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コラム

新株予約権の税務処理は?ストックオプションや譲渡制限付株式報酬との違い

導入

企業の役員や上席従業員へ付与されることの多いストックオプションや譲渡制限付株式報酬といった株式報酬は一般従業員にとっては馴染みの薄いものですが、人事担当者や経理担当者は制度の仕組みや税務処理を把握しておく必要があります。この記事では、ストックオプションや譲渡制限付株式報酬といった株式報酬制度のある企業の人事・経理担当者や、これらの制度の導入を検討している方に向けて、新株予約権のうち主にストックオプション、譲渡制限付株式報酬、日本版ESOPの税務処理の概要を解説します。

この記事の結論

新株予約権は株式交付を受ける権利であり、新株予約権のうちストックオプションは主に役員や従業員への報酬として活用されます。ストックオプションは「税制適格ストックオプション」に該当するか否かで、発行法人・交付を受ける個人それぞれの課税関係が異なります。税制適格ストックオプションに該当する場合、個人は権利行使時に課税を受けない一方、発行法人はその報酬額を損金算入することはできません。一方、税制適格ストックオプションに該当しない場合、個人は権利行使時に課税を受けますが、発行法人は一定の要件を満たせばその報酬額を損金算入することが可能です。

特定譲渡制限付株式報酬では、譲渡制限が解除された日に課税されるのが特徴です。また、日本版ESOPは信託を利用して従業員に自社株式を交付する仕組みであり、受益権取得時(株式交付時)に給与として課税されるとともに、当該給与は発行法人において損金算入されます。

新株予約権、ストックオプション、譲渡制限付株式報酬

新株予約権とは

「新株予約権」とは、株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法2条21号)。株式会社が新株予約権を発行する際は、法定事項を新株予約権の内容とすること(同236条)、新株予約権の募集事項を決定すること(同238条)、引受申込者に対する法定事項の通知(同242条1項)などを行う必要があります。

ストックオプションとは

「ストックオプション」とは、主として発行法人からその役員や従業員に対して付与されるインセンティブ報酬で、これを行使することによって発行法人の株式の交付を受けることができる権利のことをいいます。

譲渡制限付株式報酬とは

「譲渡制限付株式報酬」とは、発行法人からその役員や従業員へ役務提供の対価として支給される株式報酬のうち、その株式の譲渡について制限がかかっているものをいいます。

ストックオプションの税務処理

ストックオプションの課税関係総論

ストックオプションを受ける個人の課税関係について、ストックオプションは勤務先から支給される現物給与の一種に該当するため、原則として支給時の給与所得として所得税の課税対象となりますが、当該ストックオプションが譲渡制限の付されたストックオプションである場合は支給時ではなく権利行使時に所得税の課税対象となります(所得税法施行令84条3項)。更に、譲渡制限の付されたストックオプションのうち、「税制適格ストックオプション」と呼ばれるストックオプション(租税特別措置法29条の2)については、権利行使時においても所得税の課税対象とはならず、権利行使によって交付を受けた株式を売却した際に所得税の課税を受けることとなります。

ストックオプションの発行法人側の課税関係については、譲渡制限の課されたストックオプションのうち税制適格オプションに該当しないものは権利行使時に役務の提供を受けたこととされ(法人税法54条1項)、役員給与の損金不算入の規定(法人税法34条1項)に基づいて判定した結果、事前確定届出給与または業績連動給与に該当すれば損金算入することも可能ですが、税制適格オプションについては同規定による判定を行うまでもなく損金算入をすることができません(法人税法54条2項)。なお、譲渡制限の課されていないストックオプションについては、法人税法34条1項に基づく判定によって損金算入できるか否かが決定されます。

以上の内容を次の表にまとめました。

ストックオプションの種類所得税法人税
譲渡制限なし権利付与時(支給時)及び売却時に課税される事前確定届出給与か業績連動給与に該当すれば権利付与時に損金算入可
譲渡制限あり、税制適格ストックオプション以外のストックオプション権利行使時及び売却時に課税される事前確定届出給与か業績連動給与に該当すれば権利行使時に損金算入可
税制適格ストックオプション売却時に課税される損金算入不可

税制適格ストックオプション

「税制適格ストックオプション」とは、次のすべての要件を満たすストックオプションのことをいいます。

  • 発行会社の取締役等に対して無償で付与されたものであること
  • ストックオプションの行使が、ストックオプションの割当てに関する決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後原則として10年を経過する日までの間に行わなければならないこと
  • ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が原則として1,200万円を超えないこと
  • ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額が、原則として当該ストックオプションの付与に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること
  • ストックオプションの譲渡が禁止されていること
  • ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法238条1項(募集事項の決定)に定める事項に反しないで行われること
  • 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い金融商品取引業者等において当該ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託等がされること、または一定の要件を満たした発行会社により管理されること

権利行使価額を1円とするストックオプションもよく見られますが、この場合は「ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額が、原則として当該ストックオプションの付与に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること」という要件を満たさないことから、税制適格ストックオプションには該当しません。

