コラム

「圧縮記帳」とは?主要な種類とそれぞれの活用法を解説

導入

企業活動において、国や都道府県から補助金や助成金を受け取ることができれば、事業推進の大きな助けとなります。しかし、これらの収入は原則として益金として課税対象となるため、せっかくの収入が税金によって目減りしてしまう可能性があります。そこで重要となるのが「圧縮記帳」という制度です。この制度は、特定の収入を益金として計上しつつ、一定の金額を損金に算入することで、課税の繰り延べを可能にし、資金の効果的な活用を促進します。本記事では、この圧縮記帳の仕組みや効果、そして主な種類について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

この記事の結論

圧縮記帳は、国や地方公共団体からの補助金や、固定資産の滅失があったときの保険差益金など、特定の収入に対して適用される制度です。この制度を活用することで、収入があった事業年度の課税所得を抑え、法人税の納税を気にすることなく設備投資などを行うことが可能になります。

ただし、圧縮記帳は「免税」ではなく「課税の繰り延べ」であり、トータルでの課税所得額は変わりません。また、国庫補助金、保険金、交換、収用、特定資産の買い換えなど、主な圧縮記帳だけでも6種類あり、それぞれに複雑な適用要件や提出期限が定められています。特に「特定資産の買い換えの圧縮記帳」では、確定申告書の提出期限とは異なる「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」の提出期限があるなど、注意すべき点も多いため、適用を検討する際は税理士への相談が不可欠です。

圧縮記帳とは

制度概要

圧縮記帳とは、補助金収入や保険金収入といった特定の収入について、補助金等によって取得した固定資産の帳簿価額から減額してその減額した部分を損金算入することにより、補助金等を収受した年度における課税所得を生じないようにする制度です。

圧縮記帳があるのは、補助金や保険金の効果を減衰させないようにするためです。補助金収入や保険金収入は益金の額に算入されるため、たとえば100の補助金を得たとしても、法人税等の納税に備えて70しか使うことができなくなると、30だけ補助金の効果が減ります。この点、圧縮記帳によって100を損金算入することができれば、補助金を取得した事業年度における法人税の納税を考えることなく100の補助金を使うことができるようになります。補助金の制度趣旨については、税務大学校が作成している「税大講本」も合わせてご参照ください。

参考:国税庁 税大講本 法人税法(令和7年度版)
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/houjin/pdf/all.pdf

圧縮記帳の効果

圧縮記帳の効果は、課税の繰り延べることができる点にあります。圧縮記帳には、損金経理により帳簿価額を直接減額する方法(直接減額方式)と、剰余金の処分により積立金として積み立てる方法(積立金方式)があります。以下、直接減額方式を例に、圧縮記帳の効果を具体的な数字を使って解説します。

【設例】
  • A社(3月決算法人)は2025年5月に国から補助金1,000万円を受け取った。この補助金は既に返還不要が確定している
  • A社は2025年10月に補助金の交付目的に適合した固定資産を2,000万円で取得して直ちに事業共用するとともに、損金経理により当該固定資産の帳簿価額を減額した
  • 固定資産の償却は定額法により行い、償却率は0.25とする
  • その他、国庫補助金の圧縮記帳の適用を受けるための要件は満たしている

圧縮記帳の適用を受ける場合と受けない場合における、各事業年度のA社の課税所得は次のとおりです(単位:万円)

【圧縮記帳の適用を受ける場合】

2025年度2026年度2027年度2028年度2029年度
益金1,00000001,000
損金1,1252502502501252,000
課税所得▲125▲250▲250▲250▲125▲1,000

【圧縮記帳の適用を受けない場合】

2025年度2026年度2027年度2028年度2029年度
益金1,00000001,000
損金2505005005002502,000
課税所得750▲500▲500▲500▲250▲1,000

2025年度の課税所得について、A社は補助金収入1,000万円を益金の額に算入する必要があります。この点は圧縮記帳の適用を受ける場合も受けない場合も同じです。一方、損金の額に算入する金額はそれぞれ次のように計算します。

