コラム

これだけは押さえたい!欠損金の繰越控除のポイントをご紹介

企業が事業活動を行うにあたっては、利益が出る事業年度もあれば、残念ながら赤字になる事業年度もあります。特に創業期や事業転換期には、一時的な赤字が発生することも少なくありません。この赤字を将来の納税額削減に役立てられる「欠損金の繰越控除」という制度があるのをご存じでしょうか?この制度を適切に活用することで、企業の税負担を軽減し、より安定した経営基盤を築くことが可能になります。本記事では、この「欠損金の繰越控除」の基本的な仕組みから、適用要件、さらには類似制度(欠損金の繰戻還付)との違いまで、分かりやすく解説していきます。

この記事の結論

欠損金の繰越控除は、ある事業年度で発生した赤字(欠損金)を、その後の最長10年間に渡って将来の黒字(プラスの課税所得)と相殺できる仕組みです。欠損金の繰越控除には3種類の制度があり、このうち最も一般的な制度は青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(青色欠損金の繰越控除)です。

青色欠損金の繰越控除は青色申告書を提出している法人に適用され、適用を受けるためには欠損金が生じた事業年度から連続して確定申告書を提出しているといった要件を満たす必要があります。大法人や大法人に100%支配されている子会社等には、損金算入限度額(課税所得の50%)が設けられている点にも注意が必要です。

繰越控除と似た制度に「欠損金の繰戻還付」という制度があります。この制度は、ある事業年度において欠損金額が生じた場合、その欠損金額を過去の事業年度に繰り戻して過去の事業年度に納付した法人税額の還付を受けることができる制度で、中小企業者等のみが適用を受けることができます。

「欠損金の繰越控除」とは

制度概要

欠損金の繰越控除とは、各事業年度の法人税負担の平準化を図るための制度であり、この規定の適用を受けることで、事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額について当期の所得金額の全額(中小法人等)もしくは50%(大法人の原則)を限度に損金算入することができます。この制度の概念図は次のとおりです。

制度概要

出典:財務省 欠損金繰越控除制度の概要
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/c02_4.pdf

「欠損金額」とは、「各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう」と定義されています(法人税法2条19号)。もう少しわかりやすくいうと、ある事業年度で生じた課税所得のマイナス金額、換言すると法人税法上の赤字の金額が「欠損金額」です。

欠損金の繰越控除は、過去の事業年度で生じた欠損金額を課税所得から控除する(差し引く)ことができる制度のことをいいます。これと似た制度に、欠損金額を還付所得事業年度(課税所得が出ている事業年度)に繰り戻して納付済みの法人税及び地方法人税の還付を請求できる「欠損金の繰戻還付」という制度もありますが、これについてはこの記事の最後に解説します。

欠損金の繰越控除を受けるメリットは、過去の赤字の金額から当事業年度の黒字の金額を差し引くことで課税所得が減り、よって納付すべき法人税額が減る点にあります。

繰越ができる欠損金の種類

青色申告書を提出した事業年度はすべての欠損金が繰越対象となる一方、青色申告書を提出しなかった事業年度(白色申告だった事業年度)については、災害等によって棚卸資産や固定資産等に生じた損失の額(災害損失金額)にかかる欠損金のみが繰越控除の対象となり、それ以外の欠損金は切り捨てられます(法人税法58条1項)。

ここでいう「災害等」とは、「冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害」と定義されており(法人税法施行令115条)、これらに係る損失の金額のうち法人税施行令116条に規定された金額(災害損失金額)のみが繰越控除の対象となります。

以下、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(青色欠損金の繰越控除)について解説を行います。

適用要件、繰越期間、控除限度額

適用を受けるための必須要件

青色欠損金の繰越控除を受けるためには、次の要件を満たしている必要があります。

  • 青色申告の承認を受けていること
  • 欠損金の生じた事業年度から連続して確定申告書を提出していること

また、青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色欠損金)が生じた事業年度においては、その事業年度にかかる帳簿書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から10年間保存しなければなりません。

繰越期間

繰越欠損金の繰越期間は国ごとに異なり、日本の法人税法においては原則として10年です。繰越期間は、直近20年間で5年から10年に伸び、具体的には2004年度税制改正によってこれまでの5年から7年に、2011年度税制改正によって9年に、そして2016年度税制改正によって10年に改正されて現在に至ります。なお、後述するとおり、2011年度及び2016年度税制改正においては、大法人に対する控除限度額の導入および限度額の引き下げが、繰越期間の延長とセットで導入されました。

なお、複数年度において発生した繰越欠損金がある場合は、そのうち最も古い事業年度において発生した繰越欠損金から控除するものとされています(法人税基本通達12-1-1)。

法第57条第1項の規定による欠損金額の損金算入は、当該事業年度に繰り越された欠損金額が2以上の事業年度において生じたものからなる場合には、そのうちもっとも古い事業年度において生じた欠損金額に相当する金額から順次損金算入を行うものであることに留意する