なお、「権利行使価額」とは、ストックオプションの権利行使によって株式を取得するために支払う金額のことをいいます。たとえば、ストックオプション1個あたりの交付株式数が100株で、1株あたりの権利行使価額が1円であるストックオプションを10個権利行使する場合は、権利行使にあたって1,000円を会社へ払い込む(財産を出資する)必要があります。

ストックオプションを付与される個人の課税関係

ストックオプションを付与される個人の課税関係について、勤務先からストックオプションの付与を受ける従業員を例にご紹介します。

まず、税制適格ストックオプション以外のストックオプションで譲渡制限の課されていないものについては、ストックオプション支給時において、経済的利益に対して給与課税を受けることとなります。

次に、税制適格ストックオプション以外のストックオプションで譲渡制限の課されていないものについては、ストックオプションの権利行使時において、経済的利益に対して給与所得課税を受けることとなります。ここでいう「経済的利益」とは、権利行使時における当該株式の時価と権利行使価額の差額のことを指します。たとえば、権利行使時における株価が800、権利行使価額が200とした場合は、差額の600に対して所得税が課税されます。なお、当該給与所得は源泉徴収の対象となるため、会社は支払った源泉所得税を権利行使者へ求償(請求)するか、求償しない場合は債務免除に係る経済的利益について源泉所得税をグロスアップ計算する必要がある点に注意が必要です。

最後に、税制適格ストックオプションについては、権利行使時においては給与所得課税を受けず、会社側も源泉徴収する必要はありません。なお、権利行使によって取得した株式を売却する際には、取得価額と売却価額の差額(売却益部分)について所得税(譲渡所得税)が課税されます。株式を売却する際に譲渡所得税が課せられるのは上記2つのケースも同じですが、税制適格オプションにおいては権利行使価額が取得価額となるため、株価が順調に上昇している局面においては、税制適格オプション以外のストックオプションと比べると譲渡所得税の金額が多額になる傾向にあります。

参考:国税庁 ストックオプションに対する課税(Q&A)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/230707/pdf/02.pdf

社外高度人材に対するストックオプション税制

ストックオプションは主として発行法人の役員や従業員へ付与するものですが、一定のスタートアップ企業においては、⾼度な知識または技能を有する社外の高度人材(外部協力者)に対してストックオプションを付与することができます。詳細は経済産業省の資料をご参照ください。

参考:経済産業省 社外高度人材に対するストックオプション税制
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stockoption.html

譲渡制限付株式報酬の税務処理

株式報酬を付与する法人側の課税関係

譲渡制限付株式(Restricted Stock)報酬のうち、法人が個人から受ける役務提供の対価として給付する等一定の要件を満たした特定譲渡制限付株式(法人税法施行令111条の2第1項)については、「給与等課税額」が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして取り扱われます(法人税法54条1項)。なお、ここでいう「給与等課税額」については、当該個人の給与所得等に係る収入金額に算入すべき金額を意味します。個人の課税関係については次に解説します。

株式報酬を受ける個人の課税関係

交付法人から特定譲渡制限付株式等を交付された場合の当該特定譲渡制限付株式等に係る所得の収入金額の収入すべき時期は、当該特定譲渡制限付株式等の譲渡制限が解除された日とされています(所得税基本通達23~35 共5-3)。そのため、特定譲渡制限付株式が付与された日においては所得税の課税を受けず、これに対する源泉徴収もされません。

参考:所得税基本通達
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/10.htm

日本版ESOPの税務処理

日本版ESOPとは

ESOP(Employee Stock Ownership Plan)とは、信託等を利用して自社株式を従業員へ交付するためのスキームであり、これを日本の法制度に導入したものが日本版ESOPです。日本版ESOPには、発行法人が自社株式を従業員持株会へ売却する「従業員持株会社型」と、発行法人が一定の要件を満たした従業員に自社株式を交付する「株式付与型」があり、それぞれの代表的な仕組みは次のとおりです。

日本版ESOPとは

出典:財務省 平成28年度税制改正の解説 p.543

以下では、このうち株式付与型の課税関係について、一般社団法人信託協会が作成した資料に沿って概要を解説します。

参考:一般社団法人信託協会ホームページ
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/corporation/kabushiki.html

導入企業側の課税関係

株式付与型においては、受益者(従業員)が受益権を獲得して株式交付を受けた時の当該株式の時価相当額を給与として、損金の額及び事業税外形標準課税における報酬給与額に算入します。また、現金で支給される給与支給時と同様、株式交付のタイミングで所得税の源泉徴収を行う必要があります。

従業員側の課税関係

株式付与型においては、従業員が受益権を獲得した時の給与所得または退職所得に係る収入金額に算入します。なお、株式交付を受ける際に源泉徴収される所得税額につき、当該源泉所得税額を発行法人が負担しない場合においては、当該所得税額を発行法人へ払い込むといった対応が必要となる点にご留意ください。

まとめ

以上、新株予約権(ストックオプション)、譲渡制限付株式報酬、日本版ESOPについて、その基本的な仕組みと税務処理の概要を解説しました。これらの株式報酬制度は、企業の人事戦略において重要な選択肢となりますが、適用には細かな条件や法的要件が伴います。導入や運用の際には、最新の法令を確認の上、詳細については税理士に相談することをお勧めします。