【圧縮記帳の適用を受ける場合】
2025年度において、圧縮損1,000万円を損金算入するとともに同額を固定資産の取得価額から減額します。これにより、2025年度の減価償却費の額は125万円となり、2025年度の損金算入額は合わせて1,125万円と計算されます。

【圧縮記帳の適用を受けない場合】
2025年度の減価償却費の額は250万円であり、この金額が2025年度の損金算入額です。

2025年度の課税所得を比べると、圧縮記帳の適用を受けない場合は750万円の課税所得が発生しますが、適用を受ける場合は課税所得が発生しません(▲125万円)。これにより2025年度における法人税額も0になるため、法人税の納税を気にすることなく設備投資を行うことができます。これが圧縮記帳の効果です。

もっとも、圧縮記帳は「課税の繰り延べ」の制度であって免税の制度ではないため、2025年度で減った課税所得は2026年度以降で取り戻されます。2026年度以降の課税所得を比較すると分かるように、圧縮記帳の適用を受ける場合は取得価額が減額されていることから、各年度の減価償却費の金額は圧縮記帳の適用を受けない場合と比べて少なくなります。これにより、圧縮記帳の適用を受ける場合と受けない場合とで、合計の課税所得は一致します。

主な圧縮記帳の種類

主な圧縮記帳の種類と根拠法令は次のとおりです(以下、法人税法を「法」、法人税法施行令を「法令」、租税特別措置法を「措置法」と略します)。

種類根拠法令
国庫補助金等の圧縮記帳法42条
工事負担金等の圧縮記帳法45条
保険金等の圧縮記帳法47条
交換の圧縮記帳法50条
収用の圧縮記帳措置法64条
特定資産の買い換えの圧縮記帳措置法65条の7

以下、これらの圧縮記帳の制度概要、対象、適用を受けるにあたっての留意点などを解説します。

主な圧縮記帳の制度概要

国庫補助金等の圧縮記帳

この圧縮記帳は、固定資産の取得や改良に充てるため、国庫補助金等の交付を受けた場合に適用を受けることができます。国庫補助金等は、国または地方公共団体の補助金または給付金のほか、一定の助成金または補助金が対象となります(法令79条)。圧縮記帳の対象となる主な助成金または補助金は次のとおりです。

  • 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による一定の助成金
  • 一定の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成金
  • 独立行政法人農畜産業振興機構の補助金

工事負担金等の圧縮記帳

この圧縮記帳は、次の事業を営む法人が、受益者から金銭または資材の提供を受けた場合に適用を受けることができます(法45条、法令83条の2)。

  • 電気事業(一般送配電事業、送電事業、配電事業、発電事業)
  • ガス事業(一般ガス導管事業)
  • 水道事業
  • 鉄道事業
  • 軌道を敷設して行う運輸事業
  • 電気通信事業
  • テレビ放送事業

これら以外の法人(たとえば建設業を営む法人)が工事負担金名目で金銭などを受け取ったとしても、工事負担金等の圧縮記帳の適用を受けることはできません。

保険金等の圧縮記帳

この圧縮記帳は、固定資産の滅失または損壊により保険金等を受け取って代替資産を取得した場合に、その「保険差益金」について適用を受けることができます。圧縮記帳の対象となる「保険金等」は、保険金、共済金(保険会社や農業協同組合など一定の者が支払うものに限ります)、損害賠償金のうち、対象資産の滅失または損壊のあった日から3年以内に支払の確定したものが該当します(法47条、法令84条)。

また、保険差益金は、受け取った保険金の額から次の合計額を控除した金額で計算します。

  • 滅失経費の額(滅失等により支出する経費の額)
  • 滅失等した資産の帳簿価額のうち被害部分の額

たとえば、火災により建物が滅失した場合において、受け取った保険金の額が1,000万円、滅失経費の額が100万円、滅失した建物の帳簿価額が600万円とした場合、差し引き300万円が保険差益金と計算されます。

