第39条の12第9項)。
みなし国外関連取引についてより詳しく知りたい方は、国税庁が発行している「移転価格税制の適用におけるポイント」のケース1(みなし国外関連取引(第三者を経由する取引))をご参照ください。
参考:移転価格税制の適用におけるポイント
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/itenkakakuzeisei/pdf/takokuseki_02.pdf
以上、グループ間取引に関して移転価格税制の観点から気をつけるべきポイントを解説しました。
移転価格税制の対象となる国外関連者の判定については、「50%以上の資本関係」で見る形式基準の他に、「特定事実」の有無から国外関連者判定を行う実質基準もあることがポイントです。形式基準だけで判定してしまうと、本当は国外関連者である法人を見落としてしまう可能性もあります。
また、移転価格税制の適用対象となる取引は国外関連者との取引に限定されるのが原則ですが、「法人→非関連者→国外関連者」の商流の場合は、みなし国外関連取引に該当する可能性がある点に注意が必要です。みなし国外関連取引に該当するか否か悩むことがあれば、顧問税理士やお近くの税理士にご相談することをおすすめします。