控除限度額

欠損金の繰越控除を受ける法人が中小法人等に該当する場合は、欠損金の繰越控除前の課税所得金額を限度として損金算入することができます。たとえば、前期から繰り越された欠損金の額が2,000万円で、当期の課税所得が3,000万円の場合、3,000万円から2,000万円を引いた1,000万円が繰越欠損金控除後の課税所得となります。なお、この設例で前期から繰り越された欠損金の額が5,000万円とした場合、当期の課税所得は0円となり、未使用の欠損金額2,000万円は翌期に繰り越されます。

一方、欠損金の繰越控除を受ける法人が中小法人等に該当しない場合は、繰越欠損金の控除額に制限が課せられます。繰越制限は2011年度税制改正によって導入され、当初は繰越控除前の課税所得の80%が控除限度額でしたが、これが65%、60%、55%と段階的に縮減され、2018年4月1日以降開始する事業年度においては繰越控除前の課税所得の50%が控除限度額となっています。

たとえば、前期から繰り越された欠損金の額が2,000万円で、当期の課税所得が3,000万円の場合、中小法人等だと2,000万円を全額控除できましたが、中小法人等に該当しない場合は課税所得の50%、すなわち1,500万円(3,000万円の50%)が控除限度額となるため、当期の繰越欠損金控除後の課税所得は1,500万円となります。なお、この設例で前期から繰り越された欠損金の額が5,000万円とした場合であっても、繰越限度額が1,500万円であることには変わりないことから、当期の課税所得は1,500万円から動きません。

控除限度額の判定で気を付けたいのは、大法人の100%子会社には繰越欠損金の控除制限が課せられるという点です。資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人は一般的には中小法人等に該当しますが、大法人(資本金の額もしくは出資金の額が5億円以上の法人など)による完全支配関係(100%の支配関係)がある場合は、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人であっても中小法人等には該当せず、よって繰越欠損金の控除制限が課せられます。この場合、繰越欠損金の額がどれだけあっても当期の課税所得が0円にはならず、当期において法人税や地方法人税、その他法人税額を課税標準とする地方税(住民税法人税割など)が課せられることになる点にご注意ください。

以上、欠損金の繰越控除について解説しました。この記事の最後に、欠損金の繰越控除と似て非なる制度である欠損金の繰戻還付についてその概要を解説します。

繰越控除と繰戻還付の違い

繰戻還付とは

繰戻還付とは、ある事業年度において欠損金額が生じた場合、その欠損金額を過去の事業年度に繰り戻して過去の事業年度に納付した法人税額の還付を受けることができる制度です(法人税法80条)。

繰戻還付には、青色申告書を提出する法人の欠損金の繰戻しによる還付、解散等の事実が生じた事業年度の欠損金の繰戻しによる還付、災害損失欠損金額の繰戻しによる還付の3つの制度がありますが、この記事では青色申告書を提出する法人の欠損金の繰戻しによる還付に絞って解説を行います。

青色申告書を提出する法人の欠損金の繰戻しによる還付は、ある事業年度(欠損事業年度)において欠損金額が生じた場合、その欠損金額を過去の事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を受けることができる制度です(法人税法80条1項)。還付を請求することができる金額は次の数式で計算します。

還付所得事業年度の法人税額×欠損事業年度の欠損金額÷還付所得事業年度の所得金額

たとえば、還付所得事業年度の法人税額が2,000万円、欠損事業年度の欠損金額が1,000万円、還付所得事業年度の所得金額が4,000万円のときは、還付請求することができる金額は500万円と計算されます。なお、この規定は還付所得事業年度がない場合は適用を受けることができないため、たとえば設立以降課税所得が発生していない法人の場合は適用を受けることができません。

効果の違い

繰越控除と繰戻還付の効果の違いについて、繰越控除は将来の税負担額を減らす効果がある一方、繰戻還付は現在の税負担額を減らす効果があります。

適用を受けられるケースの違い

繰越控除と繰戻還付の適用要件はそれぞれ次のとおりです。

繰越控除繰戻還付
対象法人普通法人等(大法人でも適用可)中小企業者等のみ
限度額中小法人等以外は制限ありなし
適用要件欠損金額が生じた事業年度において青色申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していること還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していて、かつ欠損事業年度の青色申告書を欠損金の繰戻しによる還付請求書とともに提出期限までに提出していること

繰越控除は大法人でも適用を受けることができますが、繰戻還付は中小企業者等のみが対象の制度です。「中小企業者等」とは、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下である法人で、かつ大法人による完全支配関係がない法人などを指しますが、具体的な判定は税理士に依頼することをおすすめします。

まとめ

この記事では、企業経営において重要な税務制度である「欠損金の繰越控除」について詳しく解説しました。過去に生じた赤字(欠損金)を最長10年間繰り越して将来の利益と相殺することで、法人税の負担を軽減できる点が最大のメリットです。青色申告書を提出しているか、中小法人等に該当するかなど、適用要件や控除限度額には注意が必要です。また、過去の税金を取り戻せる「欠損金の繰戻還付」との違いも押さえることで、貴社の状況に応じた最適な税務戦略を立てる一助となるでしょう。不明な点は税理士への相談をおすすめします。