保険金等の圧縮記帳については、国税庁のタックスアンサーにより詳細な制度説明がありますので、合わせてご参照ください。

参考:国税庁 No.5608 保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5608.htm

交換の圧縮記帳

この圧縮記帳は、お互いに1年以上所有していた一定の種類の資産を交換した場合に、交換する資産の価額差が20%以内であれば、その交換により生じた差益金について適用を受けることができます。「一定の資産」には次のものが該当します(法50条1項)。

  • 土地
  • 建物
  • 機械及び装置
  • 船舶
  • 鉱業権

なお、交換の圧縮記帳は、他の法人税上の圧縮記帳とは異なり積立金方式を選択することができません。適用を受ける場合は直接減額方式しか採用できない点に注意が必要です。

交換の圧縮記帳については、国税庁のタックスアンサーにより詳細な制度説明がありますので、合わせてご参照ください。

参考:国税庁 No.5600 土地や建物を交換したときの圧縮記帳
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5600.htm

収用の圧縮記帳

この圧縮記帳は、土地収用法等の規定に基づいて固定資産を収用され、対価として補償金を取得した法人が代替資産を取得した場合に適用を受けることができます。固定資産を収用される典型例としては、所有していた土地が道路拡張事業の計画地に該当することにより、都道府県から収用される(所有権を都道府県に移転する)ケースがあげられます。

なお、土地を収用されることの対価として別の土地の所有権を与えられるケースもあり(これを換地処分といいます)、この場合であっても一定の要件を満たせば圧縮記帳の適用を受けることができます(措置法65条)。

また、収用・換地処分については、一定の要件を満たせば最大で5,000万円の特別控除を受けることができますが(措置法65条の2)、この特別控除と圧縮記帳は重複適用を受けることができないため、特別控除を受ける場合は圧縮記帳の規定の適用を受けることができない点にご注意ください。

収用の圧縮記帳については、国税庁のタックスアンサーにより詳細な制度説明がありますので、合わせてご参照ください。

参考:国税庁 No.5650 収用等があったときの課税の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5650.htm

特定資産の買い換えの圧縮記帳

この圧縮記帳は、税制の適用対象期間内に特定資産を譲渡し、同一年度に別の特定資産を取得した場合に適用を受けることができます。この圧縮記帳の適用対象となる主な買い換えは次のとおりです。

  • 航空機騒音障害区域にある土地・建物・構築物から、区域外にある土地・建物・構築物・機械装置への買い換え
  • 既成市街地等にある土地・建物・構築物から、既成市街地等に該当しない区域における土地・建物・構築物・機械装置への買い換え(一定の施策に沿って行われるものに限る)
  • 国内にある土地、建物または構築物で所有期間が10年を超えるものから、一定の土地、建物または構築物への買い換え

特定資産の買い換えの圧縮記帳には、他の圧縮記帳に共通の適用要件(損金経理または積立金経理すること、確定申告書に損金算入額を記載すること、確定申告書に明細書を添付すること)の他に、一定の提出時期に「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」を所轄税務署長に提出する必要があります。

「一定の時期」は、譲渡資産を譲渡した日または買換資産を取得した日のいずれか早い日を含む3月期間(事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間)の末日の翌日から2月以内であり、確定申告書の提出期限とは異なるため、特に注意が必要です。特定資産の買い換えの適用を受けようとする場合は、事前に顧問税理士に相談することをおすすめします。

特定資産の買い換えの圧縮記帳については、国税庁のタックスアンサーにより詳細な制度説明がありますので、合わせてご参照ください。

参考:国税庁 No.5651 特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5651.htm

まとめ

以上、補助金や保険金など特定の収入に対する「圧縮記帳」について、その制度概要から課税の繰り延べ効果、さらには国庫補助金や保険金、交換、収用、特定資産の買い換えなど、主な圧縮記帳の種類とその適用要件を解説しました。圧縮記帳は、収入を得た事業年度の税負担を軽減し、企業の資金繰りを円滑にする上で有効な制度ですが、その適用には複雑な要件や手続きが伴います。特に、各種届出書の提出期限など、他の税務申告とは異なる点も存在します。制度の適用を検討される際には、正確な税務処理を行うためにも、必ずお近くの税理士にご相談ください。